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裏第二回戦SS・図書館その1


【1・本屋文吉を襲った悲劇】

『学問のすすめ』で知られる福沢諭吉は西洋型図書館を日本に伝えた人物でもある。

本屋文吉は図書館司書としての才を持った男だった。
先祖代々本に関わる仕事をしてきた一族に生まれた彼は、福沢諭吉によって
西洋型図書館の様式が知らされた直後に実家の書庫を改造し、民間のものとしては
初の近代化された大型図書館を完成させた。
輸入した照明を天井に設置し日が沈んでも本が読める様にしており、本は
幼児用・学術用・物語本などのジャンルごとにキッチリとわけてあり、さらに
客用のトイレまで備え付けてあった。

日本が近代化を始めた頃、本屋文吉は既に平成の世でも通用する図書館を一人で
完成させていたのだ。そんな彼だからこそ悲劇は襲い掛かった。

「ボンバー!」

あり得ないサイズの胸をした女が本棚を倒していた。

「くたばりゃー!」

見た事も無い形状の三味線を持った女が照明を叩き割った。

「すみません、邪魔なのでちょっと寝てて下さい」

鉄の様な質感の女が文吉の首を絞める。

(壊されていく・・・オラの図書館、諭吉っあんにも褒められたオラの図書館が
天女に壊されていく・・・オラ何か悪い事したんかなあ・・・)

状況を理解出来ないまま文吉は気を失った。文吉は天才的司書で建築の才能も
持っていたが普通の人間だった彼には魔人の事など何も分からなかった。
いや、たとえ魔人だったとしても図書館の出来が良すぎて戦闘空間に指定されたなんて
事は理解でき無かっただろう。
こうして、開館前日ようやく全ての本の整理が終わったタイミングで文吉は
全てを失う事になったのだった。



【2・低評価な二人】

「マッハ3おっぱい突きィィィ!」

本葉柔がおっぱいの反動で超音速の突きを放つ!

「6ビート機動ォォォ!」

ツマランナーがミュージシャン特有の感性で先読みしてかわしながら顔面に一撃!
だが、柔の強靭な肉体には小刻みの攻撃はノーダメージに終わった!

このやり取りが何度繰り返された事だろう。
互いに有効打が一発も入らないまま苛立ちだけが積もっていった。

「ああああー!また変な避け方された!私の方がずっと速いのに何よそれっ!」
「企業秘密や。お前かてムッチャ身体硬いやん、顔面狙ったのにこっちの手がダメージ
受けるってどないこっちゃ!」

柔は苛立っていた。パワーと速度は圧倒的にこちらが上。
密着して押し倒せば柔術で倒せる。だが、相手は必死に距離を取ろうとする。
変身すれば倒せる。だが、制限時間付きの奥の手を一人目に使いたくはない。
マッハ4以上のおっぱい突きなら倒せるかもしれない。だが、自分にもダメージがある、
やはり三人目の行方が分からないままでは使いたくはない。

ツマランナーは苛立っていた。相手の打撃はおっぱいを起点にした読みやすい攻撃。
距離を取って歌えば倒せる。だが、相手は必死に距離を詰めてくる。
16ビート以上で殴り続ければ倒せるかもしれない。だが、15年修行しても
8ビートが限界だった、今の自分は歌で強化しない限りは6ビートが限界だ。

(ケンちゃんならこんな奴一撃で仕留めるだろう。でも私は出来ない)
(サブイネンならとっくに完封しとる時間やろう。やけどワイはこのザマや)
(私は)
(ワイは)
((なんて弱いんだ))

己の不甲斐なさに苛立ちながら二人の攻防は続く。


【3・超高評価な二人】

「ひゅ~~~っ、すっげ。何よアレ」

倒された本棚の隙間から顔を出し小声で呟く。
戦闘空間内唯一の一般人であるウツキの目には何も分からない。
今自分に出来る事はこうやって近未来の警備システムすら欺くステルスで隠れ続ける事、
そして、戦闘空間に所持品として連れ込んだ相棒に学習させる事だけだった。

「コウ、戦力分析はできた?」

ウツキは自分の横で光学ステルスを発動し続けている相棒に確認の声をかける。

「おっぱいの方、本葉柔は今はパワーでゴリ押ししているけど柔術が本来のスタイル。
恐らく私が奇襲してパワーを奪っても、ウエイトを利用してこちらの四肢を破壊可能。
私の勝率は3%程度。で、あれと拮抗してるツマランナーに対しても勝率はほぼ一緒」
「3%!?」
「うん、対魔人ヒューマノイドはあくまでもヤクザ魔人やテロリストを想定して
作られた存在。魔人ボディーガードの代用品だから。あのレベルに勝てというのはちょっと」
「あのレベルって、それじゃあ、あのおっぱいとゴスロリはどのレベルにあるっていうのよ」

ウツキは迷宮時計知識においては参加者の誰よりも精通している。
だが、魔人同士の戦いに関しては素人と言ってもいい。
覚悟そのものはあった、だが選択を間違えていた。
銃火器を手にするリスクを避けたという点、これが彼女の最大のミスである。
どうしてもこの争奪戦を勝ち上がりたいならばどんなリスクを背負っても最低限
自分とコウの分の二丁の拳銃を用意するべきだった。
このレベルの敵相手にナイフでリンゴ剥けるからって何になるというのだ!

戦闘知識に疎いウツキはコウに確認する、あれはどのレベルの魔人で、
勝つ為に何をすればいいのかを。

「答えてコウ。あいつらはどの程度の魔人なの?」
「亜神クラス。転校生では無いと思うけど。どちらも体術と経験を元に神や大天使とかと
ある程度やりあえるレベルだよ」
「スカウターの故障・・・なわけないよね」
「ウツキが昨日念入れにメンテナンスしてくれたから故障の線は無いよ」

コウの戦力分析が当たっている事はこれを読む読者諸君ならご存知だろう。
かたや神の血を濃く受け継ぐ男と二年に渡り競い合いメキメキと上達し続ける蟹。
かたや滅亡した関西で15年に渡り天使打倒の為に己を磨きついには撃破したオカマ。
両者共に目標とする存在が大きすぎる為、また客観的な自分の強さを知る機会に
乏しかった為に自己評価を低く見積もっているが、二人とも現時点で既に参加者屈指の
実力者なのである。

「どうするウツキ?ちなみに勝率3%というのは奇襲が成功して私の対魔人機能で
中二力を奪うのが成功した場合の数字で実際はもっと下がるよ」
「そうね・・・当初の予定通りAプランで行くか、それともBプランか」

ウツキが策を練ろうとしたその時、激しい攻防をしていた二人がぴたりと停止し、
揃ってウツキ達の方を見ていた。

「ボンバー!いつまで隠れてるつもりよアンタら!何で二人いるか知らないけどさー!」
「ワイらの消耗を待っとるんなら先にそっち潰すでー」
「あ、ばれた」
「ウツキ、これで勝率はほぼゼロだよ」

ウツキは本棚の隙間から這い出し立ち上がる。
その目には諦めではなく強い決意が込められていた。

「しょうがないにゃあ。コウ、ステルスとシールドを解除して。プランBで行くから」
「本当にそれでいいの?それをしたらウツキは・・・」
「『迷宮時計の秘密その13
殺されたみんなや破壊された戦場は迷宮時計の力で元に戻せる』
だから気にしないで」
「うん、分かった。ウツキは頭がいいからきっとこれが正しいんだよね」

ステルスが解除されウツキとコウの姿があらわになる。
その直後、柔とツマランナーが自分に向かって何かをする暇を与えない様に、
ウツキは図書館内に響き渡る大声で叫んだ。

「ギブアーーーーーップ!!!!!!!!!!!!!!!!!」

腕時計型の迷宮時計が外れて床に転がる。
この時計は試合の勝者が確定するまで誰も所有権を得る事は出来ず、
そして、ウツキの敗北が確定した。

ワカバウツキは迷宮時計争奪戦を終わりに導く為ならいかなる犠牲も払う覚悟を
していた。それは自分の自由や命も当然含んでいたし、目的が達成できるならば
自分が優勝する必要すら無いと考えていた。

「はい、これで私負けました!オッケー?それで提案があるんですけど、
私は迷宮時計に関する重要な情報を持っています。ちょっと休憩して
お話しませんか?」



【4・情報交換】

先程まで隠れていた二人も、先程まで戦っていた二人も、今は皆で図書館の椅子に座り
長机を囲んでいる。ウツキが姿を現した直後に降参したのが効果的だった。
だが、こうしてすんなり交渉へ移行できたのはウツキ一人の功績だけではない。
柔とツマランナー、この二人が持つ『特別な事情』があるからこそ上手くいったと言える。

幸いにも柔達はどちらも好戦的ではあるが理性が存在した。
幸いにも柔達はどちらも頭はあまり良くないが素直なので迷宮時計の情報に食いついた。
そしてこれが一番重要な事だが、幸いにも柔達はどちらも優勝を目指してはいたが
迷宮時計の事をこれっぽっちも信用していなかった。

「それじゃあ聞かせてよ。あんた迷宮時計の何を知ってるの?」
「はい、それじゃあ結論から言いますけれど、普通に優勝してもそれだけでは
迷宮時計の呪縛は終わりません」
「だよねー」
「ワイもそんな気はしてた」
「えっ」

二人の返事にウツキちょっとビビる。
彼女的には「な、なんだってー!」「どういう事やねんウツキはん!」という
リアクションを期待していたのだ。だが、これはこれで話しが早い。

「どうやらお二人とも迷宮時計を単なる願いを叶えるシステムとは考えては
いないみたいですね。普通の参加者は自分の願いの為だけに盲目的に戦いに向かうか
巻き込まれたためしぶしぶ義務的に戦っているものなんですが、一体どういう経緯で
迷宮時計への疑念に辿り着いたか参考までに教えてもらえませんか?」
「せやなー、ワイの場合は迷宮時計そのものがヒントになったんや。ちょっと見てくれや」

ツマランナーがゴスロリドレスの腕を捲ると、地肌の上から下まで時計盤がびっしりと
埋め込められていた。

「ワイの時計はこんなんや。首から下は全体的にこんな感じになっとる。
んで、この時計が言うには迷宮時計が生まれた世界はワイのおる世界とは別にあって、
ワイのいる世界にはたまたま時計の欠片が流れ着いたって話やった」
「うっわ、酷い話!」
「柔ちゃんもそう思う?ワイもこれを知った時、基準世界殴りこんで滅ぼす決意
したぐらいや。でも最近気になりだしたんや。この迷宮時計って元は転校生の
肉体の一部やろ?別世界に流れ着いたイレギュラーな欠片って元の転校生の何%の
力やねん?そんでそんなチンケなカスみたいな欠片になんでこれだけの強制力とかが
発生しとんねん?やからワイは頭足りんなりに考えた。迷宮時計って完成なんてする気
なくて、平行世界にばらまき続けてパワーを高め続けとるんやないかって」
「恐らくツマランナーさんの想像は大体合ってると思います。私の調査でも
迷宮時計は欠片をばら撒き続けており、その合計の力は既に元の転校生を超えていると
予測されています」
「これでハッキリしたわ、ワイらは願いというエサに吊られて迷宮時計の目的に
利用されとるんや」
「それじゃあ次は私が話すね!」

語り手がツマランナーから柔へとチェンジ。
彼女が迷宮時計に疑念を持ったきっかけを話し出す。

「まー、私の場合は一般常識として『迷宮時計はマジヤバイ』っていう教育が
されていたワケ。私の出身世界は元は最終処分所って言われてて・・・」

柔は語る。学校で習った世界の成り立ちを。創造神の子孫であるケンちゃんから
伝え聞いた、迷宮時計により生じた歪みのヤバさを。
女神の言葉を書き残した、世界のループについての書物が存在する事を。
全てを語り終えた時、柔以外の二人と一機は涙を流していた。

「迷宮時計のせいで苦労したのね・・・」
「マジ基準世界のヤツ許せへんわ・・・」
「ううっ、目からオイルが・・・」
「いやいやいやいや、別に私が荒地で苦労したわけじゃないから!
ただ、現在進行形で迷宮時計に苦しめられてはいますが!」

最後にウツキが自分の調べた迷宮時計に関する情報を語る。
その内容はツマランナーと柔の持つ情報を補完するものであり、
勝ち上がった後、何をすれば真の終わりへと到達できるかを示していた。

「理解してもらえたでしょうか?」
「うん」
「おう」
「ならば今から私達四人は『絶対に迷宮時計の誘惑には負けないんだからねっ同盟』です。
ではご一緒に、絶対に迷宮時計の誘惑には負けないんだからねっ!」
「「絶対に迷宮時計の誘惑には負けないんだからねっ!」」

同盟名を唱和し手を重ね合う。ユウジョウ!

「・・・で、こっからどうすれば?」
「取りあえずお二人で戦って決着つけて下さい。くれぐれもガチでお願いします」

ガチの部分にアクセントを置き、決着を促す。

「確かにここで仲良く暮らしても何の解決にもならんけど、せっかく分かり合ったのに
ガチでやる必要あるんか?」
「心は分かり合っても、どっちが強いかはまだ分かっていません。
私達の代表には優勝して貰わないといけないのですから、お二人には手加減抜きで
戦って貰いたいのです。なお勝者には元の世界に転送される前にこのコウを
所持品として持ち帰ってもらいます」
「どーも、対魔人ヒューマノイドのコウでーす。ウツキがプランBで行く場合は
勝った方についていって監視しつつ協力しろって言われてるのでよろしくー」

そんな訳で図書館の戦いは『絶対に迷宮時計の誘惑には負けないんだからねっ同盟』の
代表者決定戦(勝者には最強の所持品コウをプレゼント)へと変更されたのであった。



【5・全力全開フルスロットル!】

「それじゃあここからは出し惜しみ無しの全力で行くぜぇぇぇぇ!」

柔がゴーグルを外し真の力を解放する!おっぱいに込められたM44エナジーが
高まっていく!
相手が大幅な自己強化を行おうとしていると察したツマランナーは自分も
今一番強い曲を選び演奏する!

ジャーン!

「聞いて下さい、『ウオッチウイッチ』
「ワン、ツー、ワンツーさんし」

ジャカジャカジャカジャカ

「運命を捻じ曲げる時計の欠片 それが全ての始まりだった
私は時計の魔女と化し 世界を巡るの」


ジャカジャン!

「避けられぬ戦いの運命 望み抱く戦士達
 時計の欠片かき集め 願い叶えるのは誰」
「ああ、身体が身体が熱いよぉぉボンバアアアアアア!!!!」

ジャカジャカジャカジャカ

「だけどそれは幻 だけどそれは虚構 私の願いは叶いやしない
ウオッチウイッチ私は真実を知り ウオッチウイッチ全てを終わらせる
ウオッチウイッチこの身体に宿る時計で ウオッチウイッチループを突き破れ!」

ジャーン!
「ピピピピッ! 3分間クッキング、はじまりー!」

二人は同時に光に包まれ、異形の存在へと変身していた。
本葉柔は胸甲周4mの巨大な蟹ボンバーνへとなり、ツマランナーの右腕には百近い
迷宮時計が絡みつき一本の剣を作り上げていた。
最早二人には劣等感からの苛立ちや見えない三人目の敵への焦りは存在しない。
お互いの心情を知った上で全力を出し合う事を誓ったこいつら、
後は燃え尽きるまでぶつかり合うだけだー!!

「これは『迷宮時剣』、ワイの首から下に埋まっとる迷宮時計を皮膚ごと引っ張り上げて
作った剣や。ワイの時計の性質は破壊不能型、つまりこの剣は誰にも壊せへん」
「ボンバアアア!」

ボンバーνはちょっと嬉しそうだ!
正直最初はツマランナーを胡散臭い嫌な奴と思っていたが、
生み出した剣の説明をしている所がケンちゃんっぽくて好印象!
ツマランナーが男だったら惚れてたかもしれないとボンバーνは思った!

「30秒しかこの状態持たんからな・・・一気にいくで!」
「ボンバアアア!」

ガキイインン!

あらゆる魔剣を砕いて来たボンバーνの鋏とツマランナーの迷宮時剣が
ぶつかり合い激しく火花を散らす。鋏と迷宮時剣はどちらも軋んだ音を
立てながらも砕けはしなかった。

「武器の質はほぼ同等か、ほんなら小回りが利く分ワイが有利や!」

ツマランナーは本棚の間を出入りし、二本の鋏の動きを制限しながら
胸甲に迷宮時剣を叩き付け、徐々にヒビを入れていく。

己のハイスペックに頼り攻撃が単調で大振りになりがちなのが柔の、
そしてボンバーνの弱点だ、特に距離を取っての打撃戦でその弱点が顕著に表れる。

「ぼ、ボンバアア」
「甲羅割るまで後一撃ってトコやな、さあカニミソをぶちまけろやー!」
「ボンバアアー!」

焦りからか今迄以上に大振りで繰り出される鋏をツマランナーは見事にかわし、
決着の一撃を叩きつける。とはいかなかった。

「ぐっ・・・」

ツマランナーの腹部を鋏が貫通し、その動きを止めていた。
二つの大鋏ではなく、移動の為の脚として使っている小さな鋏の一つが
器用に槍の様に突き刺さっていた。ボンバーνは日々進化していた。
スペック任せでは一生ケンちゃんには勝てないと知っている彼女は
おっぱい柔術だけではなく変身後の為の体術も密かに特訓していたのだった。

「大鋏をフェイントで使い小鋏でワイを刺したか・・・やるなあ」

ツマランナーは腹部を刺し貫かれ身体を固定されたまま、がくりと頭を落とす
その頭部を大鋏が挟み込み万力のごとく締め上げる。

メキメキと頭蓋骨が砕けていき、ゴリッと硬いものが砕ける音がした。

「ボンバアアア!?」

突如ボンバーνが頭部を締め上げる大鋏を開き、何かに驚いたかの様によろめく。
最強の硬度を誇って来た大鋏が内側から割れて使い物にならなくなっていた。

「残念やったな、胸か首を挟んどったらお前の勝ちやったが・・・目には目を、
囮には囮じゃコラあ!」

ツマランナーがゆっくりと顔を上げる。頭蓋骨はコメカミの部分が挟み込まれて陥没し
両目は大鋏の圧力で無残に飛び出していた。だが、その目は大鋏の力をもってしても
形状を維持していた。

刃物が一番欠けやすい時、それは自分が切ろうとしている物質が刃物より固いという事を
理解せずに柔らかいものを切る時の力加減で切ろうとした時にこそある。
ボンバーνはツマランナーの迷宮時計化していた眼球をそうとは知らず全力で挟み込んで
しまったのだ。

眼球こそ無事だが、視神経は潰れツマランナーの視力は完全に失われていた。
しかし、敵の位置は腹に刺さった小鋏が教えてくれる。
大鋏が破壊されたショックから立ち直れないままのボンバーνへ今度こそ
トドメの一撃。そう、迷宮時剣を振り下ろすだけで勝利が確定する。
しかし―、

「う・・・ううっ・・・なんやコレは・・・」

コメカミが陥没し両目が飛び出す程の力で頭部を挟み込まれたのだ。
当然、ツマランナーのダメージは脳にまで及んでいた。
そして、視力が失われた事や柔の超巨乳という条件が揃い、
ツマランナーの脳内にありえない幻を見せつけた!

『妻夫木さ~ん』
『よ、四葉か?なんでや?』

ツマランナーの見た幻、それは一回戦の対戦相手である須藤四葉だった。
一回戦終了後、わざわざ新幹線まで使って会おうとしても会えなかった寂しさが
脳裏に残っており、それが今回負った脳へのダメージと柔の巨乳からの連想でこの
幻を生み出したのだ。

『何で四葉がおんねん、つーかアレ?わい今何をしとるんやったっけ?』
『そんな事どうでもいいじゃないですか、それよりも大変な事があります。
私のオチンチンが爆発しそうなんです!』

幻の四葉がスカートをたくし上げると長さ36センチの天使砲が飛び出した。

『こんな状態じゃあ子供達のお世話ができません、ああつ、精子の一つ一つが
意思を持ち始めました!』
『任せろや、三十過ぎのレッサー禅僧のアナルでよければいくらでも貸すでえ』

幻の四葉がツマランナーを背後から何度も突き上げる。
孤児院にいた頃の記憶を取り戻した須藤四葉は仲間達のオシッコを強制的に洩らさせる
などの背徳的行為を思い出すたびに苦しんでいたが、ある日気づいた。
私は変態行為大好きでいいやと。そうやって自分を肯定した時、須藤四葉は完全な
天使へと覚醒したのだった。以降の数年間、四葉はツマランナーのアナルで
精処理を行う事を週一の自分へのご褒美としていた。

『モア(アナル拡張加速)!モア(前立腺の快感加速)!モア(射精からの回復加速)!』
『これやこれやー、この感覚むっちゃ懐かしいわ~イグゥゥゥ!!』

四葉に犯される夢を見ながら、現実のツマランナーもチンチンをフル勃起させていた。
股間を押さえこむ迷宮時計が右腕に行ってしまっている為、チンチンは下着から飛び出し
スカートを大きく持ち上げている。

「ボンバアアアア????アバーッ!ブクブクブク」

最悪のタイミングでミルキーショック!ツマランナーがオカマだと知る機会を得ぬ
まま戦い続けていたボンバーνはショックで大量の泡を吹く。精神に致命的ダメージ!
しかし、アレの条件は整った。対戦相手がホモなのに整ってしまった。
経緯はどうあれツマランナーはボンバーνを見てフル勃起し、彼の攻撃でボンバーνの
胸(というか胸甲だが)は破れかけていた。

「ボ、ン~~~バァアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!」

強敵(とも)との戦いへの感謝、性別を偽っていた事や自分を性的に見た事への恨み、
その他色々な思いを乗せた咆哮と共に七色のおっぱいレーザーを発射したボンバーνは
大鋏が割れたショックとミルキーショックのダブルパンチで白目を剥いてぶっ倒れた。

そして幻覚を見たまま殺人レーザーを浴びたツマランナーは断末魔すら上げる事も出来ず、
両足首を残して一瞬で蒸発した。

「これが亜神級の全力勝負・・・なんというか酷い勝負だったね」

ウツキが一言でまとめた。



【6・私はコウ。コンゴトモヨロシク】

「おえええええええ~~~~」

朝食と昼食がペースト状になって喉を逆流している。
胃の中が空っぽになり、ようやく柔は精神的にいくらか落ち着いた。

「ったく!男だったんならもっと早く言ってくれればあんな結果にならなかったのに!」
「大丈夫?」
「ん、ありがと背中さすってくれて。・・・えーっと名前なんだっけ」
「コウだよ。対魔人ヒューマノイドのコウ」
「おっけー、んじゃコウちゃん、大会が終わるまでの間コンゴトモヨロシクボンバー!」
「ぼんばー」

両手を大きくあげ叫んでからハイタッチ。変わった子だけどこれなら上手く
やっていけそうだと柔は思った。

「んでこれからどうする?」
「取りあえずウツキが来るのを待たないと・・・あ、来た」

荷物をまとめたウツキが崩壊した図書館から出てくる。

「待っててくれてありがとう二人とも。それじゃあ、このまま移動しながら
柔さんに今後について説明しましょうか」
「ボンバー!警察とかが来る前にずらかるよ!」
「ぼんばー」

勝ち上がったオカマに全てを託し、二人と一機は図書館だった廃墟から走り去っていった。

これより半日後、意識を取り戻した本屋文吉は危険物所持や放火の容疑で警察に捕まり、
証拠不十分で有罪にこそならなかったが図書館の再建は絶望的となった。
逮捕から一年後に図書館跡地に戻った文吉は、比較的無事だった児童書の棚を
リヤカーに乗せ屋台図書館として子供達の家を回り、その活動を自伝として出版した。

図書館司書をするには外敵をものともしない高い戦闘力が必要だったと主張する
この本は当時は人々の理解を得ず全く売れなかったが、文吉の死後図書館の近代化と共に
再評価され現在では魔人司書専門学校のテキストとして採用されている。



【7・戦いはまだまだ続く】

「四葉ぁぁぁぁ!・・・ハッ、夢か」

ツマランナーが意識を取り戻すとそこは自室だった。
自分が見た四葉は幻覚だった事、さっきまで柔と戦っていた事、ウツキから聞かされた
自分がこれからすべき事などを一つずつ思い出していく。

「自室って事はワイが勝ったんやな。はあー、一回戦に続いてまたもや仲良くなった
女の子を傷物にしてしまった自分に自己嫌悪。ってそんなんしとる場合やないな。
まずはコウちゃんと今後の相談せんと。おーい、コウちゃーん」

呼べど来ない、部屋を見渡しても存在しない。勝者である自分にプレゼントされる
予定だった所持品としては最強戦力の存在、それがどこにもいない。

「おっかしいなあ、どこいったんやコウちゃん。アレ?なんか靴下の中ゴワゴワする」

足元に違和感を感じたツマランナーが靴下を脱ぐと、折りたたんだメモが転がり落ちた。
メモにはこう書かれてあった。

『ツマランナーさんへ
まずは勝利おめでとうございます。本来なら所持品としてコウを持ち帰ってもらうはず
でしたが、ツマランナーさんの足首しか残って無かったので、どうやってもコウを
持たせる事が出来ないまま転送時間が来てしまいました。というか、コウが
あんな変態と一緒に居たくないと言ってどうしようもない状態でした。
結果はあんな事になってしまいましたが、貴方が一応私達の代表です。
こちらでも色々動いてみますが、基本的に世界の運命を動かせるのは勝ち上がった
参加者だけです。貴方自身が優勝するか、それが無理ならせめて信頼のおける参加者を
見つけて優勝を託して下さい。それではお体に気を付けて。ウツキ』

『ツマランナーへ
まず最初に言っとくけど、実戦ルールだったら私が勝ってたから!
ちくしょーーーー!レーザーが当たるまで気絶しなかったら私の勝ちだったのにー!
もう一回勝負すれば私が絶対勝つからそれまで負けるなよ、ボンバー!柔』

『さよなら変態さん、私はついていけません。コウ』

「ああそっか、目が見えへんだからよーわからんけどワイはレーザーに焼かれた・・・
いや、蒸発させられたんや。そりゃあ所持品持ち帰りなんてできへんわな。ガックシ」

大幅なパワーアップイベントのチャンスを失った事を知ったツマランナーは
ヘナヘナと力無く崩れ落ちる。
だが、ツマランナーの成長パートはこれで終わりでは無かった。
一回戦終了後と同じ様にツマランナーの全身に激痛が走る!

「ギャース!キター!」

一回戦終了後は爪と目が迷宮時計になった。
果たして今回はどれだけ時計化が進むのか!?
痛みが治まったツマランナーは服を脱いで力士に手渡し鏡の前に立つ。

「ハアハア・・・だるいけど確認せんと」
「迷宮時計の数は増えてないでゴンス、逆に手足の時計が半分以上減り、
ワシのリソースになったでゴンス」
「さよか、本来なら喜ばしい事やけど装備として使える時計が減ったのは痛いな。
ってだれやおまえー!」

自分の部屋に前触れも無く出現した力士にノリツッコミをするツマランナー。
しかし、ツッコミをしたタイミングとほぼ同時に彼は力士の正体に思い当たる。
この力士についての情報が頭に流れ込んで来たからだ。

「はじめまして、おかみさん。ワシは迷宮時計の欠片のレア形態の一つ『腹時計』でゴンス!
肉体一体型の時計とキッチンタイマーの融合でワシが生まれる事は御存知でゴンスな?」
「ああ、さっき知ったで」

キッチンタイマーが肉体一体型の時計と合わさればすなわち腹時計となる!もはやこれは常識!

「そういう訳だからこれからは世界標準時計関に代わりこの腹時計が相棒として
相談とかに乗るでゴンス!ちなみに、おかみさんがこれまで迷宮時計の欠片を多く
集めてくれたからワシの力は関脇級になっているでゴンス。ビンタされないと
動く事も出来ない平幕級との違いを見せてやるでゴンス!ふんすー!」
「ん、がんばれや~」

ツマランナーは適当に返事して布団にどさりと倒れ込む。

「疲れた・・・体力は回復しとるはずやのにむっちゃ疲れた・・・」
「ならワシがマッサージするでゴンス!」

腹時計がツマランナーの背中をプロ並みのテクニックで揉み解していく。

「どうでゴンスか?」
「気持ちええわ~、世界標準時計のアホの声も聞こえん様になったし、
ウツキから得た情報があるから世界標準時計からの情報は別にいらへんし、
身体の迷宮時計は結構減ったし、今回の戦いは大収穫やったわ。ただなあ・・・」
「どうしたでゴンス?おかみさん」
「やっぱこんな力士よりコウの方が良かったって気持ちもあるねん。
あっちの方が華があるし便利そうやし。コウ、カムバーック!
何であんなタイミングでチンチン勃起してしもたんやワイは~」

覆水盆に返らず。ツマランナーはこの腹時計と共に戦うルートを突き進むしかないのだ。
それに、こいつだって色々役に立つかもしれないぞ、頑張れツマランナー、
君の戦いはまだまだこれからだ!

「コウ、カムバーック~」

チャンチャン。