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裏第二回戦SS・田園その3


――泥濘の広がる大地にはしとしとと雨が降っていた。

その男は地に頭を擦りつける様に土下座している。
身長は2mを越えるのであろう。
体重も100kgを優に越えるのであろう。
しかし、古沢糸子にはその背中がとても小さく見えた。

「俺が悪かった、もうアンタには逆らわない。だから……だからッ」

すすり泣くような声には哀れみすら覚える。
男の周囲には幾つかの死体が転がっている。
頭を斧で割られた者、火炎放射器で丸焼きにされた者、ボウガンで額を打ち抜かれた者。
犯人は明確だ。

「時計も渡す、事情があるんだ。俺には娘がいる。息子も。子供達が帰りを待っている」

確かに子供がいるのであれば仕方ない。
誰だって家族の為にならやむを得ない事もある。

「本当は戦いたくなんて無かった。でも、仕方なかったんだ。襲われて仕方なくやっちまったんだ。だから、だからッ。う、うわああああああ」

傍から見ればみっともないとも言える泣き声。
正当防衛。
迷宮時計の戦いに巻き込まれいきなり襲われたのでは無理もない。

(さっき、襲いかかって来た時は舌なめずりをしながら「ヒヒハァ!!」とか言ってた気がしたかなー、って)

古沢糸子はそう思ったりもしたが、目の前で泣きながら命乞いをするこの男がそんな事をするはずもないのは明白だった。
彼は純然たる被害者だ。
事実、この男はそれほど強くはない。
糸子の射撃の前にこうしてあっさりと降参している。

「なんでもする、だから命だけは助けてくれぇー!!」
「面倒くさいけど、仕方ないわねえ。もう、迷宮時計に関わっちゃだめだよォ」

ガバッっと男が顔を上げる。
涙と鼻水に彩られた笑顔はニタニタと笑みを浮かべていた。

「あ、ありがてえ。本当にありがてえ」
「じゃね、戦いが終わるまでどこかに隠れてるか、戦闘エリアから出て行くと良いわ」
「すまねえ、本当にすまねえ。この恩は、忘れねえよぉ。絶ェッ対に忘れねえ」

そう言いながら男は懐からチェーンソウを取り出した。
ワイヤーを引き抜くとドゥルルンッというエンジン音が響き渡る。
それを気にもとめず古沢糸子は安楽椅子をくるりと翻す。
とある事件で両足を失った彼女は安楽椅子探偵と呼ばれる探偵の一種である。

「い、今、すぐにお礼をしたいなァ」
「いいよ、そんなの。私も忙しいんだからさァ」
「いいや。お礼がしたい!!したいんだよォ!!ウヒャホウ!!その頭をかち割りにしてェ!!たっぷりとォ!!」

なんという卑劣であろうか。
しかし探偵は何故それに気づく様子も見せないのか、それは即ちこの男の魔人能力故であろう。
今まさに探偵古沢糸子の命はチェーンソウの餌食になってしまうのか!!

「なーんてね、最初から知ってりゃ喰らわないってそんなの」
「へひゃっ!?」

振り向いた糸子の手にはリボルバーが握られている。
BLAM!!乾いた銃声が響いた。
銃撃の反動を利用しカスタム安楽椅子は急旋回、振り下ろされたチェーンソウを紙一重で回避すると体当たりで男を弾き飛ばす。

「うぼげあーっ!?」

撃ち放たれた黄色の銃弾は不可思議な軌道を描いてチェーンソウのディーゼルエンジン部分に突き刺さった。

説明しよう!!
これこそが“安楽椅子探偵”古沢糸子の魔人能力『サヴォイ・トラッフル』。
チョコレート菓子を銃弾として打ち出し弾丸の軌道を操る能力である。
愛用の安楽椅子は水冷直列4気筒エンジンを搭載した'02年型ジェーン1200ZXVのカスタム。
椅子の機動力と銃撃の反動を利用した探偵格闘術ピストルバリツによって両足を失ってなお余りある戦闘能力が彼女にはある。

KABOOM!!エンジンを撃ち抜かれてチェーンソウは爆発!!
飛び散った金属片が男の顔に突き刺さる!!

「うぎゃあああああ!!何故、何故だァ!!俺の無敵の魔人能力がァ!?」
「何故って。ま、それはさァ」

BLAM!!
正確な射撃が男の額を貫いた。

「私が探偵だから、かな。99人の素性も一日あれば調べるのはァ」

リボルバーをクルリと回転させガンベルトに収めるのはハードボイルド探偵の流儀なのだろう。

「ま、結構大変だったのよね。二百八(サンシタ・ヒャッハー)さん。催眠効果のある土下座能力ねェ。そこまで強力じゃないけど油断してると危なかった、かも」

カリッっと糸子は何かを噛み砕く。

「辛ッ。対催眠用とはいえ激辛チョコなんて、もうゴメンだわ。さて、他も派手にやってるみたいじゃない」

うええっと一瞬顔をしかめてから。
古沢糸子は周囲を見回し、次の戦いに赴いた。

――残り96人。


* * *


一日前のことである。
迷宮時計は参戦者に以下の情報を示した。

【戦場】田園
【時代】過去
【戦闘領域】1km四方
【勝利条件】 対戦相手全ての殺害、戦闘不能、降参、または戦闘領域離脱
【参戦者】
雨竜院雨溜『LainDrops』
二百八『俺が悪かった、命だけは助けてくれ』
鮮血のグリンゴ『ブラッドバレット』
巻島マキシム『豪腕トリロジー』
飴石英『ガラス細工の日常』
架空ピザ職人マリオ『アイアンハイドピッツァ』
コンビニ店長、鮫島バクバク『バイトバイト』
帝秀一『カイザーセクション』
夜魔口家鳴『ラップビート』
多小沢ハチワン『エイトバイ』
木林ジラフ『ハイリーチ』
夜魔口淫夢『セックス健康法』
宮古島エイサー『マブとハングース』
暗黒GMマサカツ『進撃ゴブリン軍団』
小野間トペ『旋律のオノマトペ』
重課金兵シゲハル『マネーパワー』
エルフの戦士バラガス『ソード&マジック』
一千十『ダイブバス』
リリヤン寺地『アーミーアーミー』
触手盆栽の玄爺『エロス雪月花』
廃蜜糖ラトン『アリデキリギリス』
亜宮ネス『ベストキッド』
宇都宮モトル『素早く戻る』
カツオ武士『戻りカツオに追いカツオ』
蟹山ギリー『カニモドキ』
慈善院善人『気付かなければ幸せに生きられたのにねぇ』
ジャック・ホセ『悪夢の靴下』
粕田熱人『情熱フラメンコ』
自作人形ドウラングル『フィルソフィア』
山猫嵐『ニードルキャット』
冷蔵庫に潜むアレ『アレの賞味期限』
テルテル『ピカピカモード』
百々島ヤシキ『ドドドンガー』
新本格柔道探偵、本澤淳也『リモート一本背負い』
洗浄戦隊ブルー・レット『置くだけバブリー』
三ツ矢サンダー『スリーウェイライトニング』
猛犬のウスイ『犬も歩けば何がおかしいワン!!』
姦崎右『右手の恋人』
逢瀬一年『かくあるべき君たちへ』
フ・ルウ・フワ・フリム『Junk Guild』
弾道 弾『アトミックグレイス』
古沢糸子『サヴォイ・トラッフル』
愛の天使ユリエル&ビーエル『ラブ&グラビティ』
ジョン・バステム『ドラゴンナックル』
石蕗彼岸『逝きて彼岸より帰る』
怪力むてき『フルパワーマックスリミットブレイクオーバーロード』
倶利伽羅絡繰『スチームパンク浄瑠璃』
香具師戸々菜Ⅱ『ココナッツボム』
夜祝詞のろい『寿ぎ綴り呪い奉る』
一ツ橋狂楽天『虚斬・楽断・狂剣・涙閃・怒刀』
鶫鴎『ハミングバード』
牛込ゴリアテ『ビッグボンバー』
マスクドインセインババァ『山神様の祟ラリアット』
剣崎刀剣『ソードマスター』
霧島グッドバイ『ロングバレル』
殺人道化師ゾウモツ『解体Show』
夢詩鳥アミ『ミクダス』
ドワーフハムスター(盗賊)『おおっとテレポーター』
久住彩帝『宇宙ヒモ理論』
鳥栗セリド『ファイナル脂肪吸引』
偉大なる豚王の聖者ブッタ・ヴァラー『ラヴィアンロース』
蜜塚蜂子『ハニカムフラクタル』
ミスター・サムライ『サムライシネマ』
佐亜倉ひめ『円壊の理』
丑刻参釘子『呪殺ラヴァーズ』
全裸坂なかとし『これがワシの○○じゃあ!!』
花澤モンシロウ『バタフライエフェクト』
白金死蝶『光速アゲハ』
クリスマススレイヤー『リア充爆発四散しろ』
同人作家キタザワ『締切デッドライン』
拈華微笑めろん『昇天千手観音』
ベン・李『ちょっと便利だ、ベン・リー』
モブ岡ひろし『どうも、モブ岡ひろしです』
大哲人よしはる『我思う故に我あり』
真野砂人『砂上の楼閣』
尻家ゲル『ちょすい』
元田とも『くるるくるるく』
チャダ☆カレースキ『カレと作る素敵なカレー』
天童グリマルディ『いともたやすく行われるえげつない行為』
サンプル太郎『サンプルパワー』
ダンボールバトラーキングデストロイ『中の人などいない』
フリッキ・キルリッキ『カッスム・パフィスィオ』
ボウリャック・ハンギャーク『策士策に溺れる』
エゾリス『アイアンイーター』
蓑田ウロス『モーモーヘッド』
ゲコック・ジョー『暗殺のレシピ』
ポセイドンまなぶ『虚無への回帰』
破壊王ヨン子『ミサイルサーカス』
悪田くみ『悪意の連鎖』
平背旗くろる『free』
アベレージキヨコ『可もなく不可もなく』
新堂クエイク『アースシェイカー』
スカルヘッドマリアッチ『ムエルテ・エル・レイ』
ムエタイ王者グエン・ホー『ゴンラーマスーンコワンクワン』
キルズマジシャン戯闇院『殺戮のカードマジック』
新島こもり『大炎上』
マッスル鬼淵『ブーメランパンツブーメラン』
島津鬼弘『退かずの極意』
フロストジャイアントパンダ『ブリザードブレス』
怪僧ズラーヴィ『ヴォーラギズォージャル』
以上100名

と。


* * *


久住彩帝はクズである。
女に貸しを作って束縛し自分に依存させる『宇宙ヒモ理論』という魔人能力は、彼のメンタルが戦闘向きであればこの状況下でも充分に役に立ったのかもしれない。
が、彼は女から金やプレゼントを巻き上げて生きてきた小心な男である。

彼を含めて14人の魔人が一人の少女を取り囲んでいた。
いや、取り囲んでいたというわけではない、彼女が彼らの中心に現れたのだ。
ズルリ、と地面の中から這い出るようにして。

「なっ!?」

誰かの驚きの声によってその少女は注目を浴びてしまった。
少女は何処を見るわけでもない。

「泣き声が聴こえるわ、泣いている。ほら、えーんえー…」

少女が喋り終えるのを待たずに魔人の一人、スカルヘッドマリアッチは瞬時にギター型サブマシンガンを少女に向けて撃ちだす。
ぬるり、と奇妙な動きで少女はそれを回避し、避けきれない攻撃は斧で受け止める。

「泣いてるわ、ほら足元、可哀想」

ぺたり、奇妙な感触を久住彩帝は感じた。
足元に何かがしがみついている。

「ひ、ひあああああっ?!」

彼の足には泥の中から真っ黒な赤ん坊のような影がはいだしてきて纏わりついているのだ。
目も鼻もないが赤い口だけが三日月のようにニタニタと笑っている。
なのにその口から漏れるのは恨めしい鳴き声だ。
ガラスの割れる音が辺りに響いた。

「お、おわああああ!?」

久住の悲鳴に周囲の魔人達も自分の足元に異形が纏わりついている事に気づく。
久住は自分の魔人能力で平穏に生きてきた男である、殺し合いに巻き込まれるなんて考えてもみなかったのだ。
たまたま女から貢がれたブランド物の時計が迷宮時計だったなんて。
こんな事は久住にとって不幸以外の何者でもない、彼は戦いに巻き込まれた時点で精神的に追い詰められていたのだ。

「地獄へ連れて行くよ、その子達は道連れを連れて行くよ」

少女は歌うように声を出す。
もはや、周囲の魔人達の殆どは全身を赤子の亡霊に覆われいる。

「ひぎゃあ!!」

最初に犠牲になったのは久住彩帝だった。
彼は短い悲鳴とともに泥の中に引きずりこまれ田園風景の一部と化したのだ!!

「馬鹿め!!精神攻撃だぞ、コレは!!」

精神攻撃とは精神的に消耗したり血迷った相手にしか効果のない魔人能力の総称である。
トラップや幻影など通常の精神状態では、意に介さなければ無害ですむハッタリ能力。
しかしスカルヘッドマリアッチの警告も最早遅かった。

数名の戦闘慣れした魔人を除いて追い詰められた者にとって幻覚はもはや現実に等しい。
一人が犠牲になったことで精神的な糸が切れてしまったのだ。
瞬く間に一人、また一人と地面に引きずり込まれていく。

「こんなくだらん、魔人能力に引っかかりやがって!!」

スカルヘッドマリアッチは舌打ちしながら少女に対する攻撃を続行する。
彼の魔人能力『ムエルテ・エル・レイ』は死者の王という意味である。
死体を操り人形のように使役できる能力であるが。

(軒並み泥の中にオサラバしちまっちゃあ、使いようがねえな!!死んでも役に立たん馬鹿ども!!)

少女は人間離れした動きで縦断を避けつつ斧を振るい生き残りの魔人を解体していく。

(それにこの女、やけに強い!!多少のダメージは物ともしやがらねえ!!)

「顔に張り付くよ、ほら子供たちは目隠しをされて死んでしまうよ」

少女が歌う。
その瞬間、スカルヘッドマリアッチの顔に子供が飛びかかってきた。
むろんこんなものは幻影である。
しかし、視界を塞ぐだけなら十分すぎる。

「クソがっ!!邪魔だ!!」

子供を振り払うように避ける。
しかし、視界に少女の姿はない。
いや、視界が回転している。
スカルヘッドマリアッチは自分の首が切り落されたのを知った。

「みんな死ぬよ。迷宮時計にとり憑かれたら死んでしまうよ。その前にキリコが殺してあげる」
(クソッタレ!!)

スカルヘッドマリアッチは最後に残った意識で悪態をついて死んだ。

飴石英の魔人能力『ガラス細工の日常』は悪夢の幻影を見せる能力。
ただし精神的に追い詰められた者にとって悪夢は現実となるのだ。


――残り83人。


* * *


「馬鹿なっ!!」

架空ピザ職人マリオは口から血を吐き叫んだ。
彼の魔人能力『アイアンハイドピッツァ』は透明なピザを6枚まで自在に操る能力である。
ピザの強度は鋼鉄以上であり、高速回転させれば自動車程度なら寸断するし、防御に使えば無敵の盾になる。
何より不可視である事が強みであり、彼の能力を知らぬ者にとっては何をされたかも解らずに死に至る。
知っていたところで攻防一体のこの能力に勝てる相手など居るはずもない。

事実この戦いでも既に3人を容易く始末している。
だが彼の胸には一本の傘が深々と突き刺さっていた。
致命傷と言ってもいいだろう。

「何故だ、私の能力を知っていたのか?」
「いいや…」
「では何故、見えぬはずの攻撃を」
「見えぬ?ああ、なるほど。俺は元々目が見えん」
「だとしても、何故だ。この雨の中で音や風では到底判断できるはずがない」
「それを教えてやる理由もなし」

倒れたマリオの前には一人の男が佇んでいる。
男の名は雨竜院雨溜、裏社会では名の知れた暗殺者である。
雨溜は静かにマリオに止めを刺した。
少し離れた場所で数回の爆発音が響く。
誰かが戦い死んだのだろう、生き残った者と戦わねばならない。

雨溜の魔人能力は『LainDrops』。
キャンディーを舐めている間だけ周囲に雨を降らせる能力である。
雨は室内だろうが、水中だろうが容赦なく降る。
今降っている雨こそが彼の能力であった。

その雨音をソナー音のように聞き分けることで雨溜はあらゆる敵の動きを察知するのだ。
足場の悪さ視界の悪さは彼にとって苦にはならない。
卓越した暗殺技術が生きるのみである。
見えない攻撃も意味はなく、見えない防御の隙間を突くのもたやすい。

タン。
数十メートル離れた位置で何者かがジャンプし空中で数回転したのち雨溜の十メートル手前に着地した。

「どーも、ウリューイン・アメダマ=サン。」

盲目の雨溜には関係のないことであるが、いま登場した人物の要望を説明しよう!!
背丈は180cm程であろうかガッシリとした体格!!
帽子をかぶり、そして雨や寒さにも耐えうる装束!!
素顔を隠すように白い綿毛のような物で顔の半分が覆われ、目には炎の如き激しい怒りが宿る!!
その衣装もまた殆どは赤黒い炎の如き色で染め抜かれていた!!
そして手はめたグローブや足に履いたブーツは炎に包まれている!!
炎から発せられる白い煙が腕や首筋など衣装の裾から立ち込め飾りの様相を呈していた!!
男は深々と一礼する。

「クリスマススレイヤーです」

その姿はまさにサンタさんであった。

「俺の名を知っているのか」
「知っているとも、盲目でイケメンな暗殺者。さぞモテるのであろう。この俺のリア充魔人メモの通りだ」
「なんだと」
「ふん、だがこのメモはもはや必要ない。クリスマスを迎えることなく貴様は死ぬのだからな。リア充殺すべし!!」
「狂人か」

クリスマススレイヤーの手にしたメモが燃えて灰となる。
雨溜はポケットから飴玉を取り出し口に入れる。
止みかけていた雨が強くなる。
クリスマススレイヤーは実際に狂人の類であるがその実力は確かである。
その空手の構えからも窺い知れる。
魔人能力こそ殺した相手がリア充だった場合、死体が爆発四散するという無意味極まりない能力であったが、その戦闘力は極めて高い。
対する雨溜も能力はサポートに過ぎず、その強さは本人の戦闘力にあった。

「直ぐには決着をつけられんか」


――残り78人。


* * *


「たああああああたあああああありいいいいじゃああああああああ!!」
「ウジャア!!」

ボギバキゴギィ!!
マスクドインセインババァの『山神様の祟ラリアット』が鋼鉄の牙を持つ猛獣エゾリスの首をへし折った。

――残り77人。


* * *


ゴロゴロゴロゴロゴロ…。

トラックほどもある大きな針だらけのボールが転がって通り過ぎていった。
それだけでその場に居た魔人は穴だらけになって死んでしまった。

山猫嵐。
ニードルキャットと呼ばれる背中に無数の針が生えた獣。
魔人化した猫であった。
先ほどの音は転がる音だったのか。
猫の喉からでる音だったのか。
誰にもわからない。

「ひ、ひいいい」

その光景を見ていたアベレージキヨコは恐怖のあまり尻餅をついた。

――残り65人。


* * *


「ふむ、全く馬鹿そうな連中ばかりで助かるよ、新しい作品のテストに丁度良い」
「ンだと。テメェ」
「その低脳な答えが愚かさの証明だと思うんだがね。例えば、君はこの攻撃を受け止めることすらできない」

そう言って、廃蜜糖ラトンは手に持った自作のベースを男に向かって投げつけた。

「バッカにしやがってェ!!」

その男、牛込ゴリアテは確かに愚かだった。
飛んできたベースを簡単に受け止めてしまったのだから。

廃蜜糖ラトン。
魔人能力は『アリデキリギリス』。
自作の楽器を手にした相手を奏者として操る能力を持つ!!


――残り65人。


* * *

田園の片隅に小さな水車小屋がある。

「時計に名前を見たときはどうしようかと思ったが。まったく、お前がここにいて助かったぜ、サキュバス」
「ポルタの姉さんがいてアタシも心強いですよ」

小屋の中で息を潜める数名の男女。
泣く子も黙る魔人ヤクザ夜魔口組の構成員達である。
武闘派の夜魔口家鳴(ポルターガイスト)と風俗嬢の淫夢(サキュバス)の女幹部二人。
そして、その後ろにはサングラスの下っ端ヤクザ達。

「お前とヤるのはゾッとしねえがよ。確かなんだろうな」
「そりゃ、干からびてミイラになりゃ物扱いですから。実際こうして何人か構成員を持ち込めているんで。アタシの能力『セックス健康法』を信じてもらっちゃくれませんかね、あとアタシ、女もイケますから」
「へっ、それがゾッとしねえってんだよ。その場合、勝者はお前になるのか?」
「アタシは自分をセックスでミイラ化もできますから大丈夫です。あとはお湯をかけて3分」
「へっ、魔人能力とは言え冗談みてえな話だな」
「あとは、人数が減ってから姉さんの能力で残りをぶち殺していけば」
「あびゃっ!?」

間抜けな悲鳴と共に下っ端ヤクザが吹き飛ぶ。
彼らは淫夢のセックス能力により干からびたミイラとして持ち込まれたあと蘇生させられたので厳密には時計所持者の戦いの参加者ではない。

「ンだァコラ!!」

家鳴は部下が吹き飛んだ方向に向かって右手を突き出す。

ピシッ、パシッ!!

枯れ木の割れるような軽い音と共に小屋の壁が吹き飛んだ。
彼の魔人能力『ラップビート』は衝撃波を撃ち出すという単純明快で強力な攻撃だ。

「アハ、攻撃してきたよ。ユリエル」
「ウフ、攻撃してきたね。ビーエル」
「女の子が二人だよ。ユリエル」
「じゃあ次は私の番ね、嬉しいわ。ビーエル」

小屋の外には二人の、いや一人の魔人が存在している。
一見すると手を繋いでいるかのようだが一人の右手ともう一人の左手の先が完全に一体化している。
二人の体が繋がって一人になったような天使というのが見たままの表現であろう。
双子のような中性的な美しい顔立ち。
その背中には羽が生え、頭上には天使の輪まである。
彼らは愛の天使ユリエル&ビーエル!!

「ブッ殺す!!」

ふわふわと空中に浮かぶ天使に家鳴は両腕をかざす。
が、その時である。

「ふぎゃ!!」
「なっ、サキュバス!!何してんだ離れろ!!」
「い、いや。離れろって言っても」

突如として仲間である淫夢が家鳴に対して体当たりを仕掛けてきたのだ。
しかも、そのままくっつくようにして離れない。

「発情してんじゃねえぞ!!」
「ち、ちが。違うんです!!」
「あは、喧嘩してても仲良くくっつく、美しい愛だね。ユリエル」
「ホント、二人の女性が禁断の愛の中死んでいくのはとても美しいわ。ビーエル」
「く、こりゃあ!!何だ!!」

気づいて再び天使に向かって手をかざそうとする家鳴だったが手が淫夢の体から離れない。
そして、メキメキと二人の体は圧縮されていく。
そう、よく見れば小屋の周囲には幾つもの圧縮された肉塊が転がっているではないか。
なんともおぞましい光景であろうか。

「が、は。て、前!!」
「いや、し、死にたくない!!」
「アハ、大丈夫。絆深い君たちは死んでも一緒さ、ねえ。ビーエル」
「そう、一人で死ぬのは淋しいけれど、一緒なら大丈夫よね。ユリエル」

愛の天使の魔人能力『ラブ&グラビティ』は同性の間に超重力を発生させ文字通りひとつに纏める能力である。
ユリエルは女にビーエルは男に能力を作用させることができる。

「アハ、アハハハハハハハハ」

既に肉塊と化した夜魔口の前で愛の天使たちは笑う。
だが、ここは多数の魔人が相争う戦場なのだ。
パキャッ。

「え?」

湿った音とともにユリエルの頭が破裂した。

「ゆ、ユリエル!!」

長距離からの狙撃。
ビーエルは絶望の表情を浮かべながらも瞬時に自分の腕ごとユリエルを切り落とし物陰へと移動する。

「ゆ、許さない!!絶対に!!僕らは一心同体だ!!勝てばいい!!勝者の肉体は回復するルールでユリエルは生き返る!!必ず!!」

ユリエルが狙撃された位置から数百メートル。

「そんな所にフラフラ浮いてるからだよっと」

愛用のマグナムをクルリと回して霧島グッドバイは呟いた。
彼の周囲は保護色のシートで覆われ周囲から識別しづらい状態になっている。
よく注意すればバレるだろうが、乱戦が続いている現状ではしばらく保つだろう。

「それで、アンタは良いのかい?」
「構わないさ、もとよりこんな争いに巻き込まれるのが不本意だからね、生きていられるなら話の分かる奴に恩を売っておくのが後々の為だ」
「そりゃ、懸命な判断だね。ベン・李さん」

その場その場でちょっと便利なアイテムを作り出せる魔人、ベン・李。
そして探偵霧島グッドバイ。

彼らはじっと息を潜めつつも的確に戦場に攻撃を仕掛けてゆく。


――残り43人。


* * *


「ぐ、おお。おお」

雨竜院雨溜は見えぬ目を絶望に見開いた。
彼の能力による雨が機能していないのだ。
それだけではない、彼自身もまた体を動かすことができない。
クリスマススレイヤーとの激闘によって負った傷が彼の動きを鈍らせ、新たなる敵の一撃を避けることをしくじらせたのだ
敵から放たれた吹雪によって雨溜の体は凍りつき、大地につなぎ止められている。

いつしか雨は雪へと変わっていた。
盲目の雨溜には見ることはできないが敵対者はすでに近くにまで歩み寄っている
その姿はホッキョクグマの如き巨体、体重は1tを越えるだろう。
白く輝く美しい毛並みもホッキョクグマのようであり寒冷地の王者の風格すら漂う。
大きな爪のあるホッキョクグマのような手、鋭い牙があるホッキョクグマのような口。

巨大な純白のパンダ。
これこそ、希望崎学園の地下迷宮に潜む巨人パンダの一種。
猛毒を持つポイズンジャイアントパンダと並ぶ吹雪の巨人。
すなわちフロストジャイアントパンダである。

無常なる野生の牙が雨竜院雨溜の頭部を噛み砕いた。

――残り42人。


* * *


「本澤さん、しっかりしてください」
「ああ、なんだ古沢さんじゃないか。やはりお互い探偵という性分からは、ごふッ。逃れられんものか」

古沢糸子の足元に倒れた柔道着姿の男。
彼は日本探偵界を代表する探偵の一人でハードボイルド派としても知られる新本格柔道探偵、本澤淳也である。

「他にも霧島君が来ているはず、がふッ。彼は用心深いが正義感に長けた男。いざとなれば協力してくれるだろう」
「もう、喋らない方が」
「そうです、もう喋らないほうがいい」
「まったく、こんな場所で正義ツラをしている方が宜しくないのですよ」

糸子が前方を睨みつける。

「ククク、他人を庇ったりしなければ生き延びられたのにねえ」
「まったく、くだらない事をしたものです」

張り付いたような笑みを浮かべるピエロは殺人道化師ゾウモツ!!
そして仮面を付けたタキシードの紳士はキルズマジシャン戯闇院!!
共に血塗サーカス団の一員であった。

「こんな所にまできて、元の世界の犯罪についてとやかく言うのはやめましょう」
「そうです、ここは話し合ってお互いに協力すべきでは?」
「そんな話が通じる相手じゃないだろ、あんた達は、さ」

古沢糸子は素早く動く、二丁のリボルバーを構え回転しながらの射撃!!
ゾウモツはそのまま前進し戯闇院はカードを取り出す。

「ショーダウンですな。探偵殿!!」

糸子の放ったチョコレートの銃弾はカードで撃墜。
残ったカードが回転しながら糸子に襲い掛かる。
ゾウモツは禍々しい形の刃物を二つ組み合わせ異形のビッグシザーを作成した。

「るん♪るん♪らららあああっ♪おゲッ!?」

全速力で突進してきた糸子の安楽椅子'02年型ジェーン1200ZXVのカスタムがゾウモツを吹っ飛ばす。

「ほっ!!はっ!!とうっ!!」

空中に舞うカードの上を戯闇院が走りながら更にカードを手裏剣のように投擲した。
戯闇院が踏み台にしたカードは鳩や花束や万国旗になって飛び散っていく。
糸子の懐から吸い込まれるようにチョコレート菓子がリボルバーにリロードされる。
クイックリロード&ショット。
カードは全て撃ち落とされていく。

「お見事です、探偵殿。ですが、そう簡単にはいきませんよ」
「ちょっと黙っててくれないかなっと」
「キシャー!!」

血を流し倒れていたはずのゾウモツが立ち上がる。
その姿は人体を無茶苦茶に組み直した怪物の様相!!
これがゾウモツの魔人能力『解体show』である。
自身の体をバラバラにしたゾウモツが手から生えた腸の先に縛り付けた鎌を振り回しながら襲い掛かる!!
BALM!!BALM!!
数発の弾丸を打ち込むがゾウモツは倒れない。

「キモッ!!それ自分で何してるか理解してる?」
「今のゾウモツにそのような意思があるわけないでしょう?こうなった彼は止まりませんよ」
「まあ、知ってるけどさあ。この変態殺人鬼!!」

バシュ!!
糸子の放った赤い弾丸がゾウモツの口の部分に吸い込まれた。

「ばげあ!!ぼぎょ!!」
「激辛チョコでも食って悶絶してろ!!」

異物を取り込み悶絶するゾウモツの頭部をカスタム安楽椅子が轢き粉砕する。

「残りは一人ってわけだけど、ね」
「く、ぬぬぬ」
「余裕、ないんじゃない?」

そのまま打ち出される雨のような銃弾に戯闇院のカードは手数で押されていく。
そして。
銃弾が戯闇院の手を吹き飛ばす。

「ぐぶっ!!こんなところで、まったく我ながらに情けない!!」
「お似合いだと私は思うけど」
「ふ、ふふ。観客がいないところで死ぬなど、私にとっては地獄ですよ」
「そんな美意識、私の知った事じゃないって、ねえ」

BALM!!
古沢糸子の銃弾がキルズマジシャン戯闇院の額を撃ち抜いた。


――残り39人。


* * *


「サアアアアアンプルッ!!パワアアアアアアアアア!!」
「ニャガアアアアアアアアアアアア!!」

サンプル太郎の右腕に装着された爆発機構が炸裂し山猫嵐は沈黙した。
巨大な針山の如き魔獣は地に崩れ落ちる。
しかしサンプル太郎も全身を無数の針で貫かれもはや長くはない。
周囲にも無数の死体が転がっている。

「介錯アゲマショウ」
「すまんな、感謝する」

ズシャッ。
和装に身を包んだナイスミドルなアメリカ人が刀でサンプル太郎の首を切り落とした。
苦痛を長引かせぬ為の儀式である。
ミスターサムライは武士道に生きる。
彼もまた一人の侍であった。

「は、お優しいことだなガイジン」
「共に戦った者に対するせめても情けデス」
「これで、共闘は仕舞いよ、さて死合うとしよう」
「承知」

この場に残るは一ツ橋狂楽天とミスター・サムライ。
満身創痍の共に剣に生きる男であった。

そして死合う瞬間、二人は圧縮され肉塊となって死んだ。

「アハ、ハハハハハ」

愛の天使ビーエルの笑い声がこだまする。

――残り30人。


* * *


「おいおい、勘弁してくれ。ようやくフロストジャイアントパンダを倒したと思ったら。次はゴブリンに牛人間か」

エルフの戦士バラガスはため息をついた。
彼はしがない冒険者である、世界を救うとか悪を倒すとかに興味はない。
ただ金のために剣を振るうだけである。
宝箱を開けて手に入れた時計のせいでこんな世界に飛ばされて迷惑しているのだ。

(魔物図鑑を使うか?いやマジックポイントが勿体無い、ゴブリン系ならまだ対処は可能だろう)
「対象数拡大のフラッシュアローをくらいやがれ!!」

バラガスの指先から光の矢がほとばしる。
通常ならこの判断は間違っていなかった。
歴戦の冒険者であるバラガスにとってゴブリンの群れなどそう大した相手ではない。
しかしこの世界は彼のいた剣と魔法の世界ではない。
ゴブリンが持っているのは棍棒や斧ではなく。
様々な楽器だったのだ。

その恐ろしさをエルフの戦士バラガスは直後に知り後悔したが、戦闘領域外にまで逃走するという道を選び九死に一生を得たのは、死ぬことだけは避けるという彼の歴戦のカンによるものであった。

その様を眺め廃蜜糖ラトンは満足げに頷いた。

――残り28人。


* * *

バシューズドドドドン!!

破壊王ヨン子のミサイルがダンボールバトラーキングデストロイに炸裂した
「ぴがっ、燃えるボディーが燃える!!」
「ヒィーハハ、吾輩の策のとおりだ、終わりだキングデストロイ!!」

ボウリャック・ハンギャークの謀略によってキングデストロイがマジでピンチだ。

「ヒィーハハ、ハハ?」

そのボウリャックが口から血を吐く。

「な、なな」
「クヒーヒヒ、ボウリャック様ァ!!」
「貴様はゲコック!!」
「貴方の時代はもう終わりなんですよぉ」
「裏切るのかゲコック!!」

――残り26人。


* * *

「お前たち!!」

愛の天使ビーエルは怒りに顔を歪めながら空を舞う。
霧島グッドバイの『ロングバレル』はリボルバーによる長距離射撃を可能とする。
その狙撃の位置をビーエルはついに見つけたのだ。

しかしベン・李の作り出した敵意探知レーダーはビーエルの接近を見事に捉えていた。
ビーエルの能力射程に近づかせなければ負けることはない。

「李、相手の動きを予測するアイテムは作成できるか?」
「ある程度ならできるとおもいますが」
「ある程度で構わない」
「ぱららぱっぱらー♪ちょっと便利なベン・リー!!」
「それ、毎回必要なんだな」

「うぐっ、お前!!お前ら!!」

敵の射撃精度の上昇にビーエルは怒りを感じた。
このままではいつか攻撃を受けてしまうだろう。
ビーエルは地面ギリギリを飛行し障害物を利用して攻撃を避けるが時間の問題だろう。

「くそう!!二人組か!!ユリエルがいればこんな事には!!許さない!!許さないぞ!!」

ビーエルはそう叫ぶと急上昇をはじめた。
いつしか雪も止んで晴れ間がのぞき始めた空に向かって。

「上昇していく」
「上方向は逆光にもなるから狙いにくいな、何のつもりだ」
「あ」
「どうした?」
「一直線に降下してくるぞ、凄い勢いだ」

バシュ!!
霧島グッドバイの『ロングバレル』が火を噴く。
しかしこの攻撃は“ユリエル”の片腕を吹き飛ばしたに過ぎない。
ビーエル体を揺らし僅かにジグザグ飛行をしていたのである。

「死ねええええええ!!」
「ぐっ、させるか」

だが『ロングバレル』の射撃はそれ以上の接近を許さない。
2発、3発と弾丸が“ユリエル”の体に突き刺さる!!

「まずいぞ霧島さん、あれは違う。何かを投げて!!」

その瞬間、霧島とベン・李は“ユリエル”の体に引き寄せられた。
ぐしゃり。

ビーエルは地面ギリギリを飛行しながらユリエルの死体を拾っていたのである。
死体を盾にして突っ込んできたのだ。
しかしそれだけでは射撃を受けきれるわけではない。
問題は性別である、ビーエルの性別はBL好きの女性体である。
そしてユリエルの性別は百合好きの男性体であった。

男性の死体を投げることで能力射程ギリギリで能力を発動し敵との距離を稼いだのである。
男と男をくっつけて殺す。
その能力によって霧島グッドバイとベン・李は死んだ。

「はぁっ、はぁっ。ざまあみろ!!馬鹿め!!ユリエル、やった、やったよ」
「ありがとう、ビーエル」
「そうか、君も喜んでくれるんだねユリエル」

いつの間にかビーエルの側にユリエルが立っている。
ガラスの割れる音をビーエルは聞いた気がした。

「もういいんだ、ビーエル。疲れただろう」
「そんな事ないよユリエル。もう少しだ、残りを殺して君が生き返れば」
「そんな必要はないさ」
「ユリエル?」

ぺたり、とユリエルが両手でビーエルの顔を掴む

「僕の体はもうグチャグチャなんだよ」

みるとユリエルの体は半分ミンチの様に潰れている。

「でも、しかた、仕方ないんだユリエル。勝つため、勝つために」
「そう良いんだ。別に怒っていやしないよ。僕は怒っていない」
「ああ、ユリエル。良かった。私は私は」

ユリエルはビーエルを強く抱きしめる。
その力はどんどん強くなる

「だからね、一緒に眠ろう、ね。一緒に」
「な、なにするの?ユリエ…ル。くるしい、くるしいよ」
「僕はもっと苦しかったよ」
「いやだ、許して!!嫌だユリエル!!」
「だから怒ってはいないんだビーエル、許すよ。僕は君を許すさ」
「ああ、死にたく、死にたくないよ。ユリ…エル…」

ぐちゃり。
肉塊に包まれるようにビーエルは潰れて死んだ。
それを見つめるように一人の少女が立っている。

「迷宮時計にとらわれると皆死んでしまう皆死んでしまう」

少女は歌うように呟いた。
飴石英の魔人能力は悪夢で人を殺す。

――残り23人。


* * *


「これは何かの冗談でしょ、ねえ廃蜜糖ラトンさん」

古沢糸子が戦う相手はゴブリンの楽隊であった。
ゴブリンだけではない牛人間にサメ人間もいる。

「貴方が人と組むとは思えなかったんだけれど」
「マサカツ君は良く協力してくれているよ、音楽とは人と人の垣根を取り除く物だからね」

暗黒GMマサカツ。
歴戦のTRPGゲーマーである彼の能力は最大100体までのゴブリン系モンスターの召喚である、最大というのは召喚できる数が10面ダイス二個による1~100までのランダム数判定によるところなのであるが。
そのゴブリンを軒並みラトンに奪われてしまったのだ。

この能力のタチの悪いところはマサカツの性格に表れている。
マサカツはボスが死んでもゲームを終了させず雑魚の全滅を要求するタイプのGM(ゲームマスター)であった。
今まで試したことのある人間がいないので糸子の調査でも知るよしもない事であるが、召喚されたゴブリンはマサカツが死んでも残り続けるのだ。

現在、廃蜜糖ラトンの支配下にあるのはゴブリンだけではない17名の魔人が彼の能力により支配下に置かれている。

「これはちょっとキツイかな、ってね」

糸子はカスタム安楽椅子を全力で疾走させて攻撃をかく乱していく。
泥濘の上でも機動力が落ちないのは流石の性能と言える。

対する廃蜜糖ラトンの能力は基本的に楽器を扱うという事でしか他人を操作できない。
わざと下手に操ることで楽器で殴らせたりするのだ。
だが。

「戦闘の質が分かっていれば選べる武器もあるということだな」
「ホント、タチが悪いわ」

ゴブリンたち前衛が持つのは主にベースだ。
世の中にはパンクロッカーと呼ばれる音楽家がいる。
彼らの一部はベースなど客の頭を殴りつける物程度の認識しか持っていない者もいる。
つまりはそれも演奏なのである。

他人の頭を殴るために廃蜜糖ラトンが特別に作り上げたベース。
もちろんラトンにとってその程度の演奏はたやすい事である。
ゴブリン達にとっても無理なく演奏できるベースは最高の選択の一つであった。

「数というのは力だよ、探偵さん」
「冗談はやめてほしいわ、音楽家さん」

安楽椅子が回転する、銃弾が流れるように撃ち出され、さらにそれらが探偵の思考力に基づいた論理軌道を描きゴブリンに突き刺さる。
古沢糸子の銃撃は的確にゴブリンの数を減らしていく。
チョコレート菓子の弾丸はゴブリンの頭を撃ち抜くと微かに文字を描く。
その文字は古沢糸子の推理思考の残滓だろうか。

「雑魚って数に数えないと思う、ってこと」

安楽椅子の動きはグレイニューロンの思考のピラミッドを思わせる的確かつ予測不可能な動きを見せる。
操られた魔人程度では、半自動的に動く操り人形ではその動きは捉えることはできない。
数分の後、廃蜜糖ラトンの支配下に動くものは居なくなった。

「数は無くなったようだね、音楽家さん」
「随分疲れてしまったのではないかな、探偵さん」
「まったく脳に糖分を補給しないといけないわ」
「で、あなたの楽器はなんなのかしら」
「私の楽器か、そうだね」

タタン、とラトンは足先でリズムを取る。

「原初、音楽とは何から生まれたか」
「なるほど、ね」
「察しが早くて結構、人は手を撃ちリズムをとり声を出して歌う」

パチンとラトンが指を鳴らす。
糸子は素早く安楽椅子を起動して回避。
衝撃波で地面がえぐれる。

「私自身が私の最高傑作たる楽器というわけだ」
「非常識ね!!」
「知っているかね、極めて卓越した歌手は声でガラスを割る程度の芸当はこなすのだよ」
「魔人だからそれくらいはできるって?それが馬鹿みたいっていうのよ」
「君に言われる筋合いはない」

銃弾が舞いアルトボイスの歌声が響く。
ラトンの歌声は大地を抉り糸子の射撃は空を裂く。
五線譜に舞う音符のように流れるような攻撃が出れば、カラフルチョコの銃弾は虹となって溢れ出す。

それを打ち破ったのは乱入者であった。
悪夢の奔流のような毒々しいヘドロに幾つもの死体が飲み込まれて流れてくる。
生き残りは他には居ないのだと示すように。

「死んでしまう迷宮時計に食われて死んでしまう誰も誰も誰も!!」

ヘドロの中から少女が立ち上がる。
そして田園は悪夢に飲み込まれた。

――残り3人。


* * *


悪夢は世界を塗り替える。

廃蜜糖ラトンは絶望する。
お前の音楽とは何だ、と誰かが問う。
お前の才能など如何程のものかと。

古沢糸子は絶望する。
お前は何故探偵なのか、と誰かが問う。
人を救うためではないのかと。

「ふん、愚かな問だ!!私こそが最高の音楽であるかなど!!」
「であるから、私は日々研鑽を積んでいるのだよ!!」

廃蜜糖ラトンは絶望しない。
幻に惑わされることもない。

「そんな事を人に言われる必要もない、かな」
「だって私は探偵で、これからも探偵だよ、ガラス細工職人さん」

探偵古沢糸子は絶望しない。
幻に惑わされることもない。

ヘドロの如き悪夢は霧散する。

それは一瞬だった廃蜜糖ラトンの一撃が乱入した少女を砕き。
古沢糸子の銃弾が廃蜜糖ラトンの体を撃ち抜いた。

「どうせ、死ぬのよ。迷宮時計は取り付いた人は死ぬ」

ガラガラとガラスが砕けるように少女は崩れ去る。

「ぬうっ!!これは!!」

弾丸を受けて廃蜜糖ラトンはたたらを踏む。
致命傷ではない、体を完全にコントロールできる廃蜜糖ラトンにとって問題ではない。

しかし一瞬、本当に一瞬だけ覚醒するのが早かったのは古沢糸子だった。
そして狙うべき相手を見誤らなかったのも古沢糸子だった。

呼吸を整え態勢を立て直した廃蜜糖ラトンの首をガラスの斧が切り落とした。

「死ぬ、死んでしまうわ迷宮時計にとり憑かれたら」

何事もなかったかのように少女は立ち上がる。

――残り2人。


* * *


「飴石英という名前について、調べたわ」
「それが、何かあるのでしょうか?そんな名前に何の意味があるというの?」
「あなたは何なのかしら、ね」
「意味はない、迷宮時計がある限り人が食われて死ぬだけよ」

少女は斧を持つ手を止める。
古沢糸子は話を続ける。

「飴家は65代続く”ボヘミアン=切子”職人だ。代々の後継者が石英を名乗る」
「それが、どうしたの」
「貴方は一体何代目なのかしらね」
「さあ、そんな事が何の関係もないわ」
「65代目の飴石英こと飴びいどろは行方がしれない」
「……」
「64代飴石英も行方はしれないらしいけれど、フフ」
「……」
「果たして貴方は66代目なのかしら?」

古沢糸子は両手にリボルバーを構える。
少女は斧を構える。

(某市、病院における医師殺害を含む連続殺人事件、この犯人はこの子で間違いない!!)

「名前くらいは名乗って欲しいな、石英さん」
「私はキリコ、飴キリコ」
「そう、じゃあ決着をつけましょう」

探偵は独自の精神鎮静法を持つものも多い。
かのシャーロックホームズは煙草や薬物を用いたと言われる。
古沢糸子の精神統一方は明確だ!!
会話とチョコレートそして探偵思考。

(精神攻撃を伴う幻覚、目くらましとしても十分)

古沢糸子は銃弾を撃つ!!
不規則な動きをする『サヴォイ・トラッフル』の銃弾は避けきれるものではない。
グレイニューロンの探偵論理思考をのせた真理の銃弾がキリコを名乗る少女を撃ち抜いた。

ガシャン、少女は砕け崩れ落ちる。

(これも幻影か!!)

古沢糸子は銃弾を放つ。
BALM!!BALM!!

立ち上がった少女の頭を撃ち砕く。
襲い掛かる少女の頭を撃ち抜く。

「この手応え、そうかお前!!」

ガラスの斧が振り下ろされる。
安楽椅子を起動させ射撃の反動で回避する。

「だが、そうか!!」
「何をわかったというのでしょう何もわからないでもいいのではないでしょうか」

少女の体が安楽椅子に絡まり動きを止める。
少女の腕が安楽椅子にめり込む。
少女の腕が探偵に迫る。

「幻覚ではない、これがお前の悪夢だというのか飴石英!!」
「そうだとも、それこそが僕の悪夢さ」

どこからともなく声が聴こえる。

「それは何度も何度も僕の前で人を殺し、何度も何度も僕の前で死んでみせる」
「終わることのない悪夢であり僕の日常だ」

探偵の体はもはや少女の腕に囚われている。
だが探偵の攻撃は終わらない。

「それを終わらせるのが探偵の役目ってやつ、かな」

カスタム安楽椅子が爆発し少女を吹き飛ばす。

「はぁはぁ」

泥濘に座り込んで探偵はリボルバーを構える。
BALM!!BALM!!
空に銃を撃つことで反動を生み出し糸子は態勢を立て直す。

「だが君に未来はない」

泥の中から飛び出したガラスの刃が古沢糸子の体を貫いた。

「ぐふぅ」
「何時の頃からか、人の中に異物が交じるようになった」
「やはり父親の…ほう…か、くらえっ!!」

空に撃たれた銃弾が軌道を変え襲撃者を狙う。
だが。
その弾丸は飴石英の前に立ちはだかった少女の体に当たり砕けた。

「残念だったね。言っただろうコレは僕に死を見せつけるためだけの悪夢だ」
「くぬ」
「話の続きをしよう。人の中に潜む迷宮時計。迷宮時計は人を喰う化物だ」
「それは」

ザクリ、古沢糸子の腕に刃物が突き立てられる
美しいガラスの刃物を持つのはやややつれた風貌の男だった。
美しい刺繍を施された服装は紳士的な風貌すら漂わせる。
金縁のメガネの奥には悲しげな瞳があった。

「君は話を最後まで聞くという事を学ぶべきだね」
「迷宮時計は欲望を餌に犠牲者を増し、人を殺す、殺しておいて自分自身は統合と分裂を繰り返しているのだ」
「これを野放しにしていては犠牲者は増えるだけ、僕の妻も、そして娘も犠牲になった」
「妻が犠牲になったとき僕の心は壊れた、そして娘が犠牲になったと知ったとき僕は立ち上がったのだ」

「そんなのは貴方の思い込みだ、迷宮時計にそんな意思など」

糸子は反論する探偵として調べた迷宮時計に真実らしい真実など存在しなかった。

「ないと言えるのか?人を喰う化け者に取り憑かれた人間の意見など」
「僕にとってはどうでもいいのだ」

ガチャリガチャリ。
ガラスの破片が寄り添うように少女は立ち上がる

「ふふ、ふふふふふ。姉さんが助けを求めている、時計に食われて苦しんでいる」
「食べても?」
「構わん、だが時計だけにしろ、彼女は幻影に囚われていない人間だ」
「うふうふふふふ」
「化け物め」

石英の怒りの呟きが耳に残る。
いつしか気配は消えていた。
しかし、古沢糸子の耳にはガラスの割れる音が残った。

* * *


「おい、あんたオイ大丈夫か?」
「あ、ああ」

エルフの男が古沢糸子の顔を覗き込んでいた。

「お。生きてるな。良かった、俺はこっちの世界詳しくなくてなあ」
「アレは本当に生きた人間だったのか?」
「ん、ああ。あのおっかねえヤツな。なんだろうなアレ」
「まあ、もう考えても仕方ないな」
「だろ、他にもなんとか生き残った連中はいるからさ」

糸子はエルフの戦士バラガスに背負われて生き延びる。
耳に残るガラスの割れる音を消すために。

――勝者は1人。


* * *


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