裏第二回戦SS・原生林その2


「やめて……お願い、来ないで……」

 ほとんど半裸姿の少女が這いずりながら必死に逃げる。
 僕はゆっくりと彼女に近付く――。大丈夫、怖くないよ、と声を掛けながら。

「やめて……。あたしは、戦いたくない……」
「安心して。僕は、君と戦おうなんて思ってない」

 原生林の中を逃げ惑った彼女は全身を土汚れにまみれさせている。
 戦いに怯え、僕の姿を目にして震える。
 憐れな女の子だ。
 きっと、望みもしない迷宮時計の戦いに巻き込まれてしまったのだろう。
 そんな彼女を、僕だって傷つけるつもりなんてない。
 怖い思いなんて決してさせない――。
 だって、僕が。

「大丈夫、絶対、痛くしないから」

 僕が――日下景が望むものは、穏やかな決して変わらない日々。それだけなのだ。
 僕と彼女とのぬるま湯のような関係。友達以上恋人未満の関係性。そんな小さな幸せを大事にしたいだけなんだ。

 そのために必要なものはたくさんある。
 その一つが、例えば、目の前の少女のような――。
 そう、適切な性処理対象なんだ。

「安心して。君の記憶は必ず消すと約束する。心に傷は残さないよ」

 僕は既にパンツを脱ぎ捨てて、露出した一物を激しく熱り立たせている。
 決して一線を超えない僕と彼女の関係性――。
 けれど、僕も年頃のオトコノコだ。
 彼女との距離を大切にするためにも、僕は理性的に、定期的に、適切な処理をする必要がある。

 これまでもたくさんのオンナノコたちが僕に協力してくれた。
 僕の拳法と魔人能力があれば、逃げ出そうとするオンナノコを繋ぎ止めることは簡単だった。
 事後は浸透勁を使って後処理。意識と一緒に記憶も飛ぶので警察沙汰になることは絶対にない。

「やだ。いやだ……。セックス……した……したくない……」

 怯える少女の顔を見て、僕の一物が一段と熱を帯びる。
 じゅるり……と垂れた涎を手の甲で拭う。
 察しの良い子だ。さてはネンネではないな?
 ケヒャヒャ……! 非処女には非処女の楽しみ方がある……!!
 前はともかく後ろの穴はどうかなァァ~~!??

「ケヒャッ!?」

 僕の手刀が背後から迫るナイフを叩き落としていた。
 振り返ると、日本刀を持ったセーラー服姿の少女。憎悪に満ちた瞳で僕を睨んでいる。
 ……危ういところだった。放たれし殺気に気付けなければ、先の一撃で死んでいただろう。ケヒャ!

「貴様、今……何をしようとしていた?」
「ま、待って! 誤解しないで下さい……!!」

 僕は慌てて彼女の誤解を解こうとする。
 深く深呼吸し、落ち着いた声音を出すように意識する。
 どうも最近、気持ちが異様に昂ぶる時がある。何かおかしい。

「彼女は、とても怯えていました。だから、僕はまず彼女を安心させようと思い……」

 セーラー服のオンナノコはジッと僕の目を見つめ続ける。

「僕が望むものは、変わらない平穏な日々なんです。そのためには、彼女の協力が必要で……ケヒャ、ヒャヒャ……」

 いけない。また、気持ちが昂ぶり始めてきた。
 身体の中から熱いものがこみ上げてきて……僕の脳味噌をとろかせる……。
 この昂ぶりに……身を任せたてしまいたくなる……。

「ケヒャ! だ、だから……あ、あ、あなたも……! あなたも、どうですかァ~~、ぼ、ぼ、僕に是非ッご協力を……! そ、その、白い柔肌を僕のためにィィィイ~~~!!!!」
「貴様……」

 少女が静かに刀を抜いた。

「貴様、やはり"憑かれて"いるな?」

 *

「やだ。いやだ……。セックス……した……したくない……」

 なんで、こんなことになってしまったんだろう……。
 ひどい。ひどすぎる。悲しい。せんぱいドコ?
 せんぱいあたしをおいて、どこに消えてしまった、の。

「いやだ、いやだ……」

 先輩の姿を見失ってから、一ヶ月半が過ぎた。
 組織から残された猶予は、後半月……。
 半月で、あたしは、殺処分。やだ、いやだ。

 せんぱいの部屋に残されていたピンクローターを手にしてから。
 おかしな戦いに巻き込まれてから一ヶ月。
 三度目のおかしな戦い。
 いやだ。もう、セックスはしたくない……。

「やめろ、日下景! 私の話を聞け!」
「ケヒャ!」
「今の貴様では絶対に私に勝てない! そのように運命付けられてるんだ!! そんな貴様と、私は戦いたくない!」

 あたしの寿命は、あとどれだけ残されているのか。
 「AI」を一本打つ度に数ヶ月単位で命が削れていくのが分かる。
 組織の実験台に選ばれ、虎の尻穴を「卒業」するまで、あたしは「AI」を無制限に受け入れ、力を示した……。同年のビッチを3ダース殺した……。

「日下、貴様も知っているだろう。思いだせ! 三ヶ月前の第四次ダンゲロス・ハルマゲドンを!」
「ケヒャー!」
「番長グループが、突如として、今の貴様のような下賎で下劣な口調と思考になった! 思いだせ!」

 それはいい。問題ない。命は数十年吹き飛んだが、どうでもいい。
 大切なのは……ナマ子先輩とセックスするチャンスを得たことだ……。
 組織は約束を守ってくれた。
 二ヶ月間、大好きなせんぱいをレイプできる……れいぷして、ぐちゃぐちゃにして……。
 あたしの残りの時間と寿命は全部せんぱいのためにつかうんだ。
 あたしは……とてもしあわせだった。

 なのに……なのに……どうして、せんぱいがイないの……。

「貴様、光のようなものを見なかったか? 強烈な、眩しい光だ」
「ケヒャ……ケ、ケ、う、ううッ!」
「もしくは空に浮かぶ猫の額の皺のようなものを!」
「やめろ。その話はやめてくれ……痛いッ! 頭が痛いッ、頭がァッ!!」

 どうして! どうしてえェせんぱいがイないの!!?
 せんぱいどうしてあたしから隠れるのせんパイは挑まれたせっくすには絶対に応えるはずなのに誰がせんぱいをあたしから隠したキユは殺したし組織も追ってるし逃げられるはずがないどこにいるの! どうしてラプラスは"ERROR"なの!
 このまま殺処分なんて絶対にイヤだイヤだイヤダ!!!
 死にたくない死にたくない死にたくナイ死にたくナイここから帰して帰して帰してあたしをせんぱいの下に帰して返してカエして
 イヤだいやだこいつら殺さないと帰れないのもうイヤダ嫌だあたしの寿命は後は全部せんぱいのためにつかうんだいやだこいつらとセックスなんてしたくない命がへるでもこいつらころさないとあたしはせんぱいのもとへ帰れないせんぱいどこにいるのあたしがこいつらをころしてちゃんとかえったらせんぱいいるの
 いやだイヤだもう「AI」打ちたくない次打ったらしぬかもしれないあたしがしんだらもうせんぱいをれいぷできないし先輩にれいぷもしてもらえないいやだどうしてこんなやつらとせっくすしなきゃいけないのあたしは先輩とだけせっくすがしたいせんぱいと二人だけでずっとせっくすがしたい

「思い出せ! お前にも人並みの、まともな青春を送っていた日々があったはずだ!」
「ち、違う。こ、こんなの……僕は、ケヒャ! ……レイプ? どうして僕が……ケヒャ! ケヒャヒャ!」
「日下、負けるな! 貴様の中に潜んでいるものに負けるな!!」

 こいつら ころして カエったら
 せんぱい いる よね?

 あたしを まってて くれてるよ
 ね?

 *

 私、真野海人の周りでおかしなことが起こり始めたのは三ヶ月前だ。
 番長グループが卑怯な騙し打ち未遂を行い、突然の宣戦布告。
 そこから雪崩れ込むように第四次ダンゲロス・ハルマゲドン開戦。

 私たち生徒会は――……勝利した。完膚なきまでの完勝、大勝利だった。

 だが、何かがおかしかった。
 男気に溢れていた邪賢王番長がまるで三下のような下賎な振る舞いを見せた。
 思慮深く聡明な武人、白金副番が信じられないような油断を見せて無惨に自滅した。
 立川先輩……海我先輩……口舌院先輩までが異様な醜態を晒して、無為に惨めに死んでいった。

 勝利に至る過程で、私たち生徒会の面々は数々の苦悩と喜びを味わった。
 多くの恋が実り、人間的成長を果たし、輝かしい未来に向けて歩みだした。
 しかし、私にはどうしても一つの疑念が拭えなかった。

 ――これは盛大な茶番ではないのか?

 何者かが私たちを操り茶番劇を演出していたのではないか??
 私たち生徒会の一部メンバーは報道部と結託し、真実を追った。
 その過程で幾つかのキーワードが浮かび上がってきた。
 糸目……ニャントロ……ジュブナイル……
 私たちの世界の裏側で何かが蠢いている。

「ケヒャーッ! 僕のォ、絶招・七孔噴血爆塵掌はァァ~~!!! 穴という穴から全身の血を吹き出してェ! 惨殺ミイラ干からび死ィィ!!!」

 日下の打撃を刀の柄で軽くはたき落とす。

「ケヒャ!?」

 明らかにおかしい。私の知っている日下の技はもっと鮮烈であったし、何より自分の技を説明するような阿呆ではなかった。何者かが彼の中に巣食っている。彼の格を下げる何者かが彼の身体の中にいる……!

「チッ! 正気には戻らんか!!」

 こうなれば……イチかバチかの実力行使だ!
 私は日下の顔面に掌底を叩き込んだ。
 ただの掌底ではない。

『アクアシャッター』!

 掌から溢れだした水が日下の口内に流れ落ちる!
 そのまま掌で彼の口を塞ぎ、無理矢理に水を飲み込ませる!!

「オゴーッ、オゴゴーッ!!」

 噎せ返り、日下が水を吐き出す。
 吐き出させたらもう一度掌を当てて水を飲み込ませる。
 それを繰り返す……! 根比べだ!!
 日下の体力と、中に潜む何者かとの……根比べ!

「ケ、ケヒャーッ!!」

 何度目かの試行の後――、日下の喉の奥の奥からあの叫びが響いた。
 日下の声ではない。瘤のような盛り上がりが日下の首を登っていく。何かが……出てくる!

「ケヒャァアアッ!」

 日下の口から縄のようなものが飛び出した。私は反射的に刀を突き出す! 縄のようなものは切っ先に貫かれ……バタバタと暴れ出した!

「ゲホーッ! ゲボボーッ!!」

 日下が血と水を吐き出した。同時に糸のように細かった目がパッチリと開く。

「僕は……僕は、何を……」
「日下、正気に戻ったか!」

 だが、次の瞬間!

「危ないッ!」

 日下が私を突き飛ばした。
 唐突に地面に投げ出され、瞬時、混乱する。
 一体、何が……。

 私が起き上がり、再び日下を見た時には、彼は異様な姿へと変わっていた。
 仰向けに寝かされた彼は、半裸の女の股間に顔を埋め、己の股間からは噴水のようにぴゅーっと精液を放っていたのである。

「アハハ! アハハハハーッ、あたし、あなたのことがだい*******!!!!」

 何かを言いかけた少女の言葉が突風にかけ消された。

 *

 僕を支配していた何者かが身体の中から抜け出たのが分かった。
 フッ――と心と身体が軽くなり、逆にこれまで犯してきた罪が、雪崩のように自分を襲い、押し潰した。僕は今まで何をしていたんだ……大切な彼女に、取り返しの付かない、酷い仕打ちを……。
 光だ。ああ、強烈な眩しい光が、僕の前に現れて――……。

 あの時、ニャント****れて僕は契約をジュ******それからの日々は幸せで、でも何かが狂い始めてその時にそうだあの男**目の神父、******の使い……奉仕種族……「AI」のために……宇宙が**……暗黒……猫の額……そうだ……そうだ!!!

 僕は、全てを思い出した。我が身に降りかかった恐怖を。
 この世界の裏で蠢く恐るべき勢力の正体を――。
 僕は"ジュブナイラー"だった。けれど、僕は"失格"し、歯車は狂い始め、僕は……"糸目"に……。

 その時、僕は見た――。
 僕を助けてくれたセーラー服の少女、彼女の背後から迫り来る影に。
 女の子だ。逆さになった女の子が――、宙を飛んでくる。
 ――危ない! 僕は目の前の少女を突き飛ばした。
 逆さになった女の子が迫り来る。彼女の股間が僕の顔面を捉える。
 激しく射精しながら……僕は倒れた。
 少女は何かを叫ぼうとした。
 僕は彼女が何を言おうとしているのか、何故か察していた。
 ほとんど反射行為のように僕は能力を使用し、彼女の告白を掻き消した――。

「あたし、あなたのことがだい*******!!!!」

 それが僕の魂に残る最後の記憶だ。
 その直後、彼女は僕の股間に強く吸い付いた。
 そこから先のことは分からない――。

 *

「ネオ! 状況を確認するぞ」

 胸元からピッと飛んできた白い粒を海人が口に含む。
 頭がスッ――として視界が明瞭化する。ネオの魔人能力『あースッキリフリスク』だ。
 彼女の目に飛び込んできたのは、辺り一帯に溢れかえった白い粘液。まるで海のようだ。
 海人の下半身も白いものに塗れていた。

 あの時、彼女が見たものは、互いの股間を吸い合う二人の男女の姿だ。
 そして、上に乗る女の体から……粘液状の白いものが溢れ返った。
 白いものは途端に海人の踝までを浸し、濁流に押し流されそうになりながらも、彼女は必死に大木に縋り付き、これを登り上がったのだ。太腿の辺りまで粘液に浸され、さらに粘液の飛沫が彼女の体中の至る所に飛び散っていた。

 半ば無意識的に太腿を掻き毟りながら、樹上の海人が問う。

「ネオ、刀は……」
「見えぬ。流されたな」

 日下に突き飛ばされた時に、彼女は迂闊にも刀を手放した。
 それは武器を失ったというだけではない。遂に辿り着いたはずの真実――、日下たちを狂わしめた何者かの姿をも見失ったということだ。

「あれは……なんだったんだ?」
「蛇にも似た何らかの生物。寄生虫の類にも見えたが――、一つ確かに言えるのは」

 ネオが厳かに言った。

「あの生き物は糸目であった」
「…………」

 常敗無勝、必敗必死の闘技を使う"糸目"と呼ばれる一族がいると聞いたことがある。
 海人はそれを与太話の類と考えていた。
 必敗必死であれば子を遺せぬ。一族が繋がるはずがないのだ。
 それに何のために彼らが必敗の道を歩むのかも理解できない。
 だが――。

「あの寄生生物が"糸目"の秘密だとしたら……」

 太腿を掻き毟る海人の手が止まらない。掻き毟る度に多幸感のようなものが脳内に沸き上がってくる。海人の手がだんだんと己のおまたへと近付いていく。彼女の股間にもべったりと白いものがこびりついていた。

「それと、海人。気付いていたか? あの娘――」
「ああ」

 二人が見下ろすのは、白い海の中央で首まで浸かりながら辺りを見回し、狂笑を上げ続ける少女の姿である。海人を探している……見つかるのは時間の問題だ。

「あれは……、あの時の、生徒会の皆と……ひいッ、あれほどではなかったが、お、同じ何か、が……! ひああっ!!! 」
「海人……!」

 股間を激しく弄り回す少女は小さな喘ぎ声を上げ、痙攣し、樹上から転げ落ちかけたが、胸元からピッと飛んだ白いフリスクが彼女の正気をギリギリで保った。

「す、すまない。なんだ、これは……糞ッ」
「毒の類やもしれぬ。海人、下半身を洗え」

 ネオに促され、海人が『アクアシャッター』で水を生み出す。水音でいずれ女に気付かれるだろうが、背に腹は替えられぬ。海人がスカートの下のパンツをぺろりと脱ぎ、靴と靴下も脱いだ。水で洗われた少女の生足を目の前にし、彼女に仄かな恋心を抱いているネオがごくりと生唾を飲み込んだ。

「とにかく……手がかりの一端は掴んだ。あいつを倒して無事に戻り、報告せねば……」

 巨大な陰謀と姿の見えぬ勢力を相手取っている彼女には、この迷宮時計をめぐる戦いなどは障害でしかない。希望崎学園は今ゆっくりと壊れ始めている。あの平和だった学園を守るために彼女は戦い続けているのだ。しかし、

「くッ、ああ、ああああッ……!!!」

 海人が苦悶の声を上げた。水で洗い流したにもかかわらず、尋常ならざる痒みが彼女の股間を中心に下半身に広がっていた。掻けば毒が増すと気付き、先程からずっと我慢していたが、そうすると股間がカッカッと熱くなり、耐え難い程の掻痒感に襲われる。

「ひいッ、ひいい、ひいいいい……!」

 たまらず樹の幹に股間を激しく擦り付ける! ゴボッ、口から愛液を吐いた。

「海人!」

 フリスクが二つ宙を飛ぶ。禁断のダブルフリスクだ……! フリスクの力を借りて彼女の理性が打ち克った。樹の幹から慌てて離れる。だが、長くは持たない! フリスクの副作用もそろそろ危うい!

「あッああッ!!! 糞ッ、畜生……見つかったッ!!」

 下から女がジッとこちらを見詰めている。敵は何を考えている? だが、海人にはそんなことを考えている余裕はなかった。今も彼女は己の股間を掻き毟るので必死だからだ!

「ヒッ、ひいいッ、ひっ!!」
「だ、だめだ……海人……」

 ネオの警告も今や空しい。フリスクは? いや、駄目だ――。既に海人の肛門括約筋は痙攣を繰り返している。フリスクには過剰摂取すると激しく脱糞するという副作用がある。ネオは恋した少女の樹上脱糞など見たくはなかった。だから、彼も背に腹は替えられなかったのだ。

「海人、私を使え……!」
「えッ!?」
「私を股間に押し付けるのだ!」
「で、でも、そんなことをしたら……!」
「いいからやるんだ!!」

 恐る恐るフリスクを股間に押し付ける……。

「うッ!」

 木よりも遥かにいい……。最初はおっかなびっくりだったフリスクを操る手の動きが直ぐに大胆になっていく。様々な角度と強度でフリスクを股間に押し付けていく。甘い吐息が少女から漏れる。

「クッ、だが……よく考えたら状況は何も好転していない」

 ネオが歯噛みする。海人のために何かしなければと思い、英雄的に我が身を投げ出した彼だが、ちょっと考えが足りなかった。何だこの状況は。

「ウウッ!」

 しかも、状況は横這いどころか悪化さえしている……。己を股間に押し付ける海人の動きが更に激しさを増したのだ。またネオからしても恋した少女の股間である。その性的興奮は並ならぬものがあった。今にも溢れそうになるものを彼は必死に堪えていた。

「く、くそぅ……苦しいッ……」

 耐え続けるネオの中で精液が際限なく充満していく。薄平べったいフリスクケースがもはや3センチにまで膨張していた。このままでは精液膨張により爆発散華だ。

「フーッ! フーッ、フウーッ!!」

 だが、海人はもはや正気ではない。おさるのようにネオを股間に激しく押し付け、動きを止めぬ。ネオは……やはり背に腹は替えられなかった。

「さらばだ……海人」

 海人の手からするりとフリスクケースが零れ落ちた。フリスクケースは空中で爆発――、鋭いプラスチック破片を辺りに撒き散らした。

「ネオ!」

 ハッと正気に戻った海人が叫び、長年連れ添ったパートナーの死に愕然とした思いに浸る。だが、それも一瞬のことだった。

「アーッ!! ウアーッ!!!」

 刹那の後に、彼女は再び股間の掻痒感に襲われ、改めて樹の幹へと擦り付けるが、もはや駄目! 一度フリスクケースとの性交を経験した彼女には木ではもはやものたりぬのだ。ひくひくと痙攣する股間を今すぐ人の柔肌に押し付けねばならぬ!! パッと樹下に目をやる。目が合った。下にいる少女と……!

「ヒイーッ、ヒイイーッ!!」
「アハハーッ!」

 海人が樹上から転げ落ちる。とろろ汁の海を両手で掻き分けながら補陀落とろろが素早く彼女の体を捉え……馬乗りになり股間を相手の股間へ押し付けた! 彼女の下では海人がとろろ汁の海に溺れながらも股間を激しく動かす! 

 なんというセックス……! なんという快楽……! とろろ汁の中で溺れる海人は全身を襲う痒みと股間を中心に広がる性的快楽に飲み込まれる。股間だけでなく、全身のあらゆる部分をとろろの生肌に擦り付ける。生まれてこの方味わったことのない程の多幸感に感情が支配される! ドバドバと快楽物質が脳内に溢れ、海人の思考を阻害する、だが――。

 ――今動かなければ死ぬ!

 間近に迫った死に背中を押され、彼女は必死に動いた。平手打ちがパンッととろろの左耳を叩く。『アクアシャッター』――! 掌から溢れだした水がとろろの左耳から右耳へと抜けて、脳髄をズタズタに切り裂いた。……はずだった。

「アハハーッ! アハハ、アハハハハッ! あなたのこと、だいすき! アハーッ、アハハーッ!! セックス、ずっとセックス! あたなのことだいすき! だからセックス! ずっと、ずっとセックスしたい、アハーッ!!!」
「アハハハーッ、アハハ、アハハハハーッ!!!」

 二人の狂女の狂った笑いが響き合う。とろろの頬を打った海人の掌は……ただ、彼女の頬を愛撫しただけに終わっていた。溢れかえる多幸感に支配された彼女には敵意を完遂することなどできなかったのだ。

 *

「違う……」

 血涙を流す補陀落とろろは、既に、己の下で冷たくなっている女に見向きもしない。「AI」が切れかけていた。

「違う、あたしが好きなのは……先輩だけ。ナマ子せんぱい、だけ……」

 とろろ汁の海は既に姿を消していたが、全身をとろろ汁に浸した彼女は体を掻き毟りながら煩悶する。「AI」とは、何なのか――。なぜ、あたしは見も知らぬ女を大好きになってしまうのか。「AI」を一本首に打つだけで、ナマ子を大好きな自分とは別の誰かが、簡単に生まれてしまう。

「帰ら……なきゃ……」

 とろろが立ち上がる。彼女にごく僅かに残された理性が焦燥感を訴える。今回は2本の「AI」を使った。命はどれだけ削られたか。こんなやつらとのセックスに……命を、削った……。ナマ子のために捧げるはずの、残り僅かな、大切な命を……。

 迷宮時計は「AI」の後遺症だけを彼女に残して、再び基準世界へと彼女を送り込む。ナマ子との再会を願う少女に、僅かな希望だけを添えて――。

最終更新:2014年12月17日 04:56