無題(幕間スレ155)


「人、齢七十にして婆と成る、恐ろしき哉」
とは吉田兼好の言葉である。

ババアとは人成らざる者である。
鬼婆、山姥、古庫裏婆、鍛冶が婆。
全国に残る婆の伝承が其れを示していた。
即ち、ババアとは人を喰らうのだ。

奥州、現在で言うところの東北地方にはウバステという儀式があった。
“あった”とは正確ではない。
東北に住む人々はババアを恐れた。
東北の冬は厳しい、食料は少なく何よりも寒い。
だが東北に住む人々の死因の一番はババアによる殺戮であった。
ババアは人を喰う怪である。
遠ざけねば禍を招く。
それ故に恐山マスドライバーは七十になった老人を宇宙に葬る為に古代人が生み出した退魔の祭壇なのだ。

恐山の神官は半人半婆のイタコと呼ばれる異形の民である。
人であって人でない彼女達の言葉を人々は畏れをもって聞いた。
恐山の神官達は人々にこう説いた。
ババアになる前に極楽浄土に葬る。
極楽浄土でババアは心安らかに暮らす事ができ穢は払われる。

人々はこれを信じ、片道の燃料だけを積んだロケットに老人たちを乗せた。

イタコはいう、天の果てにババアの為の極楽浄土が有る。
宇宙ババアステーション、即ちウバステ。

奥州では今も老人は姥捨てされる。

                    国土地理院所蔵「姥捨山考 国枝邦夫」より

最終更新:2014年11月24日 23:16