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第二回戦SS・高速道路その2


「私はあなただけを見つめる」

トラックの荷台の上。日車は私に言った。
「向日葵の花言葉だよ。トラック運転手に向日葵の押し花を貼りつけた。運転手は目の前の向日葵を見つめ続け、日車達が荷台に載っていることに気づけない」
荷台から日車の髪が長く伸び、トラックの正面に向日葵をぶらさげている。
花言葉の能力……彼女はそれでトラックを操っているんだ。

試合開始後、高速道路に転送された私はすぐに、トラックを操る『伊藤日車』に拉致された。
近くにいた山禅寺がどうなったかはわからない。悲鳴と衝撃音が聞こえたから、轢かれたかも。
あいつ、私の疑問を解決するんじゃなかったの?どうしよう、予想以上に役に立たなかった。

そして、当の伊藤日車。
ついさっき名前を呼んで幼馴染みになったはずなんだけど、様子がおかしい。

「まず日車は、おさなに謝らないといけない。日車は、君と逢瀬をかわしたあの日々から、変わってしまった」

「はあ」

「それもこの、日車と同じ人工探偵。時計草と出会ってから――何?どうしたの時計草」
日車は肩に咲く向日葵に話しかけた。トラックの正面にぶら下がっている向日葵とは別に、彼女の肩にも向日葵が咲いていた。

こいつも二重人格か!

山禅寺の件といい、探偵は二重人格じゃなきゃいけない決まりでもあるの?
私の能力が使えるのは一人一回。一世界に一人だけ。
この時計草ってのが内心で日車に話しかけているのなら、幼馴染効果が薄れるのは時間の問題。
早い所決着をつけないと。

「とにかく、日車はもう長く組織と連絡を取っていない。できないんだ。迷宮時計の情報を集める過程で、日車は人工探偵として『狂って』しまったから」

あ、この人、ヤバい感じがする。自分で狂ってるって言っちゃったし。
経験でわかる。
狂ってる人は、幼馴染みになっても通用しない。
むしろ喜んで殺しに来る人だっている。

悩んでる暇、無いんじゃない?







やるか。







そう思った時には既に、私は伊藤日車に襲いかかっていた。
「――おさな!?」
「死んで。日車ちゃん」
取り出したナイフを突きつける。その腕を日車が掴む。
力は互角。
だが敵の腕が多かった。日車の髪が動き、私の顔をはたく。「――うあッ!?」
その隙をつかれ、足払いで荷台に倒された。ナイフが路面に落下。

「真実を――」

「……くそッ」
ふわり、とやわらかな触感を感じる。私の両足は日車の髪に拘束されていた。
そんなに強度のある髪じゃない。でも、引きちぎる隙を見せたら、今度こそ突き落とされる。

「――真実を語って下さい。馴染さん」
日車は私の胸に押し花を貼り付けた。
「マーガレット。花言葉は……真実の愛」


「程度の差こそあれ、探偵はどれも因果関係、統計、時空を無視し、事件に引き寄せられる力がある。日車もしかり。非制御に様々な世界を渡り、迷宮時計に関する情報を集めておりました」

日車は勝手に語り始めた。

「そしてある事実を掴むに至った。迷宮時計を手に出来るのはあらゆる並行世界の中で唯一人。ただし、その支配も歴史の改変によって変化する。日車は観測した。日本政府による時計の欠片狩り――世界征服。対抗して現れた改変者、メリー・ジョエルの名を」

何……?
どうしてそこでメリーの名が出てくるの。

「時計の支配者は、メリーの排除を試みた。彼にとって、彼女を始末するなんて造作のないこと。そして事実、メリーは負けた」

「何が言いたいの」
嫌だ、聞きたくない。

「支配者は過去を改竄し、因子を残した。メリーを排除する為の因子を。貴女が戦いに参加する動機に、強烈な真の動機があるはずです。それこそが支配者の残した『因子』」

『俺君』のこと言ってるの?

嘘。嘘だ嘘だ嘘だ。
私は俺君と再会する為に、戦いに参加した。
俺君の為だけに戦った。
優しかった俺君。
私を励ましてくれた俺君。

メリーに勝ったのだって……俺君の為。
………って


「――俺君!?アホか!『そんな名前の人』……『いるはず無い』じゃないッ!」


「その通り!それは偽りの記憶ですッ!」日車の肩の向日葵が山吹色に輝き、パァン!と、光線が放射された。
それはわざとか。私に当たらず、道路の前方へと消えてゆく。

「真実の愛の力を借りて、サテ⇒ライトは完成した!馴染さん、貴女の魔人能力は支配者の残した因子。見逃すわけにはいかない。この光線を持って、貴女をリタイアさせます!」
「なるほどね」
その支配者って奴は、私におかしな記憶を埋め込んで、私を魔人にしたんだ……私がメリーを負かす、その未来を読んで。ありがとう日車。私に真実を教えるまでは殺さないでくれた。そういうルールでもあるのかな?
でも、ごめんね。私はまだ勝ちたい。私は日車を見て、言った。

「私はあなただけを見つめる」

「……?」日車が疑問符を発した時にはもう、トラックは急激に向きを変えていた。
「花言葉だよ。日車ちゃん、アナタが教えてくれた向日葵の」後ろ手に投げておいた私の『欠片の時計』が、トラック正面の向日葵を揺らし、運転を撹乱する。
そして、後方を向いていた私にだけそれは視えていた。「――ふっ」思わず笑ってしまう。


山禅寺だ。

山禅寺が猛烈な勢いで高速道路を駆け、私達を追っていた。
何の工夫も無い、ただ走るだけ。
全身から血を流して走るその姿は、壮絶だった。

「な――――」日車が山禅寺を発見、向日葵で狙い撃とうとする。
私は足を縛る髪をほどき、
「時計草ちゃん!」時計草の名を呼び『幼馴染み』にする。向日葵は光線の発射を中断。
ギャリギャリと回るトラックの勢いに合わせて私はドンと日車を突き落とした。

日車の身体は対向車線まで落ち、対向車に激突。
高架下まで撥ね飛ばされる。


一方私は、暴走するトラックから山禅寺に向かって身を投げた。




「稀にあることだね。暴走した人工探偵自ら、人工探偵五原則にそれを覆す『第0法則』を追加する……」

私を受け止めた山禅寺は私以上の大打撃を受け、全身がボロ雑巾のようになっていた。
「第0法則『探偵は被害者と加害者の芽を摘んではならない』……日車さんは政府による絶対的秩序を阻止したかったんだ」

「貴女はどうなの?」
「私もきっと、暴走してる」三禅寺は少し笑った。
「そう」

私は私の時計の欠片を山禅寺に与えることにした。
「……ね、約束、守ってよね」

「うん!きっと集めてくるからね。迷宮時計!ねえ、おさなちゃん、一緒に逃げ回ってる間、楽しかったよね?」
「馬鹿ね」私は鼻で笑う。「楽しいわけ無いじゃない」
「へへ」山禅寺は眼を細める。


山禅寺の肉体が基準世界へと転送された。


私はメリーによく似た装置を取り出す。

この世界で示された人数は30――この羅針盤は時計の欠片の探知機。
政府による時計狩り、その為に造られた物。
この装置の開発者がいずれ、メリーを造るのだろう。

私はそれを阻止したいのかな?
わからない。
ただ、私を利用した未来の支配者にだけは、絶対に時計を渡したくない。
基準世界はもう危険。なら、計画を変更する。時計を奪い時空を旅して、最高の捨て石候補を探す。
山禅寺は実験台第一号……光栄に思ってよ。

「さあ、教えて」

高速道路を吹く風が私の髪を揺らす。
メリーによく似た装置を、掌に掲げた。
装置が収納展開。変形。夕日に透き通った翅がくるくると回転する。

「私の幼馴染の居場所を」

私は、本当の幼馴染になる。
私を本当に愛して、
本当に命を賭けて迷宮時計を完成させてくれる、

ステキなステキな、まだ見ぬ、幼馴染さん達の――――