トゥー ロング パラレル レイルズ:ストップオーバー



――基準世界時間・約4年前――

4人の魔法少女たちは苦戦を強いられていた。

「ヌワッヌワッヌワッ、噂に聞く魔法少女も大したことはないのう!」

『世界の敵』……全身を宇宙のような柄のマントで包んだ謎の男は勝ち誇ったように笑う。

「エフォート、フレンドシップ、大丈夫!?」
「ま、まだまだ行けます!」
「い、いった~……テンカウントはまだなの!?」

赤髪の少女が青と黄の少女に問いかける。
二人とも地面に倒れ伏している。眼は死んではいない。

「ヌワヌワヌワ、やはり貴様は危険だキュアビクトリー。よって消えてもらう!」

謎の男がそのマントを広げ、周囲が宇宙に包まれ――

「危ないッ!」

赤の少女は二人を突き飛ばし、姿を消した。

--------------------------------------------------------

ダンゲロスSS4:外伝
『トゥー ロング パラレル レイルズ:ストップオーバー』

--------------------------------------------------------

――『軍用列車の世界』・戦いを終えて15年後――

「くっ、許してください徹子さん!私にはこうするしか……」
「ああ、わかってるよ……あんたは悪くないさ」

菊地徹子は苦戦を強いられていた。

『世界の敵』と戦ううちに徹子の名がこの世界にも知れ渡った結果、何人かの仲間ができた。
だが、仲間と言っても一枚岩ではない。今回のようなことも起こる。

「カンジャ、あんたが裏切っていたとはね。やられたよ」
「……拙者は裏切ったのではない。もともと『あのお方』の部下よ」

忍者装束のような出で立ちの男、カンジャ・イゼンカラーは吐き捨てるようにつぶやく。
『あのお方』とは現在の『世界の敵』である。
カンジャはそのスパイ技能によって騎士風の少女、ネガエッタ・ヤムナークの弱みを握り、
意のままに操っているのであった。

「すみません……!貴方を倒さねば、故郷の両親が……」
「謝んないでよ、エッタちゃん」
「……これで貴様も終わりだ菊地徹子よ。その首、いただく」

現在アラサーの菊地徹子だが、戦闘能力は未だ衰えず―
いや、むしろ成長さえしているほどであった。
そんな彼女でも、この状況はさすがに厳しいか……と思われた瞬間。

空中に、謎の亀裂。

そして、そこから落ちてきたのは赤い髪の……魔法少女であった。

「新手!?」
「また敵ぃ!?」

徹子とカンジャが同時に声を上げる。

「わ、わ、わーっ!」

少女が睨み合っていた両者の中心に落下する。
両者とも様子を窺って動かず……動いたのは赤の少女だった。

「いたたた……あ、あれ?ここどこ?」
「き、貴様!何者だ!?」
「私は勝利の戦士・キュアヴィクトリー!……で、あなたたち誰?」
「へえ、魔法少女かあ。懐かしいねえ」
「わけのわからんことを……!ネガエッタ!まとめてやってしまえ!」
「くっ……!すみません!『物理攻撃なんかに絶対負けたりしない』!」

ネガエッタの魔人能力『○○なんかに絶対負けたりしない』!
○○に任意の攻撃を宣言することで、その攻撃を無効化する能力だ!

「だいたいわかった」

赤の少女が大剣を構える。
一閃。ネガエッタが地面に倒れ伏す。

「峰打ちよ、安心しなさい……で、あんたが『敵』ってことでいいわね」

剣をカンジャに向けて宣言する。

「おおー。やるじゃない」
「馬鹿なーッ!物理攻撃は完全に防いだはず!なぜ……」
「魔法少女の剣がただの物理攻撃なわけないじゃない!」
「ぐ……わけのわからんことをーッ!こうなれば俺の飛苦無で死ヒィ~~~~ッ!」
「残念。もうおしまい」

敵が苦無を構えた瞬間、既に徹子の拳が敵を捉えていた。

「安心しな、峰打ちよ……ってね」
「おねーさんもやるじゃない……で、結局ここどこ」
「ンー……とりあえず、ウチくる?あ、そのコ一緒に運んでもらっていい?」

------------------------------------------------------

「で、元の世界に帰る方法だって?」

眼鏡に白衣姿の女――潜衣花恋がイライラしたような表情でつぶやく。

「それがわかったら私達もとっくに帰ってるっつーーーの!ばか!」
「そこをなんとかさあ」
「あんたはいつもいつもそうやって……」
「うーむ、それは困ったなあ」

御剣緋赤――キュアヴィクトリーの変身前の姿だ――が頭をひねる。

「あんた、魔法少女なんだっけ?どういう魔法を使うの?」
「あ、はい。私の魔法は『勝利』で――」

「……なるほど。――可能性はなくはない、か」
「さっすが花恋!できるの?」
「焦んないで。可能性はゼロではないってだけ。そんで並行時空の周期を待たなくちゃいけないから……
ええと、基準世界とこの世界が再接近するのは……今日の夜か。ワームホール発生装置の起動限界は1時間、
その瞬間の数秒間だけこっちとあっちがつながる可能性があるから……ううん、時空間引力が少し足りないかな……
そこを魔法で補って……私と徹子の能力も上乗せして再計算すると……いや、まだ不確定要素が……」

「……わかる?」
「わかんない」

「……とにかく、夜まで休んでなさい。準備は私がしとくから」

--------------------------------------------------------

その夜!

「スタンバイはいい?」
「おっけー」
「大丈夫です!」

雑然とした室内に、不似合いな巨大な機械が置いてある。
その前には、菊地徹子、潜衣花恋、そしてキュアヴィクトリー。

「5分後に時空境界線が不安定になるから、そこに孔を開けるわ。
ヴィクトリーはその剣で空間をこじ開けて。時空を貫くつもりでやりなさい」
「それだけ?」
「そこに徹子の『貫く力』をプラスして、私がリミッターを『奪う』わ」
「了解……って花恋、それ大丈夫なの?」
「そんぐらいしなきゃ時空の壁は突き破れないの。あんたも覚悟決めなさい」

……そして、5分後。

「さあ、行くわよ!」

ワームホール発生器が作動!

「はあああああ!キュアヴィクトリー、アルティメットモード!」

赤の少女の魔力が増大する!大剣を構え……貫く!

「勝利専剣 鬼丸・頂(しょうりせんげん おにまる・ヘッド)!いっけええええええええ!」

だが、ワームホールは固く閉ざされたままだ!

「しぶ……といなあっ!」
「時間が……ない!」

花恋と徹子がヴィクトリーの背中を押す、が、動かない!
リミッターを解除された魔法少女の腕から、血が吹き出す。

「うぐぐぐぐ……!私は、みんなのところに……!みんなが、待ってるんだ!」

――『勝利』の魔法少女。その魔法の真の力は……

「さつき、和子、……羽美ッ!今、行くからね!」

空間に穴が開く。少女が吸い込まれる。
機械が小爆発とともに沈黙。ワームホールが閉じる。

そう、たとえ0.1%の確率でも、ゼロでない限り……
彼女は、必ず『勝利』する。



「……あーあ。行っちゃった」
「……この機械、作るのにどれだけ苦労したと思ってんのよ……」

残されたアラサーの二人は大の字になって床に倒れる。

「ま、いいじゃない。時間はたくさんあるんだから」
「他人事だと思って……私達が元の世界に戻れるチャンスが遠のいたのよ?」
「でも、花恋と一緒なら辛くないよ」
「……ばか」




・『勝利』の魔法少女、キュアヴィクトリー(御剣緋赤)
 「基準世界」に帰還。3人の仲間と力を合わせて敵に勝利。

・『時空科学者』潜衣花恋
 損害……ワームホール発生装置(超高価)、能力の反動で丸一日動けず。

・『世界の敵の敵』菊地徹子
 一人で動く限界を知り、組織の結成を決意。

最終更新:2014年11月14日 20:51