「う~帰宅帰宅」
今日の講義が無事終わり、漫拳の活動も休みな為帰宅中の俺はどこにでもいる大学生。
強いて違いをあげるとすれば希望崎大学には魔人が多めにいるって事カナー。
そんな俺の名前は澤。梶原さんのブレーンを務めている。
「むむっ、強烈なアホの気配、梶原さんか!?」
アホの気配を感じた俺は立ち止まって周囲を確認する。
知的デメリットスキル【アホLV-2】持ちが疑われる梶原先輩に絡まれると
俺の休みが台無しになってしまう。俺は注意深くアホの気配の方向をチラ見する。
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【アホLV-2】の正体はツマランナー先輩(希望崎大学4年生、軽音サークル所属、男)だった。
黙ってれば見た目は美人なので過去に何度かキャラ絵のモデルしてもらった事がある。
魔人能力でブーストしたんだろう、すっごい速度で俺の前に回り込んで来た。
梶原さんが集中線で加速して俺を捕まえる時に匹敵する動きだ。はい、捕まりましたとも。
「澤君、暇やんな?数分付き合え」
「先輩は暇なんですか?歌手デビューが決まってから大学にはほとんど来てなかったじゃないですか」
「ああ、ちょっと色々あってな・・・。今バンドは休んどるんよ」
珍しくツマランナー先輩は暗い表情を見せたがそれも一瞬の事でまた綺麗な顔をして俺の目を覗き込んでくる。
やめて下さい、変な気分になってしまいます。
「まあワイの事情はええやん、希望崎大学のスピードワゴンの異名を持つ澤君にワイの魔人能力のチェックを
お願いしたいんやけど、澤君に害は無いし数分で終わるから」
「はあ、数分なら」
ジャーン!
俺の了承を得ると同時にツマランナー先輩はベースを大きく鳴らしパンチラした。色は黒だ。
「聞いて下さい『ツッペルランナー』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ
「世界のどこかにいるという~、自分と同じ見た目の人が~、
ドッペルゲンガーと言うらしい~、それじゃあ私のそっくりさんがいたら~」
ジャカジャカジャカジャカジャン!
「ツッペルランナーだね~、ツルペタ言うな~、ツッペルランナーカモン!」
ジャーン!
一曲弾き終ると同時にツマランナー先輩が二人に増えた。先輩の魔人能力はギャラリーの見えてる場所で
一曲歌うとそのタイトルに合わせた効果を発揮し、自分を強化したり何かを召喚したりできるというものだ。
「おおー!凄いっすね。自分のコピーも出せるんですか!!」
「ワイの能力出力で出せる多分限界値、それがワイ召喚や」
以前に先輩は転校生級・EFB級の事は出来ないって言っていた。
確かに自分単体召喚あたりが限度なのだろう。
「三十秒経つか能力を再使用すると消えちゃうし、簡単な命令しか受け付けんけどな。
澤君に確認して欲しいのはここからや。ツッペルランナー、さっきの曲リピートできるか?」
「一つの曲までなら行ける思うで本体!」
ジャーン!
先輩のドッペルゲンガーは先輩と全く同じ様に演奏を始める。パンツの色も黒だ。
「聞いて下さい『ツッペルランナー』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ
「世界のどこかにいるという~、自分と同じ見た目の人が~、
ドッペルゲンガーと言うらしい~、それじゃあ私のそっくりさんがいたら~」
ジャカジャカジャカジャカジャン!
「ツッペルランナーだね~、ツルペタ言うな~、ツッペルランナーカモン!」
ジャーン!
ドッペルゲンガーの演奏が終わると横に二体目のドッペルゲンガーが出現。
それを見て、本物の先輩は両手を上げてキャッキャと喜んでいる。可愛い。
「よっしゃー!ツッペルAまだ消えとらん!大成功やー!わーい!」
「なんや知らんけど本体が喜んどる!わー・・・い・・・」
三十秒が経過したからだろう、最初に生まれた方のドッペルゲンガーが消滅する。
「よしよし、Aが消えてもツッペルB健在やな、そんじゃB、さっきの曲リピート!」
「はいなー!」
ジャーン!
やはり同じように演奏する、パンツは黒い。
「聞いて下さい『ツッペルランナー』」
「ワン、ツー、ワンツーさんし」
ジャカジャカジャカジャカ
「世界のどこかにいるという~、自分と同じ見た目の人が~、
ドッペルゲンガーと言うらしい~、それじゃあ私のそっくりさんがいたら~」
ジャカジャカジャカジャカジャン!
「ツッペルランナーだね~、ツルペ・・・あ、時間や。ほなな」
最後まで演奏する事なく二体目のドッペルゲンガーは時間制限で消えた。
一体目の時と違って、本体がキャッキャしてた分、命令が遅れたからだろう。
最後まで演奏出来なかったから三体目は出現しない。
「いやー、いいテストになったわ。ありがとな澤君」
「いえ、俺はただ見てただけですから」
「それが必要やったねん。今ワイが信じられるのは大阪の家族除いたら澤君ぐらいやから。
お礼に熱いキッスを!」
ツマランナー先輩は俺の頬にキッスして去っていった。
一体何だったんだろう。分かった事と言えば、先輩のドッペルAが消えてもドッペルAが
呼び出したドッペルBが三十秒存在した事から先輩の能力は発動さえしてしまえば
死亡非解除っぽいという事、それから先輩がバンド仲間と上手く行ってなさそうな事ぐらいだ。
ツマランナー先輩の行動と残り香に集中しながらゆっくりと帰宅していたせいだろう。
俺はもう一つの【アホLV-2】の接近に気付かなかった。
「よう澤、突然で悪いが付き合え」
肩にゴツイ手をポンと置かれる。
「げぇっ、梶原さん」
「ちょいと練習台になってくれや、訳あって画力を磨いておかねばならなくなった」
ギィィとペンを噛みしめながら、これから人を殺しに行く様な修羅の笑顔で梶原さんは俺を誘う。
こんなの断れるわけない。やれやれ、今日の自炊と洗濯は諦めるか。
(終わり)