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第二回戦SS・豪華客船その2


『ビッチ・オア・ダイ』


【目次】

 一、支配の原理
 ニ、近未来戦術思案
 三、悪魔の取引
 四、二人の教室
 五、アプレンティス
 六、別れ
 七、極楽とろろいも


 一、支配の原理

 縮こまって震えて座る少年たちが、怯えた顔で私たちを見上げている。
 男の子は七人。どれも同い年。彼らの顔も名前も知っている。
 私の隣に立つビッチが、一人の少年の手を引っ張った。手を触れられただけで、少年がたまらず喘ぎを漏らす。
 少女たちが、少年の手を引いていく。一人のビッチが一人の少年を、時には複数のビッチが一人の少年を連れて行く……。
 ここに座っていた七人は、落第生だ。ニャントロ国際親善協会に拾われた孤児の少年たち。エージェント育成の厳しい教練に躓いた者は「有効利用」される。すなわち、女子ビッチのセックス実験台として、その身を捧げる――。
 私たちはまだ十一歳。手加減など分かるはずもない。日頃培ったセックス技術を思うままに発揮し……、大抵は少年たちを搾り殺してしまう。四人のビッチに連れて行かれた彼は格段に惨たらしい最期を遂げることだろう。
 少年とビッチは一人ずつ姿を消していき……。最後に私の前に残ったのは、痩せ細った身体で震える一人の少年――。おどおどとした瞳が、半開きの口が……女々しい命乞いの言葉を漏らした。

「やめて……セックスしないで……。お願い……セックス、しないで……」
「…………」

 私は、小さく舌打ちをした。不甲斐ない男だ。虫唾が走る――。
 黴臭く湿った石牢の中、隅の方には黄土色に汚れた布切れが幾つか。彼らの寝床だろうか。アルミの皿には錆色に濁った水。腐りかけのパン屑が添えられている。……なんという惨めさだ。こいつらはこんな汚泥のような場所で寝起きしているのか? ここは――、私たちとは何もかもが違う。
 私たちビッチにはそれぞれ自室が与えられている。暖かな毛布とふかふかのベッド、栄養管理の行き届いた食事、何時でも自由に使えるピンクローター、古今東西のエロ本、アダルトDVDを集めた立派な図書館。毎日のビッチ修行は身を切るほどに厳しいが衣食住は満ち足りている……。だが、ここには何もかもが欠けていた。非人間的な空間……。
 私たちビッチにとって、こいつらの存在など、糧であり娯楽であり消耗品に過ぎない。許しが出れば好きなだけセックスして、殺す。日頃の修行の成果を試すために。一時の気晴らしのために。純粋な性欲に駆られて……。腐った水を啜って生きる彼らを、同じ人間だなどと思ったことは一度もない。そう教えられて育ったからだ。頂点には"コンダクター"、その下に忠実な尖兵である私たちビッチ、組織に仕えるためにのみ存在する"エージェント"。それ以外の人間はただ生きているだけだ。ハエやアリと何ら変わらない。ビッチはいつでも好きな時に彼らを支配し、セックスし、殺すことができる……。
 そして、目の前の少年はエージェント候補から「それ以外の者」へと落下した。少年の名はキユ。

「お願い……殺さないで……。セックス、しないで……」

 女々しい命乞いを繰り返すキユを、私は侮蔑の視線で見下す。「屑め」。罵倒が口から漏れる。なんと弱々しく、惨めで、愚かな存在だろうか……。力だ。力がないからだ。セックスという力がないから、汚水を啜って生きねばならぬ。痩せ細り、垢にまみれ、「処分」の恐怖に震えながら、日々を生きねばならない――。力がないからだ。

「行くぞ」

 キユに向かって右手を差し出す。相手はなおも女々しく泣き続け、過呼吸まで起こし始めた。彼の腕を掴み、強引に立ち上がらせ、引きずる。泣き喚くキユを自室のベッドへと突き飛ばす。あまりの脆弱さに怒りがふつふつと沸き上がる。……滅茶苦茶にしてやりたい! やかましく喚くこの男を滅茶苦茶に支配し! セックスし! 搾り尽くして! 惨たらしく殺してやる!! 命乞いを続けるその口からあるだけの精液をすべて吐き出させて! たっぷり時間をかけ、嬲り尽くして、犯して! 犯して! 犯し尽くして!! 殺してやる!!! 私は、この男と――、


 セックスがしたい!!!

 **

「――ッ!」

 ベッドの上で慌てて跳ね起きたナマ子は、己が全裸であることに気付いた。跳ね飛ばした薄い白シーツを恐る恐るめくると――、その下から全裸のキユの姿が現れた。

「あ……っ、あ……」

 顔が真っ青になる。心臓が脈打つ。緊張で吐き気を覚える。
 最悪の想像が、脳裏を巡る。

「キ、キユ……。ねえ、キユ……」

 ナマ子の震える指が彼の首筋へと伸びる。人肌の、温もりを感じる……。
 口元へと耳を近付ける。微かな、寝息……。
 ――良かった。
 安堵のあまり、全身の力が抜ける。
 過ちはなかった。
 セックスは、していなかった。キユは……生きている。

「私は……一体、どうしてしまったんだ……」

 天樹ソラを殺し、キユと合流してから十日が経過していた。
 あの時から、おかしなことばかりだった。先のようなことも今日が初めてではない。朝起きると毎日のように、私はキユとセックスしてしまったのではないか――、そんな不安に駆られてしまう。おかしい。こんなの、絶対におかしい。私はビッチだ。セックスは人を支配する力。キユとだって、セックスしたかったら好きなだけすればいい。その結果、キユが死んだってどうということはない。私は鏡子とは違う。私は好きな時に好きなだけセックスする。セックスして、支配する。虎は捕食される兎の気持ちを考えるだろうか? 私がセックスを躊躇う理由など何もないはずだ。私はセックス強者であり、支配者だからだ。なのに……なのに、何故……。
 ナマ子は幾度も自問自答を繰り返す。おかしくなってしまった自分に思い悩む。キユは自分にとって役立つ人間だから。殺しては不便だから。だから生かしてやってるだけだ。セックスしないのもそれだけの理由。全てが終わったら、思う存分セックスして殺す……。滅茶苦茶に犯し尽くして、グチャグチャにして殺す……。だから自分はおかしくない。何も間違っていない。何度も何度も己にそう言い聞かせる。そして、束の間の安らぎを得る……。
 だが、彼女も本当は分かっている。「役に立つからセックスしない」。こんなこと、今まで一度たりとも考えたことはなかったのだ。セックスは、好きなだけする。それで何か不都合が出たとしてもセックスで解決する。セックスが及ばなければ、私が死ぬだけだ。セックスしない理由になんてならない。
 なのに、なぜ私はキユをセックスしないのか。私は、キユを生かして、どうしたいのか……。訳が分からない。不安に押し潰されそうになる。私は、どうなってしまったのか……。涙が一雫――、ナマ子の左目から零れた。

「ナマ子……もう起きたのか?」

 シーツの下でキユの身体がモゾモゾと動いた。ナマ子は慌てて右手でキユの一物を刺激! 「んあッ!」 直ちに射精! 頬をなぞる涙を乱暴に拳で拭う。

「貴様はもう少し寝ていろ! ……朝食を作ってきてやる」

 ベッドから起き上がり、エプロンを身に付け、オール電化のシステムキッチンへと向かう。ここは江東区にあるホテルのスイートルームだ。キユが経費で取ってくれた。既に次の戦いまで24時間を切っている。対戦相手の撫津美弥子が下宿に奇襲をかける可能性が万に一つあり、居場所を隠す必要があったのだ。
 総じて――、この大会の参加者は甘っちょろい。戦闘空間に入ってなお殺し合いを拒む者さえいる。惰弱な奴らだとナマ子は笑う。割り切って殺し合いに臨む連中でも、迷宮時計に呼び出されるまでは多くは呑気に日常を過ごしている。迂闊な奴らだとナマ子は見下す。この戦いにルールなどない。
 彼女はキユを経由して"ラプラス"の力を使い、既に迷宮時計所持者の大方を特定している。あれからの十日間で参加者のうち二十六名を秘密裏に処分した。気の抜けた日常を送る彼らを犯し殺すことなど造作も無かった。ウィッキーやMr.Champなど油断ならぬ一部の連中を除けば、だが――。
 迷宮時計の呼び出しを受けたが、一度はこれを回避することにも成功した。戦闘開始時刻よりも前に戦闘参加予定者を暗殺することで、戦闘空間への強制転移自体を防ぐことができると分かった。しかし、
 半日後に迫る戦いは避けられない――。ナマ子はそう覚悟している。対戦相手は撫津美弥子と門司秀次。門司は既にセックス暗殺済みだ。中学一年生の十三歳の少年で魔人ですらなかった。遊園地で両親とジェットコースターに乗ったので、地上近くを滑走するタイミングで『プレローマ』を発動。停止した時には、両親含む乗客全員が口から精液を吐いて事切れていた。
 にもかかわらず、門司の遺体から迷宮時計は発見されなかったし、ナマ子の迷宮時計――ピンクローターの形状をしており、股間に当てるとバイブレーションによるセックス言語で情報を伝える――は今も対戦相手に門司秀次の名を挙げている。何かがおかしい。ラプラスの演算結果は"ERROR"。恐らくは別世界、もしくは別の時間軸に存在する門司秀次こそが、本当の対戦相手なのだろう。……となれば、事前暗殺はどうやっても無理だ。
 撫津美弥子の方は――、非力な幼女だ。小学六年生。歳相応に幼稚で考えも甘い。友人の死を事故と信じて疑わぬ程のお花畑。だが、恐るべき能力を持っている。おそらく、あの力を喰らわずに勝利することは不可能……。これも別の意味で事前暗殺は不可能だった。

「ナマ子、撫津対策は考えてるのか?」

 射精の衝撃からようやく立ち直ったキユが背後から声を掛けてくる。彼女はソーセージエッグを作る手を止めずに、淡々と答えた。

「策などない。全力のセックスを叩き込む。それだけだ。……勝負は最初の一撃で決まるだろう」


 ニ、近未来戦術思案

 ――猟奇温泉ナマ子。
 その名の刻まれたファイルの束を前に、門司秀次は複雑な思いのこもった溜息を吐く。僅かな迷いが、そこに含まれる。
 書道部部長、ビッグ・ザ・ショドーの情報収集能力を以ってしても敵の詳細は分からなかった。だが、恐るべき敵に間違いはなく、同時に己の幸運を悟る。
 まず、明らかなところから言えば、敵は希望崎学園ビッチ四天王の一人だ。この一事だけでも相当の脅威である。真正直に近接戦闘を仕掛けて果たして勝てるかどうか。良いとこ、五分五分だろう。
 そして、こちらははっきりしないところだが、どうも彼女の背後には何らかの秘密結社の存在があるようだ。スズハラ機関でないことだけは確かだが、おそらくはその同類。組織のバックアップを受けているなら、ナマ子が対戦者の事前暗殺に動く可能性は高い。現に手元の資料によれば、四年前に彼女とニアミスした者の不審死が多数報告されている。もし己が「四年後の人間」でなければ、今こうして悠長に部室でマックスコーヒーなど飲んではいられなかっただろう。必死にどこかへ身を隠していたはずだ。
 門司はちらりと傍らを見た。

「…………」

 用意したダイビングスーツが目に入る。次の戦闘空間が「過去の豪華客船」だと迷宮時計から伝えられて、直ちにこれを準備した。怪しげな秘密結社をバックに持つビッチ四天王と真正面から戦う気などさらさらない。勝負は一瞬で決める。門司はクレバーに考える。――注意書きを現実のものとする俺の能力、『ベカラズ』を使えば一方的に倒せるはずだ、と。
 戦闘空間が「豪華客船」という閉鎖空間に設定されたのは幸運と言うしかない。作戦はこうだ。まず戦闘空間への移動直後に「流氷注意」を船内に書き込み、客船を巨大流氷と正面衝突させる。猟奇温泉やもう一人の対戦相手、撫津美弥子の姿を視認する必要もない。いや、むしろ姿を見られない内に即座に事を運ぶべきだ。続いて「遊泳禁止、鮫出没多数」を書き込む。俺も二人と一緒に海中へ投げ出されるだろうが、鮫程度、格闘魔人である俺なら何とでもなる。二人が鮫に食われればそれで良し、凌ぎ切ったとしてもやがて凍死するだろう。二人がダイビングスーツを着込んだ俺よりも長生きするとは思えない。不確定要素も多くノーリスクな作戦ではないが、真正面から戦うよりは勝率は高いだろう。
 格闘魔人として、強い相手とは正面切って戦いたいと思う気持ちもあるが、淫魔人が相手では話は別だ。そもそも、あいつらとはまともな戦いにならないからな……。過去に戦ったことがあるのは男の淫魔人だったが、あの時はアナルが酷い目に遭った。もう二度とごめんだ。しかし――。
 今度の相手は、女の淫魔人、か――。女の淫魔人とは、少し、その、やってみたい気もする……。もともと女にモテたくて書道部に入ったのだし、そういう期待をしてしまう気持ちは、やはりある。いや、だが、それはやはり間違いだ。敵の土俵に登っては勝ち目などない。クレバーに徹すべきだ。ナマ子の姿を見たらうっかり邪念に囚われる可能性がある。二人の姿を見る前に、この作戦を実行すべきだ。


 三、悪魔の取引

 北大西洋の洋上――。
 一隻の巨大客船がゆるゆると目的地へ向けて進む中、あちら側から、霧をかき分け、これまたゆるゆると近づいてくる巨大な船影あり。だんだんハッキリとしてきたその姿を見るに、どうやら英国の客船のようだ。船上の紳士、淑女たちが行き交う船に向けて、手を振り、口笛を吹き、挨拶している。あちらの貴人たちもこちらを見て笑顔で手を振っている。
 そんな牧歌的光景の傍らで――、デッキブラシを握る少女は絶望的な面持ちを浮かべて半奴隷労働に従事していた。小学六年生の彼女には厳しすぎる重労働が連日課されていた。……どうしてこんなことになってしまったのか。話は十日前に遡る。

 迷宮時計に導かれ、戦闘空間へと飛んだ彼女、撫津美弥子は、事前情報通り、そこが過去の豪華客船であることを知った。ナマ子や門司と異なり、ロクな情報収集能力も持ち合わせない彼女だったが、それでも何とか猟奇温泉ナマ子がセックスを武器とする淫魔人であることだけは掴んだ。セックスというものがそもそもよく分からなかったが、これもお父さんに尋ねるなどして解決した。あらかたの知識を身に付けた美弥子は相応の対策法を秘めてこの戦いへと挑んだのだ。前回の闘争が無防備過ぎたことを反省し、親友の家に遺されていた拳銃も一つ拝借してきた。
 だが、まずはナマ子と門司を探さねばならない。美弥子の能力は不意打ちには向かない。しかし、いきなり拳銃を発砲し射殺するのも精神的に辛い。交渉で解決するならそれが一番だが、それが楽観的希望に過ぎないことも分かっている。ともかく、二人を探さなければ何も始まらない。
 ところが、だ。彼女は船内を隈なく歩きまわったが……、ナマ子や門司と思しき日本人の姿が全く見当たらないのだ。一方で、彼女の方は周囲から奇異な目で見られ続けた。いかんせん、東洋人の幼女である。それが親もなく一人で、四六時中船内をうろついている。二日目になって船員が彼女を取り押さえて調べたところ、無賃乗船であることが発覚。鮫の餌と奴隷労働、どちらかを選べと脅されて美弥子は労働を選んだ。しかし、次の寄港地に着き次第、彼女はそこに下ろされる予定だ。今回の戦闘空間は客船から周囲100m。場外負けになってしまう。負けになったら、こんな場所で一人、ずっと取り残されてしまう……。最悪の展開だ。
 美弥子はもう、ナマ子でも門司でもいいから、とにかく他の二人に会いたかった。だが、この船に二人はおそらく乗っていない。戦闘空間は豪華客船だと書かれていたから、一隻の中に三人が放り込まれるのだとばかり思い込んでいたが、実際は三隻の船にそれぞれ一人ずつが放り込まれたのだと思う。きっと他の二人も苦労しているだろう……。言葉も分からない。お金もない。無賃乗船。自分と同じ境遇に陥っているに違いない。とにかく三人集まれば一人だけでも帰れるし、よしんば自分がこの時代に取り残されることになったとしても、きっと何らかの世話を焼いてくれるはずだ……。精神的に追い詰められていた撫津美弥子は、迂闊にもそんな甘い考えを抱いていた。だが、その時だ。
 強烈な衝撃が全身を襲い、足をふらつかせた彼女はデッキ上に倒れ伏した。なんだ、何が起こったのか。慌てて立ち上がると、他の乗客たちも多くは尻もちを突いている。衝撃の原因は――、すぐに分かった。向こうから来た豪華客船がこちらの船に激突したのだ。……豪華客船が、激突? 軽視すべきでない何かを美弥子は感じていた。
 船長が慌てて飛び出してきた。大声で何かを叫びながらあちらの船に拳を振りかざしている。だが、その船長がギョッと顔付きを変えると、途端にわなわなと震えだしたではないか。おお、見よ。向こうの船のデッキ上の貴人たちを。タキシード姿の紳士・淑女と思われた彼らだが、ああ、その下半身……! どいつもこいつも、丸出しではないか!

「ヒャッハー! セックスだーッ!!」
「女はレイプだッ! 男は無論レイプだーッ!!」

 丸出しタキシード貴族の群れが船から船へと次々と飛び移ってくる! なんだこれは! そして、船上の紳士淑女を押し倒し、あちらこちらで否応なきセックスが始める! その破廉恥さたるや、まさに海上に現れしソドムとゴモラ!
 さらに、撫津美弥子は船上を優雅に飛び移る女の姿を見た。黒いドレスの上から海賊コートを羽織り、羽根付き海賊帽を被り、目には眼帯。だが、その容姿は疑いなく日本人のそれで――、間違いない! あれこそが、猟奇温泉ナマ子だ!
 迷宮時計に導かれ、ナマ子もまた豪華客船内にただ一人降り立った。だが美弥子と違い、彼女に惑うところなどなかった。見咎めて来た船員を手始めにレイプ。さらに船員、乗客を次々とセックスしていき僅か二日で船内を完全にセックス掌握したのである。ナマ子のセックス支配下にある英国紳士淑女たちは、皆、性のけだものと化して乱交を始めたが、極度の乱痴気騒ぎの結果、船内の備蓄食料はあっという間に消費し尽された。貴族代表のブラッドリー卿が、今や船内の権力を一手に握る猟奇温泉ナマ子に相談に行ったところ、彼女は簡潔に答え、道を示した。

「セックスは人を支配する力だ!」

 彼らはこれに歓呼の声を上げ、セックスによる武力支配を掲げる武闘派略奪集団――、セックス海賊団へと身をやつしたのだ!

「セックス海賊団て! そんなイロモノ集団、ワンピースにもいないよ!!」

 ――と、喉元まで出かかったツッコミを、撫津美弥子はぐっと飲み込んだ。これを否定してしまえば、おそらく両船の接近事実そのものがなくなってしまう。ナマ子と出会えなければそれはそれで詰みだ。
 そのナマ子の方でも美弥子の姿を認めたのか、彼女は巧みなビッチ体術で喧騒渦巻く船上を闊歩する。そして、

「貴様が撫津美弥子だな」

 絶叫と嬌声渦巻く豪華客船の船上でナマ子が問うた。その非人間的なまでに冷酷な響きから、到底説得や交渉の及ぶ相手ではないと悟り、美弥子が黙ってぱんつを脱ぐ。

「ほう。私を相手に誘う気か? 貴様にも策があるようだな」

 こくりと頷き、スカートをたくしあげる美弥子。潮風が幼き女陰を撫でる。

「先に門司とやらと戦いたかったが……。良かろう。ビッチは退かぬ。あらゆる挑戦を受け止め、セックスが全てを粉砕する」

 ナマ子の右手が美弥子の股間へと伸びた。ごくりと生唾を飲み込み、幼女が衝撃に備える。一撃だ……。たった一撃を受け止めれば、私の勝ちなんだ! 幼女の股間が覚悟を決めてビッチの指先を受け入れる!

「ん、んあーッ!? ッッ!?!!」

 だが、生まれて初めて味わう強烈な股間刺激だ! 訳の分からぬ喘ぎが幼女の口から漏れる!

「フンッ!」

 さらにナマ子の右手指先が幼女の股間を掻き回す! 「あべッ! あべべッ!!! あべべべべ」 美弥子が口から愛液を吐き出し全身痙攣! 幼女のセックスが危ない! いや、だが、これこそが魔人撫津美弥子の捨て身の戦術であったのだ!
 ツッコミによる異常状況の無効化――。それがツッコミ魔人、撫津美弥子の魔人能力だ。幼女は先ほど口から愛液を吐いたが、よく考えてみて欲しい。人間は口から愛液を吐かない。それはよく鍛えられたビッチのみが為し得る業だ。突き詰められたスキルによりあらゆる論理を突破する達人を「完全熟達者(オーバーアデプト)」と呼ぶ。ナマ子のセックス技量はまだ到底「完全熟達者」の域には達していないが、そこに片足程度は踏み込んでいる。その不条理を美弥子の魔人能力が粉砕する!

「らッ、ぺええッ!! ぽええ、ぽげえええッ!!!」

 だが、恐るべき股間の快楽に発声が妨げられる! ツッコミが、言葉にならぬ。膣から逆流した愛液が口内に溢れ返る。しかし、幼女の覚悟も本物だ。美弥子はそれをごくりと飲み干すと、全身の震えを無理矢理に押さえ付けて、必死の発声を試みる!

「あ、愛液は口から出ない! 美弥子知ってるもん!!」

 決まった! 淫魔人のセックスに、幼女のツッコミが突き刺さる! 途端に美弥子の全身を襲っていた快楽の波がスウーッと消え失せて、ありきたりな股間刺激が後に残るばかりだ。

「ふむ」

 異変に気付いたナマ子は顔色も変えずに、幼女の股間から指先を離した。代わりに左手で己の股間を愛撫する。すぐに舌打ちを漏らした。――なんという脆弱で貧相な股間刺激か。十七年かけて鍛え上げた己のセックス技術が、幼女のたった一言のツッコミによって、全てを無に帰されたのだ。

「私の歩んできた道程を……。私の培ってきた技術を……。不条理の一言で全否定されるのは……やはり気持ちの良いものではないな」

 ナマ子はそこに一物の寂しさを感じずにはいられない。だが、訳も分からぬ寂寥感に衝き動かされていたのは――、目の前の幼女も同じだった。
 撫津美弥子は困惑していた。作戦は成功した。己の能力の性格上、一度は相手の攻撃を受けなければツッコミは発動できない。その一度のセックスに耐え抜き、相手のセックスを全否定する。成功した。淫魔人は超常のセックス技術を失った。敵は既に無力。己の勝利は揺るぎない。なのに――、
 何故だ、この言い知れぬ物侘しさは。大切なものを……。これからの一生を費やしても決して得られないような大事なものを。彼女は己の足で踏みにじってしまった。そんな後悔と自己嫌悪に押し潰されそうになる……。
 そんな、訳の分からぬ困惑を振り切らんとしてか、

「こ、降参して下さいっ!」

 美弥子が震える手で拳銃を握り、ナマ子へと差し向ける。
 もはや敵に戦闘手段はない。この状態に至って、ようやく拳銃が脅しの手段となる。だが、ナマ子は己に向けられた銃口を見て、フッと笑った。

「そう急くな、撫津美弥子。私は貴様と交渉がしたい」
「は、話し合うことなんて、ありません……っ!」

 美弥子がぐいと拳銃を突き出す。だが、目の前のビッチは薄い笑みを湛えたままだ。
 相手が何を考えているかは分からない。分からないが、油断は禁物だ。相手は口先三寸で己をだまくらかす気でいるに違いない。どのような交渉であれ、まずは相手から「降参」の二文字を引き出してからだ。

「撫津美弥子、これはシンプルな交換条件だ」
「まず! こ、降参して下さい!!」

 さらに拳銃を突き出す。直後、ナマ子の右腕がスッと動いた。ヒッと怯えて、美弥子が反射的に引き金を引こうとするが、その時には既に拳銃はナマ子の手の中にあった。一瞬で奪いとった拳銃の撃鉄を起こして、ナマ子が冷たい鉄の先端を幼女の頭にグイと押し付ける。美弥子の頭の中が真っ白になり、全身が硬直する――。一拍遅れて、彼女の脳味噌はようやく認識する。自分の目の前に迫った影を……「死」の姿を……。

「殺そうと思えば貴様などいつでも殺せる」

 だが、ビッチは突き付けた拳銃を翻すと、硬直する美弥子の右手を開き、その中に拳銃を握りこませ、ご丁寧に人差し指を引き金にまでかけてから再び己自身へと銃口を向けさせた。

「聞け。今から交換条件を伝える。条件に納得がいかなければ、好きな時に引き金を引け。いいか。まず、私を殺すな。私を生かせ」
「!?!?」

 意味が分からない。好きに殺せといい、殺すなという。ビッチの思惑や如何に!?

「こ、降参して下さい……。降参すれば……殺しません」
「降参をする気はない。私を生かせ。納得いかなければ私を殺せ」
「ど、どういうことなんですか……。い、言っている意味が」
「貴様は好きな時に私を殺せばいい。私はいつでも、その銃弾を胸に受けよう。だが、私を生かしている限り、見返りとして、私は貴様に」

 そして、ビッチは恐るべき悪魔の取引を幼女に持ちかけたのである。

「私は貴様に、――セックスを教える」
「……!」

 それは撫津美弥子にとっても恐ろしく魅力的な提案であった……。
 彼女は、あまりに無力だ。拳銃を相手に突き付けても、簡単に奪い取られ、命の危険に晒された。今回も相手がビッチでなければとうに死んでいた。先の対戦相手である希保志遊世も言っていたではないか。「次も俺達みたいに優しい相手とは限らないんだ」「容赦せずに本気で美弥子ちゃんの事を殺しに来る奴もいるかもしれないんだぜ?」と――。まだ顔も見ぬ相手、門司秀次こそがそのような相手であるかもしれないのだ。加えて……、美弥子は非情になり切れない。さっきだってナマ子に対して引き金を引けたかどうか疑わしい。人を殺すなんて、生まれてこの方、考えたことさえなかったのだ。
 ところが、セックスならどうか? 蹴ったり殴ったり、血を出したりといったものではない。幼女の美弥子にも比較的抵抗感なくふるえる武力だ。力加減を調整できれば相手を殺すことなく無力化できるだろう。そして、何より。先ほどのナマ子の激しい愛撫……今はもう失われたビッチの技術……。それを体得できるかもしれないのは、あまりに魅力的な話だった――。だが、

「何が……狙いなんです……あなたの狙いは、一体……」

 話がうますぎる。到底信じられない程に。こんなうまい話がある訳がない。相手はきっと自分を騙そうとしている。旨い餌を目の前に釣り下げ、己の寝首を掻く気でいるのだ。
 しかし、対するビッチは平然と答えた。

「狙いだと? そんなことも分からんのか、愚かな小娘め。言うまでもなかろう。私は力を取り戻し次第、貴様をセックスで搾り殺す。この戦いを勝ち抜き、迷宮時計の力を手にする」
「……わ、私を、殺す気なの――?」
「当然だろう。これはそういう戦いだ」
「こ、殺されるのは……嫌」
「屑が。貴様の手の中の拳銃は何のためにある?」

 フッと嘲笑い、物分かりの悪い子供を諭すようにこんこんとナマ子が告げる。

「いいか、よく聞け小娘。私は貴様に『私を利用しろ』と言っているのだ。私の技を盗み、セックスを自家薬籠中の物とし、十分に技を修めたら、その拳銃で私を殺せ。それで貴様の勝ちだ。いや、いいぞ? 不安になったり、腹が立ったり、ムシャクシャしたり……。好きな時に好きな理由で私を殺して構わん。思うようにしろ。鼻を削ぎ、皮を剥ぎ、腕を落とし、膣を抉り……全て自由だ! 私の身体は貴様の好きなようにしろ。だが、私はどのような姿になろうと、生きている限り、必ずセックスを磨く。かつてのセックスを取り戻し、貴様を搾り殺す。それまで私を好きなように利用しろと、そう言っているのだ」
「あ、あなたが……、私を突然殺さない保証は……」
「殺す気なら先程殺していた。私はビッチだ。セックス以外の手段で相手を支配する気はない。貴様を搾り殺す時も今から搾り殺すと予め宣言してやる。私を恐れたなら、その時に引き金を引けばいい」

 幼女が、混乱する。何を言っているのか分からない。いや、言っていること自体は分かる。おそらく嘘も吐いていないだろう。……ただ、ビッチの思考が理解できない。この女、一体何を考えているのか。少なくとも当面害される心配はなさそうであるが、この異様な思考に飲み込まれて良いものなのか……。今すぐ引き金を引けば話は簡単だ。目の前の脅威を、確実に一つ排除できる……。
 一方で、猟奇温泉ナマ子にとっては、これは想定内の展開であった。己の愛撫能力では撫津美弥子のツッコミを封じ切れるものではないと彼女は自覚していた。己のセックスが奪われることも分かっていた。……だが、失ったセックスは取り戻せばいい。五年……十年……と時間をかけて取り戻す。そのためにはこの戦闘空間で美弥子の能力を受けなければならなかった。戦闘終了後に時間経過がリセットされるからだ。基準世界でセックスを失えば、これからの戦いを勝ち抜けない。
 先ほど撫津美弥子に叩き込んだ愛撫はナマ子の渾身の一撃だ。あの一撃で美弥子を虜にできねば、死あるのみ。とはいえ、ナマ子のセックスは常に全身全霊。全ての愛撫に己の全存在を賭けてきた。効かねば死ぬのはいつも同じ。だから、今回もそうだ。敵に拳銃を突き付けられ、生殺与奪を委ねても、ナマ子の心境は穏やかなものだ。既にセックスは為した。効かねば死ぬ。生きる価値のない三流クズビッチが惨めにのたれ死ぬ。それだけだ。何も問題はない。
 現に、撫津美弥子は引き金を引かなかった。猟奇温泉ナマ子のセックスは彼女の心を囚えていたのだ。読者諸君――。後は消化試合だ。撫津美弥子がナマ子のセックスに敗れるまでの経緯を綴るだけだ。

「ブラッドリー卿!」

 既にセックス制圧の終了した甲板に向かい、ナマ子が叫んだ。

「私のセックスは地に堕ちた! 船の中で私に次ぐセックス巧者は貴様だ! これからは貴様が船の指揮を執れ!」
「な、何ィ言ってるんでい、姐御!」

 ブラッドリー卿が慌てて駆け寄ってくる。彼も股間は丸出しだ。

「あっしらセックス海賊団の船長は姐御を置いて他にないでヤンス! ナマ子姐の上に立つなど、あっしにはとても……!」
「……フン」

 ナマ子は黙ってブラッドリー卿の股間を掴んだ。「うッ!」 だが卿は射精しない。女子高生の素手に握られ緩やかに勃起しただけだ。それに気付き、卿が悲しげな瞳を向けた。

「分かったか。これが私の今のセックスだ。卿ならば、この意味が分かるな?」
「力が、戻るまで……。姐さんにセックスが戻るまで……船長の座……あっしが、預からせて頂きます……」

 ――セックスの強い者が全てを支配する。
 それがセックス海賊団の唯一にして至上のルールだ。


 四、二人の教室

「セックスは超近接技術(ウルトラインファイトアーツ)だ。一撃必殺を胸に刻め。一撃で射精させねば死あるのみ」
「はいっ!」

「僅かな揺らぎが生死を分かつ。一瞬たりと迷うな。性器が目の前にあれば、まず咥えろ。後悔は咥えた後にすればいい」
「はいっ!」

「若さに頼るな。容姿に頼るな。言動で気を引くな。年を経れば容姿は衰え、心は簡単に揺らぐ。貴様の愛撫だけを信じろ」
「はいっ!!」

 ナマ子と美弥子のセックス教室は連日連夜に及んだ。互いの身を削り合う激しい日々……。二人に当てられた部屋は雑然とした埃まみれの倉庫。女たちは腐りかけの食料を喰らい襤褸切れをまとった。セックスを失ったナマ子が自ら申し出て最底辺の環境へと己の身を落としたのだ。セックスの強い者が支配する。それがこの艦のルールだからだ。
 環境が二人のセックスハングリー精神を刺激した。ナマ子にかつての愛撫能力はない。だが、虎の尻穴でしごかれた十七年の記憶は確かに彼女の中にある。一つ一つの性技を思い出しながら、二人はナマ子の辿った足跡を追う。赤子がはいはいを覚えるように、初めて立ち上がったあの日を思い出すように。セックスの初歩の初歩からナマ子は学び直していく。一人の生徒と一人の教師が、歩調を合わせてビッチへの道を歩む。
 撫津美弥子は優秀な生徒であった。境遇が境遇である。これから先の戦いを生き延びるには何よりもセックスが必要だ。いや、それ以前に、この目の前の教師はセックスが回復しし次第、己を搾り殺す気でいる。その時が来る前に、撫津美弥子は教師以上のセックスを身に付けねばならない。俄然、修行にも身が入る。
 互いの股間を掻き回す指先に、確かな技術と力が篭っていくことに二人のビッチは気付いていた。修行開始から僅か十日だ。あの日から比べて、二人の愛撫技術はもはや雲泥である。
 そして、二十日が経った頃、二人の前に丸出しの英国紳士二人が立った。「これは私が五歳の時に受けた試練だ」 ナマ子が言った。

「いかなる技を使ってもいい。目の前の男を1分以内に射精させろ。私の同期のうち二十五名がこの試験に落第し殺処分された」
「で、でも……。相手が勃たない人だったり、ホモセクシャルだったりしたら……」
「関係ない。実戦では相手の病歴や性的嗜好は選べない。射精させれねば死ぬ。それだけだ」
「ナマ子は……これ……失敗したら……。もしかして……」
「私は海に身を投げる。当然だ。だが、貴様の命に私がどうこうと言う権利はない。貴様は好きにしろ」
「…………」

 結果は、ナマ子55秒、美弥子57秒で両者ギリギリのクリアー。接触から1秒以内に確実に射精させていたかつてのナマ子の技量を思えばまだまだだが、確実に二人のセックスは磨かれていた。美弥子は泣きじゃくってナマ子に抱きついた。ブラッドリー卿は「姐さん、試験合格の日くらいはええでやんしょう?」と言って精の付くスッポン料理を持ってきた。二人は貝を合わせながらスッポンを食した。
 その夜、二人のビッチは日課のセックスを終えた後、寝床でしっとりと語り合った。

「ねえ、ナマ子……。今まで、どんな人と戦ってきたの……」
「……色んな相手がいた。迷宮時計を手に入れてからは、特にな。白金虹羽という魔人がいた。奴の能力を掻い潜り、懐に潜って射精させるのは骨が折れた。天樹ソラという魔人もいた。女陰を瞬間的に交換する恐るべき能力の使い手だった……」
「…………」
「だが、やはり最強の敵はあの女……。鏡子。恐るべきセックスの使い手だった」
「ナマ子のセックスよりも、すごいの?」
「……認めざるを得ん。奴のセックスは段違いだ。どうやってあれほどの力を身に付けたのか、想像も及ばん。私の十七年間の全てを嘲笑われたような……次元の違うセックスだった。私と奴で何が違うのか。私に何が欠けているのか。皆目検討もつかん」
「ねえ、ナマ子……」
「なんだ」
「愛――……。なんじゃないかな、それって」
「…………」

 愛――。ナマ子も無論その言葉は知っている。虎の尻穴の座学でも習った。「特定の脳内化学物質の分泌過多状態で、セックスの動機を強く促進する」と教わっている。だが、彼女は「愛」という状態を体験したことがない。教練においても「愛」は軽視されていた。自由自在に「愛」を使えるならともかく、限られた状況でしか発現できぬのでは安定感のあるセックスとは言えない。ビッチは、百回セックスして百回生き延びねばならぬ。不安定な特殊心理状態に頼るわけにはいかないのだ。

「ねえ、ナマ子」

 耳元で、ぼそりと美弥子が言った。

「私ね。この戦い、ナマ子に降参してもいいよ……」
「戯言を吐かすな」
「船のみんなは親切だし……セックスも楽しいし……」
「貴様には残してきた友人たちがいるだろう。生き返らせたい親友がいるのだろう。そのための戦いだと言っていただろう」
「……でも、ナマ子を殺したくないよ……」
「幼稚な小娘がッ!」

 声に怒気が混じる。幼女の惰弱さに舌打ちする。

「……ならば死ね! 私が貴様を搾り殺す。戦わぬなら、惨めに死ね!」
「やだよ、ナマ子にも殺されたくない! ねえ、ナマ子。迷宮時計の力を手に入れたら……私の親友の……眞雪を生き返らせて欲しいの。それさえ約束してくれるなら、私は……今すぐ降参したっていい……」

 チッ――、と二度舌打ちする。吐き捨てるように言った。

「……生き返らせてやってもいい」
「本当に!?」
「だが、その後で、眞雪とやらも含めて全世界をレイプする。死の手前までレイプし尽くす。世界中の全てを、だ。……おそらく、そのまま世界は滅びるだろう。たとえ貴様が降参してこの世界に残ろうとも、貴様もレイプする。この船の者達も、残らずレイプする。眞雪とやらも生き地獄を味わうだけだろう。貴様が降参するということ、私が勝ち抜くということは……つまり、そういうことだ……」
「……ナマ子」

 美弥子が悲しげな顔を見せる。

「どうして、そんなことするの? その、鏡子って人に勝つため? そんなことをして誰が喜ぶの? ナマ子はそれで本当に嬉しいの??」
「誰も喜ぶわけがない。嬉しくもない」

 ナマ子が淡々と答える。葛藤もなく、憂いもなく。当然のことを、当然のように。

「じゃあ、どうして!?」
「私が私であるために、だ。私は最強のビッチでなければならない。そうでなければ私が存在する意味など何も無い。私は最強を目指す。それだけだ。そのために世界が滅びようと、誰が不幸になろうと、私が死のうと、何も関係はない」
「嫌だよそんなの! ナマ子が死ぬのなんて嫌だ! 私そんなの耐えられない! ねえ、ナマ子、もう迷宮時計なんてどうでもいいじゃない。ずっとここで、一緒にセックス海賊団しようよ!」
「美弥子……、貴様は精神に変調を来している。支配対象に対する過度で不要な精神的依存……。案ずるな。ビッチ修行者にはままあることだ。修行が進めばそのような迷いも消えてなくなる」
「違うよ、ナマ子……」

 瞳に涙を溜めて、美弥子がジッとナマ子を見詰めた。

「私の、今のナマ子への気持ちが――、きっと、愛なんだよ」
「…………」

 ナマ子が美代子の指に、細い指先を絡める――。

「もう一度だけ、セックスしてやる。それが終わったら、今日はもう寝ろ」


 五、アプレンティス

 事件が起こったのは、二十五日目のことである――。

「姐御、おそらくコイツが姐御の言ってた男ですよ」

 猟奇温泉ナマ子と撫津美弥子はブラッドリー卿に呼び出され、セックス海賊団医務室へと導かれた。簡素なベッドの上には、痩せ細り、骨と皮だけになった男が、瀕死の体で横たわっていた。

「ふむ」

 男はぼろぼろのダイビングスーツを身に纏っていた。このような異装の男を拾ったら伝えるようにとブラッドリー卿に頼んでおいたのだ。鮫に食い千切られたと思しきスーツの下からは数ヶ所の痛々しい出血が見えた。

「貴様が、門司秀次か」

 男が細い目を辛うじて開けて、ナマ子を見た。小さく頷く。

「そういう、アンタぁ……。猟奇、温泉……ナマ子かい……はは……探してたんだぜ、アンタのこと……」

 門司が自嘲気味に、薄く笑った。

「この船に……。乗ってたのか。二人とも、よ。わざわざ、自分の足場壊して……俺、馬鹿みてえだ」
「ああ、愚かだな。だが、二十五日間、海中で生き延びた生命力は褒めてやる」

 二十五日前――、イギリスの客船、タイタニック号が謎の流氷衝突事故を起こして沈没した。それから門司は鮫の群れと戦い、鮫の死肉を喰らって、極寒の海水に身を浸しながらも生き延びてきたのだ。木切れに掴まり漂流していた門司を、先ほどセックス海賊団が海中から拾い上げた。木切れが豪華客船の一部とみなされたせいか、門司はまだ場外敗北とはなっていなかった。

「なあ。俺は本当に、アンタを探してたんだぜ……。アンタ、淫魔人だろう……。俺を……搾り殺すのかい……?」
「そうしたいのはヤマヤマだがな」

 既にナマ子の右手は門司の股間を刺激している。一、二度は射精したようだが、全身疲労のせいか、それっきり股間はぴくりともしない。

「どうも難しそうだ」

 弱った相手を搾り殺せないようではビッチとして失格だ。まだ、修行が足りぬのだ。

「俺は……これから、どうなる……」
「私が毎日セックスする。貴様を絞り殺すためにな。だが、貴様の体力なら五日もあれば回復するだろう。その時にまだ私が搾り殺せてないようなら、私を殺せ」
「そう、か……。淫魔人らしい……言い草だな……」

 だが、門司秀次には今更ピンと来ない話である。彼は、海中に落ちてから数日後には己の過ちを悟り……死を覚悟した。他の二人が乗船していなかったことに思い当たり、絶望的な思いに囚われた。だが、過酷な海中生活に苛まれた彼が、それでも生き延びてきたのは、ひとえに「死ぬ前に一発ヤりてえ」という、その一念ゆえであったのだ。ナマ子に会いさえすれば、とりあえず死ぬ前に一発できる。その想いだけで生きて来たのだ……。この場で搾り殺されようと何ら恨みに想うところはなく、むしろ感謝しか無い。そんなナマ子を……。今更殺せるだろうか?

「よう……。そっちのお嬢ちゃんは……撫津美弥子かな? 彼女とは……どういう関係なんだ」
「私は、弟子です。セックスの弟子」

 代わって撫津美弥子が答えた。股間を刺激されながら、門司秀次が薄く笑った。

「弟子か。いいな。……セックス、したかったんだ。五日間生き延びたら、俺も弟子にしてくれよ……」


 六、別れ

 ――一年が経過した。
 この頃には既にセックス海賊団の名は北大西洋に知れ渡っていた。
 船長は半年前にその座に返り咲いたビッチ、猟奇温泉ナマ子。
 その脇を固めるのが、ナマ子とほとんど互角のセックス技量を持つ幼女、副船長の撫津美弥子だ。
 その下にブラッドリー卿、ハイビスカス夫人、Dr.ランペイジ、そして近年めきめきと頭角を現してきた期待の新人、門司秀次。この四人が最高幹部として名を連ねる。
 襲撃、略奪を繰り返して、捕虜の中からセックス巧者を巧みに勧誘しセックス武力を拡張。セックス海賊団は既に総数七隻を要する一大艦隊へと成長していた。
 だが、彼らの進撃も順風満帆とは言い難い。ついに本気になった英国海軍が、帝国の誇りを賭けた一大攻勢へと撃って出たからだ。セックス海賊団は、いま最大の危機を迎えていた。

「怯むな! 銃弾を掻い潜り、股間に喰らいつけ!」

 銃砲飛び交う危険な甲板に雄々しく立って指示を飛ばすのは子爵ブラッドリー卿だ。前線指揮官としてこの男ほど頼りになるものはいない!

「オホホホ! 帝国海軍、恐るに足らずざます!」

 ハイビスカス夫人も高笑いと共に英国海兵のセーラー服を剥ぎ取っていく。高レベルのビッチ拳術!
 軍艦十二隻で構成される英国大艦隊を相手に、わずか七隻のセックス海賊団は、それでも優位に戦いを進めていた。銃砲の中を平然と突進し、命を捨てて敵の船に飛び移り、躊躇なく股間に喰らい付くセックス海賊団の恐るべき戦術が敵の恐慌を招いたのである。
 そして、セックス海賊団旗艦「スワップ」の甲板に鎮座するは、美貌のビッチ女船長、猟奇温泉ナマ子。彼女は冷たい視線で洋上の戦いを見守っている。だが、傍らに佇む副船長、撫津美弥子の顔は晴れない。

「ナマ子……本当に、これが終わったら……私たち……」

 幼女が恐る恐る問うたが、

「ビッチに二言はない」

 きっぱりとナマ子に返されてしまう。ナマ子はこの戦いの前日に美弥子に向かって宣言したのである。「英国海軍を打ち破った暁には、貴様とセックスをする。これは演習ではない」と――。二人の最終決戦は間近に迫っていた。
 二人の射精レコードは現在までナマ子が0.43秒、撫津美弥子は0.47秒。共に一秒を切っている。わずか一年でここまでのセックスが取り戻せるとはナマ子も予想だにしていなかった。撫津美弥子と門司秀次。二人の優れた弟子の存在が大きかったのであろうか。

「美弥子。貴様には感謝している」

 ポツリと、ナマ子が言った。

「貴様と切磋琢磨したこの一年間で、私のセックス技量は以前より明らかに上達した。かつてより、私は確実に強くなった」
「私も……ナマ子とセックスした一年間……楽しかったよ……」

 フッ、とナマ子が笑った。皮肉でも侮蔑でもなく、自然と出た笑みであった。

「感謝のゆえに……貴様に、全力のセックスを叩き込む。私の全ての性技を使い、必ず、貴様を搾り殺す。その後で、門司を殺す」
「…………」
「手を抜くなよ、美弥子。セックスの強い者が生き残る。それが唯一無二のこの世のルールだ」
「……分かってる」

 だが、美弥子に自信はなかった。本当に、己はナマ子を殺せるのだろうか……? ただ、これまで培ってきた全てを……ナマ子から教えられた全てを……偉大なる師の身体に叩き込みたい。私の持てるセックス全てをナマ子に注ぎ込みたい。そう願う気持ちは真実だった。それが師への何よりの恩返しだと思っていた。私は、ナマ子と、全力のセックスがしたい。生も死も、その結果として付いてくるのだろう……。
 しかし、そんな彼女の物思いを――、一発の銃声が不意に切り裂いた。

「キャアアアア! ブ、ブラッドリー卿!!!」

 ハイビスカス夫人の叫びが轟く。

「どうした」

 ナマ子がゆるりと立ち上がった。その足元に、ブラッドリー卿の生首がゴロンゴロンと転がってくる。

「イ、イヒーッ!? なんだねーッ? アッ、アイツラはなんだねーッッ!!!」

 怯え切ったDr、ランペイジが指差す先には……、おお、なんという時代錯誤か。全身を鉄の鎧で守りし重武装の海兵たちの姿! 対セックス海賊団に特化した英国海軍フルプレート部隊だ! 並のセックスでは歯が立たない!

「キ、キエーッ!」

 ハイビスカス夫人がビッチ拳術を構えて突撃する。打撃ではなく脱衣を狙いとするビッチ拳術が兵隊の鎧を弾き飛ばすが、しかし、それまでだ! 一人を丸裸にするも、ハイビスカス夫人が銃弾の雨を受けて無惨に踊り散る!
 そして、撫津美弥子は見た! 世界が、スローモーションになる瞬間を――。流れ弾が、飛来した弾丸が、彼女の胸へと向けて、一直線に飛ぶ様を……。ナマ子に銃口を突き付けられた、あの時と同じ……。「死」が、目の前にあった。何の脈絡もなく「死」が彼女を襲った。
 だが、次の瞬間、彼女は別の光景を見ていた。己の前に不意に飛び出した女の姿を――。ナマ子だ。猟奇温泉ナマ子だ! ナマ子は、両手を胸の前で握りこみ、包み込むように弾丸を受け止めた。射精させる気だ。弾丸を射精させ、勢いを殺すつもりだ! だが、そんなことができるのか――!?
 できなかった。ナマ子の掌を鉛弾は貫通し……彼女の胸へと吸い込まれていく。撫津美弥子が受け止めるはずだった銃弾が、ナマ子の胸の中へ沈み込む。口から血を吐いて――、愛液ではなく血を吐いて、ナマ子が倒れ込む。倒れてから、もう一度、血を吐いた……。

「ナマ子……?」

 美弥子が彼女の隣にぺたりと座りこんだ。混乱し、乱暴に、彼女の身体を揺すった。

「ナマ子……。ナマ子、何をやってるの……。なんで、私を庇って……ナマ子、そんな柄じゃないでしょう!? ねえ! どうしたのよ!! なんでこんなことしたの! 私とのセックスはどうするのよ!!」
「……庇った、だと……。馬鹿げた……ことを……」

 苦痛に身を歪めながらも、ナマ子が血と共に吐き出した。

「過信、しただけだ……鏡子になら……できたはず……!」

 あの一瞬――、ナマ子には確信めいた何かがあったのだ。今の自分なら銃弾さえ射精させ得るという、天啓のようなものが舞い降りたのだ。無機物の射精は、おそらく鏡子ならできるのだろう。だが、何故そんなことを急に思ったのか。どうして身を挺して美弥子の前に飛び出したのか。そんなことはナマ子にも分からない。
 ナマ子の視界が霞む……半ばまで赤く濁る……美弥子の顔が朧に映る……。だが、彼女は右手指を伸ばし……必死に美弥子の頬に触れた。

「約束は、守る……。セックスは……する。貴様との……セックス……今、すぐに……!」
「ナマ子!」

 ナマ子の傷を見ていたDr.ランペイジがぶるぶると首を振る。この怪我では……もう助からない。美弥子はなおも躊躇う。今、彼女に全力のセックスを叩き込めば、間違いなくナマ子は死ぬ……。だが、そうすることこそが、今の彼女への何よりの恩返しではないだろうか……。

「美弥子、セックスしろ――ッ!」

 少年の叫び声に美弥子がハッと顔を上げた。――門司秀次だ! フルプレート海兵の群れを相手に、大筆を構えた門司が一人でその侵攻を堰き止めている!

「セックスが効かねえなら俺の剣術の出番だ!」

 仕込み筆に隠された大刀が鎧ごと兵隊を斬り伏せていく! だが、余りにも……多勢に無勢! 数人の海兵を力ずくで切り伏せたところで、バキッ――と悲痛な音が響き、門司の大剣が半ばで砕け散る!

「ちぃッ、ナマクラめ!」
「イヨォーッ! ハハハーッ!!」

 だか、その門司の危機を救ったのは――。おお、誰あろう、Dr.ランペイジだ! 両手指に挟んだ八本の殺人メスがフルプレート海兵の鎧の隙間から突き刺さり一名を返り討ちに! 門司はDr.ランペイジと背中を合わせ、英国海兵に全方位対応!

「Dr.ランペイジ! まさか、お前に背中を預ける日が来ようとはな。……正直、お前は一番に逃げ出すと思っていたぜ!」
「イヒヒーッ!? 四天王の末席風情が生意気な口をーッ!! ナマ子さま! 美弥子さま! ここは忠臣Dr.ランペイジが引き受けますゆえ、どうぞごゆるりと御セックスを~~ッ!!!」
「ウオオーッ、水墨龍(スイボクドラゴン)!!!」

 折れた刀で門司が果敢に必殺技を繰り出す! フルプレート海兵の一団が吹き飛ぶが、後から後から、新手の海兵が上陸する! 戦争全体の趨勢もフルプレート海兵の登場により帝国海軍が押し返している! これが英国の底力か!
 もう、やるしかない! 迷っている暇など無い。「後悔は咥えてからしろ」。ナマ子の言葉が幼女の脳裏でリフレインする!

「ナマ子! セックス……セックスするよ!」
「美弥、子……」

 ナマ子が震える手を伸ばす。先程よりも、ずっと弱々しいビッチの指先。美弥子の小さな掌がそれをギュッと握った。

「貴様に……伝えておくべきことが……」

 不鮮明な言葉をナマ子が紡ぎ出す。

「気を、付けろ……。貴様の、友人は……事故などでは、ない。奴らが……。スズハラ……仮面の……『轢殺』……丑……」
「やめてよ! ナマ子! そんなの……そんなのまるで遺言じゃないの……! 私とセックスするんでしょ! セックスの強い方が生き残るんでしょ!!」

 美弥子がナマ子のぱんつをひったくる。幼女は、覚悟を決めて、

「えいっ!」
「んあッッ!」

 股間に指を伸ばす! たまらずナマ子が口から血と愛液を吐き出した。これは、ナマ子から教わった手マンだ!

「えいっ!」
「んあッッ!」

 股間に吸い付く! たまらずナマ子が口から血と愛液を吐き出した。これも、ナマ子から教わったオーラルだ!

「えいっ!」
「ん、んあーッッ!」

 股間に己の股間を激しく擦り付ける! たまらずナマ子が口から血と愛液を吐き出した。これも、これも! 全部、ナマ子から教わったセックスだ――!

「ナマ子! ナマ子!!」

 美弥子がナマ子の手を取り、己の股間へと押し付ける。だが、ナマ子の手指の動きはあまりに弱々しく、美弥子への股間刺激も児戯の如しだ!

「ナマ子……」

 美弥子の両の瞳からぽろぽろと涙が零れる。あまりにも弱々しい師のセックスに……涙が、止まらない…。

「ナマ子、あなたのセックスは……こんなものじゃないでしょう……? あなたのセックスは、もっと苛烈で、もっと激烈で、もっと容赦がなくって……」

 美弥子が、強く、強く、ナマ子の手を股間へ押し付ける。

「私は、あなたが、大好きだった……あなたのセックスが……大好きだった……」

 甲板の向こうで、Dr.ランペイジの絶叫が轟いた。ややあって、門司秀次の断末魔が響き渡る。もう、時間がない。英国海軍が迫り来る……。

「美弥子……急げ……」

 絶え間なく血と愛液を吐き出しながら、掠れる声でナマ子が言った。

「全力で、セックスしろ……私の身体に、叩きこめ……。私を殺して……貴様は帰れ。大丈夫だ……そのセックスがあれば……貴様はきっと、勝ち抜ける……」
「ナマ子……」

 だが、幼女は動こうとしない。ナマ子の掌を強く股間に押し付けたまま微動だにしようとしない。

「ねえ、ナマ子……。ナマ子、言ってたよね? この戦いを勝ち抜いたら、死んだ人も生き返らせるって。それで、みんなまとめて、ナマ子がレイプするって……」
「…………急げ、美弥子」
「私、待ってるよ。ナマ子にレイプされるの、ずっと待ってる。だから」
「急げッ!」

 大勢の足音が轟く。海兵が大挙して襲い来る。幼女はナマ子の上に座ったまま、動かない。

「だから、少しだけ、お別れだね……」

 取り囲んだ海兵が冷たい銃口を幼女の後頭部に押し付ける。ガチリと音を立て撃鉄が起こされる。

「屑がッ!! そんなセックスを……貴様に教えた覚えはないッ!!」
「ナマ子」

 幼女は笑った。撫津美弥子が、にこりと笑った。

「お願い。約束して。もう一度、きっと、私をレイプ――」

 幼女の言葉は最後まで聞こえなかった。
 野蛮な銃声が彼女の最期の言葉をかき消したからだ。


 七、極楽とろろいも


 ――七六一……


 ――七六二……



 ――七六……三……


 ***

 薄暗い独房の中で、幼い少女の掻き消えそうな声だけが……響いていた。
 少女は衰弱し……目の下に酷い隈を作り……全身は垢にまみれ……引き裂かれたドレスは口と股間から溢れた愛液で無惨に汚れていた。

「なな、ひゃく…………ろくじゅ……よん……」

 消え入りそうな喘ぎ声の後、少女の股間からどろりとした愛液が垂れる。少女のずたぼろの指先は、それでも必死に己の股間を弄(まさぐ)り続ける。
「いいざまね」「どうしてあんな馬鹿なことしたのかしら?」「成績トップのエリートだからって調子に乗ってたんじゃないの」
 己を嘲る同輩ビッチたちの声が遠くに聞こえる……。
 少女が――、11歳の猟奇温泉ナマ子が懲罰房に叩き込まれてから十二日間が経っていた。罰として、彼女は自慰千回を命じられたのだ。同年代ビッチの一日の自慰ノルマ回数が二十回であることを考えれば、これは事実上の殺処分にも等しい数字である。彼女は咎められたのだ。「有効利用」予定の少年へのセックスを怠った罪を――……。

「ナマ子さん……」

 その元凶とも言うべき少年が、いま、彼女の目の前にいて、鉄格子を掴んでいる。
 ナマ子が顔を上げ、憎悪に満ちた瞳で少年を睨み付けた。
 少女は、少年のことが大嫌いだった――。

「どうして、僕なんかを助けてくれたんだ。そのせいで君がこんな目に……」

 ナマ子はキユのことが大嫌いだった。彼は、何か勘違いしているから。勘違いして、ナマ子のことを、憐れみを帯びた瞳で見下すから……。

「僕は、一生を賭けて……この恩を返す」

 勘違いだ。……助けたわけじゃない。ただ、気が向かなかっただけだ。脆弱な少年を目の前にした時、なぜか殺す気が起きなかっただけだ。私の気紛れ。……断じて、こいつのためなどではない!

「君に助けられた命を、これからは君のために使いたい。僕はきっとエージェントになる。組織のためじゃない。ただ、君のために……」

 ふざけるな! 私はビッチだ! 貴様の助力など要らん! 必要なものは全てセックスで手に入れる! だから……。
 だから、私をそんな目で見るな……。私は、セックスで貴様を支配するんだ。貴様がどれだけ嫌がろうと、泣こうと喚こうと、私がセックスで貴様を無理強いさせる! だから、やめろ。その目をやめろ! 何を考えている! 私を……私を憐れむな……!!

「今の僕には……こんなことしか、できないけれど……」

 キユがぱんつをずり下し、鉄格子の間から剥き出しの一物をそッと差し入れる。

「うわッ、あああッ、あッああッッ!」

 少女が慌てて股間に喰らい付く! 痛い程に股間を吸い上げて、忽ちに射精させ、そこから出てきたお汁をごくごくと飲み干す。再び射精させ、飲み干す。それを繰り返す……!
 懲罰房のビッチに許された食料は精液だけだ。だが、差し入れに来る少年などほとんどいない。飢えたビッチは暴力的に精液を吸い上げ、場合によっては一物を噛み切るからだ。キユのように連日自らを供しに来るなど、自殺行為にも等しい。

「うッ……くうう……」

 鉄格子を掴むキユの両手がぶるぶると震え始める。顔は青ざめ、膝はガクガクと震え、口からも精液が漏れる。
 必死に少年の一物に貪り付きながらも、ナマ子は考えていた……。何故、彼はここまでしてくれるのか。いや、そもそも。私は何故、彼を助けたのか。気まぐれ? そうには違いない。でも、ならば何故気まぐれを私は起こしたのか。どうして私は彼を助けたのか。彼はなぜ私を助けてくれるのか――。

 分からない。


 何もかも、分からない。


 ***

「何故、私を助けた――」

 スイートルームのベッドの上で覚醒した少女は、朧な意識の中で問うた。
 少女は短い夢を見ていた。幼き頃の、苦痛の記憶を……。
 戦闘空間から消える寸前に気を失ってしまったのだろう。走馬灯というやつなのだろうか。
 彼女の脳裏に、不意に、撫津美弥子の笑顔が浮かんだ。

「屑め」

 弱々しい罵倒が口を突いて出る。撫津美弥子への、理由の分からぬ怒りに駆られ始める。撫津美弥子の最後の行動が、理解できない――。
 何故、彼女は自分を救ったのか。何故、自分は彼女を庇い銃弾に貫かれたのか。何もかもが、分からない……。

「私は――、一体どうしてしまったんだ」

 何かがおかしい。あの女と出会ってから――。鏡子の愛撫を受けてから、何かがおかしい。あの女が、憐れみを込めた視線で己を見下してから、何かが壊れてしまった……。心の底で何かがざわめき始めている。これまでの己のセックスを全て打ち崩すような、酷く不快な何かが……。セックスとは――、
 セックスとは、何なのか。

「キユ……」

 自然と、男の名が出た。

「キユ」

 身体を起こし、辺りを見回す。
 猟奇温泉ナマ子は、すぐに彼の姿を見つけた。
 だが、その光景は。
 彼女が予想していたよりも、遥かにおぞましいものだった――。

 ――女だ。

 ボロボロの袖なし白ドレスを着た裸足の女が、キユの身体の上に跨がり胸に舌を這わせている。キユは白目を剥き、股間は噴水の如くに、ピューッと精液を噴き出し続けている……。
 誰だ、この女は? いや、何時ここへ入った――? 戦闘空間における時間経過は消去されるはずだ。現実時間ではほんの一瞬の消失に過ぎない。その僅かな時間でキユをここまで愛撫せしめただと……。そんなことができるのは――、それは間違いなく。
 ビッチだ!

「せェんぱぁぁい……」

 ナマ子に気付き、白ドレスの女が身体を起こした。――と、同時に女の手がビュッと動いて何かが飛び、不意を打たれたナマ子の左上腕部に白い粘液状のものがべたり付着する! 精液? いや、違う。なんだ、これは……!?

「先輩、ずっとボンヤリしてたからぁ。アハ! あたし、キユさん、頂いちゃいましたぁ~」

 妙に甲高く甘ったるい声を出す。女の頭髪は油ぎり、ぼさぼさ。涎を垂らし、半ば白目を剥いて、足下は土汚れにまみれている。全身は垢まみれで異臭を放ち、首筋にはぶくぶくと膨らんだグロテスクな傷跡。あれは……注射痕か?

「せんぱァい。あたしのこと……知ってますぅぅ? 知らないですよねェェ……あたしはぁ……B-005148試験型ビッチ……」

 その識別番号を聞いた瞬間、ナマ子が身体を強張らせる。
 ……B-005148。"卒業試験"でアイリを殺した次世代型コンキスタ人形――!

「補陀落(ふだらく)とろろ……ッていいますぅ。先輩は、あたしのことなんて、知らないかもだけどォ……あたしは、先輩のこと、よぉく知ってますぅー。アハ! あたし、先輩のコト、大好きだったから、アハハ!」

 ゆらりと揺れながらとろろが立ち上がる。幽鬼を思わせるその佇まいにナマ子の身体がぶるりと震えて、無意識に左腕を掻き毟る。とろろは懐から注射器を取り戻し、首をカクンと傾けた。

「アハ……先輩……。あたし、先輩のコト、ずうっと見てた……。先輩は、どんなビッチよりも苛烈で、凶悪で。アハ! 容赦なくって……。同じビッチでもザクザク殺して……。あたし、先輩みたいなビッチになりたいって、ずっと思ってた。アハハ! セックスで、全てを支配する先輩が、とってもカッコ良くッて……アハ、大好きだった。だから」

 ナマ子が怖気を覚えてさらに左腕を掻き毟る。同時に身体が訳の分からぬ熱を帯び始める。なんだこれは……。

「だから、先輩が、鏡子に負けたって聞いて……あたし、あたし! あたし泣きそうになった! だから、あたし、先輩好き! 先輩の仇、打つの! だから、実験台に志願……アハ! 先輩! 先輩、知ってます? 先輩に足りないもの……アハ、アハハ! 先輩と、鏡子の違い――、ニャントロが、あたしに下さったんです! アハ、アハハーッ! 先輩、これ! これがあれば! あたしは鏡子、鏡子と一緒!!!! 先輩を、滅茶苦茶に、レイプ! 先輩大好き! セックスで! レイプで殺す! アハハーッ、先輩大好き、アハハハハーッ!!!」

 女が引き攣り笑いと共に、首筋に深々と注射針を突き刺す。注射器には「AI」の刻印――。とろろが忽ち、頭を抱えてうずくまる!

「痛いッッッ! 痛い痛い、痛いッ、痛いッ、頭が、痛いッ! 痛い、アッー、痛い、痛いよッ、痛い、殺して! 殺してェ!!! あァ痛いいいッ!! アアーッ! アッ、アアアアーッ!!! アハアハハハーッ!! アハハハハハハハハ! せんぱぁい! せんぱいだいすき! アハハハ! アハハハハッ!!!! 先輩! 先輩! 先輩大好き!!!! 大好きーッ! アハハッッ、滅茶苦茶に! レ、レイプしたい!!!!」

 再び立ち上がったとろろは、ギラギラと光る肉食獣の双眸でナマ子の身体を見て涎を垂らす。

「これ! あたし、あたし、これ、大好きなんですッ!! 先輩のこと、先輩のこと! もっと大好きに、なれるから……!! アハハ! 先輩、セックス! セックスしましょうよ! アハハハーッ!!!」

 左腕を掻き毟るナマ子の手が止まらない! 白い液体を受けた左腕は掻き毟れば掻き毟るほどに痒みを増し、しかも、掻き毟れば……脳内に恐ろしい程の快楽物質が溢れ反る! 目眩がする程の快楽が! 目の前の異様な姿のとろろを見ても……恐怖よりも遥かに、この左腕を相手の素肌に擦り付けたい欲望が上回る!

「アハ、あたしのとろろ、効いてきましたぁ? アハハ、先輩、気持ちいいでしょう……とっても痒くって、アハ! とっても、気持ち、いい、でしょう……? いいですよねーェッ!?」

 魔人、補陀落とろろの能力は『極楽とろろいも』。尋常ならざる痒みを生む催淫性とろろ汁を彼女は素肌から無尽蔵に分泌する。その効果たるや、あの猟奇温泉ナマ子が、初めて自慰を覚えたサルの如くに掻き毟る手を止められない! 白目を剥き、息を荒らげ、目眩を起こし、それでも、掻き毟る手が止まらない……!

「せんぱぁぁい……」

 甘ったるい声を出しながら、とろろが両掌を差し出して皿を作る。そこに忽ちにとろろ汁が溢れて、掌から零れ落ちる。少量を左腕に受けただけで今やナマ子はこの有り様だ。これほどのとろろを、仮に性器に受けようものなら……一体、どうなって……。

「アハハ、せんぱぁい……。今、これを股間に受けたら、どうなっちゃうのって、そう思いましたよねェ……! エヘ、エヘヘ。あたし、せんぱい、大好きだから! せんぱい、見て、見て。こう! こう。こうなっちゃうんですッ、アハハハーッ!?」

 一際甲高く笑い、補陀落とろろは己の剥き出しの股間へ掌いっぱいのとろろ汁を押し付け! 激しく摺りこむ! 次いで、滅茶苦茶に股間を掻き毟る!! 砕けんばかりに体を捻じ曲げ、部屋中に絶叫を轟かせる!!

「ぎィゃああッアアアー! せんぱい、せんぱい、だいすき! レイプ! レイプしてええェ! せぇッッぱああいッ!!!!」
「来るなッ!」

 身を強ばらせたナマ子が急遽『プレローマ』を展開! 不可視の気体状オナホールがナマ子を包み込む。だが、性の狂女と化した補陀落とろろは構わず『プレローマ』の中を駆け抜ける! 全身を滅茶苦茶な快楽に蝕まれ、銃弾の一斉掃射を受けたかの如くに身を捩らせて痙攣させ、口からドバドバと愛液を吐き出しながらも、ナマ子の身体に抱きついて……そのまま押し倒した!

「先輩、大好き!」
「うわァ、あああーッ!!!」

 とろろ汁にまみれた股間を、ナマ子の股間へと激しく押し付ける! 垢まみれのとろろの素肌がナマ子の全身を蹂躙し、忽ちに二人の全身がとろろ汁の腐海へと沈み込む。その中で、とろろは激しく股間を擦り付けて、そしてナマ子もまた! 股間の動きを止められない!! 異常な痒みが! 異様な快楽が!! 擦り合わせる股間から全身に広がる! とろろが更に一本、追加の「AI」を首筋へ突き刺した!

「アハッ、痛いィィイイ!! 大好きッ、先輩のことが好きーッ! 痛いッ痛いいッ!! 先輩、せんぱい、大好きッ! ……でも! でも、今日は先輩を、殺しません!! アハッ!! せんぱい! 先輩のこと、もっと! もっと、殺したいから!! もっとレイプしたい! 先輩のこと、心も、身体も、グチャグチャにして! もっと殺したいから! 殺しません!! あたし、また来ます! 先輩! あたし、明日かもしれないし! 明後日かもしれないし! 一週間後かもしれないけど、一時間後かもしれないけど! あたし、あたし必ずまた来ます! また来て、先輩をグチャグチャにレイプします!! ずっと! ずっとそれを繰り返します! どこに逃げても、組織の力で追いかけて! レイプします!! 先輩をグチャグチャにして、グチャグチャになっても、またレイプして……。先輩の、大事なもの、全て壊して……。アハハ、せんぱいを支配……あたしだけの先輩に……アハハハハーッ!!」

 とろろの残酷な宣言を受け、地獄のような快楽の中で身悶えながらも、猟奇温泉ナマ子は笑っていた。力なく、笑っていた。彼女はとても懐かしいものを、そこに感じていたからだ。

 そうだ、これこそがセックスだ――。

 理不尽に全てを奪い、支配する力……。
 より強いビッチに、弱いビッチが食われるだけのシンプルな世界。

「アハ、アハハハハーッ!!!」
「ハハ、アハハハハハ……」

 二人の狂女の笑いが交差する。



 ――そうだ。
 これが、私の知るセックスだ……。