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プロローグ


ヒュッ ヒュッ ヒュッ

夜の静寂を切りさく風切音。
しかし、それは彼女にとって聞き慣れた音だった。

(寅流(とらりゅう)の吹き矢か!)

三方から同時に迫る鋭い矢尻。

「ふっ!」

左手で矢の一本を掴み、右の手は素早く抜刀。
刀は右方の矢を地に落とし、その勢いのまま前方の矢も叩き落とす。
刀の鍔(つば)には寅流名刀の証、雄々しく吠える虎の顔。

「出てきなさい! 昼間から付けて来ていたのは分かっている!」

刀を構え、夜の闇に向かって少女は叫ぶ。
それに呼応し、音も無く三つの影が少女の周囲に姿を表した。
わずかな月明かりに照らされたその姿は、全身を黒い忍装束に包まれた、まさしく忍者その物。
一つ異様なのは彼らの顔に被せられた黄色い虎の面――。

(六本の黒い髭……寅流上忍(じょうにん)の証!)

三人の寅忍達もまた、それぞれに武器を携えていた。
前方の男は大小二本の刀。右後方、左後方の男は長槍。
そのいずれの武器の鍔にもやはり虎の顔。

「虎の掟に背きし者には死あるのみ……」

前方の男が少女に向かって囁(ささや)く。
おそらくは集団のリーダー格であろうその男が号令をかける。

「トラァァ――――――――――――!!」

寅流独特の合図により、寅忍達が攻撃を開始する!
後方の男達が素早い槍捌きによる同時攻撃!
少女もまた素早く振り向き刀で応戦。
二本の槍による刺突の連続を事もなくいなす少女。
前方の男がその隙を狙い、二本の刀による斬撃!
少女は素早く身を捻り回避! 更に槍の男の一人に足払いを掛ける!
一人が態勢を崩した隙に三人の囲みを抜ける少女。
二人の男が彼女を逃すまいと激しく追撃をかける! 迎撃する少女!
態勢を戻した男も再び攻撃に加わり、3対1の激しい剣戟の音が響く。

虎面の男達の攻撃がまさに電光石火ならば、少女の動きは流麗かつ美麗。
三方から繰り出される激しい連撃を、忍者刀と体裁きを駆使して難なく躱し続ける。

「ふっ!」

少女は更に間隙を縫って力強い一撃を前方の男に加えた。
男は片手の刀を弾き落とされる。
男たちに隙が生じる。少女はさらに素早い足払いを左方の男へ繰り出す。
しかし男も何とか飛び退いて躱す。すかさず右方の男が槍を振り下ろすが、それも少女の刀に止められる。

「トラッ!」

刀を弾かれた男が叫ぶ。
それを受けた男たちは跳躍して後方へ。おそらく「一度退け」という合図だったのであろう。

「流石は女の身ながら、寅影候補と言われた者。一筋縄ではいかんか」

三人の忍達は再び少女の三方を囲む態勢となった。
その中心にいる少女は先程までの激しい攻防にもかかわらず、汗一つもない。その表情は緊張を保ったまま、ただ次の攻撃に備えている。

「トラッ!トラッ!トラッ!」

一際甲高(かんだか)い号令がかかる。
突如、三人の寅忍達は素早く少女の周囲を回り始めた。

(これは……寅流陣形、参の型・漆黒竜巻!!)

高速で奔(はし)る三つの影は、たちまち目にも映らない速度と化す!
まさに竜巻。そこから高速の刃が次々と少女に向かって撃ちだされる!

(虎手裏剣!!)

間断なく迫る無数の弾丸を、しかし少女は素早く刀を振り回して落とす。
だが、少女の周囲を吹き荒れる嵐はその間に、段々と少女との間隔を狭めていく。

(くるっ……!!)

やがて竜巻から一つの大きな影が飛び出した。
虎手裏剣の連撃に態勢を崩した少女の元へ、鋭い槍の一撃が迫る。
刀でどうにか受ける少女。そこへ二つ目の影が迫る。

(完璧な虎の連携……)

二つの槍は、刀ごと少女を押し潰そうとする。
地面へと押し付けられようとする少女。

(だからこそ、読みやすい!)

少女は、なんと強引に左手で男の槍を掴み、そのまま槍を地面へと押し付けた。
反動により槍を持った男の体が持ち上がる。

「はあっ!」

更に少女は男を持ち上げた勢いそのままに、もう一方の男へ、下方から両脚で蹴りを見舞った。
男の体が空中へと飛び上がる。
そこには、両刀の男が飛び上がり最後の斬撃を繰り出そうとしていた!
三人の男の体が少女の空中で重なる。

「寅流忍術、火遁の弐式。紅花(べにばな)」

――――爆発。
少女は右の手で己の懐から虎マークの付いた爆薬を取り出し、上空にて炸裂させた。
夜の空を、紅い花が彩った。

戦いは終わった。
先ほどまでの喧騒が嘘のように、今は静寂が戻った。

「――何故、殺さない」

先ほどの寅忍達は、全身焼け焦げながらもまだ息があった。
寅忍が装束の下に着込んでいる虎柄の鎖帷子の効果か、あるいは、そのように火力が調整されていたのか。

「戻って伝えなさい。私は必ず時計を手に入れる。――そして、掟を破壊すると」
「……正気、か。そんなことができると」
「…………」

少女はそのまま夜の闇へと消えた。

(……そう、全てに勝ち、全てを破壊する。私は)
(全て……)
(全て、美鳥のために――――)

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12年前。

「紅井……影虎(えいこ)……ですか。可愛い名前ですわね!」

豪華な洋館の一室。
金の髪の女の子は、目を輝かせて黒髪の女の子に話しかけた。
部屋のあちこちには虎のぬいぐるみが置かれ、いかにも可愛い女の子の部屋、といった感じである。

「そんなことはない。影であれ、と適当につけられただけの名前」
「いいえ。そんなことはありません! 虎の名前を子供に付けるのは紅井の家にとって重要な意味を持ちます!
きっと強い虎……虎影を目指すようにという願いを込められてのものでしょう。
それに読み方がとても女の子らしい。強く優しく育ってほしいという気持ちを感じます」
「私の名など、あなたにとってはどうでも良い。あなたは私にしてほしいことを命じればそれでいい」
「いいえ、そんなことはしません! 私は貴方に友達になってほしいのです」
「友達……何それ?」
「お互いに、大切な人でありたいということです。同じ人間、同じ紅井の一族なのですから。
これからはこの家で一緒に暮らすのです。よろしくお願いしますね」
「……はい。かしこまりました。美鳥(みとり)様」
「様はいりません。美鳥でよいです。あと、敬語もいりません」
「分かった。美鳥」


――虎の里。
影虎の父、寅忍の統領、寅影(とらかげ)と幼き影虎が向き合っている。

「良いか、影虎。我々寅忍は紅井の牙、紅井の爪。紅井の敵となるものを徹底的に排除するのが務め」
「はい、お父様」
「では、今日の任務だ。お前の目の前にいる、この裏切り者を噛み殺せ!」
「トラッ!」

影虎は、躊躇いなく手に持った刃を目の前の男に振り下ろした
鮮血が、幼い影虎を濡らした。


11年前。

「影虎! 私も今日から虎を飼うことにしたのです! ほら、私の誕生日プレゼントにとお父様が!」
「……そう、おめでとう」
「名前も決めているのです! ファントム! 良い名前でしょう!」
「ファントム……初代寅蔵(とらぞう)の飼っていた虎と同じ名前ね」
「ええ! 初代を守ったように、強く優しい虎にと」
「良い名前だと思うわ」
「ありがとう影虎! ほら、ファントムもお礼を言って!」

美鳥がファントムを影虎に差し出す。
するとファントムが急に舌を出して、影虎の頬を舐めた。
驚く影虎。

「……っ」
「あははっ。ファントムも影虎が気にった様ですわね」
「今日から大切な家族が増えました! 嬉しいです!」
「かぞ……く」


――虎の里。

「今日は寅流中忍、5人と一度に組手をしてもらう。」
「はい、お父様」
「遠慮はいらん。情はいらん。この者達もお前を幼子とは思わず、殺すつもりでかかれと命じてある。お前もそのつもりで戦え」
「トラッ!」


10年前。

「私も今日から少しずつ寅流の武術を習うことになりました」
「そう。頑張って」
「で、お願いがあるのです。影虎にも私が家にいるとき、稽古をつけて欲しいのです」
「……? 稽古なら、寅流の道場でやればいい」
「勿論、道場にも通います。でも影虎とも私は稽古がしたい」
「それが命令なら、そうする」
「命令ではありません。友達として、家族としてのお願いです。」
「……分かった」


「ふにゃっ!!」
「……へっぴり腰」
「うう~~、ひどいですわ~~。いきなり足を払うなんて」
「寅流は武器術と体術の組み合わせが基本。今ので倒れたらとても段位は取れない」
「もう一本お願いします! 私は負けません!」
「はいはい」


――虎の里。

「寅流忍術四段を取ったそうだな。見事だ」
「ありがとうございます、お父様」
「だがその程度ではまだまだだな。儂(わし)は十代半ばで免許皆伝を取った。お前もこれを達成してみせろ」
「……はい」
「では今日の訓練だ。四段になった以上、よりメニューを増やさせてもらうぞ」
「トラッ!」


8年前。

「やりましたわ、影虎! ついに私、寅流の初段を取りました!」
「おめでとう、美鳥」
「お父様とお母様も大変喜んでくれて、今日はお祝いにご馳走だそうです!」
「良かったわね」
「影虎も是非一緒に参加してください」
「……いや、私は今晩訓練が。」
「休んで構いません! 私からお父様を通じて里には言って聞かせます! 私が段位を取ったのは影虎のおかげなのですから!」
影虎と共に祝いたいのです!」
「……分かった」
「ありがとう、影虎!」

美鳥は影虎の手を強く握った。


――虎の里。

「一日訓練を休んだか」
「申し訳ございません」
「……まあ良い。だが、最近お主の動きがやや鈍っておるな? 訓練でも任務においても。気づかぬ儂と思ったか?」
「……いえ、それは! 私の調子が悪く!! 」
「お主ももう十代になるか。今後は更に過酷な任務にも入ろう。その覚悟で果たしてやっていけるかな? ククク……」
「…………」


6年前。

「最近、服がきつくなってきまして。稽古の時も、何だか胸の動きが気になるのです」
「……それは美鳥の身体が育ってるから」
「やはり、そうですか。衣替えの時期ですかしらね~~」
「あと、下着をつけるようにすべき。美鳥の歳にしては、大きすぎ」
「へっ。ど、どこを見て言ってるのです!」
「私は単に事実を言ってるだけ。甘いものばっかり食べてるから、そうなる」
「うう~~、ひ、酷いです!」
「屋敷の従者に言えば、サイズの良い服を用意してもらえる」
「あ、じゃあ影虎も服を選ぶのに協力してください。今度、一緒に服を買いに行きましょう」
「……え?」
「影虎も女の子なのですから。服装の良し悪しというのは分かるでしょう?
是非、一緒に選んでほしいのです。というか、影虎の服も買っちゃいましょう」
「いや、私は服なんて分からないし、服なんていらない」
「そんなことを言ってはいけません! 友達を侮辱した罰です! とにかく一緒に行ってもらいますからね!」
「……分かった」
「早速、車を出してもらいましょう! 楽しみですわ~~」

――虎の里。

「お前ももう良い歳だな。今日からは対淫魔人の訓練に入る」
「……はい、お父様」
「淫術を使う魔人数人を既に連れてきた。彼奴(きゃつ)らの淫撃に耐えられるようになってみろ」
「トラッ!」

数人の男たちの腕が、触手が、陰茎が、影虎へと伸びる。
そして影虎の体を嬲っていく。

「ううっ……あうっ……」
「今は押し寄せる快楽に耐えられまい。だが、やがて己の精神でコントロールできるようになる」
「ああっ……いやっ……」
「淫魔人の攻撃への耐性を付ければ、やがて己も淫魔人の術を使えるようになろう。幸いお前には女の肉体がある。
色仕掛けはくノ一にとって重要な武器じゃ。身につけてみせよ」
「……は、はい……」


4年前。

「どうしたの、美鳥?」
「影虎……? いえ、なんでもありませんわ。」
「嘘。浮かない顔」
「影虎には……やはり見抜かれてしまいますわね」
「美鳥がそんな顔なのは珍しいから」
「ええ……。この前、一族の合同パーディーがありまして。次代の当主の話になりました」
「そう。私は別の任務があったからいけなかったわね」
「今の当主候補の方々は皆立派でした。弦葉(ゆづりは)さんなどはあの妃芽薗学園で素晴らしい成績を残したとか」
「…………」
「私は大した力もありません。なので、お父様もお母様も肩身の狭いことに」
「気にすることは無い。美鳥は美鳥」
「ありがとう、影虎」

――虎の里。

「何? 寅忍の奥義を会得したいだと?」
「……はい、お父様」
「駄目だな。まだお前には早すぎるよ。まずは寅流忍術の免許皆伝にならねばな」
「ならば、もっと訓練を激しくしてください」
「ほう? やる気ではないか。嬉しいものだな。よかろう。更に険しいメニューを課してやる」
「トラッ!」


2年前。

「また浮かない顔」
「ええ……貴方もご存じでしょう。最近、寅蔵(とらぞう)お爺様のお体が良くないと」
「勿論知ってる」
「それで私の家でも紅井の名家である以上、当主を目指すべきだと。そんな声が強くなっているようです。
お父様もそんな声を気にして、最近はすっかりやつれていて」
「……美鳥」
「どうして、当主などを目指なければならないのでしょう。私はお父様がいて、お母様がいて、影虎がいて、ファントムがいて、皆がいればそれでいいのに。
私は、どうすれば」
「……えい」

影虎は、美鳥の頬をつねった。

「ふにゃっ。 な、何をするんですの! 影虎」
「笑えばいい。美鳥が笑えば、みんな力が出る」
「えっ……?」
「美鳥がそんなだと、みんな元気が出ない。美鳥のお父さんも、お母さんも、ファントムも。
……勿論、私も」
「影虎……」
「美鳥の家がどんなことになろうと私が守る。それが私の務め。
だから、心配しなくていい」
「影虎……ありがとう。ふふっ」

ようやく、美鳥に笑顔が戻った。

――虎の里。

「遂に免許皆伝に達したか」
「ありがとうございます」
「ふむ……、免許皆伝は虎影となるための第一歩。儂も嬉しく思うぞ。お前がまさかここまで来るとはな」
「お父様、これで奥義を」
「よかろう。お前にはその資格がある。だが、お主をそこまで掻き立てる?」
「全ては紅井の家の為にという掟の通りです」
「ふっ……他の影候補たちも本家の動きに呼応して気合を入れているが……、お前にはそれらとはまた違ったものが見えるぞ?」
「…………」
「まあ、良い。奥義については教えてやろう。もっとも教えたところで、お前がそれを極められるかは分からんがな」

2か月前。

「どうしたの? 美鳥」
「お父様が今日、魔人能力を得ろと」
「……え?」
「私の家の人間が、私が当主になれる方法を見つけたそうです。そのためには私が魔人能力を得て、ある戦いに勝ち残る必要があると」
「戦い? 美鳥が? そんなことできるわけないじゃない」
「私の家に、人間に強力な魔人能力をインストールできる装置があるんですって。それで私が強い能力を得れば、戦いに勝てると」
「魔人の戦いはそんな甘いものじゃない」
「分かっています! でも、もう誰も言うことを聞きません!
お父様も、家の皆も! もう当主になる事しか見えていないんです!」

美鳥の目には涙が溜まっていた。
影虎は驚いた。今まで、こんな美鳥の表情を見たことは無かった。

「どうして……どうして寅蔵になどならなければいけないんです?
私……私、寅蔵になどなりたくありません!
初代の寅蔵は、自分の恨みを周囲に撒き散らし、勝利の為に手段を選ばず、力の無い魔人は見下し、口汚く罵倒する様な男だったと言います!
けど紅井の家では、そんな姿がむしろ立派であると称えられています!
お父様も、お母様も、そんな寅蔵の様にはならず、私に自分らしく育ってほしいと言っていました!
でも、でも力が手に入ると思うと、段々人が変わったようになって……」

美鳥の口から嗚咽が漏れる。
気が付くとファントムがそんな彼女の頬を流れる涙を舐め取っていた。
10歳を超えたその姿はもう立派な大人の虎になっている。

「ファントムは……本当は、寅蔵の様にならないという決意を込めて付けた名でした」

美鳥がそんなファントムの頭を撫でる。

「本当に優しい子に育って……。でも、私は、私達は醜い」
「美鳥」

影虎はそんな美鳥の眼前に立ち、彼女の眼を真剣に見据える。

「そんなことは無い、あなたは誰より優しい」
「影虎……?」
「だから美鳥が泣くことは無い」

影虎の指先が美鳥の目を撫でる。

「あなたを慰めるのはファントムだけじゃない。私も同じ。
美鳥の涙は、私が拭う」


――虎の里。

(あるエルフが習得した、己の肉体を不死身にする能力。
ある魔人警官が習得した、他者にある映像を見せることで、他者の精神を即死させる能力)

影虎は今、寅忍達が美鳥の家の人間に命じられて入手した極秘資料に目を通していた。

(こんなものを、美鳥に)

今見ているのは紅井美鳥に習得させようとしている魔人能力のリストである。
それはいずれも非常に強力な魔人能力であったが、その代償もおぞましいものであった。

(美鳥の家の人間は常軌を逸している。もう美鳥のことを考えている人間なんていない。
このままじゃ美鳥は……)

影虎は更に別の資料を手に取る。
その表紙には「迷宮時計の戦いについて」という題名が書かれていた。

(これが美鳥の言っていた、当主となるために参加すべき戦い)

影虎はその資料に目を通し始めた。


1か月前。

――虎の里。

「影虎、貴様! どういうつもりじゃ!!」

影虎の父、虎影と数十人の寅流上忍たちが影虎の前にいた。
影虎の手には血に塗れた一人の忍と、小さな懐中時計があった。

「これでこの上忍の手にあった迷宮時計の所有権は私のものになった。
これで私にも戦いに参加する資格がある」

「馬鹿がっ!! それは紅井の当主となるべきものが持つもの。
当主候補自らがその度量を見せねば意味は無い! それが紅井の掟!
はやくその時計の所持権を放棄せよ! さもなくば!!」

虎影の周囲の忍達が一斉に攻撃の構えを取る。

「あの優しい子に、あんな戦いをさせろというの?」

影虎が見た迷宮時計の戦いのルール、それは影虎の想像以上に過酷なものであった。
それだけではない、リストには紅井家が入手した、迷宮時計の戦いに参加していると思わしき人間のリストもあった。
いずれも劣らぬ強力、かつ残虐な魔人達。高名な淫魔人の名前もその中にはあった。
そんなところに美鳥が放り込まれれば、どんな目に合うというのか。

「愚か者が!! 手塩にかけて育ててやったものを」
「お父様……育ててもらった御恩……今こそ返します」

影虎は、その手を素早く動かし、ある印を結び始めた。

「そ、その印は……まさか!!」

その印は、やがて影虎の前に一つの形を作り出す、

「まさか……き、極めたというのか!! 寅流の奥義……」

虎影は、上忍たちは見た。
巨大な虎の顔が、影虎の手の中に浮かび上がるのを!

「幻影虎陣形を!!」

影虎の手の中の印が完成する――――!!

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現在。

「影虎……どうして」

紅井美鳥は部屋の窓から外を見つめていた。
その傍らには虎のファントムがいる。

「私を、泣かせないと……言ったではありませんか……」

その眼からまた涙がこぼれる。

「美鳥」

はっと、美鳥は顔を上げる。
そこには空中に立つ影虎の姿あった。

「影……虎……?」
「美鳥、ごめんなさい。今は美鳥を泣かせることしかできない」

美鳥の目が、驚愕に見開かれる。
急に現れた影虎に。そして彼女と共にあるものに。

「でも、嘘はつかない。きっと貴方が笑顔で居られるようにする。
この、私が得た力と共に。
それまで、待っていて」

そして、影虎の姿は消えた。

「ばか……私は……あなたが傍にいれば良かったのに」

呟く美鳥の目に、しかし涙は既になかった。
自らの手で涙を吹き、力強く微笑もうとする少女の姿があった。

「ガオオオオオオオオオオーーーーーーーン!!」

そんな美鳥に応えるファントムの咆哮が、青く広がる空へと響き渡った。