その後の葦出纏と樹脂あくりる


「いや、だーかーらさー、動画のあのデブは迷宮時計なんだよ。
前のワクワク動画で腹時計が同時に二体存在した瞬間あったじゃないか。
あれの応用で、影武者を用意したんだよ。僕も詳しくは知らないけど、それじゃ!」

強引に電話を切り、葦出は逃げ出す準備を始める。
事務所にもワクワク動画にも国会にも質問が山の様に来ているがこれ以上答える気も無い。

「どこへ行く気だ?」

荷物をまとめている葦出に樹脂あくりるが声をかける。

「取りあえず海外かな。G国(※)に視察という名目でほとぼり冷めるまで逃げとくよ」
「だったら拳銃は置いていった方がいい」
「あっ!忘れてたよ。いやーありがと」

葦出はポケットに入れた拳銃を取り出す。
飯田カオルが優勝した直後に撃ち殺せば迷宮時計は僕のものだぜフッハハーと思って入手したものだ。

「ついでにこれ処分しといてくれない?」
「契約に無い、というか私が契約したのはあんたじゃないんだが」
「でも、雇われたにも関わらずカオルちゃん守れなかったじゃないか。
ペナルティみたいなもんだと思って観念してよ。それともカオルちゃんの代わりにここで撃たれてみるかい?」
「やめた方がいい。私は髪と服にガラス繊維を編み込んで防弾している」
「その白髪ガラスだったんだ!?うん、じゃあやめた。改めて拳銃の処分お願いするよ」
「貴様は本当にクズだな。・・・まあ私も人の事は言えないが」

あくりるは拳銃を受け取りながら自分がカオルに協力した時の事を思い返す。
『歴史を変え、自分と同じガラス職人だった男と家族として幸せに暮らす』
カオルが優勝した時に迷宮時計の力で叶えようとした願い。
だが、自分の力で勝ち取ろうとしない時点で家族への愛などあったはずがない。

「私はただ、流されていただけだった。こんな願い、自分でアイツを殴りに行って酒を取りあげれば
簡単に叶ったのにそれをやろうとしなかった。私は最低だ・・・」
「なーに過去回想っぽい事してるの?僕にはよくわからないよ。まあ僕には関係ない事だし逃げるね~。
そーれ、隠し通路からスタコラサッサだぜ~」

葦出は責任を取らされる前に逃げ出した。その後にあくりるもついていく。
彼らはこうして飯田カオルの敗退と同時に舞台から退場した。
迷宮時計争奪戦、それの始まりはこの時より遥かに前の事だったが、
一般社会がこの戦いの存在を本当に信じたのは飯田カオルとその協力者が
失踪したこの日からだった。

※G国について
ヨーロッパに存在する国。あまり先の事を考えず勤労時間を大幅に削ってしまった結果財政が破綻し、
街には雑兵や寄生者が群がりほぼ完全に機能停止してしまっている。この事はヨーロッパ全体に
悪影響を与えユーロの価値を暴落させつつある程だ。

『雑兵』
G国の経済破綻により職を失った者や、就職出来なかった者達が暴徒と化した存在。
茶色のメットと灰色の服を着てG国各地で暴れまわり金や食料を奪っていく。
日本で言うモヒカンに似ているが、細部は大きく異なる。
モヒカンは一般人に襲い掛かる時「ヒャッハー!」と叫ぶが、雑兵は「セイッセイヤー!」と叫ぶ。
モヒカンは筋力と耐久力が一般魔人に匹敵するが、雑兵はパワー面で劣る代わりに亜音速で動ける。
モヒカンの主な死因は内部からの爆発だが、雑兵は頭から地面に激突しての死亡が多い。

『寄生者(パラサイト)』
元々はG国の公務員で、それぞれが警察や建設や予算作成などに関わっていたのだが、
国の方針が誤った方向に行った結果彼らが全く仕事しなくなり、G国は衰退の一途を辿っていった。
そして、G国の経済危機がヤバイ領域に達した時に責任を取らせれクビになった公務員ニート、
或は自ら退職して暴徒化した者が寄生者である。G国公務員試験の体力テスト合格基準が短距離の音速移動の為
彼らのほとんどが音速以上の戦闘行為が可能な魔人である(雑兵が亜音速で動けるのもその為)。
暴徒になる前の役職から三級寄生者(地方公務員級)・二級寄生者(国家公務員級)・一級寄生者(本庁勤務級)
に分類され、当然ランクが上がるほど恐ろしい存在であるとされる。

最終更新:2014年11月02日 02:28