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悩みの迷路 時を重ねた友情


 撫津美弥子は、気付くと布団の上で目覚める形となっていた。
 サバンナでの出来事はまるで夢の事のように感じられ、直前まで感じていた疲労感さえ完全に消え去っている。
 しかしあれは現実だ。撫津美弥子は勝利した。
 腕時計を見ると明らかに前以上の、何かしらの力を感じることが出来る。
 そして、さらに大きく変わったのはそこに刻まれた数字。26。サバンナへ行く前までは34だった数字だ。
 この数字はまだ減るのだろう。……そして、この"消えた数字"の中には希保志遊世も含まれている。

「……遊世さん……イオちゃん……」

 そして、美弥子は再び自分の想像力のなさを確認する事になった。
 自分が勝つということ。それは相手を置き去りにする、もしくは殺さなければならないと言う事だ。 
 今回は全てにおいて運がよかった。
 相手も自分を殺す気はなく、運も手伝い場外勝ちという形に持ち込む事が出来た。
 だが次からこう上手く行くとは限らない。
 勝つためには相手を殺さなければいけない場合もあるかもしれない。

 自分が、人を、殺す?
 眞雪を生き返らせる為に、殺す?
 そんな事が許されるのだろうか?
 だが勝たなければ自分が置き去りになるか、死ぬだけだ。
 でも、だからといって相手を置き去りにしたり殺す事は許されるのか?
 ……自分は何度決意し何度迷いなおすのか?
 知らず知らずのうちに自己嫌悪に陥り、再び思考の迷路へと迷い込んでしまいそうになる。だが。

「……誰なの、その男……知らない人なの……ふっ」
「うひゃぁいっ!!?」

 突然の耳元への声と吐息に驚き、美弥子は粋のいいマグロのように豪快に飛び跳ねた後、その方向を見る。
 見慣れた、友人二人の姿があった。

「みやタン?うなされられましたか?」
「……麗華……シェルロッタ……」
「あ、ツッコまないで美弥子、今回は忍び込もうとしたわけじゃないの。純粋な気持ちで美弥子に会いに……」
「…………!!」

 美弥子自身には、わからなかった。
 何故私はこの二人の顔を見た途端泣いてしまったのか。
 実際の所、美弥子は自分が思っている以上に不安だったのだろう。
 それ故に一人で悩み思考がループしてしまった。
 今の美弥子には話しあえる相手というものが必要だった。
 希保志遊世に対する、イオのように。

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「……れいかの美弥子が、そんな事件に巻きこまれてるなんて……しかも、眞雪のせいで……
 本当に……あいつは……ろくでもないやつなの……」
「みやタン休んでたと思ってらっしゃったら大変な事に巻きこまれたるはでしたね……」

 直前までこの事は絶対に秘密にしておかねばならないような気がしていた。
 もしかしたら眞雪もこの強迫観念に襲われて話す事が出来なかったのかもしれない、と美弥子は思った。
 そのおかげで『それなら仕方ない。自分に相談しなかった事は許してやるか』という気持ちにもなれた。

「……その、飯田カオルさんに、助けを求める事は、出来ないの?」
「それは、いろいろ考えたけど……やっぱり無理だよ」
「どうして?」
「まず、飯田さんが必ず交渉に成功して、勝てるとは限らないんだ……それに」

 "次も俺達みたいに優しい相手とは限らないんだ"
 遊世の言葉を思い出す。それは彼の言ったように「本気で殺しにかかってくる相手」だけとは限らない。
 他の時計所有者を騙そうとするものも当然いるだろう。
 飯田カオルがそうであるとは言い切れないが、そうでないとも言い切れない。

「助けが間に合う可能性があるかどうかもわからないって事も今回のサバンナでわかった。
 サバンナわかる?すごく暑いし獣だらけだったんだよ?樹海なんて目じゃないくらい怖かった。
 ……だから知らない誰かに頼るなんて事は最初から出来なかったんだよ」

 美弥子は自分でも驚くぐらいに冷静な分析をしていた。
 それは二人に相談する事によって、麗華の意見を聞くことによって全ての要素を咀嚼することが出来た為だ。
 知らない誰かではなく見知った親友と話せたからこそ、美弥子は少しずつ理解しはじめていた。
 この戦いがどれほど逃げ場がなく残酷な物であるかということも含めてだ。
 それを踏まえて、美弥子は自分がどう戦いたいのかも確認することが出来ていた。

「じゃあみやタンは一体どうしていたらいいでしたか?」
「勝てば、いいんだよ」
「……美弥子」
「勝って眞雪を助ける。遊世さんとイオちゃんも助ける。これから戦う人も出来る限り、助ける」
「美弥子」
「迷宮時計の力があれば出来る……って思った、なんていうか……ヒラメキ?とかそういうのが……」
「勝てるわけないの!!」

 麗華が声を荒げた。
 美弥子もシェルロッタも目を丸くする。
 対する麗華の目は赤く潤んでいた。

「美弥子、そんなの……絶対、上手く、いくわけ……ないの……
 ……美弥子が、負けて……し、死んだら、れいかは……どうすれば、いいの……?」
「……麗華」
「嫌なの……眞雪だけじゃなくて……美弥子とも会えなくなったら……れいかは……」
「……」

 その言葉に美弥子は何も言えなくなる。
 どれだけ虚勢を張ろうとも、魔人の能力があろうとも
 小学生が大人に殺し合いで勝てる可能性は負ける可能性と比べて圧倒的に低い。相手も魔人であればなおさらだ。
 そして無理に戦うよりもすぐに降参したほうが少なくとも友人二人と無事に再会出来る可能性は残りやすい。
 美弥子にもそれはよくわかっている事だった。

「いつもみやタンがツッコむであったが、今日はれいタンがツッコミったでしたか」

 そんな気まずい沈黙をシェルロッタがいつも通りのぼんやりとした口調で破る。
 二人が見るよりも先に、彼女は話の続きを始めていた。

「みやタンもれいタンもちょいっと熱くなられておりますな。少し落ち着くがよかです」
「どうやって落ち着くっていうの……!」
「……うー……何かこう……オチをつけてたらいいです?落ち着くだけに……?」
「……いや、なにそれ」

 美弥子は思わずツッコんだ。
 当然異常な事は何も起こっていないので、何かが変わるわけでもない。

「あたしじゃやぱしボケが上手くいってなかですね……でも、みやタンはツッコミしてるのが一番であるです」
「……言いたかったことそれ?」
「……ふふ」

 思わず麗華は、涙目になりながらくすりと笑ってしまった。
 シェルロッタはぼんやりとした笑顔を浮かべ、やがて美弥子もてへりと笑った。

「本当に、タロマルは……おばかさんなの……」
「おお」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「……戦うのは、わかったの……でも絶対に死なないで。それだけは、お願い」
「うん、わかってる」
「必ずみやタンは勝てるって思ったとです」
「ありがとう麗華、シェルロッタ。」

 "本当に危ないと思ったらすぐさま降参するんだ"
 遊世の言葉を再び思い出す。
 私は二人を悲しませたくはない。

「美弥子……れいか達に出来る事があれば、なんでもするの」
「みやタン、あたしにもご気軽に言うてほしいでしたな」
「……うん!」

 絶対に勝とう。せめて、負けないようにしよう。
 二人の友人を抱きしめて、美弥子は改めてそう心に決めた。