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第一回戦SS・寺院その1


『瞬間的連続女陰交換』


【目次】

 一、ラブ・コミュニケーション
 二、淫魔人
 三、釈尊微笑禅(みしょうぜん)
 四、遅速戦闘絵図
 五、時空間超越スワップ
 六、意義深き実験
 七、揺れる想い



 一、ラブ・コミュニケーション

 少女は食べ終わった鯖缶をコトリと地面に置くと、薬局から失敬してきた赤まむしドリンクの蓋を開き、ごくりと息を呑んでからそれを口にした。リポビタンDのような味わい……。生臭いものを想像していただけに、意外なまでの口当たりの良さにホッと安堵する。飲み終わると、小さく咳が出た。受け止めた掌が赤く濡れている。
 人っ子一人いない荒廃した街並みのど真ん中で、菊頭ヒナは一人孤独に血を吐いた。けれど、後悔はない。これは彼女の選択なのだ。大切な、大好きな、男の子を守るための選択……。廃れた街に冷たい風が吹き抜ける。けれど、寂しくはない。彼女はもう、一人ではないのだから。
 ポシェットの中から少女は大切そうにそれを取り出した。人間の右手だ。半透明に透けたそれは、彼女の大好きな男の子の――天樹ソラのものだった。ソラと別れたあの場所へ毎日のように通っていた彼女は、そこに落ちていた彼の右手を見つけたのだ。
 右手は数枚の紙を握りこんでいた。そこに書かれていた文面から全てを把握した彼女もまた手紙を認めた。彼の右手へと握らせた紙はシュっと消えて、しばらくするとソラからの返信が届いた。彼女の瞳から涙が零れた。必死に書き綴る手紙が涙で滲んだ。ソラから来る手紙も滲んでいた……。
 しかし、二人の奇妙な文通は数日の後に終わりを告げた。そして、今は――、
 半透明の右手を愛おしげに握った彼女は、それを顔へと近付ける。ソラの右手がぴくりと動いた。相手も気付いている。赤い舌先を伸ばし、掌の真ん中をなぞる。ソラの右手指先もまたヒナの頬をなぞった。
 頬を桜色に染めた少女はソラの右手をいよいよ己の股間へあてがう。すると、途端に右手がモゾモゾと動き出して、

「あんッ――」

 たまらず、ヒナがびくりと身体を震わせた。

「ゴホッ、ゴホッ、ゲホッ!」

 吐血も伴うが、それでも構わず彼女は己の股間へと強く強く右手を押し付ける。ソラも応えて彼女の股間を無茶苦茶に掻き回す。

「ああッ。あんん! 今日も届いてる――、届いてるよッッ! ソラあぁぁっ!」

 二人は奇妙な文通を止めた。そんな必要は最早なくなったから。ソラが彼女の股間を掻き回すだけで全てが伝わる。彼の温かな気持ちも、悲しい想いも、過去の思い出も、明日への希望も、そして、今晩の献立の予定に至るまで――、細やかな指使いが全てを伝える。ヒナの股間の蠕動も同じだ。限られたコミュニケーション手段の中で彼らは可能性を押し広げ、この手マンによる意思疎通技術を確立したのだった。時には口よりも雄弁なものがある……。
 彼女はもう寂しくなかった。食事と睡眠の時間を除き、大体一日18時間はソラの手マンを受けていたから。毎日18時間、少女は大好きな幼馴染とおしゃべりを続けていたのだ。人っ子一人いない荒涼とした廃墟の中に一人佇む彼女。けれど、大好きな男の子と一緒の時間は、以前よりもずっと長くなった。だから、彼女は後悔なんてしていない。いつだってソラと一緒だ。ずっとソラと繋がっている。
 今日も乾いた街の只中で、女子高生が一人、悶絶に身をくねらせるて、恋人からの贈り物を受け取っている――。



 二、淫魔人


10月4日 13時18分

対象の瞬間的消失現象を確認。観測開始以降、9月18日、同月25日に続く三度目の発生。Mr. Champ、飯田カオル、山口祥勝らの発表した"迷宮時計"事案の可能性大。全容解明のため"ラプラス"の使用許可、もしくは演算結果の共有を求む。対象の前後の行動、並びに同時刻に発生した行方不明者のリストを一時間後に送信する。


10月7日 10時25分

"ラプラス"により挙げられた迷宮時計所持候補者の内、四名の消失を確認。演算結果の正確性は現時点で84%程度と目される。追加のデータを送信する。迷宮時計の能力が組織の計画の障害となる可能性あり。飯田発表の内容検討を進言する。


10月12日 21時11分

対象の四度目の瞬間的消失現象を確認。"ラプラス"の演算によれば、対象の戦闘相手は白金虹羽。以下、データ。

男子。魔人。希望崎学園の一年生。武器は金属バット。運動能力:B+ 近接戦闘力:B+ 中距離戦闘力:A 長距離戦闘力:E 戦闘精神力:C 戦闘経験:B 能力は『秘剣・万刻白嵐界』。武器のスイングに伴う衝撃波による中距離攻撃。

総合的に鑑み、B-003107試験型ビッチ コードネーム:猟奇温泉ナマ子の勝利は確実。組織としての今後の対応を指示されたし。


10月13日 2時7分

今に至るまで白金虹羽の存在を確認できず。過去の所有者同様、別時空の戦闘空間へ取り残されたと思しき結果。一連の仮説と"ラプラス"による予測の正確性が裏付けされた。偉大なるニャントロを称えよ。ニャントロ・アラヤ! ――一方で、これまでの情報を綜合し、迷宮時計の全容解明こそが喫緊の課題と提言する。飯田発表の検討を重ねて進言する。


10月15日 15時18分

約70時間後に発生予定のB-003107試験型ビッチと天樹ソラの戦闘を検証することで、"ラプラス"の演算結果の信頼性証明としたい――偉大なるニャントロに栄光あれ――。追加でデータを送信する。データベースに組み込まれたし。


10月17 10時32分

天樹ソラのデータ構築完了。

男子。魔人。県立市崎高校の二年生。武器はなし。ただし、『スズハラGX』なる薬品を大量に所持。スズハラ機関の関与が濃厚<別紙にて詳記>。運動能力:D 近接戦闘力:B 中距離戦闘力:E 長距離戦闘力:E 戦闘精神力:D 戦闘経験:D 能力は『今度こそ、君に届くと』。別空間に存在する自身の右手へと、右手で掴んだものを送り込む能力(その逆も可?) 事実上の防御無視万能貫通能力。別空間に恋人を残してきた可能性。別空間の在所は不明。"ラプラス"による演算結果もERROR。次元を挟んでいる可能性大。

B-003107試験型ビッチとの戦闘相性は悪いが、天樹ソラは魔人になってからの日が浅く、戦闘経験まで考慮すればB-003107試験型ビッチの勝利は揺るぎない。ソラのデータを伝えることで戦闘結果を確定させうるが、監視対象へのアクセス可否を検討されたし。


10月18日 13時33分

対象の四度目の瞬間的消失現象を確認。事前推定通り天樹ソラを打倒した模様。三時間後、天樹ソラの存在確認の後に今回の結果を確定する。迷宮時計の仕様、並びに能力の全容解明のために"ラプラス"の使用許可と、今後の組織の行動計画への影響を演算するよう重ねて進言する。"コンダクター"へ現状の説明を願いたし。


10月18日 16時37分

天樹ソラの存在を確認できず。この世界からの消失と判断し、B-003107試験型ビッチの勝利をデータベースに組み込む。期待される正確性は95%。なお、対象に不審な動きあり。一時、尾行を中止し身を隠す。


10月18日 16時54分

対象から逆に尾行を受けている可能性あり。念のため可変樹脂マスクの整形パターンをEからGへと変更する。……対象と目が合った。まさか。気付かれているはずは。急ぎこの場から離脱……いや、馬鹿な……。しまった。いつの間に…………これは『プレロー


 ***

 ごくり――、と生唾を飲み込み、男が身体を震わせた。

「動くな」

 耳元で呟いた女の声を受けて直立不動の姿勢を取る。
 背後から抱きつくようにして彼の身体をホールドする女は、伸ばした右手で男の股間を握っていた。雑踏の中に佇む二人は、傍から見れば公衆の面前で囁き合う色気だった恋人たちにしか見えまい。だが、ゾッとする程の冷たい声で、女は言った。

「動けば、セックスする――」
「ま、待て……ナマ子。頼む。俺は、俺は――」
「フン」

 男の助命を鼻で笑うと、猟奇温泉ナマ子は指先で男の一物を軽く刺激した。

「あう!」

 忽ちに男が射精。全身の力が抜けていく。スラックスの前部は夥しい量の白濁液で汚された。

「ピーチクパーチクうるさいその口も止めろ。私の質問にだけ答えるんだ。さもないと――」
「わ、分かった。分かったからセックスは……ア、アウアーッ!」
「質問にだけ答えろと言ったはずだ」

 男が無言でぶるぶると首を縦に振る。

「まず顔を見せろ」

 ナマ子の拳が軽く男の横面をはたくと、顔面を覆っていた変装用樹脂マスクがぺろりと落ちる。ほとんど人皮に等しい品質のマスクだが――ニャントロから与えられたものだ――衣服の一部であるからにはビッチ拳術の前には紙にも等しい。
 だが、マスクの下から現れた素顔を見て、ナマ子がチッと舌打ちを漏らした。

「キユ、貴様か……」
「そうだよ……俺だよ、ナマ子。頼む、頼むからセックスだけは」
「うるさい」

 三度加えられた愛撫にキユと呼ばれた少年がたまらず射精した。
 チィ、と再びナマ子は舌打ちを漏らすと、少年の股間をさらに刺激する。「うおッ」 愛撫を受けて反射的に少年の右手が上がった。その手首を掴み、右手首にインプラントされた空中投影型ハンドヘルドコンピューターを操作する。網膜にインプラントされた特殊フィルターを介して、ナマ子は少年の送信情報を確認していく。

「白金虹羽のデータも天樹ソラのデータも事前に取得済みか。私たち時計所持者が24時間前にしか知らされない対戦者情報も70時間以上前に演算している……」

 ナマ子が唸った。彼女がかつて所属していた組織――、ニャントロ国際親善協会の力はやはり侮れぬ……。
 いや、所属していた、というのは正確ではない。彼女は組織に飼われていた、もしくは、造られたのだ。ビッチによる世界征服を企む"コンダクター"たちのオモチャ、試験体ビッチ。試作商品名「コンキスタ人形」。地獄のビッチ養成機関「虎の尻穴」に放り込まれた数百名の幼女のうち、そこを生きて卒業できたのは、実験開始から3年目にようやく一人だけ。それが猟奇温泉ナマ子だった。
 彼女はキユの最後のレポートに目を留めた。

「これは既に送信済みか?」
「い、いや! まだだ、まだ送ってない」
「今から言う通りに書き換えろ。ナマ子は貴様に気付いていない。貴様はこれからもナマ子の監視を続ける。分かったな」
「わ、分かった!」

 従順な羊のようにキユがレポートを書き換え、ナマ子は注意深くその動きを見張る。少しでも不穏な動きがあれば、直ちに少年を搾り殺すつもりで股間を握る右手に力を込める。
 見張るうちに、キユのレポートの内容がちらちらと目に入る。

 ――B-003107試験型ビッチの勝利は揺るぎない。

 フッ、と苦笑を漏らした。無根拠に脳天気なことを言うものだ。
 天樹ソラとの戦いは「揺るぎない圧勝」などとは程遠いものだった。実際、どちらが死んでもおかしくない死線スレスレのギリギリの戦いだった。どうして勝てたのか未だによく分からない程――敵が突然に戦意喪失したのだ。
 それに、このデータには欠けているものがある。
 天樹ソラ――。

 やつはおそろしい"淫魔人"だった。



 三、釈尊微笑禅

 猟奇温泉ナマ子が迷宮時計により送り込まれた先は、木造建築の中であった。目の前にはライダースーツに身を包んだ少年。ご丁寧にヘルメットまで小脇に抱えている。こいつが天樹ソラか、とナマ子は直ぐに察した。
 二人の周りには浅黒い肌をした男たち。黄土色の汚らしい布を身体に巻きつけ、頭を剃り上げた彼らが、突如現れた異装の男女に目を剥いて驚いている。その中でただ一人、螺髪の中年男性だけは坐したまま微動だにせず、アルカイックな微笑みを湛えて、闖入者たちの姿を半眼で見詰めていた。ナマ子もソラも知るところではないが、ここは約2500年前のインド。祇園精舎と呼ばれる僧院の中であった。中央に坐す螺髪(らはつ)の男は著名人であったがナマ子には何の関係もなく、ただ「邪魔臭いな」と思い、周囲の僧たちを睥睨した。そして、

 ――『プレローマ』

 能力を発動する。唐突に彼女の周囲が不可視の気体状オナホールへと満たされる。露出度の高い僧たちが、皮膚に覚えた異様な感覚に仰天してスッ転ぶと、途端に全身を愛撫的感覚が走り、激しく射精。果てる。チッとナマ子が舌打ちする。目の前の敵に己の能力のヒントを与えてしまった。やはり邪魔だ……。
 ただでさえ、ナマ子とソラの間には情報格差がある。ナマ子は第一回希望崎ビッチ選手権の出場者だ。フリービッチバトルである準決勝では手も足も出ず鏡子に破れたため、『プレローマ』までは知られていないだろうが、彼女が淫魔人であり高い愛撫能力を持つことは少し調べれば誰でも分かる。目の前の少年の全身を覆う重武装も、おそらくは彼女の愛撫を警戒してのことだ。
 一方、ナマ子は24時間を掛けて徹底して天樹ソラを調べたが、情報はあまりに少なすぎた。そもそも魔人覚醒してほとんど日が経っておらず、さらに魔人覚醒の契機となった事件は戦闘空間にて発生していたようで調べようがなかった。如何なる魔人能力を持つ敵なのか、まるで分からない。
 その天樹ソラが、右手の手袋を脱ぎ、大事そうにポケットに仕舞いこむと、彼女に向かって右手を伸ばしてきた。

 ――握手のつもりか?

 ナマ子は反射的にその誘いを受けて右手を伸ばす。無論、対戦相手と友情を育むつもりなど1ミリもない。相手の素手を掴めるなら、そのまま手指先の愛撫で射精させるまでだ。だが――、

「!」

 二人の握手が交わされるその寸前! 異変に気付いたナマ子がサッと手を引いた。一方でソラの右手が彼女を追って伸びる。ソラの半透明の指先がナマ子の右手首に触れると、彼女の手首が半ばまで抉れて盛大に血が噴き出した! そういう力か!

「チィ」

 思わず飛び退ったナマ子に『プレローマ』の性的快感が襲うが、彼女はむしろ左手で己の股間を激しく愛撫。「うッ!」 股間に大量の血液が集まり手首の出血が止まった。ビッチ止血術だ。続けて激痛が彼女を襲う。ナマ子はさらに股間を刺激。性的快感が波のように全身を走り一時的に痛みを忘れる。ビッチ麻酔術! だが、突然の少女の大量出血に周囲の僧侶たちは慌てふためき射精! 釈尊は微笑を湛えたまま勃起!

「く、くそッ」

 猟奇温泉ナマ子は己の怯懦を恥じた。相手の誘いに乗って、迂闊に右手を差し出したこと――、ではない。半透明に透ける相手の掌にただならぬ気配を察し、怯えて右手を引っ込めた己の弱さに、だ。

 ――鏡子なら、躊躇はしなかったはずだ!

 もしも鏡子ならば、己の腕が抉られるよりも先に愛撫で射精させ、敵の能力を無効化したはずだ。それが己には叶わぬことを……ビッチして鏡子より格下であることを……彼女は無意識のうちに自覚していたのだ。それを恥じた。
 だが、相手の天樹ソラも困惑していた。ナマ子を追ってスッと伸ばした右手にとんでもない性的快感が走り、危うく射精しかけていたのだ。スズハラ機関のエージェント『N』から受けた助言を思い出す。この女は淫魔人。それも空間を淫靡に変える結界能力の持ち主――……。



 四、遅速戦闘絵図

 猟奇温泉ナマ子が近付いて来る。ぱんつをぺろりと脱ぎ捨てて、異様なまでにゆるりとした動きで彼へと向かって来る――。
 天樹ソラは魔人としてはルーキーだ。覚醒したてのひよっこで、覚醒前も暴力沙汰に巻き込まれたことなど殆どなかった。
 だが、ヒナと生き別れ、迷宮時計を巡る戦いに巻き込まれてからの彼は、命懸けの数度の戦闘を糧に貪欲に戦闘技術を吸収した。恋人への一日18時間の手マンと平行して、死線をかいくぐるための力を蓄えてきたのだ。彼は本来平和的な性格であるが、この戦いだけは勝ち抜かねばならない。どんな手を使っても。菊頭ヒナをこの手に取り戻すためなら修羅ともなろう。
 その彼の研ぎ澄まされし洞察力は既に『プレローマ』の核心へと迫っていた。速度に比例し、愛撫的感覚をもたらす力であると見抜いていたのだ。ナマ子の異様な遅速がそれを裏付けた。禁断の二粒目のスズハラGXを口に放り、噛み砕く。この空間では素早い動きは禁物だ。数手先を読む将棋のような、冷静な打撃運用で相手の急所を右手で掴まねばならぬ。そのためには戦闘神経のブーストが必要だったのだ。
 だが、スズハラGXの過剰服用をもってしてもそれは余りに困難なミッションであった。その能力の特性上、猟奇温泉ナマ子の近接打撃技術はこれに特化した形で磨き上げられていたからだ。
 ソラがゆるりと伸ばした右掌を、半ばまで削がれたナマ子の右腕がゆるりといなすと、続けてナマ子の左手が彼の股間へと伸びる。それを左手でゆるり押し下げて防ぐと、今度はナマ子の右腕が切り返し、ゆっくりと彼の顔へ迫る。防御が間に合わない! 全ての動きが異様に遅く敵の狙いは丸分かりだが、防げない。身体運用に許された速度は両者共に一定値以下であり、手が二本、足が二本しかない以上、間に合わない攻撃はどうやっても防げない。ナマ子の右手指先がヘルメットをピッと掠めると、それだけでヘルメットは遥か向こうへ飛んで行く。脱衣に特化したビッチ拳術!
 ゆるりとしたナマ子の動きが、ゆるりとした相手の攻撃をいなす、いなす、いなす。そして、ソラの手が足りなくなったら、位置的優位を獲得していたナマ子の腕がソラの腕や胸へと達する。触れた先のライダースーツが紙でも破くかのように裂け散り、少年の素肌が露出していく。

 ――この右掌で! 相手の急所を掴めば勝ちなんだ!

 ソラは焦って右手を伸ばすが、急ぎすぎた右手に性的快感が走り、「うッ」、その動きが一瞬止まった。そこにまたゆるりとしたナマ子の手刀が伸びて、胴体部のライダースーツを斜めに斬り上げると、ついに彼の上半身は完全に露出した! ナマ子はニィと笑みを見せると、些かの性的快感は覚悟の上でスッと進んで距離を詰め、ソラの右手首を掴んだ!

「なっ!」

 最大にして唯一の武器を封じられ、ソラが顔を青ざめさせる。だが、彼を真の衝撃が襲ったのは次の瞬間であった。ナマ子は彼の右掌をゆるりと運ぶと――、
 なんと、己の股間へと押し付けたではないか! 
 勝利を確信し、猟奇的ビッチが肉食獣の笑みを見せる。



 五、時空間超越スワップ

 ナマ子の取った行為は自殺行為であろうか?
 股間を削ぎ取られれば勝負アリ、である。ビッチ止血術もビッチ麻酔術も使えぬ。いかにも無謀に思われたが、しかしこれは、ナマ子のビッチとしての強烈な自負心がもたらした戦術であった。
 見よ! 現に天樹ソラはナマ子の女陰を掴めども、それを削ぎ取ることができない! いや、彼の右手は彼女の股間を愛撫しているではないか! 苦しげな表情でソラはナマ子を手マンし続ける!
 猟奇温泉ナマ子は強烈なエリート意識に支配されたビッチである。エリートビッチである己が股間を剥き出しにして迫ったのだ。股間を無視できるはずがないと当然のように信じていた。仮に相手が自分の性的魅力をまるで無視して股間を削ぎ取るようであれば、そのような三流クズビッチは死んで当然とも思っていた。だから、彼女は躊躇なく少年の致死的掌を己の股間へと押し当てたのだ。
 そのままナマ子はソラの身体をゆるりと押し倒すと、組み伏せた形で相手の胸へと舌を這わせた。

「ウゥッ!」

 たまらずソラが射精! スズハラGXの効能により射精量も三倍! さらにソラの股間を掴む。「ウッ!」 射精! これは完全なビッチマウントポジションだ! ソラの唯一の武器である右掌は今、彼女の股間に封印されている。しかし――、

「……くうゥゥ」

 組み伏せているはずのナマ子が苦悶の喘ぎを上げた。股間から愛液が飛び散る。彼女にも誤算があった……それは、天樹ソラが思いの外テクニシャンであったことだ。彼女は知る由もない。天樹ソラがここ半月間、毎日18時間の突貫手マン猛特訓を積んでいたことを。油断ならぬ相手! だが、ナマ子にも乳児の頃より受けてきたビッチ特訓の年輪がある。セックスアドバンテージはまだ彼女の方が上! 男女の激しいセックスを目の前にした若きアーナンダがたまらず射精!
 一方で、天城ソラの方も異常な心理状態へと陥っていた。ナマ子の愛撫を受けて死の危険が迫っていることに、ではない――。敵であるはずの女の股間を刺激し、それを止められぬ己に対してだ。これはヒナに対する裏切りではないのか――? 自分は何を馬鹿なことをやっているのか? 死の恐怖以上にヒナへの罪悪感が彼の心中を占める。こんな迷妄は何としても振り払わねばならぬ! 彼は思わず叫んだ!

「ヒナ――ッッッ!!!」

 *

 その時――。
 別世界で轟いた恋人の声が、ヒナに届いていた。届くはずのない彼の叫びが。ヒナはハッとしてポシェットを開く。恋人の右手が何かを訴えるように躍動していた。彼女は直ちにそれを己の股間へと当てた!

「あんッ!」

 ヒナの身体が性的快感にぶるりと震える。これは……いつもの愛撫とは違う。ソラが、どこかで激しい愛撫を受けている。その愛撫が愛撫を介してヒナの身体にまで伝わったのだ。これが裏切りでも浮気でもないことを彼女は直ちに悟った。そして、今ここでソラの右手が自分を強く求めたことも、きっと意味のあることだと彼女は思い、さらに激しく、己の股間にソラの右手を押し付けた!

「ああ――ッ!!!!」
「あああ――ッッ!!!!」

 時空を超えて恋人たちの喘ぎがユニゾンする。だが、これこそがソラの狙いであったのだ。彼は、右手でナマ子の股間を愛撫するのと同時に、もう一つの右手でヒナの股間を愛撫した。両右手女陰性感! これによりヒナの股間への想いを高め、ナマ子の股間への迷妄を吹っ切ろうとしたのだ! そして、それは現に成功した! 

「今度こそ――!」

 叫んだ! ソラが叫んだ!!

「君に、届けーッ!!!」

 ナマ子の股間を掴む右手の認識を、廃墟でヒナの股間を掴む右手の認識へと移し替える。これでナマ子の女陰を削ぎ取ることができる! ……はずだった!

「ぐおおええエーッッ!」

 途端、ナマ子が獣じみた呻きを発した! だが、それは女陰が削ぎ取られた苦痛によるものではない! おお見よ、ナマ子の女陰を! その女陰は今や……、

 ――ヒナの女陰ではないかッ!?

「あッ、ウウッウーッッ!」

 同時に廃墟のヒナが白目を剥き絶叫を上げる。おお、彼女の股間にはナマ子の女陰が! そう、あの瞬間、ナマ子への迷いを振り切ったはずのソラだったが、そこはナマ子も流石のセックス巧者! 瞬間的に愛撫を高めることによりソラの股間への想いを揺り戻して、彼の認識をあやふやならしめた! その結果がこの、両者女陰交換であったのだ! 今度こそ、ヒナへと届いた! ナマ子の女陰が――!!!

「しまったァーッ!」

 ソラが慌てて再度の女陰交換を試みる! 時空を越えて飛び交う二つの女陰!

「ぎゃ、ぎゃるるゥウウウーッ!」
「アッギャギャアーッ!!!」

 空間を紡ぎ二人の女子高生が喘ぎ叫ぶ! どちらの女人にとっても、これは全く未知の性体験だ! 当然だが、女陰も人によりそれぞれ異なり、性感覚も様々異なってくる。その異なる性的快感! 生まれて初めて味わう別角度からの股間刺激! それが一瞬の後に入れ替わり、二人の女人を訳の分からぬ快楽の波で苛んだのだ! この性的快楽はあまりにも異様な刺激であり、おお、ナマ子を見よ! 白目を剥き、泡を吹いて苦しんでいる!

「こ、これだッ!」

 そして、ソラはそこに勝機を見出した!

「ウオオー! 君に届けーッ!!」

 己の魔人能力を振り絞る! 瞬間的連続女陰交換! ニョイン、ニョイーン! 音を立てナマ子とヒナの女陰がゼロコンマ1秒間隔で目まぐるしく入れ替わる! そして、畳み掛けるソラの高速振動手マン! ウオオオーッ!!!

「あばばっ、あばばばッッ、あばばばばばーッ!!!」

 ソラの身体の上でナマ子が電撃に打たれたかのように痙攣し、その激しい痙攣にさらに『プレローマ』の性的快感が上乗せされ、もう滅茶苦茶だ、やめてくれーッ! 目口鼻から愛液を激しく噴き出し、ナマ子の身体は壊れた玩具のように乱れ、あまりの光景に修行の足りぬ菩薩たちが発狂! アルカイックスマイルを崩さぬ釈尊が立ち上がり、アーナンダに強烈な拳を一撃。悟った! 
 一方で、二つの女陰の連続交換を為すソラは、己の上で乱れ狂う女を見て勝利を確信していた。ナマ子は己の『プレローマ』に敗れた、自業自得、墓穴を掘ったのだ! ……だが、彼にも一つの誤算があった。それが彼に悲劇的破滅をもたらしたのだ!
 恐るべき瞬間的連続女陰交換の使い手であるソラの下へ、女陰を通じて一つのメッセージが……、愛する恋人からの最期の言葉が届けられていた。彼女の股間は途切れ途切れの言葉でそれを告げていた。


ご……

 め……




ね……

 か



バイ……

 バ


イ……


 ソラは叫んだ! メッセージの意味に気付いた瞬間、ソラは叫んだ!

「ああああッ、ヒナ! ひなああッ! 何故だ、何故、なぜ君が。ヒナアアアッッ!!!」

 廃墟の中、一人取り残された女子高生は、全身の穴という穴から愛液と血を吐き、事切れていたのだ。僅かずつ体温を失していくヒナの女陰が悲劇を裏付けていく――。



 六、意義深き実験

「もう、やらないのか」
「ああ……」

 ビッチの下で、少年は力なく答えた。流れる涙を止めることもできずに――。

「もう、僕には……戦う理由が、何もない。頼む、殺してくれ」

 菊頭ヒナは死んだ。少年は彼女のために死線を潜っていた。いつか、彼女を取り戻せる日が来ると信じて……。本来は平和主義の優しい男の子なのだ。彼女のためだけに無理をしてきた。目の前のビッチとだって、本当は戦いたくなんてない。女の子を傷つけたり、殺したりなんて、したくない――、全部ヒナのためだった。ヒナのために修羅となった。それが、どうしてあんな結末に……。
 天樹ソラはもちろん瞬間的連続女陰交換により、同等の性的刺激がヒナに及んでいたことを理解していた。彼女の身体がスズハラGXの副作用により傷んでいたことも知っていた。それでも、まさかナマ子より先にヒナが果てるだなんて思ってもいなかったのだ。だって、ナマ子には『プレローマ』の恐るべき性的快楽が同時にもたらされていたから。それが、どうして……どうしてヒナが先に……。彼女の身体はそこまで傷んでいたのだろうか……。
 その謎にソラは最後まで気付くことはなかった。だが、それに気付けというのも酷な話だろう。秘密は、ナマ子とソラが太極拳めいた緩慢な動きで相手の身体に腕を伸ばしていた時にある。能力を発動しながら伸ばしたソラの右掌はナマ子の拳術にいなされ空を薙いでいたが、その時に彼は気付かぬ内に、不可視の気体状オナホールを――『プレローマ』を、あちらの世界へ送り込んでいたのだ。廃墟で朽ちた少女の周囲は今も気体状オナホールで満ちている……。
 ともあれ、天樹ソラには最早生きる理由がなかった。ましてや戦う理由などなかった。

「フン」

 そして、猟奇温泉ナマ子にも彼に止めを刺す理由はなかった。

「殺してくれ、だと……。クククッ、私に命令するな」

 ビッチのセックスは容易に相手を殺しうる。だが、殺してしまえば、それはビッチではなく殺人鬼だ。
 彼女は少年の身体を弄った。彼女には気になる点が一つあった。そう、少年があの時に飲んでいた謎のカプセル薬だ。しばらくしてそれを見つけ出した彼女は、ラベルに刻印された「スズハラ」の文字を見て顔をしかめた。

「チイッ……奴らが関わってるのか」

 この世界の影で暗躍する秘密結社は、ニャントロ国際親善協会以外にもナマ子が知るだけで六つある。当然、各組織の間に協調などない。ニャントロとスズハラも緩やかな対立関係にある。

「スズハラの作ったものならば、ロクなものではないはずだ」

 ナマ子はカプセルを己の口へと含んだ。彼女には天樹ソラを殺す理由など無い。

「どうロクでもないのか、一応確認しておくか」

 そのまま彼女は唇を天樹ソラへと近付ける。相手の唇を舌で押し開き、唾液にまみれたカプセルを相手の口内に押し込み、そのまま舌を絡みつかせると……相手が堪らず嚥下した。そのように舌を動かしたのだ。

「うッ!」

 身体の下の少年は小さな呻きを発した後、ギッタンバッタンと身体を跳ね上がらせて酷い痙攣を見せた後、

「おおオッゲエエエエ―ッ!」

 ぶるぶる身体を震わせながら噴水のように血を吐いて死んだ。
 雨のように降り落ちる血を全身に受けながら猟奇温泉ナマ子は立ち上がると、手にしていた薬袋をポイと投げ捨てた。

「やはりロクでもない。関わるべきじゃないな。くわばら、くわばら」

 彼女には天樹ソラを殺す理由などなかった。だが、彼の身体で人体実験を行う必然性はあった。三つで死ななければ四つ、五つ、六つと飲ませる気でいた。彼女はビッチでもあったが殺人鬼でもあった。生命に対する尊厳がナマ子には根本的に欠けている……。
 猟奇温泉ナマ子の身体が薄れていき、戦闘空間からの離脱が始まる。狂気に満ちた僧院の中、陰惨な死を遂げた少年の亡骸を前に、釈尊が静かに説法を始める――。



 七、揺れる想い

 必死に書き換え作業を続けるキユの一物を掴んだまま、ナマ子は彼のレポートへと目を走らせる。「別空間に恋人を残してきた可能性」 この一文に目が止まる。天樹ソラの突然の戦意喪失の理由を推し量る――……。
 ソラと、顔も知らぬ彼の恋人のことを想いながら、彼女は少年の一物をギュッと握りしめた。「ウッ」と唸り、キユが苦しそうな喘ぎ声を出し、振り返って怯えた目つきで彼女を見る。キユは――、ナマ子の数少ない「友達」と呼べるかもしれない人間だった。
 ニャントロ国際親善協会が集めた男女無数の孤児の扱いは劣悪を極めていた。同年の女子255名のうち、生き残ったのはナマ子一人だけ。友達と呼べる女の子もいたが、それも多くは彼女が殺した。「虎の尻穴」は非情なるビッチとして振る舞わねば生き残れぬ世界だったのだ。
 男子の孤児の扱いは女子に輪をかけて酷いものだった。キユのようにエージェントとして生き残れた者は極わずか。他の者は厳しい訓練の中で命を落とし、"コンダクター"の戯れで殺戮され、あるいは女子ビッチのセックス実験台として死んでいった。
 そのキユでさえ去勢手術を受けていない。"コンダクター"たちは来るべきビッチ一強時代に備えて全員が去勢している。去勢程度でビッチを防げるわけがないのに、馬鹿な話だが、ともかく彼を去勢していないということは、キユもまたその日が来れば使い捨てられる運命というわけだ……。たった一度のビッチ敗北により組織からゴミのように捨てられた自分と同じように……。

「ナマ子は……どうする気なんだ。優勝して、迷宮時計の力を手に入れて、どうするつもりなんだ……」
「フンッ、決まっている」

 彼女に帰る場所などない。コンキスタ人形として生きる道さえもない。あるのはただ……残された自意識だけだ。エリートビッチであるという自負心が、彼女を辛うじて支え、生かしていた。

「鏡子を超える……。そして、私が最強のビッチであることを証明する……。手段を選ぶ気はない……たとえ、世界を滅ぼそうとも……」
「ナマ子……」
「そのために、貴様を利用する。"ラプラス"にアクセスしろ。舌先三寸で"コンダクター"を騙くらかせ。私の優勝に協力しろ。必要な情報を全て集めろ。貴様に生き方を選ぶ権利はない。安心しろ。組織が貴様を殺す前に私が貴様をセックス――」
「いいよ、ナマ子」
「なに?」

 その返答にナマ子が一瞬眉根を曇らせる。

「レポート出来たぜ? これでいいんだろ、送るぞ」
「あ、ああ……」

 偽装レポートは見事な出来だった。口を挟むところは無い。

「ナマ子……お前は幾つか勘違いしているよ……。まず第一に、俺も組織への忠誠心なんてない。第二に、組織は、俺やお前のことなんて本当はどうでもいいんだ。俺より優秀なエージェントは幾らでもいる。"コンダクター"はバージョンアップしたコンキスタ人形計画にお熱で、迷宮時計の影響など、いくら進言しようとちっとも調べない。どう考えたって、こっちの方が世界征服の早道なのにな。あいつら、俺やお前が少々ヘンな動きしてたって、本当はどうだっていいんだよ」
「…………」
「第三に……」

 少し溜めてから、キユは顔を仄かに赤らめて言った。

「俺は……ナマ子、初めからお前の味方だ。この任務も、余ってた仕事に余ってた俺が飛びついただけだ。お前が何に巻き込まれてるのか、心配になってな……。俺のレポートなんて"コンダクター"は読んでもいないだろう。目を通してるのは上司のセネカさんだけだ。なあ、ナマ子、知ってるか? 同期552名の中で、今生きてるヤツの数を……。俺と、お前の二人だけなんだぜ……」
「アイリ……アイリはどうした……」

 彼は同期の男子エージェントの中で突出した成績を収めていたはずだ。

「一月前に死んだよ。お前の後継、B-005148試験型ビッチの"卒業試験"の実験台になって死んだ」
「ば、馬鹿な……。アイリを……、アイリが、消耗品に……? そんな、あのクラスの人材は組織にもそうそう……」
「狂ってるんだよ、"コンダクター"の奴らは。……ま、そんなとこが俺たち少年エージェントの価値ってことだ。分かるだろう、ナマ子。俺は組織を恐れてなんかいない。どんなに行儀よくしてたってどうせそのうち殺されるんだからな。そして、俺には何もない。やりたいことなんて何一つない。だからナマ子、お前が……」

 キユは続く言葉に静かな力を込めた。

「お前に、夢があるなら……。やりたいことがあるなら……それがどんなことでも、俺は全力で応援する。世界が滅ぼうと知ったこっちゃない。組織なんてクソ喰らえだ。精々、利用してやろうぜ、"ラプラス"でも"コンダクター"でも。"ニャントロ"だろうと、さ……」
「…………」

 彼の股間を握ったまま、猟奇温泉ナマ子は異様な想いに囚われていた――。
 彼のことを害する必要など無い。ハッキリと協力を約束してくれた。嘘はないだろう。力強い味方ではないか。目的に一歩も二歩も近付いた。彼を害する理由など、本当にないのだ!
 ……なのに、胸の奥から湧き上がるこの気持ちは一体なんだろう。押さえ切れないこの不条理な思いは何か。目の前の男は敵じゃない。そんなことをする必要はない。なのに……。なのに、何故――


 何故、私はこの男とセックスがしたいの――?