無題(幕間スレ45)


『彼ら』は星を喰らう生き物だ。
はじめ、『彼ら』は自らの一部を、卵のような形で他の星に送り込む。
孵化した卵はその星に溶け込むように適応し、ひっそりと、だが確実に命を食らい、力を増していく。
そして最後に、喰らった命を使い、扉を開く。
それによって、母星と標的の星を繋ぎ、『彼ら』本体を呼び寄せ、星を丸ごと喰らうのだ。

『彼ら』は地球にも来ていた。その中の、日本という国に。
『彼ら』は鳥を、犬を、熊を、ありとあらゆる獣を喰らった。
やがて、都市の闇で、人を、より栄養価をもつ、魔人と言われるものを餌として喰らうようになった。

そして、数年がたったある日、『彼ら』は母星に帰ることを決めた。
この地球は、命が薄すぎる。それが理由だった。
『彼ら』にとって、高い栄養価をもつのは、魔人と呼ばれる生き物達だ。しかし、その数は決して多くは無かった。
地球全ての魔人を喰らったとして、扉を開けるかどうか。
この星に留まるよりも、他の星へ標的を改めたほうがいい。それが『彼ら』の出した結論だった。

『彼ら』が、迷宮時計を手に入れたのは、『彼ら』が他の星に渡る、僅か二日前のことだった。
移動のための力を蓄える、最後の食事。そこで襲った男の持ち物に、それは存在した。

『彼ら』は確信した。これは、使えると!
時空を制御に置く力。時計が完成しさえすれば、『彼ら』は無限の餌場を手に入れるに等しい。
しかも、星などというちっぽけなものではない。宇宙、否、それすら上回る、世界という単位の。
『彼ら』は自らの星に戻った。そこで、『彼ら』は『彼ら』と一つになり、時計は『彼ら』の物となった。

もしも、『彼ら』が希望崎の周辺に居さえしなければ。
もしも、時逆順が死ぬのが、もう少しだけ遅ければ。
もしも、時計所有者が、偶然餌に選ばれなければ。
ここから先の悲劇は、起こらなかっただろう。
しかし、歯車は噛み合い、運命は回り始めてしまった。

時計が『彼ら』に、戦う相手を告げた。『彼ら』は初めて、時間の流れを遅いと感じた。
そして、殺戮が始まった。

【続】

最終更新:2014年10月21日 19:17