第一回戦SS・市街その2


ダンゲロスSS4 第1回戦第8試合 戦闘空間「市街」

離れた場所にある二つの迷宮時計が時を刻む。試合が始まる合図だ。
迷宮時計の所有者二人が定めとして時空を飛び、到着した先、そこは、
「ギューナベー!」
「ザンギリアタマー!」
「ブンメーカイカー!!」
明治時代であった。


「なんだここ。地球にこんな場所があるのか?」
門司秀次は時空移動を終え、辺りを見回して呟いた。西洋風の石造の家と和風の木造の平屋が立ち並んでいる。シルクハットに燕尾服の紳士やビロードのドレスを身に纏う貴婦人が歩いて行ったかと思うと、絣の浴衣を着た男や袴姿の女が歩いていたりする。
『部楽倶足生』という看板が門司の目に入った。知っている漢字だけで構成されているが読めない。なんなのだこれは。
「そこのおっさん、その看板が読めないんだけどさ。なんて書いてあるのか分かる?」
呼び止められた裕福そうな男性は快く看板を読んでくれた。
「おお、あれは『生足倶楽部』と書いてあるんだ。少年は読み書きが出来ないのかい。可哀想に、お小遣いをあげよう。」
何故か札束を渡される。裕福そうな男性、彼は成金だったのだ。常日頃から借金地獄で喘いでいる門司は困惑しながらも納得した。
(なるほど、右から左に読むのか…
昔の日本はこうだったって学校の授業でやった気もする。
言葉も通じるし、どうやらここは昔の日本らしいな。)


自分が昔の日本にいる事が分かった。まずは一段落。次に行うのは空間の詳細把握だ。これから「飴びいどろ」と戦うならば、ある程度試合空間を把握しなくてはならない。目の前の道を直進して『生足倶楽部』を通り過ぎた時に、路地裏から声が聞こえた。
「姉ちゃん、俺らと''文明開化”しようぜ。」
「俺らが”御一新”する位”大政奉還”させてやるよ。フヘヘ」
「”牛鍋食わぬは開化不進奴”!!!」
小路を覗いて見ると一人の女が数人の男に取り囲まれている。
(漫画とかでよく見る展開だけどまさか現実に目にする機会があるとは)
「お願いです。やめて下さい!」
女と目が合った。助けを求めているのだろうか。女を囲んでいた男の中の一人が門司に気付いた。
「なんだお前?”廃藩置県”されたくなければ去れ!」
(うーん見事なまでのテンプレ。ここは空気を読んで)
「水墨龍!!」
持っていた仕込み筆から刃を煌めかせ、目の前の男達に一太刀を浴びせる。
「「「グワー!!モウシマセーン!!」」」
(こいつらは魔人には見えなかったし、手は抜いた。門司君は任務や試合以外では人を殺さないのだ。)
雑魚達が居なくなったのを確認すると、刀を筆の中に戻す。
「人助けか、良いことをしたな少年。お小遣いをあげよう。」
「おっさん、あんた何処から出てきた!?」
「『生足倶楽部』からだ。」
「すげぇ正直だな!ところでお姉さん怪我してない?大丈夫?」
変態は放っておいて紳士らしく尋ねる。
「ええ…ありがとうございます。」
彼女は明るい色の瞳を潤ませて続けた。

「門司 秀次さんですよね。飴びいどろです。」



飴びいどろは明治時代に飛ばされるなり、見知らぬ男達に囲まれた。
路地裏に飛ばされたのが悪かったのかもしれない。
そこに現れ、男達を一撃で倒した学ランの少年。
男達の言葉使いから、自分が明治時代にいるのは分かった。この時代の学生服は軍服とあまり変わらない物だ。しかもそれらは高価な物であった為、明治の学生は和服に学生帽だけの者も多かったという。なら目の前の学ランは何者だろうか。
対戦相手の「門司秀次」、十中八九彼だ。



(俺が助けたのは対戦相手「飴びいどろ」だったらしい。)
対戦相手が一般人に囲まれる位弱いのかと拍子抜けするが、自分を油断させるために弱い振りをしているだけかもしれない。仕込み筆を構え直す。
それに、相手が強かろうと弱かろうと関係無い。最終的に倒す必要があるのだから。
「ルールは分かってるよな。俺かあんたのどちらかが勝つまで元の時代には戻れない。」
刀が届く範囲までじりじりと詰め寄る。相手の背後は壁、この狭い路地から逃げることは出来ない。

「迷宮時計が欲しいんですか?でしたら」

そう言って飴びいどろは無防備な姿勢で近付いてきた。だが相手が魔人なら油断は出来ない。門司は再び抜刀の構えをとる。
びいどろはポケットから透明な物を取り出した。どうやら砂時計のようだ。
「どうぞ、私の迷宮時計です。話を聞いてもらえますか?」
(本物だ。)
門司は直感的に分かった。彼の懐中時計と同じ雰囲気を纏っている。
無言で耳を傾けながらも警戒は解かない。
「これを差し上げますので、戦いは止めて下さい。」
砂時計が門司の目の前に突き出される。さらさらと砂が落ちる音が路地に響いた。門司がそれを手に取ろうとすると、びいどろは砂時計に触れさせずにポケットに戻した。砂の音が止む。
「一つ、お願いを聞いてもらって良いですか。」
「なんだ?」
「私と、デートして貰えませんか。」
「は?」
「語弊がありました。一緒にこの時代を見て回りませんか?二度と来る機会は無いと思いますが、どうですか?」
(いきなりデートなど言い出す奴がいるか。罠だ、罠に決まっている。)
脳内の天才門司君が囁く。ノーマル門司君もそれくらいは理解できる。
だが、絶対に罠と言い切ることが出来ない。もしも門司秀次という人間が効率だけを求める人間であれば、話も聞かずにびいどろを切り裂いていただろう。だが彼は違った。
まず彼には自分の中で敵と決めた相手以外を切ることには躊躇いがあった。
そして、彼は女の子とデートをした事が無かった。
(もし、この人が本当の事を言っているならば、自分は又とないチャンスを逃すことになる。)
そう思うと踏ん切りがつかない。
「なんで俺を誘うんだ。1人で回るのはダメなのか?」
「先程のように襲われたら危ないので、あなたのような強い人が側に居てくれると嬉しいです。」
「俺があんたを見捨てるかもしれないし、寝返るかもしれないぜ。良いのか?」
「人を見る目はあるつもりです。
私が疑わしい行動をしたらその場で攻撃してもらっても構いません。」

疑いは晴れないが、質問への答えはそこそこ筋が通っている。
しかし今度は最後の一言が怪しい。
『私が疑わしい行動をしたらその場で攻撃してもらっても構いません。』
これは、自分が疑われるような行動を取るつもりは無いという意思表示なのか、それとも何らかのカウンター能力やダメージ反射能力を持っていて、わざと疑わしい行動を取るつもりなのか。
疑い始めると自分から攻撃するのはどうも危ない気がし始めた。
さあどうしよう



(俺は結局デートを決行した。過去形だ。現在進行でも未来でも無い。
牛鍋を食べたり明治時代特有の建物を観光したりした。金は成金のおっさんからもらったから払うことが出来た。
デート中も勿論警戒は続けたけど、飴びいどろが疑わしい行動をする事は無かった。
デートの最中に彼女の家庭に事情がある事を聞いた。
俺も思わず借金の話をしてしまった。
結構楽しかったな)

右手から血を流し、痛む目を擦りながら門司は回想していた。

「今日はありがとうございました。楽しかったです。そろそろ暗くなりますし、お開きですかね。」
デートの最後、びいどろは自分から砂時計を渡してきた。

神経を張り巡らせていたデートも終わるということで一瞬気を抜いた門司は思わず時計を右手で受け取ってしまった。
次の瞬間、砂時計はガラスの欠片に変化、門司は掌に痛みを感じるのと同時に警戒心を取り戻した。仕込み筆を振るうが出血で手が滑り、力が入らない。
びいどろはいつの間にか取り出した酒瓶で刀を弾き、ついでに瓶の中身を門司の顔にぶち撒けた。
酒が目に入れば染みる、これは当然の事だ。だが今使われた酒の名は『250,000 Scovilles Naga Chilli Vodka』強力な催涙スプレーに匹敵する量のトウガラシ成分が含まれる酒だった。
つまり痛さの度合いが違う。
びいどろは目を開けることが出来ずに悶絶する門司から遠ざかり、人混みに紛れて去って行った。
「泣いているのか、失恋かね少年。人は悲しみを越えて生きていくのだ。ほらお小遣いをあげよう。」
気付くと成金が横に立っていた。
「失恋ちゃうわ!おっさん、お小遣いは別に良いから、やりたいことがあるんだ、手伝ってくれ。」



計画は順調だ。
飴びいどろは門司秀次から逃げながらほくそ笑んだ。まさかここまで上手くいくとは思わなかった。
読者の皆さんは最初から分かっていただろうが、びいどろは負ける気などさらさら無い。
計画を思い付いたのは明治時代に飛ばされ、見知らぬ男達の乱暴から門司秀次が助けてくれた時だった。これは本当に偶然だった。彼がいなければ自力で乱暴から抜け出すつもりだったが、びいどろは思わぬ幸運にあやかる事にした。
一目見た時からびいどろの詐欺師としての観察眼が門司の性格を読み取り、門司に自分の名前を打ち明ける時には脳内では試合に勝つためのストーリーがシミュレートされていたのだ。

(理性はある)

(利き手は右、武器は刀。右手を封じる事が出来れば戦闘では有利になる。)

(男に話し掛ける時と女に話し掛ける時で態度が違う。女性への耐性は低いと考えられる。ハニートラップが有効か。)

(筆に刀を仕込んでいる。わざわざ普通の刀では無く、筆と一体化した刀を持ってきているのは、魔人能力と関係があるかもしれない。)

幾つもの考察を終えて導き出された答えが、今行われている計画だった。
デートという名目で試合空間と対戦相手の門司を観察、地形を記憶した。
門司秀次は今、右手の負傷の為、全力で刀を振ることが出来無い。
関係無い人々を戦いに巻き込むようには見えなかったので、目を使えなくする事で闇雲に刀を振り回す可能性も潰した。
そしてここに来る前から考えておいた”工作”を実行すればまずこの試合は終わらせられるだろう。
”工作”に適した場所はデートの最中見つけた。


筈だったがそこに向かう道の途中に先程まで存在しなかった壁が立ちはだかっていた。
別の道を通ろうとしたが、そこにはまた壁が。
新しい道を探す度にどんどん目的地から離れていく。
これを繰り返す内に計画が崩壊していく音が聞こえる気がした。


「遅かったな、待ちくたびれたぜ。」
門司秀次は笑みを浮かべて言った。
目の前には一度立ち去った飴びいどろが疲弊した様子で立っていた。
(どうやら一矢報いる事が出来たようだな。)
びいどろがいなくなってから門司が行なった事は3つあった。
1つ、目の痛みの軽減。
成金の手を借りて「掘るな 水道管の工事中 」と地面に書き、『ベカラズ』で水道管を具現化した。水道管を破って出てきた水で目を洗い流すと、薄目でなら周りを見渡す事が出来るくらいには痛みが軽減した。
2つ、びいどろの指定空間へ接近させること。
成金が人力車を雇い、試合空間の外側から「通行禁止 この先行き止まり」の貼り紙をさせた。
これによってびいどろは門司の決めた道を歩かせられる事になった。
3つ、戦闘空間の形成
『ベカラズ』によるギミックを何重にも施し、自分に有利な地形を作り出した。
この時、一般人を『ベカラズ』で追い出し、自分とびいどろ以外の人物が戦闘中に入ってこられないようにした。
『ベカラズ』の警告文を「リマ止キ行先ノコ 止禁行通」と右左を逆にして横書きする事で明治時代に元々いた人だけに反応するようになったのだ。
余談であるがこれは成金が『生足倶楽部』の事を呟いているのを聞いて考え出した物で、偶然の産物である。

とにかく今、門司は戦いの場を作り上げ、びいどろをそこに閉じ込めたのだった。

正面からの対決がやっと始まる。



びいどろは計画の遂行を諦め、門司と戦う決心をした。
彼の右手の血は止まり、目も一応見えているようだが、それでも全力が出せるとは思わない。

手始めにポケットの中のおはじきを全て空中で分解し、粉塵を作り出す。もし粉塵を吸えばたちまち咳が止まらなくなり、目に入れば痒さに耐えられなくなるだろう。自分の体内に入った物は原子レベルまで分解する。
これに対して門司は「内と外の気圧差から生まれる突風に注意」と書き込んであった民家の窓を叩き割る。
粉塵は窓から吹き出される突風に乗って何処かへ消え去った。
「今の粉もまたどうせ毒かなんかだろ?対策ならもうバッチリだ。」
門司は酒を毒だと思い込んでいた。
ここではその2つにあまり差異は無いだろうし、彼の判断と対策は正しかった。
彼は仕込み小筆を左手に、びいどろに一気に接近した。
「水墨小龍(ミニスイボクドラゴン)!」
小筆を使った水墨龍だ。彼は怪我をしている右手の負担を減らす為、戦闘に使う刀を小刀に替えていた。
びいどろの左腕に赤い線が入る。
「浅いか…」
水墨小龍は水墨龍に比べて威力と射程の面で性能が下がっていた。びいどろが門司の接近に合わせて身を引いた事も有り、傷はそこまで深く無い。
「イタチの最後っ屁ですか?全然効いていませんよ。」
びいどろはバッグからガラスのナイフを取り出し、門司を切りつける。
「おっと、安心するのはまだ早いぜ。そこは『段差に注意』だ。」
びいどろの重心が急に崩れた。見ると地面には「大きな段差有り 足元注意」の文字が。
びいどろは急に現れた地面の隆起に躓き転倒した。
「隙有り!」
門司が小刀を振り下ろす。
びいどろはすぐに起き上がり避けようとしたが避けきれない。左肩から血が吹き出す。今度の傷はかなり深い。
「俺の純情を踏みにじった罰を受けろ!」
小刀をもう一振り
「嫌です。」
びいどろはそれを右手に持ったナイフで受け止め、左手に持ったもう一本のナイフを門司が小刀を持つ右手に突き刺す。そして肉の中に刃の一部を残して引き抜き、『サラミ=トラミ』で新しい刃を作った。
「痛ぇ!なんだと?このッ!」
小刀を乱雑に振り回す。
門司の魔人筋力がびいどろの両手のナイフに何度も衝突すると、二本のナイフは別々のタイミングで消失した。
これは『サラミ=トラミ』による消失であるが、この消失自体は戦闘上でそこまで意味を持っていない。

ガラスは本来、鋼以上の硬さを持っている。しかし目に見えないほど小さい表面の傷(通称グリフィスフロー)がガラスを割れやすい物質に変えてしまっているのだ。
びいどろは『サラミ=トラミ』でガラス表面の凹凸を無差別に削ぎ落とし、ガラスナイフを超硬度に保っていた。
しかし小さな傷は簡単に付くため、何度も表面を削ぎ直す必要がある。

つまり、びいどろのナイフは硬い代わりに衝撃を受ける度に薄くなっていくのだ。

30本持ってきたナイフの内2本が無くなった。しかしまだ残り28本もあるのだ。びいどろは新たに8本のナイフを取り出し、左右の手に4本ずつ構える。

それに対して今、門司は武器である筆をしまい、手刀でびいどろへ襲いかかった。ナイフの刃で手刀を受け止められる。しかしナイフは一斉に消失した。何が起こったのか分からないびいどろは門司から距離を取ろうとしたが、張り巡らされた『ベカラズ』のトラップに引っ掛かった。
地面を転がりながらびいどろの目には、門司の手に書き込まれた「切れます。 振り下ろされる手刀で手指をなどを切る可能性があります。 振り下ろされる手刀に触れないで下さい。」という文字が入った。もっとも門司の能力を知らないため、これを見ても何のことだか分かるはずも無かったが。

門司は悟っていた。経験に基づいた純粋な戦闘能力では自分は圧倒的に飴びいどろより上であり、万全の状態で戦えばこの程度の敵は倒せた筈だと、しかし今の状態だと少し厳しいと。
彼の本来の力は十分な大きさの仕込み筆を用いた剣術に依る所が大きかったのだ。今扱える小筆では力が足りない。一撃で与えられるダメージが少なく、それどころかカウンターで自分が深い傷を負うことになる。

小筆ではダメージを与えきれない。普通の仕込み筆は今使えない。ならどうすれば良いのか。
自分が刀になれば良い。そうすれば刀を握る必要が無いのだから。


びいどろはあっという間にナイフを使い尽くしていた。
門司の手刀は鋼鉄より硬いナイフすらも切断していたのだ。何度かカウンターで彼の体内にガラスを埋め込むことは出来たが、与えられた傷は深く無い。
立場はいつの間にか逆転しているように思われた。
やがて全ての装備を失ったびいどろの首を門司が掴んだ。
「言い残すことはあるか?」
2つの迷宮時計の針と砂は激しい音を立てて決着が近いことを2人に知らせていた。
「そうですね、取り敢えず私の勝ちです。」
「この状況で何をほざいて…!?」
門司の顔を冷や汗が覆った。迷宮時計の時を刻む音がゆっくりに聞こえ始めた。直後、強烈な頭痛が門司を襲った。びいどろの首から手を放し、自分の頭を抱くようにして悶え、やがて意識を失った。


門司秀次が次に目を覚ました時、そこは殺風景な部屋だった。
「目が覚めたかね、少年。」
目の前にいるのは成金だった。
「ここは病院だ。君と同じように傷だらけの女性が倒れていた君を背負って私の所まで運んで来てくれた。」
飴びいどろが自分を運んだのか。
まだ彼女はこの時代にいるのだろうか。
「その女性がなんだか不思議でね。私が君のことを運ぶのを引き受けて五歩位歩いたところで振り返ると、姿を消していたんだ。隠れる所は無かったし、移動する足音も聞こえなかったんだけどね。あれは幽霊だったのかな?」
消えた?もしかして現代に戻ったのか?成金の証言からすると多分場外負けなのだろう。しかしわざわざ場外に出さなくても、俺が持っていた刀などを使って止めを刺すのは簡単だった筈だ。いったい飴びいどろは何がしたかったのだろうか。
迷宮時計を入れていたポケットを探ると時計の代わりに折りたたんだ半紙が入っていた。
自分で入れた覚えは無い。開いてみる。
「門司秀次君へ
もし生きてたら読んでください。
試合は私の勝ち、ということで時計は頂きます。
なぜ止めを刺さなかったのか疑問に思っているでしょうか。
デートの時に話したように私の家は大家族で、あなたと同じ位の年の弟もいます。
顔も性格も全く違いますが、あなたに止めを刺そうとすると弟の顔が頭を掠めました。
弟の顔が頭に浮かんだ時、急にあなたを生かさないといけない気がして、戦闘前に貴方が仲良くしていた方に身元を引き渡すことにしました。
どうやら彼はお金持ちのようなので、借金で苦しんでいる門司君もそこで金を貯める術を教えてもらってはいかがでしょうか。

この時代に残るのだから借金とはもう無縁だ、と思いましたか?
私がもし勝ち残ることが出来たなら、あなたを元の時代に戻そうと思います。借金はしっかりと返せるようにしておいて下さい。現代に戻ったら私からも買ってもらいたい物があるので。
飴びいどろ」


「少年、家の人はどうした?心配しているのではないか?連絡しなくても良いのか?」
「今、家族とは会えないんだ。連絡も取れない。」
「なんと!なら私が引き取ろう。君からは生足倶楽部がピッタリな匂いがする。私が生足倶楽部に通える位の金持ちに育ててやろう!」
「よく分かんないけどありがとうなおっさん。」



あの時、門司秀次の身体に刺さったガラスはすべて原子まで分解され、気体となって血管内を流れた。
血管内の気体は一部は血液中に溶け込んで、脳に辿り着いた時に何らかの障害を引き起こした。
もしかしたら本人も気付かず後遺症を残しているかもしれない。
また症状を再発し、今度こそ死ぬこともあり得る。

「やっぱり止めを刺した方が良かった、なんてこと無いよね。」
1人だけしかいない工房内は独り言とため息が良く響いた。

最終更新:2014年10月19日 15:41