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”ソルト”ジョー


その夜、”ソルト”ジョーがエド・サイラスの店を訪れたとき、綾島聖は不在だった。

彼らのような者にとって、エド・サイラスのバーは聖域である。
”ソルト”ジョーが知る限り、エド・サイラスは店舗経営という役目を完全に放棄しているようだったし、
訪れる客をあまねく嫌悪しているとしか思えない。
バーを開店したこと、それ自体を悔やんでいる素振りすらあった。

ゆえに、一般の客を気にすることなく話ができる。
綾島聖は、エド・サイラスの店における常連のひとりであった。

「綾島なら、もう一ヶ月も姿を見ていない」

と、エド・サイラスは迷惑そうな顔で答えた。

「あいつの顔を見てると吐き気がするんだよ。
 もう金輪際、俺の店に来ないといいんだが」
「わかるよ、エド」
”ソルト”ジョーは話を合わせた。
いつだって、エド・サイラスを怒らせるのは得策ではない。

「神父様は、とうとう死んだか。ウイスキーで乾杯させてくれ」
「だといいがな。”ソルト”ジョー、ウイスキーは品切れになっている。
 先にツケを払ってくれよ」
「マーブルホークだよ、エド・サイラス。あの馬が俺の金をぜんぶ持っていったんだ。
 信じられるか? 俺の推測だと、あのレースは八百長だったと思う」

エド・サイラスは取り合わなかった。
ただ鼻を鳴らし、煙草をくわえてみせただけだ――
”ソルト”ジョーはウイスキーの望みを絶ち、首を振った。

「まあ、いい。神父様がいないなら、俺は帰るよ。退屈だしな」
「何か用でもあったか、エド・サイラス?」
「別に。最近、妙な仕事を請けたって話を聞いたからさ」
「噂はな。俺も聞いている。また殺し合いをするんだろう」
「それさ」

”ソルト”ジョーは身を乗り出す。

「神父様の情報を他の参加者に売れば、俺もウイスキーを飲めると思ってね」
「お前のようなやつから、情報を買いたがる参加者がいるのかね」
「いるさ。賢いアタマと、鷹の耳を持ってる強者が。
 神父様から、なにか連絡はなかったか? 武器を買いたいとか」
「色々とな。注文はあった。”長いの”を使うんだとさ」

これだ、と、”ソルト”ジョーは思った。
この情報は売れる。
エド・サイラスは職業的な意味でも、世間一般的な意味でも、倫理観など持ち合わせていない人種だ。
そして、この世で最も客を嫌っている男でもある。
”ソルト”ジョーはさらに質問を重ねる。

「神父様が、たとえば『最強』の撫霧煉國や、時ヶ峰健一と戦うには、
 そりゃ得物が必要だろうからな。で、わざわざ”長いの”か」
「”一撃”を防ぎながら戦う必要があるんだろう。
 綾島の能力では、フィジカルで相手を凌げても、魔人能力によっては”一撃”でトぶ可能性がある」
「それだけで勝てんのかね? まあ――少しは有利には戦えるだろう。
 でも、決定打じゃないぜ。何か奥の手があるんじゃないのか?」
「俺が知るか」

エド・サイラスは白けた顔で、天井を眺めた。
だが、これで十分だ。
商品として、売りつける情報としては十分。
”ソルト”ジョーは思わず笑った。

「今度こそ、神父様も死ぬな。葬式が楽しみだ」
「それは難しいかもしれん」
「おいおい。ノリが悪いな、エド・サイラス」
「あいつは、自分の欲しいものが何かをわかってる。
 何を時計に願うべきかを知っている」
「自分がなにを欲しいかくらい、誰だってわかってるさ」
「どうだろうな。それでも――」

エド・サイラスは小馬鹿にするように煙を吐く。

「あいつは、『常に温和な笑みを絶やさない、糸目の神父』だぜ」