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第一回戦SS・テーマパークその1


■12:決戦・月を穿つ螺旋の槍■ より一部抜粋

『ギャハハハハハハハハ』

偽りの月が裂けんばかりに口を広げ、嗤う。
愚かな人間め思い知ったかと、嗤う。

『ギャハハハハハハハハ』

単色の唇を染めるソレが、口内を転がる血袋から溢れるソレが、
飛散し、赤い雨となる。

―――――さて、“悪夢”は佳境に入る。
希望は潰(つい)え、時は頃合い。
夢と魔法の亡国の、主役達がいよいよもって動き出す。

堆(うずたか)き屍山が、守銭奴の虚塔が、白骨の客船が、人食(ひとば)みの怪列車が、パレードへと加わるべく、錆びた音を奏で始める。

ァ..ギ ァ..ギ

首なし亡者は気配に浮かれ、羽根亡者は供物に群がる。
惑いし生者の快進も、もはやこれまで。
幕は近い。

「……阿呆が……!」

『ギャハハハハハハハハ』
. 『ギャハハハハハハハハ』
. 『ギャハハハハハハハハ』………―――――




■0: レギュレーション確認■

【対戦カード】
「撫霧煉國(なできり れんごく)」 vs 「青空 羽美(あおぞら うみ)」

【重要】
○試合会場:テーマパーク
○戦闘領域:園内 (園内の上空・地下及び関連施設は戦闘領域に含む)
○初期位置:ランダム
○対戦相手に関する情報:氏名のみ
○怪我:勝者に限り、全ての負傷は現実世界帰還時に回復する。

【参考】
○開始時刻:8:30(開園30分後)
○勝利条件:対戦相手の殺害、戦闘不能、降参、または戦闘領域離脱
○NPC:存在する




■1: とある少年の幼少期■

――――― 「パパ、ママ、待って!待ってよ!」

それは、当時にしてみればよくある話だった。
魔人能力を用いた大規模自爆テロ事件の直後、史上振り返っても有数の、魔人への風当たりが厳しかった時代の話だ。

――――― 「なんでもする!ひとりでもいい子にするし、お手伝いだってする!」

世相を反映して、政府は一定の年齢に達した子供全てに魔人適正の検査を受けさせるよう指導した。
「魔人化の素養がある者をいち早く把握し、特に適性の高い者に関しては矯正教育を施すことで魔人犯罪者発生を根本から絶つ」という輝かしい大義名分を掲げ、その政策は実施に至る。
しかしこれは、後の歴史の教科書が記す通り、戦後最悪の政策だった。

――――― 「パパぁ! ママぁ!!」

この政策施行より1年。
政府は魔人の素養が特に高い者に対し矯正施設への入居を義務付けたのだが、彼らが用意した施設は、補助金の存在を差し引いても中流以下の家庭が易々と手を出せるものではなかった。
そこで、政府の委託を受けた民間の矯正施設が格安で矯正を請け負い始めたわけだが、膨大な数に及ぶ「魔人候補」の収容に対応すべく、政府はろくな審査もせずにとにかく受け入れ先の数の充実を優先した。
必然、利潤を目的とし、定期監査の際にのみ規定水準を満たすような粗悪な矯正施設が大量発生した。

――――― 「いやだ、ここは嫌だ!! 置いてかないで!!」

それから更に4年後、爆発的な魔人増加が発生した。
いよいよもってこの失策の問題点が明らかとなったのだ。
「魔人化」「魔人能力」は認識・思い込みにより発現する肉体変化であり、異能だ。
「お前は魔人になる可能性が高い」と断じられ、粗悪な環境に投じられたことで暴力的な空想へと逃避することを余儀なくされた子供達が、次々と魔人へと転じるのは必然だった。
政府は自らの手で、自らに牙を向く強大な敵を育てた。

――――― 「はなしてよ!嫌だ!嫌だーーーーー!!」




少年の両親を乗せた車が走り去った。
羽交い絞めを解かれた少年は地べたに蹲(うずくま)り、声を上げて泣いた。

「おお、かわいそうに、よしよし。」

少年を羽交い絞めにしていた男、自らを園長と名乗る年を重ねた巨漢が少年の背をさする。

「さぁ、こうしていても仕方ありません。
行きましょう、新しいお家を紹介しますよ。
ここには美味しい食事も、楽しい玩具もたくさんあります。
そうだ、きみと同じくらいの年のお友達だっていますよ。」

少年には男の言葉に反応できる余力が無かった。
あれだけ懇願したにも関わらず、捨てられたという悲しみが全身を貫き、ただただ泣くことしかできなかったのだ。

そんな様子をニコニコとした表情で見下ろしていた園長の右腕がむんずと、少年の髪をつかんだ。

「――――あっ、がっ」

そのまま少年を吊り上げる。

「これを見てください。」

そういって園長は自らの左手を少年の眼前に晒した。
手袋を外したその手には、本来あるべきパーツが何本か欠けていた。
少年が慄く。

「これは、むかし魔人にやられたものです。
奴らは大した意味もなく私のこれを捥(も)いでいきました。
……いいですか、今の世の中にはきみのような存在を正すための場所がたくさん存在しています。
しかし、嘆かわしいことにそのような場所の大半はお金儲けを目的として、本筋である教育を疎かにしているのです。」

「しかし」と、男は瞳を輝かせて続ける。

「私の『家』は違います。
熱意をもって、あなたが魔人などという腐った存在にならないよう教育します。
ここでのルールはたったひとつ、私の言葉にはすべて『はい』と答え、可能な限り速やかに従うこと。
私が『行きましょう』と言えば、きみは『はい』と返事をし、可能な限り速やかにそれを行動に移す。
簡単ですね。」

突然の事態を呑み込めない少年の頬に欠けた指がなじりつけられる。

「ほら、言ってごらんなさいな。『はい』」

「う、ふぐうぅうう……」

言い知れぬ恐怖に新たな涙を流す少年の頬を園長の欠けた左手が張った。

「ほら、『はい』」

同刻、彼らの背後に位置する古びた木造の建物より。
「きたよ」「きたね」「あの子は」「どんなこえで鳴くんだろう」
「なんにちで」「にげるかな」「にげてほしい」「にげるさ」
「かわいそう」「やめなよ」「くすくす」「かわいそう」

―――――それは、当時にしてみればよくある話。
少年が縋(すが)るように伸ばした手は、虚空を掴んだ。




■2:メインエントランス(9:30)■


直径4mほどの月を模した巨大なオブジェクトが中心に据えられた噴水の縁に腰かけ、学ランの大男・撫霧 煉國 (なできり れんごく)は苛立ちを募らせていた。

▼撫霧 煉國(なできり れんごく)
▼希望崎学園の1年生。16歳。
鍛え抜かれた肉体を武器とする、希望崎学園屈指の格闘能力を有した巨体の喧嘩屋。
猛禽類の如き鋭い瞳と、ふてぶてしい笑みが特徴。

苛立ちの理由は3つ。

1つは、対戦相手を発見できないこと。
これまで撫霧 煉國は2度、迷宮時計の導きで死線を潜っている。
1度目の舞台は活火山、2度目は雪山であった。
幸か不幸か、その舞台のどちらにもNPCと呼ばれる戦闘に関係のない人間は存在せず、戦闘空間も1km四方と狭かったため、敵の発見から撃破までの時間は短く済んでいた。

苛立つもう1つの理由は、人の多さ。
戦闘開始より一時間、入場門を一望できるメインエントランスに腰を据え、対戦相手を待っていた煉國であったのだが、その間にも次々と途切れることなくNPCが門を潜ってやってくる。
煉國の及び知らぬところではあるが、この国内最大のテーマパークの来場者は1日あたり10万人にも及ぶ。

そして、最後にして最大の苛立ちの理由は――――――

「あァ~~~~ン? あに見てんだァ~? オゥッ!?」

―――――魔人能力 “闘神の庭”

自動的に空間が断絶され、煉國を中心とした半径5m以内が決戦のバトルフィールドと化す。
異界には煉國とNPCの男性の2人。

「………失せろ。」

能力、解除。

NPC(唇に3つのピアスをつけた若者)を一瞥し、ターゲットではないことを確認した上で手早く能力を解く煉國。

「わ、わぎゃおおおおおン!」

恐ろしい「ルール」と、因縁をつけた相手が魔人だという事実を瞬時に把握したNPC男性が悲鳴をあげ、その場から無様に逃げ出す。
これで、一体何回目になるのだろうか。

彼の持つ魔人能力「闘神の庭」は、彼と対象を限定された空間に閉じ込める能力である。
煉國が敵に、あるいは敵が煉國に「殺意・敵意・害意」といったマイナスの感情を持った状態で半径5メートル以内の空間に侵入すると自動発動、不可視の壁によって領域を封鎖する。
能力の対象となった人間は、上記の内容に加え「隔絶空間から脱出するには煉國を撃破しなければならない」という事実を、能力発動の瞬間超感覚的かつ正確に理解する事が出来る。

この能力は「何物にも邪魔されずに思う存分戦闘を行える」というメイン効果の他に、「敵意を持って5m以内に侵入してきた者を察知する」というサブ効果を持つ。
本来は強力なサブ効果なのであるが、このテーマパークというフィールドにおいてはそれが邪魔で邪魔で仕方がない。

煉國の風体は目立つ。
1年にして魔人学園の番を張る実力を備えた、暴力的肉体。
ボロボロの学生服に学生帽という古き良き番の衣装。
そして、見る者を怯ませる鷹の目。
どれひとつとっても因縁をつけられる要素となる。
戦闘開始より一時間、全く関係のないNPCから因縁をつけられた回数はもはや両手では足りない。

闇雲にだだっ広い園内を散策するよりは、一所に留まって待ち受けた方が良いという煉國の判断は正しい。
彼は数多くの戦闘経験を持つ猛者であり、気配察知や視線察知の心得がある。
それに合わせて自動能力があれば、通り魔的な不意打ちでやられてしまうことは無いだろう。

しかし、それにしても人が多いのだ。
姿を見せない対戦相手に苛立ちは募る一方で、
「これだけの人数がいては、敵も自分のことを認識できないのではないか?」
という考えさえ浮かんでくる。

そんな折だった。
場内にアナウンスが響いた。

『只今ビックシティエリア総合案内所にて“なできりれんごく”さんがお待ちです。
お連れ様は至急ビックシティエリア総合案内所まで お越し下さいませ。
繰り返します、只今―――――………』

不敵に、煉國は笑った。




■3:遺跡エリア(8:30)■


試合開始直後のテーマパーク・遺跡エリアに、一人の少女が出現した。
腰ほどまでの青い髪をヒマワリのシュシュで一束に纏めたその少女の手には海外旅行用の大きなトランクが携えられている。
衣服は紺色の肩だしニットワンピースにホットパンツ、ニットに隠れて見えないがホットパンツには皮製のベルトと更にその上から体に3周巻き付けられたベルトとしての意味を成さない赤い綿製のファッションベルト、足元はロングブーツ。
「テーマパーク」という戦闘会場でNPCに紛れられるよう、彼女なりに気を遣った衣装がそれであった。

戦闘開始直後、戦闘会場を確認した少女、青空羽美(あおぞら うみ)に動揺が走る。

▼青空 羽美
▼元・魔法少女、現・魔法使いの17歳。
3年前までは世界を守る魔法少女チームの一員であったが、現在はソロ。
定期的に出現する世界の敵を、円熟した魔法の力で人知れずソロ狩りしている。

「(ここは……もしかしなくても、“そう”ですよねぇ……。)」

足元の動く小人達を観察しながら、少女は思考を巡らせる。

戦闘会場が「テーマパーク」と知らされた時点で、嫌な予感はしていた。
「ここを選ぶだなんて、底意地の悪い時計だ」と内心毒づきながら羽美はポケットの懐中時計を親指で弾いた。

「(ですがまだ、このテーマパークが『あのテーマパーク』と同一のものと決まったわけではありません。
どちらにせよ、やることは一緒です。
このテーマパークと、対戦相手、どちらも探らなければならないというのが魔法使いのつらいところ。
はぁ……これだけ広くて人が多いと神経けずれてしんどいですが……やれやれ、やるしかありません。)」

そうしてこきりと指の関節を鳴らし、年少の魔法使いは自らの“魔力”を変質させた。




■4:ビックシティエリア総合案内所(9:40)■


対戦相手からの誘いに素直に応じた煉國は、ビックシティエリア総合案内所へと足を運んだ。
身寄りもなく、魔人覚醒から現在に至るまで暴力ひとつで修羅の世界を駆け抜け続けてきた煉國にとってこのような事態は日常茶飯事だった。
呼び出しに応じて多数に囲まれるだけで済むのはかなり幸運なパターン、狙撃や遠距離の魔人能力の対象とされるのが通常、更に悪いケースも何度か経験してきた。
そんな外道の一手、搦め手を彼はその肉体ひとつで突破してきたのだ。
避け、殴り、受け、耐え、殴り、殴る。
物事はシンプルだ。
どんな一手がそこに待ち構えていようと、「殴って破る」それだけだ。

そのような自負が彼を総合案内所へと誘った。
しかし、そこで彼を待ち受けていたものは、これまでのどのタイプの罠とも異なっていた。

「“なできりれんごく”さんのお連れ様ですね。
こちらをお預かりしております。」

そう言って係員は煉國にそのテーマパークのお土産袋を差し出した。

「なぜ俺が“なできりれんごく”のツレだと分かった。」

ぶっきらぼうな物言いを気に留める様子もなく、にこやかに係員は答える。

「『学生服を着た身長2m近くの大柄の男性がここにきたら、これを渡してくれ』と頼まれておりましたので。
……心当たりはございませんか。」

「いや
(………外見が割れている……?
敵はすでにこちらの動向を掴んでいるのか。)」

訝(いぶか)しみながらもその袋を受け取り、煉國は続けて係員に尋ねる。

「“なできりれんごく”はどうした。」

「『携帯電話を落としてしまったので探しに行く』と仰っていました。」

「“なできりれんごく”はどんな見た目をしていた。」

依頼者の連れの者であるはずの巨漢の男が、依頼者の容姿を尋ねるという異常さに表情を変えることなく係員は淡々と答える。
何も考えていないのか、それとも。

「紺色の服をお召しの若い女性の方でした。」

「他には。」

「そうですね……。
落ち着いた桃色のフレームの眼鏡をかけ、腰ほどまでの長い青髪でいらっしゃったと思います。」

「そうか、それで―――――

. 『おまえは何者だ』

問答の緩を突いて、煉國の鋭い眼光が係員を貫いた。
身を灼く熱風が吹き付けたかのような感覚に、常人ならば狼狽(うろた)え逃げ出す高レベルの威圧行為。

「わたくしは、ビックシティエリア総合案内所の係員でございます。」

それをものともせず、係員は会心の笑みをもって答えた。

「……ちっ。」

あてが外れたと、舌打ちを一つの残し、煉國は案内所をあとにした。

あの係員は異質だった。
これまで数多くの魔人と戦闘を構えてきた煉國の直感が、係員の異常な戦闘性能を強く訴えかけてきたのだ。
十中八九魔人だった、それも強力な。
そこから、もしやと思いカマをかけてみたのだが、望む成果は得られなかった。
もし、係員が敵であったなら敵意を感知して煉國の能力が発動していたことだろう。

テーマパークの職員というのは皆ああも強いのかという思考を打ち切り、煉國は近くのベンチに腰掛け土産袋の中身を広げた。

茶封筒、アトラクションガイドの冊子、テーマパークのキャラクターがあしらわれた封筒。

茶封筒を開ける。
最高額の紙幣が3枚、アトラクションのフリーパスが1枚、宿泊券が1枚入っていた。

大量の付箋(ふせん)のついたアトラクションガイドをパラパラとめくる。
各ページには色とりどりのペンで綴られた丸い字で「実際おススメ!」だとか「人気アトラクションにつき、午前中にファストパスをとるが吉!」だとかいったテーマパークを楽しむ上でのアドバイス的文言が書き込まれていた。

最後にキャラクターの封筒を開ける。
「撫霧煉國さま
はじめまして、今回の迷宮時計バトルの対戦相手の青空羽美と申します。
唐突な申し出で申し訳ありませんが、戦闘開始を1日待っていただけないでしょうか。
このテーマパークにまつわる私用ができてしまったため、本日中にあなたと戦うことができなくなってしまいました。
お詫びといってはなんですが、このテーマパークのフリーパスと宿泊券を差し上げます。
宿泊施設は戦闘領域に含みますので、本日はそこを使ってお休み下さい。
また僅かばかりですが先立つものも同封いたしましたのでご自由にお使い下さい。
このテーマパーク、『千葉シーサイドディズ―――――」

煉國はくしゃりと読み終えていない手紙を丸め、次いで茶封筒、パンフレットを中身ごとビリビリ破いて捨てた。

「なめやがって」


「なんですとぉーーーーーーっ!?」

同刻、ビックシティエリア総合案内所から1.5km程度離れたオープンカフェ。
大声を発した一人の客に視線が集まる。

我に返りすみません、すみませんと小さな声で恥ずかしそうに周囲にあやまった後、その少女は頭を抱えて机につっぷした。

「(わっ、わたしの一時間の頑張りをまさかそんなとは……!)」

少女は声とは呼べない低い唸りをあげつつ、悔しさを少しでも軽減すべく椅子の下で遊ばせていた両の足を高速でぱたぱたと地面に打ち付けた。

園内を飛び回る妖精達がそんな彼女を面白がって頭上で鱗粉を撒いた。
カランと、机上のメロンソーダの氷が音を鳴らした。




■5: 日没まで■


それから、何度か少女は煉國に間接接触を試みた。


「はい、お兄ちゃん!
これ、『サメの帽子』のお姉ちゃんがわたしてこいって!」

幼女から渡された宿泊チケットと手紙を、幼女が去ったあと煉國はビリビリに破いた。

「……なめやがって」


「あぁーーーーーっ!?」


「ふぉっふぉっふぉ、これを。
『熊耳をつけてキャラクターのフェイスペインティングをした』ボインちゃんからじゃ。
よかったのぅ。」

老人から渡された宿泊チケットと手紙を、老人が去ったあと煉國はビリビリに破いた。

「……なめやがって!」


「いぃーーーーーっ!!?」


「オイおっさん! ん!
『両手の指の間に計8本の棒チュロスを挟んで浮かれてた』変な女からだ!」

少年から渡された宿泊チケットと手紙を、少年が去ったあと煉國はビリビリに破いた。

「なめやがって!テーマパーク満喫してんじゃねぇぞ!くそが!」


「うぅーーーーーっ!!!?」


「なめやがって、なめやがって、なめやがってェーーーッ!」


「でゅるわぁあああああぶるわっひゃあひゃひゃひゃひゃどぅるわっはあああああああああぎゃあああああうわああああああああ!!!!」




■6: 摩天楼広場(25:57)■


閉園を知らせる音楽が鳴り止んで久しい。
昼間あれだけ賑わった園内は静まり返っている。

閉園の放送後、巡回する施設職員と思われる気配を察知・回避しながら煉國は園内に留まった。
宿泊施設周辺は煉國にとっては手狭な建物が林立している上に人が多く、戦り辛い。
また周囲に人の気配が少なければ、煉國の持つ武術家としての気配察知・視線察知のスキルは十二分に働く。

ここならば、まだ見ぬ敵を迎え撃つに最適だ。
そう考えた煉國は巨大客船と巨塔をモチーフとしたアトラクションが一望できる広場に自らの身を置いた。

――――あれから、煉國は手を尽くした。
青空羽美をなんとか見つけ出して自身の持つフィールドに閉じ込めてやろうと知恵を出し、策を凝らした。
しかしまるでその女は、煉國の動きを全て見通しているかのように捕まらない。
1日中歩き回って、時には走り回って、青髪という目立つはずの容姿が視界にすら入らないというのは異常だ。
何らかの能力を使用していると考えるのが妥当だろう。

ならば、煉國に残された手は後の先をとるしかない。
先手はくれてやる。
狙撃でも能力でもなんでも打ち込んで来るがいい。
ただし、初撃で仕留められなかった場合は覚悟しておけ。
そう、煉國は考えた。

空には無数の星が輝いている。
営業中の華美な電気装飾がそのなりを潜めれば、郊外に位置するこのテーマパークの夜は暗い。

こつり、こつり。
不意に、遠くから足音がした。

こつり、こつり。
青髪が揺れる。

「……おいおい」

こつり、こつり。
並々ならぬ覚悟の宿りし青き瞳が一直線に鷹の目を見据える。

「随分堂々と迫って来るんだな。
逃げ回ってたんじゃねぇのか。」

―――――こつ。
足音が、止まる。

「はじめまして、煉國。
あなたを助けに来ました。」




■7: 開園1■


「……『助ける』だと……?」

煉國と羽美の距離は現在8m。
煉國の能力射程は5m。

煉國がゆっくりと数歩前に出る。
それに合わせ、羽美もゆっくりと数歩後ろに下がる。

「止まって下さい、能力は割れています。
『自身を中心とした半径5mに透明な壁を出現させる能力』とお見受けしますが、いかがでしょう。」

「一日中張り付いてた割には甘い答えだ。」

そう言い、煉國は足を止めた。
だらんと腕を脱力させ、前傾に構える。
どの武術流派にも類をみない、実戦の中で磨かれた対応力の高い構え。

距離、7m。

「やる気のところ申し訳ありませんが、今日はもう休戦にしましょう。
時間が無いのです。」

「時間ならあるさ。」

体幹を微動だにさせない状態での前進。
縮地と呼ばれるその歩行法は相対する者の距離感を狂わせる。

一歩、相手に気取らせないようすり足で進み、そこから整えた足で猛烈に地を蹴る。

―――――「(一秒あれば、十分だ)」

魔人能力 “闘神の庭”

半径5m以内の敵を捕らえるその能力が、
不発!

美羽は煉國の全速と同じ勢いで飛び下がり、間合い7mを死守した。

「(……今のは、技巧(わざ)じゃない)」

煉國は、美羽の瞳を見ながら縮地を行った。
呼吸を読み、相手の緩を突くことこそ縮地に寄らず全ての技に通じる極意だ。
その観点から言って、先ほどの踏み込みは完璧だった。
瞬きと息を吐き切るタイミングが重なる一点を予測しての初動は見事に最良を捉え、その後の踏み込みもミスなく行えた。

それなのに、彼女は煉國の縮地の初動と同時に飛び下がったのだ。
反応できるはずがない。
確かに、彼女の瞳は煉國の初動を捉えてはいなかった。

―――――二人の技量差を考えれば本来有りえない事象がおきた。
片や修羅に身を置き10年、自らの命を顧みず武を鍛え続けた魔人の男。
片や3年、師もなく独学で己を鍛えただけの人間の女。
経験の量も、質も、素体性能も、全て煉國に分がある。

この大きな差を埋めたのは女の能力だった。
女、青空美羽は魔力と言われる生命エネルギーを自由自在に操る能力を持つ。

彼女の周囲には現在半径7mの魔力の結界が張られており、彼女の足は同じく魔力を集めてその機動性を増している。
現在の彼女は半径7mへの侵入を、視覚を介さず感覚として捕らえることができ、反射と同等のスピードでそれを回避動作へと反映できるのだ。

日中、彼女はこの能力によって煉國の動きを把握していた。
“キュア・サークル”と呼ばれるこの魔力運用は、魔力を薄く広げ伸ばすことでその範囲内を感覚として捕らえることができる。
彼女、青空羽美の“キュア・サークル”最大射程は約2kmである。


「……悪かった。」

煉國は不敵な笑みを湛えたまま攻撃体勢を解き謝罪を口にした。
その真意は計り知れない。

「煉國、もはや問答は無用です!
今すぐここを出て下さい。
あと数分でここは戦場になります。」

「……わけのわからねぇことをゴチャゴチャと。
そうやって、あんたも俺を騙すのか?」

「騙す……? 何を!? 違います!
こうやって、リスクを冒してあなたの前に現れたのが何よりの証拠。
もし私が真剣に勝ちを狙うのなら、身を潜めたままあなたが弱るのを待ちます。
私は、あなたを助けたい!だからここに来ました!」

「さて、どうだか。」

じゃらりと羽美はポケットから懐中時計を取り出し時間を確認。
その機に間合いを詰めようとした煉國に合わせてまたしてもバックステップで下がる。

「あと2分。
いいですか煉國、あなたとの決着は明日必ずつけます。
あなたの望む時間、望む戦場を指定していただいて構いません。」

「ほぅ、そいつぁいい」

「ッ! 煉國、真面目に聞いてください!」

撫霧煉國は人を信じない。
いや、信じられないのだ。
故に彼は自身を鍛えた。
自身だけは、自身の肉体だけは彼を裏切らない。

はなから、この二人に折り合いがつくはずなどなかった。

残り1分。

「もう……間に合わない……ならばッ!」

少女の結界を形成していた魔力が、本体へと戻る。
高密度の魔力が彼女を覆い、彼女を強化する。

「キュア・エフォート・ヴァルキリーモード!
力づくでも……助けますッ!」

羽美が煉國に向け突進する。

「……はじめから、そうしろ。」

魔人能力 “闘神の庭”




■8: 開園2■


「う゛! ううっ」

撫霧煉國の魔人能力「闘神の庭」に威勢よく飛び込んだ羽美は、雷に打たれたような衝撃と共にその場で静止した。

魔人能力「闘神の庭」は単なる捕縛能力ではない。
この能力には対象を閉じ込める以外にも2つの効果がある。
1つは「闘神の庭」の能力全容を対象に瞬間的に強制認識させるというもの、そしてもう1つは「強制的に多量の脳内物質が分泌させ、戦闘意欲を無理やり湧かせる」というものだ。

「あ……っ、あぅ……、は……あ……っ!?」

とすんと、膝から崩れ落ち、自らの体をかき抱く羽美。

「ひっ……あああーーっ!!!」

びくんと体が弓なりに反る。
煉國は困惑していた。
かつて、この能力に対してこのような反応を示した者はいなかった。

――――「っ」―――――「か」――――――「かっ」

ここは彼が望む、戦闘のみが存在する絶対領域。
強い人間と闘いたいという欲望から生まれた魔人能力。

――「ほ」―――「か」―――――――「ま」―

それを、その戦いの衝動を、この少女は未熟な精神耐性によって自制しようとしている。
一体、何故。

「まほ……かつ! まほ……かつ! まほ・かつ!」

少女は呪文を口にする。
かつての親友が残した、辛いときに頑張れる魔法の呪文。

呼吸は荒く、顔の穴という穴から水分を垂れ流すその少女の青き瞳はしかし、輝きを失っていない。
ギリリと歯噛みする煉國。

「お前は……お前は何がしたいんだ!」

可能な限りの脳内物質を強制分泌。

「う゛…………あああぁぁーーっっっ!!!」

一際大きな痙攣の後、すかさず彼女は自らの左手を口元に運び、甲の肉を噛みちぎった。
ゆらりと立ち上がった彼女は、血に塗れた肉を吐き捨て、口元を拭うことなくぴしゃんと自らの両の頬を打った。

そして確かに“ほほ笑んだ”。

「ヴァルキリー・キュア・コレクトォーーーー!!」

全ての肉体防御を捨て、右拳に膨大な魔力を一極集中!
魔力を感知できない煉國をして、彼女の拳に光を見た。

「私はッ!!」 

轟音。「闘神の庭」を内側から殴りつける。
小型ミサイルが着弾したが如き衝撃。

「あなたをッ!!」

轟音。

「いいえ……、未来・過去、亜空間を含むすべての多次元並行宇宙に存在する善良な人々を……!」

「助けたいッ!!」

轟音。

煉國は動けない。
数歩前に出て、手刀を振り下ろすだけで目の前の少女の命は簡単に摘めるだろう。
それほどに、今の彼女は脆く儚い。
だが、それでも、彼女の狂気的主張が、異常な行動が煉國の足を止める。
加えて、煉國は無抵抗の人間を殺せない。
彼が求めるのは殺人ではない、自分に向ってくる強者からもぎ取る勝利なのだから。

―――――『ギャハハハハハハハハ』

その時、下卑た笑い声が園内狭しと響いた。

「……ぐっ!?」

巨体が揺らぎ、片膝をつく煉國。

ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ

突如襲ってきた異常な疲労感に耐えながら、煉國は異変の一端を見た。
「闘神の庭」の壁面に、ところ狭しと小さな生き物が張り付いている。
猿のような骨格をした真っ黒な体毛のその小動物たちには揃って首がない。

「間に合わなかった……。」

壁を打ち付けていた羽美の拳が元に戻り、呆然と立ち尽くす。

煉國の足元の地面から、染みが広がるようにして首なし猿が湧き上がる。

「……ッ! ぬううっ!」

弱った体をおして、地面に向かい剛腕を振るう。

「ダメッ!!」

羽美の静止は間に合わず、煉國は“ソレ”に触れた。

ァ..ギ?

拳は猿をすり抜けた。
急速に体から力が抜ける。
煉國の意識が薄れると同時に、「闘神の庭」が崩壊する。
壁面に張り付いていた無数の黒き首なしが一斉に二人へと降り注ぐ。

「手をッ!」

少女の叫びは黒き濁流に飲み込まれた。




■9: 煉獄■


少年はかつて、ごくごく一般的な家庭の一般的な子供であった。
小学校・中学校・高校と順当に進学して、ごくごく一般的な仕事に就くような、そんなありふれた幸せを約束された子供だった。

しかし、前触れなく少年の幸せは崩壊する。
両親に捨てられ、サイコパスがとり仕切る収容所に入れられ、そこで過ごした2年のうちに少年の健全な心は大きく歪んだ。

やがて、少年は憎しみと怒りが転じて魔人となる。
魔人となった時、彼は何も信じられない人間になっていた。

自分を捨てた両親、正論のような暴論で人を支配する老人、言葉巧みに自分を陥れる収容所の子供達。
それらすべてが彼の人格を形成した。

やがて、彼は自らの肉体を鍛えることに固執するようになる。
そのような論を口にしたことは一度もないが「肉体は自らを裏切らない」という信念が彼の中には根付いていた。
自らの肉体だけが、彼の信用を獲得し、それはやがて偏愛となり、彼は果てなき自己研鑽の道へと歩を進めることとなる。

少年はやがて成長し、15歳となった。
あの日から9年、心身ともに太くなった彼は希望崎学園という全国有数の魔人学校へと進路をとった。

それと同時に彼は古き名を捨て、「煉國」の名を自称するようになる。
この名は「煉獄」をモチーフにつけられた名前だ。
「煉獄」とは、天国へ上るために必要な苦しみを受ける人々が滞在する場所を示す。

彼は、煉國は、闘争こそ我が全てという信念を打ち出しながらも、心の奥底では現状を苦しみと捉え、戦いの果てに救済を求めていた。

―――――あの日、
少年が縋(すが)るように伸ばした手は、虚空を掴んだ。
しかし、あの時、誰かが、彼の手を掴んでいたならば―――――

「ヴァルキリー・キュア・バースト……スプレッドォーッ!!」

豪快な炸裂音が混濁した意識を現実へと揺り戻す。

「煉國!!」

誰かが、彼の声を呼んだ。

「手を!!」

大量の首なしの下敷きとなり、今にも途切れそうな意識の中、煉國は縋るように手を伸ばした。
そして少女は、その手を力強く握った。

次の瞬間、煉國にまとわりついて首なしがはじけ飛んだ。
死体のように冷えていた体が温度を取り戻し、活力が漲る。
瞬く間に意識が明瞭になる。

「私は、この力を『フレア』と呼んでいます。」

“キュア・フレア”

物体を体の一部として認識し、その物体にも魔力を纏わせる技術である。
羽美は手を介し、煉國を自身の一部と認識した。

『よかった』『よかった』『よかった』『よかった』
『よかった』『よかった』『よかった』『よかった』

手を、魔力を介して少女の思念が煉國へと伝わる。
少女は改めて立ち上がった煉國の鷹の瞳をじっと見上げ、にっこり笑って言った。

「よかった!」

鷹の目の虹彩が少し縮まり、「……阿呆が。」と、憎まれ口を吐いた。




■10:ティーブレイク■


『状況を説明します!
ですので、一旦建物の中へ逃げ込みましょう!』

そんな彼女の提言の元、二人は手を繋いだまま、最寄りの建屋を目指す。
現在位置からその目的地である建屋への単純な距離はせいぜい300m程度。
二人の超人の足ならば十数秒で到達できるはずのその場所が、今は遠い。

ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ
ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ ァ..ギ

本来の地面が見えないほど、首なし達があふれかえっている。
中には背中から4枚羽を生やし、飛ぶ者まで現れる始末。

二人はそれを蹴散らしながら進もうとするのだが……、

「ヴァルキリー・キュア、うわあっ!」
「フッ! シアアッ! トォ、……っと!」

射撃を行おうとした羽美が、煉國の攻撃の勢いに引っ張られ体制を崩す。
そうかと思えば、技を繰り出そうとした煉國が羽美に引っ張られ体制を崩す。

手を繋いでいるというハンディと、無限湧きする首なしが行く手を塞いでいた。

「ううむ、これではらちがあきません。
仕方ありません! 合体しましょう!」

そう言うが早いか羽美は煉國の肩に手をつき、飛び上がる。

「おい、お前何を……!」

煉國の静止を振り切り、羽美は煉國の頭に体を預けた。
つづけて足で煉國の太い首をホールドし、下半身を固定する。

「活路を開きます! まっすぐ進んで下さい!」

そう言って彼女は魔力の弾を充填する。

「ヴァルキリー・キュア・バースト・スプレッド!」

極小・最速・最大数の魔弾が一斉に射出され、敵を面で制圧する。

「エフォート・モア!」

リロード。

“エフォート・モア”は彼女が編み出した独自魔法である。
魔力で体内の魔力生成機関を強化し、現在彼女が体内・体外に留めている魔力の総量を1.1倍にするという技術だ。
これにより、彼女は実質尽きることなく魔法を行使することができる。
代償は、「精神と肉体が少し痛む。」
本人の表現によれば「脳と心臓にまち針を刺されて、そのまち針が一瞬で沸点に達して蒸発するような痛み」だそうだ。

ショット・リロード・ショット・リロード。

一発で体外の魔力をほぼ全て消費する大技を惜しげもなく連発しながら、空飛ぶ首なしを、地を進み来る首なしを穴だらけにしていく。
この無体な能力出力をもって彼らは建物へと到達した。


“キュア・フレア”

建物の一室、給湯室を自分の一部とみなし、魔力で囲う。
これにより、首なしが室内に湧くことも外から侵入されることはない。

室内に入ってまず、羽美は自らの衣服に手を入れ、器用に片手で綿製のファッションベルトを外した。
体に三重に巻き付けられたその幅の細い布はおよそ4m程度の長さを誇る。

その一端を煉國に持たせ片方を腕に巻き羽美はお茶をいれはじめた。
物を介してでも術者と対象が繋がっていればフレアのリンクは成立する。

コトリと、煉國に緑茶を振る舞い、自分も湯呑を持ってその正面に座る。

「さて、あまり時間はありません。
要点だけご説明します。」

「……カッ! 時間がないならお茶なんていれてんじゃねぇよ。」

どことなく口調が柔らかくなった煉國がつっこむ。

「いえ、これは必要行動ですので。
まぁ、冷めないうちにどうぞ。」

少し話す順序を思案してから羽美は話をはじめる。

「まずは私のこの力からご説明します。
私が用いる能力体系は『魔法』といいまして、人間の誰もが持つ『魔力』と呼ばれる生命の活力を引き出し運用する『技術』です。
一度にたくさんの魔力を体に纏い性能を強化したり、魔力を銃弾のように放つことができます。」

煉國はこれまでの羽美の様子を思い出す。

「強化できる性能は様々で……そうですね。」

彼女は左手の甲を煉國に向けた。
そこにあった裂傷から白い煙が噴き出す。

「……例えば今、この左手に魔力を集中させ『治癒力』を強化しています。
今は他のことにも魔力を使っているので治りは遅いですが、この程度の傷であれば数分で完治します。」

さて、と彼女は続ける。

「私が『魔法』と呼称するこの能力は、東洋においては『気功』や『丹田法』、『念能力』などと呼ばれているそうなのですが、それと似て非なる能力体系に『黒魔法』、もしくは怨念の頭文字一文字をとった、『怨』というものがあります。」

「……固有名詞が多すぎてわからん。」

「うーん、すみません。では簡潔に。
私が使う『魔法』が正義の味方の力、人間の正のエネルギーを原動力とします。
対して、『怨』が悪の力、人間の負のエネルギーを原動力とします。」

「まだ話が見えねぇな、その『怨』がなんだって言うんだ。」

「このテーマパークは人間から活力を搾取するために『怨』を練って作成されたものです。
……昼にここを散策していて、何かおかしいと思うところはありませんでしたか……?」

そう言われて、しばし思考する煉國。

「……ああ、そういえば。なんでもないような係員から凄まじい戦闘力を感じた。」

「えっ!? そこですか!?
……あー、いえ。まぁそれも正解です。
煉國が目にしたのは、この施設の『怨』機構を保守する100人の精鋭、『キャスト』と呼ばれる方々でしょう。
彼らは広い大陸から選抜されたエリートで一人一人が一騎当千の使い手と聞き及びます。
……でもっ、そうじゃなくて! もっと不思議なところありましたよね!?」

難しい顔のまま固まった煉國にため息をつき、美羽は正解を発表する。

「パーク内のいたるところに小人や妖精がいませんでしたか?」

「……いたが。」

それが何かと言わんばかりの煉國を、美羽はまくしたてる。

「あんなの、どう考えても普通じゃないでしょう!
人間の膝くらいの大きさしかない人類や、ワイヤーやモーターもなく空を飛ぶ人間状の不思議生物がこの世に存在するわけないじゃないですかっ!
ファンタジーやメルヘンじゃないんですから!」

「……これが遊園地というものかと感心していたのだが、そういうものか。」

「はぁ。
あいつらはたった今私たちが蹴散らしてきた『怨獣』と呼ばれる存在の昼の姿です。
……さて、冒頭で『時間がない』という説明をしましたが、それはこの事実に関連します。
今はまだ、妖精や小人といった力の弱い怨獣しか活動をはじめていませんが、夜が深化するにしたがって徐々に強い怨獣達が活動しはじめます。
……そろそろ、中型(マスコットクラス)の怨獣が動き出す頃合いです。」

「犬やネズミや熊を可愛くしたようなあいつらも動くのか……。
通りでいい動きをするわけだ。」

「そう、マスコットレベルであれば私たちでもギリギリ対処できるでしょう。
しかし、その上、大型(アトラクションクラス)となると今の私たちでは太刀打ちできない可能性が高いです。
そ・こ・で!」

美羽の指が力強く月を指さした。

「あれをぶっ壊します!
あれさえぶっ壊せばこの夜の異界は正常に戻り全ては解決します!」

すうっと息を吸って、美羽は高らかに宣言した。

「私たちに残された時間はおよそ10分(三千字)!
今から10分以内に月をぶっ壊します!」

そして、煉國の飲みかけの湯呑に手をかけ、一気に飲み干した。

「それでは要約!
『このテーマパークは悪の組織が建てた悪の城なので、ぶっ壊す!
具体的には月をぶっ壊す! 10分で!』」

「この世界は平行世界なのだから、守る必要があるのか?」という疑問が煉國の頭をよぎったが、先ほどの能力空間でのやりとりを、美羽の咆哮を思い出し、心の中にそっと戻した。

――――― 「いいえ……、未来・過去、亜空間を含むすべての多次元並行宇宙に存在する善良な人々を……!」

―――――「助けたいッ!!」

ああ、こいつは根っからの阿呆なのだったと再認識し、彼は彼女と共に月下へと向かう。




■12:決戦・月を穿つ螺旋の槍■


少年と少女が異界の要である偽りの月を破壊せんと、闇夜を駆ける。

『ミッションA』

極端に長い綿製の鉢巻、友人の形見であるそれを身に着けた少女が適当な平地を見繕い射撃体勢に入る。
長距離射撃に全魔力を注ぐ時、彼女は無防備となる。
故に、巨体の少年が外敵から守護する。

彼らはもはや手を繋ぐ必要が無い。
体液交換を済ませ、煉國は一時的に羽美の使い魔となった。
よって、羽美がフレアによって魔力供給せずとも事前に与えた魔力を電池のように消費しながら一定時間継戦可能。

もはや広場には中型の怨獣が溢れかえっている。
それを、煉國が得意の体術を用い少女に近づけさせないよう奮戦する。
元々魔人最強級であった煉國に魔力のアシストが加われば、それは鬼にロケットランチャーを与えるに等しい。

「エフォート・モア・フルドライブ!」

ヂッ

体外に張りつめた魔力が1.1倍になる。

ヂッ

体外に張りつめた魔力が1.1倍になる。

ヂッ

体外に張りつめた魔力が1.1倍になる。

――――――ヂッ、ヂッ、ヂッ、ヂッヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

猛烈な勢いで「エフォート・モア」を連続発動。
灼き切れそうになる意識と、耐えがたい肉体的苦痛の中で臨界点を探す。
最大速度を目指し、回転速度を上げてゆく。
やがて訪れる臨界!

「キュア・エフォート! アルティメットモードォ!」

いくらエフォート・モアを用い魔力を増強したところで、体外・体内に留めておける魔力量は一定である。
故にこの連続発動により発生する莫大な魔力は発生したそばから羽美の管理下を離れ中空へと霧散する。
紅の鉢巻がその気流に乗って逆立つ!
霧散した魔力は大気をかき乱す8つの渦となり、攪拌(かくはん)により生じるプラズマが8つの渦を神秘的に輝かせる。
それはまるで、天使の持つ美しき羽根のようで。

「アルティメット・キュア・バーストォ!」

懐から取り出した弾の無い銃の口を月に向け、羽美は引き金を引いた。
これが、現状の羽美が持つ最大火力。
その友人の形見を起点に、エフォート・モア・フルドライブで生成した魔力を生成した傍から射出する。
弾であり、砲身である羽美が燃え尽きないという前提において、その射撃可能時間及び射程は理論上∞となる。

青き光の奔流がわずか地上1kmに君臨する異空間の特異点、偽りの月へと到達する。

“月の瞳”

偽りの月にいくつかの瞳が出現し、紅き魔力障壁を展開する。
羽美の最大火力とその障壁は拮抗……否。
障壁が悠々と羽美の射撃を防ぐ。

「ううううぅあああああああああああアアアアアッ!!!」

砲撃の威力を上げようにもすでに羽美は臨界だ。

この敗北には3つの理由がある。
1つ、異空間自体が魔力(生命E)を吸い取る性質があること。
これにより発射から着弾までの間に羽美の射撃の威力は大きく減じる。
1つ、通常の魔弾に比べて制御が効かないこと。
膨大な魔力の向きをある程度揃えることが、今の彼女にとっての精一杯であり、その結果射撃に収束性は悪く、距離に比例して放射上に拡散する。
1つ、月の障壁は異空間が吸った魔力を元に生成されている。
つまり、羽美が余計な魔力を放出すればするほど、それは翻って月の防御力となる。

以上3点を実感! 射撃中止! 作戦転換!

『ミッションB』

煉國と合流した羽美は月の真下を目指す。
道中、煉國とウェットな各々の過去に関する会話を交わしつつ到達。

「邪魔!」

羽美がブーツとソックスを脱ぎ捨てる。

魔人能力 “闘神の庭”

月、煉國、羽美が閉鎖空間に捉えられる。

「行って来い!」

「行って来ます!
キュア・コレクト!」

直径10mの天を衝く透明の円筒の内側を裸足の少女が螺旋状に駆け上がる。
煉國の能力の射程は上下方向に∞。
その能力空間を魔法で駆け上がり、物理属性を帯びた拳で砕く。
これがミッションBだ。

少女の鉢巻がたなびき、赤き残像が螺旋を描く。

“月の瞳・甲”

月は無邪気ではあるが、無知ではない。
先ほど自分に対して射撃を行った人間が向っていることを知れば即座に迎撃行動に出る。

複数出現した瞳から先ほどの羽美の射撃の魔力を転用した、高い殺傷力を持った閃光が放たれる。

それを加速で減速で巧みに躱す羽美。
苦手ではあるが、一応可能な魔力の変色を煙幕として用いながらなんとか肉薄していく。

あと一蹴り、あと数mで偽りの月を拳の射程に捉えるという時に、足場(闘神の庭)崩壊!
アトラクション級の怨獣の物理攻撃!
先ほどの羽美の砲撃で怨獣の覚醒が早まった。

「闘神の庭」は内からの脱出や破壊は不可能。
ただし、外からとなれば話は別だ。

「まだッ!」

羽美は咄嗟に鉢巻に手をかける。
同時に月のレーザーが羽美に着弾・爆発。

もうもうと立ち込める煙から、“赤い槍”が伸び出でて月の瞳の一つを刺す!
『おぎゃあ! おぎゃあ! おぎゃあ!』
月が赤子のように鳴き声をあげる。

“キュア・フレア”

槍は、鉢巻をフレアによって高質化させて作った。

「もう一回!」

“キュア・フレア”

鉢巻と月、そして美羽を一体化。
グンと、鉢巻を手繰り加速度を得る。

「ヴァルキリー・キュア・コレクトォ!」

もうレーザー射撃の心配の無い潰した月の瞳に向かい、全力の拳を打ち込む。

バツンと、小気味のいい音がして羽美の右二の腕から先が消失した。

“月の咢(あぎと)”

月の裏側で時に笑い声をあげ、時に泣き声を発していた大口が羽美の拳に合わせ開き、閉じたのだ。

『ギャハハハハハハハハ』

偽りの月が裂けんばかりに口を広げ、嗤う。
愚かな人間め思い知ったかと、嗤う。

『ギャハハハハハハハハ』

単色の唇を染めるソレが、口内を転がる血袋から溢れるソレが、
飛散し、赤い雨となる。

―――――さて、“悪夢”は佳境に入る。
希望は潰(つい)え、時は頃合い。
夢と魔法の亡国の、主役達がいよいよもって動き出す。

堆(うずたか)き屍山が、守銭奴の虚塔が、白骨の客船が、人食(ひとば)みの怪列車が、パレードへと加わるべく、錆びた音を奏で始める。

ァ..ギ ァ..ギ

首なし亡者は気配に浮かれ、羽根亡者は供物に群がる。
惑いし生者の快進も、もはやこれまで。
幕は近い。

「……阿呆が……!」

『ギャハハハハハハハハ』
. 『ギャハハハハハハハハ』
. 『ギャハハハハハハハハ』………―――――




■13:キュア・エフォート■

「キュア・コレクト」によって拳に魔力を一極集中させた状態で、その拳を奪われた。
故に羽美は一瞬完全に無防備な状態となった。

「はずした!?」「いたい」「これは、歯?」「腕が」「痛い!」「よくない」「はやく、魔力を!」

強襲とそれによるダメージによる混乱の中、現状把握に費やした1秒にも満たない僅かな時間が彼女の命運を分けた。

ァ..ギ ァ..ギ

羽根の怨獣が群れとなって彼女に取り付く。
魔力の防壁が無ければ、羽美はただの人間に過ぎない。
煉國のようなタフネスは彼女にはない。

意識が一瞬で白む。


仲間に取り残されたあの日から、
キュア・エフォートは個体で完結しようとした。

仲間がいなくても継戦できるように、一番はじめに回復魔法を覚えた。
次に、仲間がいなくても情報収集できるよう、魔法を薄く広げる技術を極めた。
次に、それと組み合わせの良い射撃を、次に、肉弾戦を。
そしてその究極系として無限の魔力生成を。

エフォートは、どんな敵が何人現れようと一人ですべてを葬る為に己がスキルを組み上げた。

だが、それは必要に迫られてのこと。
エフォートは4人の魔法少女の中で誰よりも仲間想いだった。
本当は彼女は強くなんてなりたくなかった。
ただ仲間さえいればそれで良かった。

だが、最期の日に彼女の親友は彼女に未来を託した。
だから彼女はそれに全力を尽くすのだ。

何故ならばそれが、彼女にたったひとつ残された「仲間のためにできること」だったのだから。


高所から落下し、死亡。
否。地上に落ちる前に活力を吸われ尽くして死んだはずの羽美が目を開ける。

「……なぜ。」

目を覚ました彼女は弱々しくそう発する。

「私がしねばあなたの勝ちなんですよ……!
この空間からも、抜けられる! それを、ゲホッ!」

レーザーの貫通で痛めた内臓が今頃になって血を吐かせた。

―――――煉國は、羽美が羽根亡者に囲まれた直後に能力を発動した。
彼の能力は一度に4体以上の生物を取り込めない。
4体以上取り込んだ場合、弱い者から順に領域外へと弾かれる。
ひん死の羽美は弱い者であった。
弾かれた羽美をまた羽根亡者が襲い、それを弾きを繰り返し一定の高度まで降りてきた羽美を受け止め、巨大怨獣の下を抜け、比較的怨獣の少ないこの場所まで逃れた。

「……阿呆が。」

煉國は短くそう告げた。

「お前はあの時、俺の手を掴んだ。
だから、俺も掴んだ。それだけだ。」

目をパチパチとさせた後。
青空羽美は笑った。

「馬鹿ですね。ほんとうに、ばか」

青い瞳から一筋の涙が流れる。

「なぜ、泣く。」

「見てわかりません?
右腕切断に、内臓破裂ですよ。
治療費のことを考えると、泣けてくるのも道理では?」

「……阿呆が。」

くつくつと軽口に煉國が笑った。
羽美もつられて笑った。

仲間想いのキュア・エフォートは仲間と肩を並べ、仲間のために戦う時に最高のパフォーマンスを発揮する。

「煉國、最後の勝負をしましょう。」




■14:WAC■

羽美の治癒強化はあくまで自己治癒能力を高める能力だ。
故に一見完治したように見える腹部の傷は、中を開けば内臓はボロボロのままであるし、切断された右腕が生えてくるなんてことはない。

それでも、彼女は負ける気がしなかった。

『ミッションC』

偽りの月の下へと運ばれた羽美は、魔力を増産する。
射撃体勢だ。

『ギャハハハハハハハハ』

偽りの月が嘲り嗤う。
ヤケを起こしたか人間。
それは先刻破ったではないか。

「アルティメット・キュア・バースト!」

その超魔力放出に、

「闘神の庭」

砲身(バレル)が足される。
一定の密度を保ったまま、魔力が透明の円柱を駆け昇る。

“月の瞳”

偽りの月の全方位に瞳が出現。
各砲座から風車の如き角度をつけレーザー射出。
月が高速回転をはじめる。

高密度の魔力奔流を回転と魔力放出で受け流しながら、月は愚かな人間を押し潰すべく落下をはじめた。

「煉國」
「ああ」

『ザ・ラストミッション』

煉國の右手が、羽美の露出した右肩へ。
煉國の左手が、魔力を放出する銃を支える左手に添えられる。

“キュア・フレア”

魔法は、誰しもが持つ生命エネルギー、魔力を自由自在に操るスキルである。
そう、魔法は、誰にでも宿る。

「エフォート・モア―――――

. ――――― フレア・ドライブ」

――――――ヂッ、ヂッ、ヂッ、ヂッヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

「煉國の」魔力生成機関が羽美の魔力によって活性化される。
気絶しそうな痛みは庭の脳内物質で和らげる。
さらに魔力を通じて煉國の意識を読み取り、決して灼き切れないようにピッチを上げる。

二つの魔力タンクを繋ぎ総魔力量を増やした上で、二つのエンジンを回す。
その魔力生成速度は一人の時の2倍を遥かに超える。

自分だけを信じ、自分だけを磨いた二人が互いを認め手を取った。
その力が月を衝く。

「「いっけぇえええええええええええええええええええええ!!」」

“アルティメット・フレア・ドライブ・バースト”

『ギャハハハハハハハハ』

“月の咢”

偽りの月が大口を開け、体内に持つ虚無空間にその魔力奔流を逃がそうとして、奔流に飲まれた。

自らの創作した天蓋に打ち付けられた偽りの月は短い断末魔を上げ四散した。
堆(うずたか)き屍山が、守銭奴の虚塔が、白骨の客船が、人食(ひとば)みの怪列車が、何事も無かったように元のアトラクションへと戻る。

空には星が瞬いている。




■14: ___■

「もう、手を握る必要は無いだろう」

「確かに、魔力でズタズタの体内を治して欲しくないなら握る必要はありませんね。」

「………嫌な奴め。」

「それはお互い様です。
……今だから言いますが、私の一生懸命書いた手紙をビリビリに破かれた時は『絶対殺す!』って思いました。」

「気が合うな、俺も『なめやがって、殺す』と思ってた。」

「でも……、一日観察して、わかっちゃったんです。
煉國が善人だって。
私の手紙を破くとき、渡した人の前で破らないように気をつけていましたね?」

「さぁて、覚えてねぇな」

「私のお金を受け取らず、無一文で飲まず食わずなのに高楊枝。
ご立派です。」

「……はン!うるせぇ。」

「破ったごみをまとめてゴミ箱に捨てるマメさ、見習いたいです。」

「……殺すぞ。」

「まだまだありますけど、聞きたいですか?」

「けが人は黙って寝とけ。」

「そうさせていただきましょうか。」

暫し二人は無言で星を見上げる。

「そういえば、明日は何時にしますか。」

「……はぁ?」

「決闘ですよ、決闘。
約束したじゃないですか。」

「その体でか……?」

「んっふっふっふ!
これはこれは面白いことを。
内臓破裂と右腕切断くらいで互角の勝負ができるとでも?」

「カッ! 可愛くねぇ。」

「……ふふん!」

「俺はもう疲れた。降りる。
迷宮時計、『降参』だ。」

「はっ!? 
ちょ、ちょっと待って下さい! 何をいきなり!
怪我くらいしっかり治してから、………ッ!!
今すぐ降参を取り消しなさい煉國!」

「ん~、これって取り消せんのか?」

「何を呑気な!」

羽美の体が透け始める。

「まって、まだ伝えないといけないことが。
あっ、これ! 鍵!」

ポケットからコインロッカーの鍵を煉國に投げて渡す。

「あとは、魔法についてですが!」

煉國は人差し指を立て、自らの鼻の前に置いた。

「うるせぇ女だ。俺にも喋らせろ。
青空 羽美。 せいぜい頑張れや。」

「待って! 煉―――――

傍にあった気配が一つ消えた。

「……あー、はらへった」

少年は草むらに五体を投げ出し飽きるまで星を眺めた。