「これが現地に潜入したわたくしの同期による報告の結果になります。
シシキリがネットロアとして世に流布され出したのはここ数ヶ月以内のようですね」
「そう、あちらはいいとしてこちらはどう?
こちらとあちらが平行世界だと言うなら、もしかしたらこちらにもシシキリがいるかもしれない。
捕まえるなり、なんなりして情報を手に入れれば迷宮時計に一手近づく筈だけど?」
冗談だ。
二十四時間を切った以上、出来ることはたかが知れているだろう。
紹介が遅れた。
私は芽月リュドミラ、詳しいことは説明しないが、迷宮時計を巡って争っている世界とは別の世界の住人と思ってくれればいい。
そして、もう一人は探偵。私達の組織(部活)の協力者で、人と変わらない姿をしているが人造の探偵だ。名前を遠藤之(中略)菖蒲(あやめ)と言う。まぁ、情報員とでも思ってほしい。
「菖蒲。あれから、部長から達し事項が届いたんだよ。人員の損耗を避けろとね。
となると大前提として、私達はこの”迷宮時計”を巡る戦いにおいて外様でいなければならない。
平行世界や異世界を渡る部長(リーダー)、そして意図しては難しいけれど絵と絵を通じて世界を繋ぐことが叶う私。確かに、参加者の手に届く範囲にいない以上は漁夫の利を狙うには最適かもしれない。
けれど、確保した”欠片の時計”は十二ある内の一席(風月)を渡したあの探偵達に奪われてしまった。
姓を与えた時点で身内であるはずの部員、必ず一人を犠牲にしないと脱出が出来ない閉鎖空間。
多数決とは言え、雨月には悪いことをした」
一種の秘密結社である私達は、部長の連れて来た探偵に十二ある内の一席を渡した。
しかし、その結果は時計の持ち逃げだ。一応、まだ協力関係にあるはずだが、情報と技術を渡す先は複数確保しておかないといけない。つまりは、卵を盛るなら分けて盛れと言う奴だ。
「つまりは、危険な参加者の間引きとわたくしたちに好意的な参加者の勝ち残りを目指すと?」
「そう。我々に累が及ぶことを防ぐとともに、恩を売って迷宮時計の恩恵を僅かなりにも受ける――、消極策だけど、部外者が出しゃばっていいことはないとわかったから。
今後、我々は謎の情報提供者としての立ち位置を崩さずに、組織の名前も出さずにいきましょう」
そう、我等の事は誰も知らずにいればいい。
参加者はこちらから与えられる情報のみを精査してくれればいい。
単に、参加者の身内になれたと言うだけで恩恵が転がり込んでくれると思うような愚かな考えは捨てよう。
「了解しました。
現状、判明している参加者について報告します。
天樹ソラ、飯田カオル、山禅寺ショウ子、シシキリ、時ヶ峰健一、柊時計草(風月藤原京)、ミスター・チャンプ(Mr. Champ)、以上の七(八)名になります」
「内訳と理由は?」
「天樹ソラは、かねてよりマークしていたスズハラ機関のエージェント『N』との接触が確認されています。恥ずかしながら動機は完全な私事(私怨)ですが、早く確認が取れたのは僥倖であると思われます」
「そう、スズハラ機関との繋がりの方から判明するとは皮肉ね。天樹ソラ自身に特筆すべき点は?」
「はい。天樹ソラ本人は平凡な男子高校生のようです。こちらの世界と比較すると、幼馴染の菊頭ヒナが欠けているため、その絡みからの参戦であると考えられます」
「こっちとあっちに大した差異が無いってことは世界への影響力って点では大したことないか……? 続けて」
「飯田カオルについての報告はこちらになります。特筆すべき点としてワクワク動画生放送出演の後、大量の資金を集めていると向日葵(ひまわり)から連絡が上がりました」
「そちらは後に回して。風月からの情報が混じっているし、精査に時間がかかりそう。
どの道、国家機構が関わってくるとこっちにまで飛び火しかねないから気を付けるよう伝えて」
「わかりました。次はシシキリについて」
「ちょっと待って。山禅寺は?」「そちらは後に回した方がいいと……、いえ探偵の勘ですよ」
「そう。でもシシキリはさっき聞いたからもういいよ。いや、一応聞いとくかな」
「わかりました。シシキリについてのポイントは、
1.シシキリが達磨を集めるのは願いを叶えるため、と言うのは後付けされた噂の可能性が高い。
2.最初の犠牲者と思しき「祝薗盛華(ほうそのせいか)」の婚約者のみ手足も見つかっていない。
3.シシキリはネット発で広がった都市伝説、本人しか知る術の無いような描写も書き込まれている。
以上の三点でしたね。
当たった風月様からの情報交換分も含まれていますが、これは最優先で他の参加者に回します」
「当然だ。こんな奴が迷宮時計の力を手にしたら亜空間を含むすべての多次元並行宇宙が危ない。
次は時ヶ峰だったか? こいつは時空を操る魔人家系として有名だから見つけることが出来たのか」
「ご明察の通りです。あちら側で資金や人員の流入が激しくなっていると報告がありました。
未だ詳細はわかっていませんが、希望崎学園最強と目される彼が所有者であることは間違いないかと」
「風月については……、頭が痛くなるからこれも後々にしておいてくれ。
いずれ弱点を見つけないといけないんだろうが、探偵となると話が長くなるからな。
ミスター・チャンプは御本人が発言している以上のことは、それからわかった?」
「いえ。その辺りは流石に興行主、仮にあったとしてもボロは見せないようです
あと、探偵方についてわかった点と言えば風月様については出生地が長野県、柊は生産地が静岡県で、ほぼ同時期に生まれたと言うくらいですね。特に申し上げるべき点は現状ありません」
「そう……、それでは大方針としてまず飯田カオル経由で危険人物の情報を流しましょう。
ここで言う危険人物とは天樹ソラとシシキリの両名。
風月と時ヶ峰は下手に突っつかないようにだけど、信用の出来る時計所有者と渡りが付いたら情報を流してもいい。飯田カオルとミスター・チャンプは保留でよろしく」
先に言ったことは忘れたわけではない。
が、探偵と聞くと何故か嫌な予感がするのは気のせいではない筈だ。
「で、最後に。山禅寺ショウ子って探偵のことだけど……」
「はい! 山禅寺様は著名な転校生探偵であらせられるのです!」
自信満々に言われても、その……何だ、困る。謎を解く探偵自体が謎(?)の固まりでどうするんだよと、説明を受けた後は本当に思うよ。喋るダッチワイフくらいに思ってたかつての自分が、恥ずかしい……。
「本格派と対立することが無いのが幸いでした。わたくし自身も救われたことがあるんです!」
専門用語は聞き飛ばしてくれ、この探偵は異なった探偵技術の取得を目的に我々に協力している。
探偵についての詳細は省くが、本音を言えば柊とか風月とかいう探偵も許されるなら解剖せんばかりの勢いだ。探偵と言う生き物は基本的に狂気の産物だと私は思うよ。
「山禅寺様はですね――
「――ん?
疑問の途切れる音と共に、どんがらがっしゃーん。
そんなコミカルな音がした気がした。
「あー、いたたたた! 何、何なの! 事件!? と言うか字数は大丈夫!?」
『……落ち着くんだ、ショウ子。君の妄想を彼女らに押し付けることはないだろう。
それに事件はまだ始まっていない、ハズだ』
果たして、呼ばれてやってくるのが探偵である。二人は諸手を上げ、二人は頭を抱えた。
×ツヅク
○オワレ