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山禅寺ショウ子 真本格プロローグSS


◆山禅寺ショウ子 真本格プロローグSS


「「「何があっても・三・千・秒!絶対詰めるぞ・三・千・秒!」」」


地獄のような一人大合唱を終えると、探偵は感想を求めるようにせかせかと懐中時計を開いた。
懐中時計が口をきく。『ショウ子……』
「はい」探偵は答えた。

『ことあるごとに叫ぶそれは、一体なんなのだ?』
「わかんないよ!でも何か叫びたくなるんだ。私の能力と関係してるのかもね」
『ふむ………………』
喋る懐中時計――通称『ふっくん』は、思案するように眼を閉じた。

彼の腹に収まった秒針だけが、コチコチと音を起てる。
「ちょっと」と探偵。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、考えてる暇なんてないよっ!急がないと!今日の仕事を!」
『そうだな』

三千秒探偵――山禅寺ショウ子は振り返った。
パフブラウスの胸元に結ばれた赤いネクタイが風になびく。
無数のパイプの曲線と、固い鉄壁の直線で構成された黒い要塞が彼女の眼前いっぱいに広がる。

山禅寺ショウ子は魔人の上位種『転校生』だ。
転校生にはいくつかの勢力があり、山禅寺の所属する派閥には探偵の転校生が多くいる。
紛争、テロなどの犯罪に介入し、転校生としての力を維持するに必要な中二力を収集するのが主な仕事だった。

『原始共産軍魔人指令基地残党の壊滅が今回の仕事だ。兵士が百人、警備ロボットが二百体、魔人が五人。速攻で解決するには、少し敵が多いかもしれないな』
「50分でいけるかな?」
山禅寺は懐中時計を見やる。
50分。それが山禅寺に課せられた『タイムリミット』だ。
ふっくんは『それ』を山禅寺の妄想と言ってはばからないが、この時間制限が破られた時、何が起きるのかは誰にもわからない。
『きっと、無理だ。あせらず慎重に行こう。いつも言っているが、50分という制限時間は、君の『妄想』だ』

「ブゥーーーーーゥゥゥン……」
 ルンバの動くような規則的な機械音が近づいてくる。
 山禅寺は反射的に物陰に隠れた。
 ロボット兵だ。

「ロボット!?まさか、私の囁きを聞いて来たっての!?」
『囁きではない。絶叫だ』
ロボット兵は卵型の頭部をキョロキョロと回転させ、
侵入者を探しているようだった。
(量産型の安物だね。こっちに気づいてないみたい。カタチは結構可愛いかも)山禅寺が声に出さずにつぶやいた。
『能力で逃れよう』
「よし」

山禅寺はふくろう型の懐中時計に触れた。
カチリ、と秒針が静止し、山禅寺の時間感覚が鈍化する。
三禅寺ショウ子の魔人能力『スレドニ・ヴァシュター』。時間感覚を1/3000にまで圧縮する。

風がなびく。ロボット兵がぴくりと動く。
ロボット兵が陽電子回路にその風の原因を刻みこむその前に、それは粉々に粉砕し、風の一部となった。
『ショウ子……。避ければいいものを、わざわざ攻撃して見つかる危険をおかすことはないだろう』
「見つかるわけないよっ!この速さで」
『それもそうだが……』

会話しながらも山禅寺は警備兵を一人、手刀で気絶させようとして、間違えて首をはねた。
「それより風のうわさで聞いたんだけど、知ってる?ここに、別の転校生が来てるって」
『別の転校生?……別の勢力のか?』
「そう、そう、そう」

その転校生の名を、時逆順という。

「私も希望崎学園にいたときによく聞いたんだけど。とある教室の壁時計にむかって、『時逆さま』って十回唱えると現れて、時間を戻して貰えたり、行きたい場所に連れて行って貰えるんだってさ。それでね、願いを叶えた代償として、その人の大事な物をひとつ、取られちゃうんだって。ただの噂話だから、本当かどうかわからないけど」

話しながら、山禅寺は10体目のロボットを破壊した。
「あれ?」山禅寺は右手を見る。「ふっくん?」
自分の身体をみる。後ろを見る。シマリスのしっぽのような髪の毛をくるりと回して、大事な相棒がそこに隠れていないか探った。
「ふっくん、ふっくん、ふっくん、え、ええっ!?ど、ど、ど、どうしよう!??」


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」
山禅寺は肩についた血を右手首で拭った。

余計に血が肩についてしまう。
血をなすりつける場所を探し、右手を自分の顔まで持って行き、右頬を拭った。
その時初めて、右耳がなくなっていることに気付き、先程から音が聞き取りづらい原因を推理した。
「右耳ないじゃん!」
銃で撃たれた時に失ったか。

この数十分間、相棒を探しまわり、敵にさんざん追い立てられた。
相棒がいないと、中2力も下がり、能力も使えない。
「こんなことなら、こないだ買ってあげた懐中時計用の鎖、もったいぶらずにもっと早くに付けてあげるべきだったな……」
やはりもったいぶった行動は損をする。
コンクリートに倒れこむ。
「くそ、くそ、くそ、くそ……」
時計がなくてわからないが、おそらくもう50分経つ。
50分以内に事件を解決しないと大変なことが起きるという、己の妄想が、妄想であると決定づけられる時が来るのだ。
ふっくんはそれを見て、自分の言った通りだと鼻を鳴らすだろう。

「それは」
カチリと、

「少し」
どこかで世界の

「悔しいな」

終わりを告げる秒針の音が鳴る。




全ての亜空間を含む次元並行宇宙が消滅した。





「少し時間を戻させてもらったわ。原因を追求するに、ここから改変を行わないことには事態は好転しないようだったから」

「?」

「本来こういったことは私の領分じゃないし、今回はたまたま私が近場にいたから異変を察知できたけど、次も同じことができるとは思わないでね」

「あ……」山禅寺が眼を開けると、白いリビング。
血だまりのなか、男が倒れていた。

「10年前。貴女が実父を殺した日。魔人に覚醒した日よ」声の主は山禅寺の父親に握られていた球体を拾い上げ、転がした。
球体はころころと音を起て、山禅寺の目の前で停止する。

「ペナルティ」

よく見ると、声の主の腕は2つとも浮遊した鏡から突き出ている。異形の身体だ。
異形の主は転がした球体を指して言う。「それは、貴女の父親の無念が生み出すフクロウの妖怪。本来ならここで、懐中時計に宿るはずなんだけど、少しいじらせてもらったわ」
三禅寺は転がってきたそれを拾い上げる。イヤリングだ。
「イヤリングなら無くさないでしょう?」異形の主が言った。

ふっくんの姿が懐中時計からイヤリングになっていた。
(せっかく買ってあげた鎖、無意味になっちゃったね)ぼんやりと、山禅寺は考える。
「10分」
異形の主は言った。
「破滅する世界を無理やりに逆順させて、ここまで持ってくるのに、貴女の時間を使わせてもらったわ。……だから、貴女に残された時間は減っている。50分から10分に。10分といったら、人間の喋れる文字数でいうと、三千字といったところかしら」

「三千字」
山禅寺は声を出した。幼い声だ。身体も10年前に戻っている。

「これから10年を、もう一度やり直してね。もう転校生ではないから、力も能力も弱いけれど。それがペナルティ。貴女を殺さないのは、貴女が私達にとって有益だから。でも、次はわからない。と言っても、もう私と会うことは無いと思うけれど」
「あなたは、誰ですか?」
「時逆順」

異形の存在は消え失せ、残るは血だまりに膝をつく少女のみ。
少女は失くしたはずの右耳に触れ、存在を確かめる。イヤリングを付ける場所は、あるようだ。
それから後、少女はただ、独り言をつぶやいていた。
何度も、何度も。



「……何があっても三千字……、……絶対詰めるぞ、……三千字……」