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*裏第一回戦SS・オフィスビルその1 #divid(ss_area){{{  【1993年・足りない二人梅田に立つ】 「モア」 『めーらめーらとー、もーえるでジェラシー』 「モア、モア、モア」 歌ってるのはワイやない。ビル内のテレビで流れとるBGMや。 吉本新喜劇のエンティングで昔流れ取った曲や。確かワイが生まれた前後で この曲がプチヒットしとったけど、その後は使われん様になったから・・・、 二十年近く前かいな!おいこら迷宮時計、どこが現代やねん! まあ、過去が中世から近代の範囲って説明されとるから二十年前も現代に分類されるのは わかるけれどなあ、持っとる金使えへんやん!新千円札とか金ぴか500円とか全滅やん! まあええ、さっさと対戦相手の四葉っての倒して帰ればいい話や。 ワイはビルの中の避難民達をざっと見渡す。着の身着のままでここまで逃げてきた 人達が天井から吊り下げられたテレビで放送されとる吉本の番組見て笑っとる。 「すんませーん、こん中に四葉って女の子いはりますかー?」 「なんや、姉ちゃんツレとはぐれたんかー?」 「モア、モア、モア」 「まあそんな感じですわー」 「モア、モア」 数分後、人混みを押し分けて小学生ぐらいのチビッ子がワイの前に出てきた。 &nowiki(){・・・}天使や、なんつーか全体的に天使やこのチビッ子。 「こんにちは、須藤四葉です!よろしくおねがいしますっ!あ、モア、モア」 「おう、どっからでもかかってこいやあ!」 「はい。モア、モア」 チビッ子元気に頭を下げる。ワイどーんと胸をはる。 「モア」 チビッ子なんかモアモア言うとる。そーいや昔TVCMでオッサンとオバハンのコンビの 漫才師がモアモア言っとったけど、それのモノマネやろか。 避難民数百人、演劇か何かとやいのやいの騒ぐ。 無関係の人が何人おっても関係あらへん。ワイは心の隅に良心を追いやり戦う決意をする。 「モア」 絶対やったる。 「モア」 やる。 「モア」 やれんのか? 「モア」 なんかやれん気がしてきた。 ワイは開始の合図とばかりにベースをかき鳴らす。 ジャーン! 「聞いて下さい、『こんな状況で戦えるかいな』」 「みなさーん、お歌の時間だよー。手拍子お願いしまーす!」 「よっしゃー!合いの手ならこの飯田トオル、末期がんの47歳に任せろー!」 ワイのタイトルコールの後に四葉ちゃんが合いの手お願いする。 避難民は即座に手拍子、彼らを代表してホームレスっぽい汚いオッサンが合いの手役に 立候補してワイの隣に立つ。このノリの良さ正に大阪や。 しっかし四葉ちゃんも場馴れしとるな。こう見えてお姉さんキャラかいな? 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャカジャカジャカ 「飛んだ先は故郷大阪90年代(バブル!)、対戦相手は可愛い天使(モエモエ!) ビルの中には避難民(ギュウギュウ!)、ビルの外は滅亡中(な、なんだってー!) 見敵必殺誓って来たが(悪・即・殺は一女ちゃん!)、そんな決意はどこへやら(ズッコー!)」 ジャカジャカジャカジャカ(ヘイヘイヘイヘイ、ワオワオワオワオ!) 「ここが刑務所だったなら(プリズン!)、周りを無視して戦えた(ファイ!)、 相手が青年だったなら(メーン!)、躊躇をせずに戦えた(イヤーッ!)、 しかし現実振り返るならば(バーット!)敵は幼女で場は避難所(俺達ノーギルティ!)、 外は滅亡ワイは絶望(ジーザス!)、こんな状況で戦えるか!(ムリムリ無理さ絶対に!)」 ジャカジャカジャカジャカ(四葉ちゃんカモーン!) 「わたしは須藤四葉です(カワイイ!)、ゆめは世界平和です(イイネ!)、 それと家族もさがしてます(エーッ!)、だからゆうしょう目ざします(ガンバ!)、 めいきゅう時計そうだつ線ぜったいかつ気でいたけれど(あ・どーした!)、 こんな所じゃあ私もたたかえませーん!(そーじゃんそーじゃん当然じゃん!)」 ジャカジャカジャカジャカ(さあ二人一緒にせーの!) 「「ワイら時空冒険者」」 「ツマランナーと」 「四葉」 (俺はホームレスの飯田トオル47歳!金の為に戸籍も売った卑しい男!) 「「休戦しましょそうしましょ!」」 ジャーン! そして三日後、 ジャーン! 「聞いて下さい、『サンドイッチを作りたかったのにドーナツってるの?』」 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャン! 「食パン切ってぇー、ミスったドーナツ!」 ジャーン! 「三十秒以内に食べてや~、このドーナツ消えるねん」 能力を使ってビル内で炊き出しに協力するワイの姿がそこにあった。 べ、別に勝負を諦めたわけやないんやからな!ここの人達を味方に付けながら チャンスを待っとるだけやからな!三日前はあれや、実は腹痛かったから! ホンマやから!ホンマにホンマやからー! 【1994年・避難民生活は楽しいな】 「さっきテレビで関西滅亡ってゆっとたで」 「あっちゃー、今年一発目の滅亡早くも襲来かいなー」 「わはは、去年の一発目に比べたら四日も遅いからマシやがな」 関西人てすごい。私はそう思った。ツマランナーさんいわく、 関西はほんとうにしょっちゅうめつぼーしているらしく、 関西と縁もゆかりも無い魔人が能力のコストとして関西をめつぼーさせること すらあるということだった。ひどい話である。そりゃあ、関西人もタフになるよ。 でもめつぼーにめんえきの無い関西人もいる。主にそれは親のいない小さな子供たちだ。 ひなん所になっているこのビルにはそんな子供達を育てる場所がそんざいしていて、 私はそこのお手伝いをしていた。 「てんしのおねーちゃん!今日はめつぼー警報もめつぼー注意報もないで! 外であそべるで!」 「ごめんね、私がビルの外に出ると禅僧のお兄ちゃんが消えちゃうから。 そういう、魔人能力の制約だから」 「そんじゃしゃーないな!外で変な形のガレキ見つけたらあげるわ!」 私とツマランナーさんがこのビルにきてから一年がすぎた。 ツマランナーさんは今では人語を話せる禅僧というあつかいになっている。 孤児院の外のことをほとんど知らなかった私にはいまいちピンとこなかったけど、 この時代にはまだビジュアル系も男の娘もそんざいしないし、ニューハーフというのも 何かちがうからとあれこれ考えたすえに禅僧だと名乗ってしまったんだって。 「IZAMがメジャーになってないこの時期にワイがビジュアル系とか 名乗るのは、ただの音楽好きがタイムスリップしてビートルズの立ち位置を奪うのに 等しいくらいのやってはアカン事なんや。つーても四葉ちゃんにはわからんか」 わからんかった。 で、ビジュアル系とかを名乗れないのは良いとして、何でレッサー禅僧なんて そんなウソを言ってしまったのか、飯田トオルさんと二人で聞いてみたら 「ワイのダチのおとんがそういう生き物って話を聞いた事あるねん。 やから、ついその設定借りてしもたんや。正直後悔しとる、レッサー禅僧てなんやねん」 だって。 そんなツマランナーさんも今ではすっかりここの一員だ。 最初は人が減ったスキをついて私と勝負しようとか考えていたみたいだけど、 関西がめつぼーするたびに避難者はビル内にほじゅーされていくし、 ツマランナーさんに会うたびにコッソリ『赤×モア』で彼の迷いやトイレへいきたい きもちを濃くしたりして半年ほどやり過ごしていたら、さいきんでは ほとんど勝負をいどまれる心配はなくなった。 家族は見つけたい、お外で遊びたい、でもここのみんなは孤児院にいた時は 知らなかった事をいろいろ教えてくれる。飯田さんは私達の事情について真剣に 相談にのってくれるし、ツマランナーさんのことももっと知りたい。 関西めつぼーが一段落するまではまだここにいようと思う。 【1998年・禅僧街道まっしぐら】 仏壇がある。仏具がある。床は板張りになっている。 ここに来てから五年、滅亡の度にビルに侵入し物資を奪おうとする暴徒が結構おった。 それを四葉ちゃんと飯田さんとワイの三人で撃退しとるうちに、 業者さんが色々世話してくれてワイ用の禅僧フロアが完成した。 部屋の中央、髪もヒゲも伸び放題で座禅しとるワイ。ゴスロリドレスもいい感じに ボロボロになってだいぶ袈裟っぽくなってきた。 ワイは目をカッと見開き叫ぶ。 「なーーーーんでーーーーーやねーーーーーーん!!」 ほんまなんでやねん。ワイはあの幼女(今や少女)と戦いに来たんやぞ。 能力発動以外で一言も発する事なくクールにベースで頭ぶっ叩いて帰る予定がもう五年や。 五年って!迷宮時計争奪戦の戦闘時間最長記録間違いなしやん、記念として一回ぐらい 殴らせろや!出てこいやラスボス! 「ぶっ壊してやるから出てこいや!迷宮時計の本体的な何か!」 ワイの叫びに応える様に扉ががらりと開いた。もろちん、やって来たのは迷宮時計やない。 「呼ばれて飛び出てラスボス登場!フハハハハ、さあ、お前の気分が晴れるなら 俺をその迷宮時計の本体的な何かとやらの代わりに好きなだけ殴るがいい!」 「飯田さん、そういうのええから」 末期がんに侵されながらもこのビルを守り続けるホームレスの飯田トオルさん、 こないだ47歳の誕生日を迎えたばかりのこのオッサンはワイと四葉ちゃんの存在を 真っ先に受け入れてくれて、ここで暮らす事へ色々協力してくれとるいわば恩人や。 「どうした、とうとう悟りに到達したのか?」 「いや飯田さん、悟りからは真逆の思いですわ」 「四葉ちゃんと戦いたい、そういう悩みか?」 「せや。人払いだけでいいから手伝ってくれんか?」 「出来んな。俺は身内には平等に接する中立主義者だ。それに、この梅田避難ビルには まだ四葉ちゃんは必要な存在だ。お前が負けたら四葉ちゃんが消えるという話だろう?」 「何でワイが負ける前提で話すねん!」 「お前は彼女を目の前にすると、その度に戦う気すら失っているじゃないか。 人の多さなんて関係ない。お前は彼女と戦える最低限の資格すら持ってないんだよ。 あっちがその気なら、お前さんは勝負を挑もうとしたのと同じ回数死んでる」 「う・・・」 反論出来んかった。確かにその通りや。この五年間チャンスは結構あった。 でもその度に腹が痛くなったり、戦う事が怖くなったり、四葉ちゃんを傷つけたく なくなったりして最初の一撃すら放てずにおる。 飯田さん以外はワイらをずっと仲良しだと勘違いしてる始末や。 「まっ、せっかく相手が見逃してくれているんだ。お前はもっと強くなるべきだ。 お前を慕ってくれるガキと一緒にな。ホラ、噂をすれば来たぞ」 スキンヘッドのガキが廊下を裸足で走ってくる。 げー、このビルの中で一番会いたくないガキが来やがったわ。 「レッサー禅僧のおっちゃん!修行してーや!」 「帰れ!おっちゃんは大人の話しとって忙しいねん。他の子供と遊べ」 「だって天使ママ喧嘩したらめっちゃ怒るもん、禅僧のおっちゃんなら 遠慮せず殴ったり蹴ったりできるもーん!」 「こらー!ワイは禅僧やぞ、もっと怖がれよ。うらー!いつか悟ったらお前を 真っ先に食ってやるぞー!」 「やーいやーい、天使の尻に敷かれるヒモのレッサー禅僧ここまでおいでー!」 「待てやサブイネン、いや違った。待てや珍念!」 板張りの床を二人で走り回る。 五年前、ワイと四葉ちゃんが休戦したちょっと後にこのガキは瀕死の両親に 抱きかかえられてここに来た。両親はここに来てすぐに死んでしもたから、 まだ1歳ぐらいの赤子やったこのガキの名前すらわからんかった。 んで、ワイがこいつに珍念と名付けた。 苗字がサブイネンと同じ佐分山やったから、何となくそう名付けたんや。 そのせいか知らんが他のガキと違ってワイに随分と懐いてくる。 しかも成長するごとにサブイネンにどんどん似てくる。 そういや、サブイネンもレッサー禅僧に寺で育てられたってゆうとったな。 この時代のサブイネンもこんな感じやったんやろか。 「くらえー、ひっさつ8ビートパンチや!」 「あ痛ぁ!」 ちゃうねん。 地の利を得る為の情報収集期間なんやからね! 【2000年・四葉は夢を見る】 私の目の前に猛獣がいた。猛獣は器具で無理やり大きく口を開けさせられていた。 「モア、モア、モア・・・」 私は猛獣の目の前に立たされ、延々と運命を加速する。 猛獣の口内の黒色、虫歯になる運命を加速させる。 猛獣は数分間虫歯の痛みで苦しみ続けた。そして死んだ。 結果を見届けた園長は満足げな顔で私に近づくと、猛獣が着けていたのと同じ 器具を私に装着し、ガムテープで私の両目を塞いだ後、口の中に腕を突っこんで来た。 既に全身を色んな器具で固定されていた私は痛みに身をよじる事も出来ない。 両目が見えないから園長を能力で止める事も出来ない。 口の中が胃液や鼻水まみれになるまでいじられ、そこで目が覚めた。 △△△ちゃんが両足を開いた状態で椅子に固定されていた。 「モア、モア、モア・・・」私は視界に映る△△△ちゃんの運命を加速する。 放尿する運命を加速された△△△ちゃんは物凄い勢いでオシッコを股間から吹き出し、 おせわ係を失敗した事を謝りながら私の顔面にオシッコを浴びせ続け気絶した。 結果を見届けた園長は満足げな顔で指を鳴らすとガムテープを構えた男の人が いっぱい現れた。「モア!モア!」目を塞がれる事やその後口の中に腕を突っこまれる事を 思い出した私は男の人達の睡眠欲や自責の念を濃くしていく。が、逃亡を封じられた 状態で複数を同時に相手ににしたら私の能力は酷く脆い。二人目を無力化した時点で ガムテープで両目を塞がれる、器具で口を無理やり開けられ園長の腕が突っこまれる。 口の中が胃液や鼻水まみれになるまでいじられ、そこで目が覚めた。 「どうした?顔色が悪いぞ、体調でも崩したか?」 『トオルくん47歳たんじょうびおめでとう』と書かれたケーキをシュバババとマッハで 食べながら飯田さんが私の顔を覗き込んでくる。妻夫木さんがこのビルで暮らす子供達に バースデーケーキを出していたら「俺も今月47歳になったからくれ」と言って来たので、 すんごーく、嫌そうな顔をしながら出したケーキだ。三十秒で食べないと勿論消える。 「最近怖い、夢を見ます」 「『怖い夢を見る』のか、『夢を見るのが怖い』のかどっちだ?」 「両方です」 私は最近になって夢というものを見る様になった事とその夢の中で毎回園長の 実験が行われている事、それと最後はいつも口の中に腕を突っこまれる所で 夢が終わる事を飯田さんに話した。 「任せろ、俺は末期がんだからこういう事に詳しいんだ。 んーむ、お前さんの話をまとめると・・・どう考えても喉の奥が怪しい! ツマランナー、内視鏡出してくれないか?」 ちょうど今月誕生日の子全員分のケーキを出し終えた妻夫木さんは、 やっぱり嫌な顔をしながらも内視鏡を出してくれた。 「まったく・・・何で俺がホームレスのおっさんの為に歌わなあかんねん」 「俺じゃなく四葉ちゃんの為だ、我慢してくれ」 「なおさら嫌やわ!こいつは俺の敵やねんぞ!」 「じゃあ早く勝負するんだな。出来るものならな」 「ぐぬー!やったるわい!珍念達が普通の学校行ける様になったらな!」 「ハイハイ頑張れ頑張れ、おっと、三十秒経つ前に口の中覗かないとな 四葉ちゃん、ちょっと我慢してろよ」 私の口の中に内視鏡が入っていく。夢の中の園長の腕のイメージが鮮明に蘇ってくる。 あ、コレ無理だ。酸っぱい液が逆流してくる。 「ウボオオオオオオエエエエエエェェェェ!!!!」 「我慢しろつったろ!」 ゲロまみれになった腕を慌てて引き抜き、飯田さんは汚れた腕を妻夫木さんの服や ヒゲで拭き取る。 「四葉ちゃん、吐くなよなー」 「はいゴメンナサイ」 「だが、ツマランナーの服を汚した甲斐はあったぞ。ノドチンコの裏にスイッチの様な ものがあった。あれは喉の奥から脳幹に向かって差し込んで、そいつの記憶を消したり 逆に記憶を焼き付けたりするのに使う器具だな」 「お前何でちょっと見ただけで断定できるねん」 「言ったろ?俺は末期がんだからそういうの詳しいって。実物を見た事あるから 間違い無い。四葉ちゃんが成長して脳幹に刺した針が抜けかけたのか、単に内部電池が 無くなったのかは知らないが、最近夢を見る様になったというのはそういう事だ」 そんな、それじゃああの夢は全部本当にあった事・・・! 夜中に園長に連れ出されて様々な実験を行った事や子供へのお仕置きに私を 使っていた事が本当に・・・!私は飯田さんの言葉に反論する事すらできず、 茫然と座り込んでいた。きっと顔は真っ青になっていただろう。 「心配すんな、四葉ちゃん。これは身体が正常な状態に近づいているという証拠だ。 これからどんどん夢を見る事ができる。それだけじゃない、起きている時だって 昔の事を完全に思い出せるかも・・・」 「だらっしゃー!」 どくちゃあ、と嫌な打撃音を後頭部から発して飯田さんは机に倒れ込んだ。 妻夫木さんがベースで飯田さんの頭をホムーランしたからだ。 「いいかげんにせい!末期がん患者でホームレスで年上だから色んな事我慢して来たけど、 流石に今のはあかんやろ!見ろ、四葉ちゃん泣いとるやないか!」 「あの、私も今年で18歳だから流石に泣いてはないです」 「泣いとったって事にしとけ、その方が飯田も反省するし。ええか、夢ビギナーの 四葉ちゃんは知らんかったみたいやけど、夢なんて99%がありえない出来事なんやで。 ワイの見た夢の中にはな、四葉ちゃんが見たのよりずっと怖い夢があるねんで。 聞きたいやろ?聞きたいやろ~?」 「えっと、別に」 「そうか聞きたいか!あれはなー、ワイの身体に迷宮時計が出てきたばかりの頃、 ワイが四葉ちゃん以上の美人さんやった頃に見た夢や」 勝手に夢の話を始める妻夫木さん。今やビジュアル系の面影がほとんど無い妻夫木さん。 そんなに自分が可愛かった頃の話をしたいのか、あの頃も私の方が可愛かったぞ、 そう思ったが、もう大人な私は黙って話を聞いてやるのだ。 この汚らしいゲロまみれのレッサー禅僧は私を慰めようとしているのだから。 「そんでなー、優勝してワイの時計が全部取れたのはええけど穴だらけになってな、 そこから身体の中身がどんどん抜けてって、ほんまもんの女の子みたいに なってしもたんや。中身と一緒に記憶とか思考力も無くなってたみたいで、 助けを呼ぼうとしてもアーウーとかしか声が出せず、ワイが誰なのかも 分からんよーになった頃ようやく助けが来たねん。でもそのオッサンが わっるい変態の金持ちの芸術家でなー、ワイの身体の穴のフチを撫でながら こう言うねん。迷宮時計争奪戦行ってこいって。夢の中まで迷宮時計かい! というか優勝したのに状況悪化しとるやないかーい!」 「アハハ、それって勝ち抜いたら穴の中が時計盤で埋まっていくんじゃないですか?」 「せやな、そんでまた時計外そうとして永久ループやな。そんでな、 夢の中で戦った場所はなんか洞窟っぽい所で、トロッコに乗った糸目の神父が ケヒャヒャーと笑いながらダイナマイト点火して突っ込んできてなあ」 「そんな展開色んな意味でありえませんよ!」 「やろ?夢なんてこんなもんや」 私の喉の奥にある装置や、小さい頃朝起きると口の中がしょっぱい事が度々あった事を 考えると、飯田さんの言う通り夢の中の事は本当にあった事なのかもしれない。 でも妻夫木さんの夢を聞いているとそんな事はどうでも良くなってきた。 あの孤児院での思い出は今でも大切だけど、私の人生は今ここにある。 出来るならば、ずっとこの人とここで・・・。 【2002年・謎の襲撃者】 「でかいな」 「うん、ごっつでかい」 ワイと珍念は横目で四葉の全身を上から下まで舐める様に見ながら そのでかさを堪能する。 髪は銀髪から金髪に変化し、胸はEカップ、身長179㎝、服は背中に穴が空けてあり、 そこから1メートル程ある二つの羽が生えてきている、頭の輪っかはギンギラギンに さりげなくその存在を主張し四葉自身の意思で光量を調整できる優れもの。 「妻夫木さん、それに珍念君も何を見てるんですか」 「いやな、レベル20で見事にクラスチェンジしたなーというか」 「せやな。須藤四葉・完聖体というか」 「もう、そういうのはやめて下さい!まだお昼ですよ!」 「にしし、夜ならええんやな。おとん、おかん、今夜はハッスルやな!」 そんなふうにリラックスしていると飯田の声が聞こえてきた。 (おーい、そっちで撃退を頼めるか?すまん、一人取り逃した) 空気読まん飯田のアホの声が脳内に流れてきたのを聞き、ワイたちは マジモードに思考を切り替える。 最近は減ってきたが物資を狙ってこのビルを襲う暴徒は未だ存在する。 大抵はビルの外で飯田がなんとかしてくれるんやが、たまにこうして ビルの中まで入ってくる奴がおる。 「飯田が突破されたか・・・ククク、奴はワイらの中で一番の使い手と呼ばれている・・・」 「いや、それヤバイやん。それやったらおとんもおかんも侵入者に勝てへんやん」 「大丈夫よ、飯田さんが梅田ビル最強と呼ばれているのは私達がこのビルから 出られないから飯田さんの功績が目立ってるだけ」 「それに飯田のアホは突破されたって言った。負けたわけやない」 夢を見る様になって以来グングン成長しパーペキな天使に進化した四葉は 魔人能力の方もおっそろしい事になっとった。 視界に入りさえすれば一秒、「モア」って一回言うだけで生命体なら戦闘力続行を不可能に、 物質相手なら限界まで脆くする事が出来る様になっとる。 以前は子供相手なら数回、戦闘型魔人なら10回以上は必要やったから単純に考えて 戦闘力10倍界王拳や。・・・さて、ワイはこれにどうやって勝てばええんやろ。 まあ今は侵入者に集中や。 「やるで珍念、今日もフォーメーションAでイクで。四葉の視界を妨げない様に一歩下がれ。 侵入者が見えたら四葉が無力化する。最後はお前が16ビートでいたこましたれ」 「おとんも働きーや」 「ワイはその・・・四葉の後方を守る仕事があるからな」 「妻夫木さん、珍念くん、来ました!」 侵入者の足音が近づいてくる。四葉は視界を切り替えて、相手が入ってくるのを待つ。 侵入者と四葉が出会いさえすれば一秒で終わる。そのはずやった。 「あ、貴方は・・・」 侵入者がワイらの前に現れた。その姿を見て四葉の声が固まる。 両目に眼帯をつけて、目の部分に穴があけてあり両目を閉じとるという 前を見たいのか見たくないのかハッキリせんケッタイな格好した侵入者やった。 「存在するものは毅然としてあり……」 穴あき眼帯マンは意味不明な言葉を呟き、両目を閉じたまま散歩する様に ゆっくりとこちらに歩いてくる。 なんやわからんけど、ヤバイ。穴あき眼帯マンを放置するとトンデモない事が 起こる。ワイの音感がビンビンに危険信号を発しとる。 「四葉!敵の攻撃が来るで!何しとんねん、早く無力化せんと!」 「どうして、どうして貴方がこんな事を、デユーンさん」 「四葉ぁ!」 四葉はこの侵入者を知っとるのか?やけど、今はそんな事よりもこいつをどないかせんと。 四葉が戦えんならワイがやらんと! (ビートを刻め、正しくビートを刻む限りミュージシャンは無敵や) サブイネンの教えを思い出しながらワイは前進する。 穴あき眼帯マンの手が無防備な四葉に伸びる。その時、まさに間一髪! 「四葉!しっかりせい!」 ワイが四葉の手を取り引っ張る。 穴あき眼帯マンの手刀は空振り、四葉の前髪を数本斬り裂いただけやった。 「珍念!四葉と一緒に下がれ!ワイがこいつをぶっ飛ばす!」 「わかったで!」 ジャーン! 「聞いて下さい、『トラップカード発動!緊急脱出装置』」 穴あき眼帯マンが片目を開ける。防弾ガラスを破り墨の様に黒い激流がワイに迫る。 四葉の状態があんなやからワイが下がる事は出来へん。 攻撃を凌ぎながら歌い切る! 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャカジャカジャカ 演奏しながらのサイドステップで激流を回避する。激流はワイの足元に直撃した後 急上昇し天井にぶちまけられた。 「ギガガガギゴ完成だー、ギガガガギゴ暴走だー、助けて博士! このままじゃあギガガガギゴに研究所を破壊されてしまいまーす!」 ジャカジャカジャカジャカ 天井に染みついた黒い物質は雫となりワイに向かって降ってくる。 幸いにもこの物質の追尾性は高くない様だ。 ワイはステージに投げ込まれるゴミや生卵を避ける要領でそれを回避する。 「まかせたまえ、助手よこんな事もあろうかと作っておいた緊急脱出装置だ! ギガガガギゴ飛んでったー、研究所は守られたー」 黒い物質は再び一か所に集まりワイを正面から飲み込もうとする。 だがそれはフェイクや、穴あき眼帯マンが濁流の反対側から襲ってくるのを ブリッジでかわす。ボケがぁ、ワイがギャラリーから目を離すわけないやろが! 四葉の時同様に敵の長い指が空を切る。伸ばしとったヒゲがいくらか毟られたが 演奏には支障をきたす事はあらへん。 「ギガガガギゴ放たれたー、おや、ギガガガギゴの様子が・・・ ゴギガガガギゴに進化したー!」 ジャーン! バズーカ砲がワイの手元に現れる、ワイは迷う事なく穴あき眼帯マンを狙い スイッチを入れる。 「緊急脱出装置起動!ぶっ飛べやー!」 BAKOOOOOOOOOON!!! バズーカの発射口からバネ仕掛けのボクシンググローブが飛び出し穴あき眼帯マンの 顔面にヒットすると、穴あき眼帯マンは割れた窓から飛び出して行きそのまま星になった。 「おとん、やったんか?」 「やってない、アレは殺傷力の無い場外勝ち専用の技やからな。まあ後は 飯田が何とかしてくれるやろ。それよりも四葉や、大丈夫か?」 あの男がいなくなったからやろか、四葉は大分落ち着きを取り戻しとった。 「四葉、穴あき眼帯マンと知り合いやったんか?」 「あの人は・・・」 「あっ、スマン。言いたないなら無理せんでもええから」 「いえ、大丈夫です。あの人は、私がいた孤児院『聖マルガレタ孤児院』に 多額の寄付をしてくれていたんです。まさかこんな手段でお金を得ていたなんて・・・」 成程ザ・ワールド、それがホンマならショックなのもわかるわ。 やけどその心配はいらへんねんで。ワイは四葉の肩に手を置き落ち着かせる。 「大丈夫や四葉、ここ平行世界やからアイツはお前とは無関係や!」 そう、ここに来て十年近くになるし、ワイの居た世界とあまりにクリソツなので 忘れてしまう事も仕方ないのだが、ここはワイと四葉から見たら平行世界なのだ。 よってあの穴あき眼帯マンは四葉の知ってる優しい人とは無関係なのである。 「まあ取りあえずはしばらくは警戒態勢でおろか。あの眼帯マンが また来るかもしれへんし」 やけど、ワイの心配は無意味に終わった。これまでの暴徒とは明らかに様子が違った 穴あき眼帯マンは脱出装置でぶっとばされた後、ゴギガ眼帯マンに進化して 帰ってくるなんて事もなく、一か月後にはワイらは日常へと戻り、襲撃の事も 記憶の隅に追いやられていった。 【2003年・誕生】 えきたい、なか、わたしいる。 にくのかたまり、がらす、うつってる。 きんのかみ、め、くち、はね、わっか、わたしだ。 「天使の様子はどうですか園長?」 「順調に育ってるよ。君が『梅田の守護天使』の細胞を持って来てから一年、 こうもうまく行くとは思わなかった、後は制御装置だ」 、 がらすのそと、おはなししてる。 おとは、きこえる。いみは、わからない。 「君が天使の細胞を入手するついでに持ち帰った『禅僧っぽいよくわからんもの』の 遺伝子情報を混ぜれば、今ある制御装置でなんとかなりそうだ」 「それでは天使の力が弱まってしまうのでは?」 「制御できないよりはいい。まずは我々に忠実な存在として育て上げ、 頃合いを見て禅僧の因子を消していき、徐々に天使の力を解放していこう」 まざる、わたしに、しらないだれかが。 かみがぎんいろに、わっかのひかりよわまる。 わたしは、だれ? わたしは・・・ 「名前はどうしますか?」 「ヨツバだ。天使の羽が二枚で、禅僧も六枚の羽を自在に出していたと聞く。 二枚羽と六枚羽の間に生まれた子でヨツバだ。これに君の名を加えて、 ストル・ヨツバというのはどうかな?」 「もう少し日本人風にした方が」 そうか、わたしは、よつば。 【2009年・足りなかった二人の決戦の時】 戦いを宿命づけられこの場に現れた二人、その内の一人がもう一人の戦意を奪い 戦いは回避された。だが、迷宮時計の力は天使の力すら及ばないのだろうか。 今、再び戦いを選択する時が迫っていた。 2009年初頭、梅田に新たな避難ビルが建設された。 収容人数はこのビルの三倍、関西滅亡のパターンに応じてバリアを張ったり地下に 潜ったりして各種滅亡をやり過ごす事が可能なネオ梅田避難ビルだ。 この新たなビルの完成、それは老朽化の進んだこの梅田避難ビルの 取り壊しを意味する。流石にそうなってはビルの守護者として崇められてきた彼らで あってもこの場に留まる事は出来ない。ネオ梅田避難ビルに住民が移っていくのを見た 二人はもうこの地で出来る事は無いと、休戦する理由も無くなってしまったと悟った。 「このビルにもすっかり人がいなくなったなあ」 「そうですね、最初私達が来た時はあんなにギュウギュウだったのに」 ビルの屋上で星を見上げ寄り添う二人。 とてもこれから死闘をする様には見えない。 「珍念は東京でうまい事やれるやろか」 「血は繋がって無くても貴方の子供です、心配いりませんよ」 「空、綺麗やなあ」 「最近の関西滅亡に爆発オチや流星群が無かったからだと思いますよ」 「ええ日や、こんなええ日にお前と戦える運命に感謝するで」 ツマランナーは四葉から一歩ずつ離れていき、四葉も反対側へと歩む。 お互いがビルの端に到着した所で振り返り、四葉が言った。 「どうしても、戦うのですか?」 「せやな、ワイの迷宮時計が戦え戦えってうっさいねん。ビルの取り壊しなんてのは 切っ掛けにすぎんのや。ワイはお前に勝って前に進まんとアカン」 この二人はビルの破片をペンダントにするというアイデアは浮かばなかった。 まあ、それを思いついたとしてもいずれは戦ったのかもしれないが。 「今迄ホンマ世話になったな。ワイが迷宮時計に急かされて戦いを望むたんびに お前はワイを止めてくれた。せやけど、コレはワイのもんや。ワイの決意も衝動も 願いもみーんなワイのもんや。お前にはもう背負わせん」 ツマランナー。本名は妻夫木乱。性別男。希望崎大学4年生。現時点での年齢38歳。 高校まで陸上をしていたが魔人化後にミュージシャンに転向し現在は禅僧を名乗る。 武器はベース。 運動能力:B+→A+ 近接戦闘力:D→B+ 中距離戦闘力:C→A  長距離戦闘力:C→B 戦闘精神力:B→A 戦闘経験:E→B  能力『歌えば多分なんとかなる』。一曲歌い、その歌のタイトルに合った効果を 強化・回復・アイテム召喚などの形で自身にもたらす。 「私は本当の家族を探す為に迷宮時計の誘いに乗りました。 でも、もうその願いは叶っています。もし私に父がいたとしたら それは妻夫木さん、貴方の様な人なんだと思います。だから、家族である貴方が この先傷つく道を進もうとするのなら絶対に止めなければなりません」 純粋天使・須藤四葉。性別両性。現時点での年齢27歳。 孤児院で暮らしており世間を知らなかったが、避難民との触れ合いと記憶を取り戻した 事で自分の為すべき道を見つけ梅田避難ビルの守護天使と崇められる。武器は天使の力。 運動能力:E→A 近接戦闘力:E→C 中距離戦闘力:B→A++ 長距離戦闘力:C→A++ 戦闘精神力:D→C 戦闘経験:E→B 能力『赤×モア』。視界を切り替えて運命の色を見る。見える色の一つを選び「モア」と 呟くとその色を濃くして運命を加速させる。 待たせたなお前ら、迷宮時計争奪戦の始まりだ。 この飯田トオル47歳、末期がんのホームレスが梅田避難ビル屋上中央にこしらえた 特別実況席(材料はミカン箱)からお前らに戦況をリアルタイムで伝えるぜ! 一切邪魔の無い戦いを楽しんでくれよ! さあ戦闘開始と同時に四葉の雰囲気が変わったぞ、使う技はもちのろんコレだ! 「モアッ!」 はい、この試合一発目のモアいただきました!今の四葉はモア一つで命あるものは死に 形あるものは壊れる程の運命加速力を持っているぞ。早くも決まったか―!? いや、決まって無いぞ!ツマランナーは物陰に隠れて四葉の視界から外れていた! このただっぴろい屋上の物陰とはなんだ、給水塔か?出入口か?いや俺だ! 二人の間で戦闘を見守っていたこの俺を肉壁にして視界から外れたのだ! ジャーン! 「聞いて下さい、『ツッペルランナー』」 ツマランナーは俺の後ろに隠れながら俺をギャラリーとして認識し 能力発動条件をクリア!だが、四葉は羽ばたいて空から再度狙いをつける。 そう、上空からならツマランナーの姿は丸見えだ!ベースを弾き始めるがこのままだと 四葉のモアが先に決まるぞぉー! 「モ」 「ワンツーワンツーさんし」 ジャ! 「世界のどこかにいるという自分と同じ見た目の人がドッペルゲンガーと言うらしい、 それじゃあ私のそっくりさんがいたらツッペルランナーだねツルペタ言うな ツッペルランナーカモン!」 ジャン! 「ア」 速い!ツマランナー何という速さだ!四葉がモアと言い切るまでの間に一曲歌い終わり、 分身を自分の真上に召喚し攻撃を防いだぞ!そういえば聞いた事があるぜ。 昔、DMCという漫画があった、その漫画の主人公ヨハネ・クラウザー二世は無敵の ミュージシャンだった。彼は一秒間に10回レイプと言いファンはそれを10回レイプと 言ったとちゃんとカウントしていた。 これはファンの耳が凄いという事じゃねえ。人の限界を超えた速度で歌いながら ちゃんと歌ったと認識させる『高速歌唱』という技術だ。魔術師の使う『高速詠唱』の バード技能版と思ってくれればいい。 フッ・・・俺の知らない間に高速歌唱まで習得していたとはな。 この勝負わからなくなってきたぞ。 「さあいくで四葉!」「覚悟せえや!」「囲んでぼこったる!」「本物のワイがわかるかな?」 おおっと!高速歌唱の説明をしている間にツマランナーが何人にも増えているぞ! そうか、ツマランナーの能力は新たな曲を歌うと前の曲で生まれた存在は消えるが、 分身と一緒に分身召喚を歌い続ければ理論的には延々と分身を増やせる! その手間はとんでもないが、高速歌唱が使える今のツマランナーなら容易いという事だ! 本物と偽物の違いは30秒経ったら消える事と服の下の迷宮時計の有無だけだ! 四葉は迫りくるツマランナー軍団から本物を見分けられるのかー!? 「本物はそこ、まだ飯田さんの背中にはりついてますね」 一発で見破ったー!そうだよな、運命の色で区別できるもんな。簡単に分かるよな。 そしてツマランナー!お前まだ俺の後ろにいたのか! さあ、四葉が自分に近い分身を消すとツマランナーが新たな分身を防御と攻撃に 振り分ける。千日戦争状態に突入してしまったぁー!互いに決め手が無い! 四葉は俺の後ろにいるツマランナー本体を狙えないし、ツマランナーも 分身をいくら戦力として投入しても四葉に届く前に消滅の運命を加速されて消える。 「妻夫木さんすみません、ちょっと本気出します」 おおっと、四葉はまだ本気では無かったというのか!? 謝罪の言葉と共に四葉は両手を構えその手の間にエネルギーが溜まっていくぞ。 そう、四葉の能力は運命加速だけではない!これは天使の奇跡の一つ爆発の奇跡だー! ジャーン! 「聞いて下さい『ドリルドリドリ― 「だっふんだ!」 「うおっまぶし」 ツマランナーが新たな曲を歌おうとした瞬間、聖なる言霊と共に光が俺と ツマランナーのいる場所に着弾し光に包まれた!高速歌唱しようにも 視界を光で潰されたらギャラリーが見えず能力発動出来ない! そしてこの爆発の威力と範囲は俺を盾にしてどうにかできるもんじゃないぞ! その一方で四葉は赤面している!発射の合図はもう少しカッコイイ言霊にしとけば 良かったという照れで赤面しているぞー! 光が晴れるとコンクリートの床に大穴が開きツマランナーはボロボロだ! 武器兼能力発動アイテムのベースもバラバラになってしまっている! 「・・・あああっ、ワイのベースが~」 「これで終わりです、降参して下さい」 そうだな、攻撃と防御の起点を失ったツマランナーに勝ち目は無い。 よってこれにて決着!閉店ガラガラー! (※GK注)自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】 「まだや、まだベースは残っとる。ワイがワイこそがベースになればええだけの話や」 長年愛用したベースを失ったからか?ツマランナーがヤケクソともとれる発言を しているぞ!勝ち目が無いのは誰の目にも明らかだ、だがまだ決着はしてないという事は 確かな様だ。すんませーん、まだ続くみたいでーす! それじゃあコレは、 (コレね) ↓ 『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】』 あっちに置いといてと、 →『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】』→→→→ うんせうんせ、 →→→→→→→→→→→→→→→『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクタ よっこいしょほいしょっと、 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→『自キャラ敗北SS: もうちょい右か、よいこらせっと、 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→ で後はこうやって戦闘続行オケー! (※GK注)先程は失礼しました。引き続き戦闘SSをお楽しみください。 「まだや、ワイ自身がベースになれば戦闘は可能や。ホンマ甘いで四葉、 今トドメささんかった事後悔させたる」 「無理を言わないで下さい!私よりずっと弱いくせに!」 俺にも無理を言ってる様にしか見えない。仮に一曲歌ってベースを作ろうにも 演奏の為のベースが無いのだ。詰んでいる。 しかし、そんなの関係ねえとばかりに、ツマランナーは再び俺の背中に隠れながら 歌い始めた。 ジャーン! 「聞いて下さい、『トラップカード発動!緊急脱出装置』」 「ベースの音!?そんなさっき確かに破壊したはず!」 俺の身体が邪魔で四葉にはツマランナーがどうやってベースの音を出しているのかは 分からない。だが俺にはハッキリと見えている。後ろに目をやると、ツマランナーは 喉を弾いてベース音を出していた。喉ベース!その手があったか! 「ワン、ツー、ワンツーさんしギガガガギゴ完成だギガガガギゴ暴走だ助けて博士! このままじゃあギガガガギゴに研究所を破壊されてしまいまーす!まかせたまえ、助手よこんな事もあろうかと作っておいた緊急脱出装置だ!ギガガガギゴ飛んでった研究所は守られたギガガガギゴ放たれたおやギガガガギゴの様子がゴギガガガギゴに進化した!」 ジャン! 高速歌唱と喉ベースの併用で声を枯らしそうになっても、それでも口から 血反吐吐きながら何とかツマランナーは歌い終わった。 出てきたのは芸術家を吹っ飛ばしたあのバネ式バズーカだー! 「飛んでぇけぇぇぇ!君の胸にスィーツ!」 真っ直ぐ俺の顔面に向かってグローブが飛んでくるぞー!・・・え、俺? BAKOOOOOON!!!! 勝負中散々俺の事利用しておいてこの仕打ちかよー! ああー、二人の身体が豆粒の様に小さくなっていくー! くっそ、マイクフルパワーだ、音声拾えるかー!? 「盾にしていた飯田さんを、どうして!」 「なんとなくムカついたからや。それに、おかげでお前の隙をついて接近戦に持ち込めたで」 よし、音声まだ拾えた。どうやら俺を吹っ飛ばしたのは無意味、 そして無意味な一手を使えば四葉の隙をつけると読んだのか!そうだよな、 四葉ちゃんマジ天使だから俺がぶっ飛べば一瞬でもそっちを心配するよな。 本当に四葉は良い子だよ。ツマランナーと違ってな! 「こんだけ近ければ爆発の奇跡も無理やろ」 この状態で四葉に用意された選択は二つある。塩化の奇跡と運命加速。 四葉の瞳が運命加速のモードに変わっていく。ああ、やっぱりそっちを選んでしまうのか! 相手を塩の柱にしてしまえば確実に勝てるが、それだとツマランナーが ほぼ確実に死んでしまうからな。 彼女は選べなかった、それが勝利への確実な道だと知っていても。 四葉のこの戦いでの目的はツマランナーの救済、使い慣れず出力の調整が 難しい塩化の奇跡は選べなかったのだろう。ああ、なんという悲劇か! 実力を出し切れば勝っているのはお前なのに! 「そう来るのは分かっていたで、何年も一緒におったから」 ツマランナーは四肢を亀の様に丸めて内臓と脳をガードだ! こいつの四肢には迷宮時計がびっしりと貼りついている! 迷宮時計の運命は未定、つまり四葉は運命加速でこれを壊す事は出来ないぞ! 「モア!」 ビキィ! 「はうぁ!」 しかーし四葉いったー!迷宮時計の隙間に存在する生身の肘の運命を加速し、 軟骨を限界まで擦り減らせて、ダイジョーブ博士の手術に失敗したパワプロくんと 同じぐらい肘を使いものにならなくしやがったー!ツマランナー思わず悶絶だー! だがっ、だがしかしっ、 ガシコーン! 「捕まえた」 ツマランナーはまだ致命傷ではなーい!腕が動かせないからカニばさみで 四葉を捕獲したぞ! 「8ビートでいくでえー!」 ツマランナー大きく頭を振り下ろしたぁー! 「モア!」 四葉はツマランナーの脳の運命を加速させ脳閉塞による失神KOを狙う! しかーしツマランナーは首をひねって狙いをつけさせない! どぐちゃあ! これぞバンドマンだと言わんばかりのヘッドバンキングが決まった~! 「モア!」 「無駄や、お前のソレは見て喋って当てる。せやからお前の視線を恐れず 正面からじっとみとれば次にどこにくるか予想できる。 一秒を一秒としてしか認識してないお前やから、この距離ではもう絶対に ワイには当たらん」 探偵に推理光線がある様に、手芸部の糸が攻防において様々な形で使用される様に、 ミュージシャンにはこのビート刻みがある!音楽を一定以上極めたミュージシャンは 一秒を分割して認識し、その分割しただけの行動を割り振る事を可能とする! 集中力と音感とリズム感の果てに得た先読み能力と柔軟な動きは、至近距離での 戦闘において他の魔人を圧倒する! 「モア」 「当たらん!」 円を描くように頭を振り、視界から一度外れての頭突きだぁー! どぐちゃあ! 「も」 「させん!」 どぐちゃあ! 「塩に」 「もう手遅れや!」 どくちゃあ! 止まらない!止まらないっ!止まらないー!ツマランナーはもうトマランナー! ツマランナーのヘッドバンキングが連続して四葉の顔面に叩き込まれていく~! っと、ここでツマランナーがヘッドバンキングをしながら仏のポーズ! 勝利を確信してのフィニッシュへのムーブだぁ~! 「ナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナム」 どぐちゃどぐちゃどぐちゃどぐちゃ!どぐちゃ!どぐちゃ!どぐちゃあ! 「も、もうやめて・・・」 「ナムアミ・ダブツ(さよならや)、喝!」 ゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン 須藤四葉、鐘の音と共に崩れ落ちた~! 15年以上をかけて行われたオフィスビル戦はツマランナーが制した! それでは皆さん、名残惜しいがこれでさよならだ! 【2010年・出会い】 故郷の父さん母さんお元気でっか?ワイは変な奴に絡まれて色々ピンチです。 「セイヤー!そこの姉ちゃん俺と結婚してよ~」 「セイヤー!おっと、俺にも結婚してくれよ~」 「あ、あの困ります。ワイ男ですし・・・」 「同性婚でも重婚でも構わねえぜ~!永住権が欲しいだけだからさあ!」 「逃げても無駄だぜ~、俺たちゃG国で公務員試験勉強した事があるんだ。 マッハ1から逃げれるもんなら逃げてみな~」 まさか東京に来て女装外出を楽しみだした途端にガイジンに絡まれるなんて! 東京は滅亡がないから安全って聞いとったけど全然そんな事無かったわ。 ああ、こんな時漫画ならヒーローが助けてくれるんやけど・・・。 「ヒーロー見参・・・ヒーロー見参・・・ヒーロー見参!」 ヒーローはおった。ピンポンみたいな頭した男がピンポンっぽい演出で現れた。 「そこまでにしておくんやな雑兵ども、とっととオウチに帰りなさいや」 「セイヤー!何だてめぇは?何で三回もヒーロー見参って言ったんだあ~」 「セイヤー!一回言えば十分だろが~」 「同じ事を繰り返すのは関西人やからや。国に帰る気がないならワイの秒間 32発のパンチが火を吹くでえ」 クリリン(仮)が得意げに拳を構える。だが、32連発のパンチと聞いて雑兵二名は バカにする様に笑った。 「セイヤー!ば~~かじゃねえの?俺達は秒間100発のパンチが撃てるんだぜ~」 「セイヤー!200対32という事だぜ~、キセキの世代フルメンバーとただの高校生が バスケするぐらいの絶望的な差だぜ~」 「それがどうした?ワイの32発はお前らの200発と質がちゃうわい」 「な、なめやがって~、行くぞ雑兵B!100連パンチが味方にあたらない様に 左右から適切な距離をとって挟み撃ちで仕留めるぞ」 「了解だぜ雑兵A!」 雑兵二人が左右からサンプラザ中野(仮)に襲い掛かる! ワイはこの隙に逃げようとも思ったけど怖くて足が動かへん。 くっそ、せめてベースがあれば・・・でもワイの能力弱いし・・・。 「「セイッセイヤー!」」 ハゲ丸(仮)の左右に数え切れぬ程の拳!そして打撃音! ポクポクチーン!ポクチーン!ゴーン!ポクチーン!ポクポクチーン! 信じられへん光景がワイの前に広がってた。 雑兵二人の方が明らかに手数もスピードも上なのに、井出らっきょ(仮)の身体に 一撃もヒットしていない。そして、天津飯(仮)の攻撃は全弾クリーンヒットしている! ポクポクチーンポクポクチーン!ゴーン! リズミカルに雑兵の足を踏み、目を突き、耳を引っ掻き、体勢が崩れた所に 頭突きを入れている。なんやねんこの動き! 「ナムナムナムナムナムナムナムナムナム」 あ、展開が一方的になったら何かジョジョっぽく叫びながら攻撃しだした。 「ナムアミ・ダブツ(さよならや)」 ゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン 最後に大きく振りかぶってからの頭突きで雑兵二名をまとめてぶっ飛ばして決着。 相手が起き上がらないのを確認した月光(仮)はワイの方に笑顔で振り向く。 「どや?ごっつかっこよかったやろ」 「は、はあ。あ、あの、今のキモカッコイイ動きなんなんです?」 「32ビートや。一秒を32に分割し、そこに行動を割り当てる。大抵の奴は 一秒を一秒としてしか認識できへんから目に見えへん大きなアドバンテージを 得られるってわけや。よし、それじゃあ助けてやったからお前ワイの仲間になれ」 「は、ハイ?」 「バンド組もうぜって言うとるねん。初めまして、俺は佐分山珍念、 レッサー禅僧やったおとんがしょっちゅうサブイネンと呼んでたからお前もサブイネンと 呼んでくれるとうれしいなって」 サブイネン(確定)がワイの手を握って引きずっていく。 レッサー禅僧?32ビート?サブイネン?バンド組もうぜ? えーっと、落ち着けお前。言うてる事めちゃくちゃやぞ。 「ちょ、ちょっと!知らない情報がいっぺんに入りすぎてワケワカメなんやけど」 「大丈夫!お前はワイの見込んだ男や!きっとワイにすぐ追いつく。 あ、そや。一応名前と楽器と高校の時何やっとったか教えてーな」 「妻夫木乱って言います。楽器はベース。これでも高校では結構有名な 陸上選手でしたんやで魔人になって引退したけど」 ワイの簡単な自己紹介を聞いたサブイネンはカタカタと震え出した。 「んなアホな、いくらなんでも奇跡すぎるやろ・・・」 「あのー、どうしましたー?」 「奇跡やー!!!!いっつみらくるやあああああ!」 後光が差す程の笑顔をこっちに向けてくるサブイネン。キモイ。 「決まりや、お前の芸名はツマランナーや」 「ハア?」 「バンド名も今決めたで。ワイとお前、それからもう一人おるから三人揃って オモロナイトファイブ!」 「はああ?」 「で、リーダーの座はくれてやるわ!よろしゅー頼んますリーダー!」 「はあああああああああああああああああああ!?」 なんやねんこのテンションは。 お前はタイムスリップしてきたワイの家族か何かか! 故郷の父さん母さんお元気でっか?ワイは変な奴に絡まれて色々ピンチです。 【2012年・真相解明?】 梅田避難ビルから西に数百メートル、ここには現在小さな寺が立っている。 避難民に食べ物を与え、親の居ない子供達を世話し、暴徒から物資を守って来た 天使と禅僧を称え、かつて禅僧が住んでいたフロアを再現した寺がそこに建てられていた。 それが私の今の家だ。 「あ~~~~~~~~~~~~~今日も何もしなくても梅田の人達のお供えとかだけで 生きていける~~~~~不労所得ってすばらしい~~~~~~」 部屋の中でゴロンゴロンゴロン。 もう戦いも育児も一生分やったからこうやってゴロゴロしててもいいよね。 「おーい、入るぞ」 「はーい、どうぞ」 飯田さんがドーナツを持って来てくれた。 私をそれを奪い取り、二個まとめて口に捻じ込む。 「おいひぃ~~~~~~」 「アイツの召喚したドーナツの味を再現した『レッサー禅僧ドーナツ』、 だが別に三十秒で消えたりしないから落ち着いて食べていいんだぞ」 「だって美味しいんですもん。というか、言っちゃ悪いけどこっちの方が 味付けが濃くて美味しいです」 「あーあ、いい女だったのにすっかり堕天使が板についちまって」 し、仕方ないじゃないですか! だって外の世界には美味しいものがいっぱいあるんだから! 孤児院でも梅田ビル内でも食べれなかった分楽しんで何が悪いのー! 「お前さん今幸せか?」 「はい、まあまあ」 「ツマランナーに勝ち譲って後悔してないか?」 「あれは本気の勝負の結果ですよ。それに彼はもうすぐ帰ってきます」 「ほう、お前の方は気付いていたのか」 飯田さんはニヤリと笑う。 「気付いたのは何時からだ?」 「こっちに来てから一年以内、ツマランナーさんと完全な協力体制を築く事が 出来た時です。彼は教えてくれました。自分のいる世界とこの平行世界はあまりにも 似た部分が多いと。彼は考えもしませんでしたが私はその時思ったんです。 基準世界と平行世界は全く繋がりの無い世界という原則ルールは私達に適用されるのか?」 「つまり?」 「私達が飛んだ世界は、私達が住む平行世界と同一世界の二十年前だったんじゃないですか?」 ドーナツの砂糖がついた指を舐めてからビシィと飯田さんに突きつける。 飯田さんはハッハッハと笑いそして答えた。 「惜しい」 「あらら、違ったんですか」 「お前さんらがイレギュラーでも住んでる世界と同じ世界に落とすほど 迷宮時計は馬鹿じゃねえ。ただ、互いに影響が無いぐらいに遠い平行世界に落とすって 部分については、このオフィスビル戦においてはかなりサボっていたと見える」 「つまり・・・どういう事だってばよ?」 「ここはお前達のいた平行世界のすぐ隣の世界だ。だから起きる出来事は ほとんど変わらんし、片方の世界の異変がもう片方に影響が起こる事もある。 だからツマランナーと非常に似た存在がこっちにもいる可能性が非常に高い。 もっとも、迷宮時計に関する事項だけは異なるが」 「つまり・・・どういう事だってばよ?」 「あー、もう箇条書きで説明していいか?ペン貸せ」 飯田さんはドーナツ屋のチラシの裏にサインペンでここで起こった事、 これから起こる事を次々と書いていった。 ・この世界にもツマランナーは存在するが、彼は迷宮時計には選ばれない。 ・この世界のサブイネンがツマランナーとバンドを組むかは不明だが、 彼らは迷宮時計に選ばれないので少なくとも迷宮時計争奪戦が理由で自殺したりはしない。 ・四葉はツマランナーから2014年までに起こる出来事をいくつか聞いているが、 この世界でも同じ事件が起こる可能性は高い。(迷宮時計絡みを除く)。 ・ツマランナーが帰っていった方の平行世界ではサブイネンの自殺及びそこから 始まる迷宮時計絡みの出来事は確定しており、迷宮時計を完成させる以外でこれを 変更する事は出来ない。 ・ツマランナーがいる方の世界におけるサブイネンの育ての親はツマランナーや 四葉とは別人。ただし、彼らに似た存在であると思われる。 チラシの裏にざっと目を通した私は決意を胸に電話に手を伸ばす。 「レッツアベノミクスぅー!もしもし証券会社ですかー!」 「落ち着け」 飯田さんはネットで取引した方が手数料がお得だと教えてくれた。 文明の利器ってすげー! 「つーかお前の『赤×モア』で株価予測したり操作したりできねーのか?」 「私が株に無知だし形の無い存在だから難しいかと」 「そんなもんかね。じゃ俺はこれで」 「あ、待って下さい」 帰ろうとする飯田さんを呼び留める。 彼にはもう一つだけ聞いておきたい事があるんだった。 「飯田さんって何者なんです?何で全身の運命の色が他の人と違うんですか?」 「俺は帰る家を無くした末期がんのホームレスさ。ホームレスに未来がなくても 別におかしくはないだろう?じゃあな脱落者、もう会う事は無いだろう」 それが私達の恩人、迷宮時計と同じ色をした人との最後の会話だった。 【2014・勝者の帰還】 顔を触る。 「スベスベやぁ~」 ベースを見る。 「ピカピカやぁ~」 ボディラインを鏡に映す。 「ナーイスボディやぁ~、迷宮時計があるのは気に入らんけど」 若いってええなあ。決めた、今日からスキンケアもっと真面目にやる。 「と、ゆーわけで、戦闘時間最長記録大幅更新間違い無しな 長期戦やったけれど無事に帰還!若返って気分は強くてニューゲームや!」 息を大きく吸ってーの!高速歌唱―! 「レイプレイプレイプレイプレイ、あれ?」 一秒間に4.5レイプ。遅くなっとる。そんなー!理屈は理解してコツも つかんだ気がしとるのにできへん様になっとる。 「ならば8ビート禅僧パチキじゃコラー!」 柱に向かって頭突き、鈍い音がして額が割れた。 「ンギャース!」 ゴロゴロと転がり悶絶。 そして間の悪い事にこのタイミングで長らく忘れてたあのイベント襲来。 「さらにンギャース!」 勝利して帰って来た事で解放条件を満たしたのか、ワイの肉体がさらに迷宮時計に 浸食されていく。痛みが止まった所で鏡で時計の増えた数と位置を確認する。 「えーと両手の爪全部が時計盤になって、それと両目かあ。 とうとう顔にまで広がりはじめたか」 鏡で確認すると黒目の中に小さな長針と短針が現れチクタク動いている。 幸い視力には問題ないし、間近で見ないと分からないぐらいに目立たないが 勝ち進むとどうなるかますます不安になってきたわ。 「助けて四葉!顔面に10回以上頭突きしたの謝るから! そうや、閃いた!大阪行ってみよう」 平行世界に留まる事15年ちょっと、避難ビル内で聞くニュースはどれもこれも ワイの世界と一緒やった。もしかしたら、ワイが飛んだのは同じ世界の過去やないんか。 今更ながらその可能性もあると気づいたワイは、マスコミに気付かれん様に 地味なワンピースに着替え化粧もナチュラルにして大阪へと猛ダッシュで向かった。 急ぐから走る! 「新幹線大人一枚」 急ぐからこそ走る! 「タクシー!梅田旧避難ビルまで」 急ぐからこそ走って着いた!梅田旧避難ビル横のお寺に突入する。 居た!あの羽と輪っかは見間違えるわけあらへん! 「四葉―!」 「ヨツバってだれやー!」 クルリと振り返るその顔は、見知らぬオバハンやった。 「誰や!」 「アンタこそ誰や!」 とんだ無駄足やった。 これもなんもかんも基準世界のせいや!絶対許さんぞ基準世界人! 新幹線とタクシー代払え! [[このページのトップに戻る>#atwiki-jp-bg2]]|&spanclass(backlink){[[トップページに戻る>http://www49.atwiki.jp/dangerousss4/]]}}}} #javascript(){{ <!-- $(document).ready(function(){ $("#contents").css("width","900px"); $("#menubar").css("display","none"); $(".backlink a").text("前のページに戻る"); $(".backlink").click(function(e){ e.preventDefault(); history.back(); }); }); // --> }}
*裏第一回戦SS・オフィスビルその1 #divid(ss_area){{{  【1993年・足りない二人梅田に立つ】 「モア」 『めーらめーらとー、もーえるでジェラシー』 「モア、モア、モア」 歌ってるのはワイやない。ビル内のテレビで流れとるBGMや。 吉本新喜劇のエンティングで昔流れ取った曲や。確かワイが生まれた前後で この曲がプチヒットしとったけど、その後は使われん様になったから・・・、 二十年近く前かいな!おいこら迷宮時計、どこが現代やねん! まあ、過去が中世から近代の範囲って説明されとるから二十年前も現代に分類されるのは わかるけれどなあ、持っとる金使えへんやん!新千円札とか金ぴか500円とか全滅やん! まあええ、さっさと対戦相手の四葉っての倒して帰ればいい話や。 ワイはビルの中の避難民達をざっと見渡す。着の身着のままでここまで逃げてきた 人達が天井から吊り下げられたテレビで放送されとる吉本の番組見て笑っとる。 「すんませーん、こん中に四葉って女の子いはりますかー?」 「なんや、姉ちゃんツレとはぐれたんかー?」 「モア、モア、モア」 「まあそんな感じですわー」 「モア、モア」 数分後、人混みを押し分けて小学生ぐらいのチビッ子がワイの前に出てきた。 &nowiki(){・・・}天使や、なんつーか全体的に天使やこのチビッ子。 「こんにちは、須藤四葉です!よろしくおねがいしますっ!あ、モア、モア」 「おう、どっからでもかかってこいやあ!」 「はい。モア、モア」 チビッ子元気に頭を下げる。ワイどーんと胸をはる。 「モア」 チビッ子なんかモアモア言うとる。そーいや昔TVCMでオッサンとオバハンのコンビの 漫才師がモアモア言っとったけど、それのモノマネやろか。 避難民数百人、演劇か何かとやいのやいの騒ぐ。 無関係の人が何人おっても関係あらへん。ワイは心の隅に良心を追いやり戦う決意をする。 「モア」 絶対やったる。 「モア」 やる。 「モア」 やれんのか? 「モア」 なんかやれん気がしてきた。 ワイは開始の合図とばかりにベースをかき鳴らす。 ジャーン! 「聞いて下さい、『こんな状況で戦えるかいな』」 「みなさーん、お歌の時間だよー。手拍子お願いしまーす!」 「よっしゃー!合いの手ならこの飯田トオル、末期がんの47歳に任せろー!」 ワイのタイトルコールの後に四葉ちゃんが合いの手お願いする。 避難民は即座に手拍子、彼らを代表してホームレスっぽい汚いオッサンが合いの手役に 立候補してワイの隣に立つ。このノリの良さ正に大阪や。 しっかし四葉ちゃんも場馴れしとるな。こう見えてお姉さんキャラかいな? 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャカジャカジャカ 「飛んだ先は故郷大阪90年代(バブル!)、対戦相手は可愛い天使(モエモエ!) ビルの中には避難民(ギュウギュウ!)、ビルの外は滅亡中(な、なんだってー!) 見敵必殺誓って来たが(悪・即・殺は一女ちゃん!)、そんな決意はどこへやら(ズッコー!)」 ジャカジャカジャカジャカ(ヘイヘイヘイヘイ、ワオワオワオワオ!) 「ここが刑務所だったなら(プリズン!)、周りを無視して戦えた(ファイ!)、 相手が青年だったなら(メーン!)、躊躇をせずに戦えた(イヤーッ!)、 しかし現実振り返るならば(バーット!)敵は幼女で場は避難所(俺達ノーギルティ!)、 外は滅亡ワイは絶望(ジーザス!)、こんな状況で戦えるか!(ムリムリ無理さ絶対に!)」 ジャカジャカジャカジャカ(四葉ちゃんカモーン!) 「わたしは須藤四葉です(カワイイ!)、ゆめは世界平和です(イイネ!)、 それと家族もさがしてます(エーッ!)、だからゆうしょう目ざします(ガンバ!)、 めいきゅう時計そうだつ線ぜったいかつ気でいたけれど(あ・どーした!)、 こんな所じゃあ私もたたかえませーん!(そーじゃんそーじゃん当然じゃん!)」 ジャカジャカジャカジャカ(さあ二人一緒にせーの!) 「「ワイら時空冒険者」」 「ツマランナーと」 「四葉」 (俺はホームレスの飯田トオル47歳!金の為に戸籍も売った卑しい男!) 「「休戦しましょそうしましょ!」」 ジャーン! そして三日後、 ジャーン! 「聞いて下さい、『サンドイッチを作りたかったのにドーナツってるの?』」 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャン! 「食パン切ってぇー、ミスったドーナツ!」 ジャーン! 「三十秒以内に食べてや~、このドーナツ消えるねん」 能力を使ってビル内で炊き出しに協力するワイの姿がそこにあった。 べ、別に勝負を諦めたわけやないんやからな!ここの人達を味方に付けながら チャンスを待っとるだけやからな!三日前はあれや、実は腹痛かったから! ホンマやから!ホンマにホンマやからー! 【1994年・避難民生活は楽しいな】 「さっきテレビで関西滅亡ってゆっとたで」 「あっちゃー、今年一発目の滅亡早くも襲来かいなー」 「わはは、去年の一発目に比べたら四日も遅いからマシやがな」 関西人てすごい。私はそう思った。ツマランナーさんいわく、 関西はほんとうにしょっちゅうめつぼーしているらしく、 関西と縁もゆかりも無い魔人が能力のコストとして関西をめつぼーさせること すらあるということだった。ひどい話である。そりゃあ、関西人もタフになるよ。 でもめつぼーにめんえきの無い関西人もいる。主にそれは親のいない小さな子供たちだ。 ひなん所になっているこのビルにはそんな子供達を育てる場所がそんざいしていて、 私はそこのお手伝いをしていた。 「てんしのおねーちゃん!今日はめつぼー警報もめつぼー注意報もないで! 外であそべるで!」 「ごめんね、私がビルの外に出ると禅僧のお兄ちゃんが消えちゃうから。 そういう、魔人能力の制約だから」 「そんじゃしゃーないな!外で変な形のガレキ見つけたらあげるわ!」 私とツマランナーさんがこのビルにきてから一年がすぎた。 ツマランナーさんは今では人語を話せる禅僧というあつかいになっている。 孤児院の外のことをほとんど知らなかった私にはいまいちピンとこなかったけど、 この時代にはまだビジュアル系も男の娘もそんざいしないし、ニューハーフというのも 何かちがうからとあれこれ考えたすえに禅僧だと名乗ってしまったんだって。 「IZAMがメジャーになってないこの時期にワイがビジュアル系とか 名乗るのは、ただの音楽好きがタイムスリップしてビートルズの立ち位置を奪うのに 等しいくらいのやってはアカン事なんや。つーても四葉ちゃんにはわからんか」 わからんかった。 で、ビジュアル系とかを名乗れないのは良いとして、何でレッサー禅僧なんて そんなウソを言ってしまったのか、飯田トオルさんと二人で聞いてみたら 「ワイのダチのおとんがそういう生き物って話を聞いた事あるねん。 やから、ついその設定借りてしもたんや。正直後悔しとる、レッサー禅僧てなんやねん」 だって。 そんなツマランナーさんも今ではすっかりここの一員だ。 最初は人が減ったスキをついて私と勝負しようとか考えていたみたいだけど、 関西がめつぼーするたびに避難者はビル内にほじゅーされていくし、 ツマランナーさんに会うたびにコッソリ『赤×モア』で彼の迷いやトイレへいきたい きもちを濃くしたりして半年ほどやり過ごしていたら、さいきんでは ほとんど勝負をいどまれる心配はなくなった。 家族は見つけたい、お外で遊びたい、でもここのみんなは孤児院にいた時は 知らなかった事をいろいろ教えてくれる。飯田さんは私達の事情について真剣に 相談にのってくれるし、ツマランナーさんのことももっと知りたい。 関西めつぼーが一段落するまではまだここにいようと思う。 【1998年・禅僧街道まっしぐら】 仏壇がある。仏具がある。床は板張りになっている。 ここに来てから五年、滅亡の度にビルに侵入し物資を奪おうとする暴徒が結構おった。 それを四葉ちゃんと飯田さんとワイの三人で撃退しとるうちに、 業者さんが色々世話してくれてワイ用の禅僧フロアが完成した。 部屋の中央、髪もヒゲも伸び放題で座禅しとるワイ。ゴスロリドレスもいい感じに ボロボロになってだいぶ袈裟っぽくなってきた。 ワイは目をカッと見開き叫ぶ。 「なーーーーんでーーーーーやねーーーーーーん!!」 ほんまなんでやねん。ワイはあの幼女(今や少女)と戦いに来たんやぞ。 能力発動以外で一言も発する事なくクールにベースで頭ぶっ叩いて帰る予定がもう五年や。 五年って!迷宮時計争奪戦の戦闘時間最長記録間違いなしやん、記念として一回ぐらい 殴らせろや!出てこいやラスボス! 「ぶっ壊してやるから出てこいや!迷宮時計の本体的な何か!」 ワイの叫びに応える様に扉ががらりと開いた。もろちん、やって来たのは迷宮時計やない。 「呼ばれて飛び出てラスボス登場!フハハハハ、さあ、お前の気分が晴れるなら 俺をその迷宮時計の本体的な何かとやらの代わりに好きなだけ殴るがいい!」 「飯田さん、そういうのええから」 末期がんに侵されながらもこのビルを守り続けるホームレスの飯田トオルさん、 こないだ47歳の誕生日を迎えたばかりのこのオッサンはワイと四葉ちゃんの存在を 真っ先に受け入れてくれて、ここで暮らす事へ色々協力してくれとるいわば恩人や。 「どうした、とうとう悟りに到達したのか?」 「いや飯田さん、悟りからは真逆の思いですわ」 「四葉ちゃんと戦いたい、そういう悩みか?」 「せや。人払いだけでいいから手伝ってくれんか?」 「出来んな。俺は身内には平等に接する中立主義者だ。それに、この梅田避難ビルには まだ四葉ちゃんは必要な存在だ。お前が負けたら四葉ちゃんが消えるという話だろう?」 「何でワイが負ける前提で話すねん!」 「お前は彼女を目の前にすると、その度に戦う気すら失っているじゃないか。 人の多さなんて関係ない。お前は彼女と戦える最低限の資格すら持ってないんだよ。 あっちがその気なら、お前さんは勝負を挑もうとしたのと同じ回数死んでる」 「う・・・」 反論出来んかった。確かにその通りや。この五年間チャンスは結構あった。 でもその度に腹が痛くなったり、戦う事が怖くなったり、四葉ちゃんを傷つけたく なくなったりして最初の一撃すら放てずにおる。 飯田さん以外はワイらをずっと仲良しだと勘違いしてる始末や。 「まっ、せっかく相手が見逃してくれているんだ。お前はもっと強くなるべきだ。 お前を慕ってくれるガキと一緒にな。ホラ、噂をすれば来たぞ」 スキンヘッドのガキが廊下を裸足で走ってくる。 げー、このビルの中で一番会いたくないガキが来やがったわ。 「レッサー禅僧のおっちゃん!修行してーや!」 「帰れ!おっちゃんは大人の話しとって忙しいねん。他の子供と遊べ」 「だって天使ママ喧嘩したらめっちゃ怒るもん、禅僧のおっちゃんなら 遠慮せず殴ったり蹴ったりできるもーん!」 「こらー!ワイは禅僧やぞ、もっと怖がれよ。うらー!いつか悟ったらお前を 真っ先に食ってやるぞー!」 「やーいやーい、天使の尻に敷かれるヒモのレッサー禅僧ここまでおいでー!」 「待てやサブイネン、いや違った。待てや珍念!」 板張りの床を二人で走り回る。 五年前、ワイと四葉ちゃんが休戦したちょっと後にこのガキは瀕死の両親に 抱きかかえられてここに来た。両親はここに来てすぐに死んでしもたから、 まだ1歳ぐらいの赤子やったこのガキの名前すらわからんかった。 んで、ワイがこいつに珍念と名付けた。 苗字がサブイネンと同じ佐分山やったから、何となくそう名付けたんや。 そのせいか知らんが他のガキと違ってワイに随分と懐いてくる。 しかも成長するごとにサブイネンにどんどん似てくる。 そういや、サブイネンもレッサー禅僧に寺で育てられたってゆうとったな。 この時代のサブイネンもこんな感じやったんやろか。 「くらえー、ひっさつ8ビートパンチや!」 「あ痛ぁ!」 ちゃうねん。 地の利を得る為の情報収集期間なんやからね! 【2000年・四葉は夢を見る】 私の目の前に猛獣がいた。猛獣は器具で無理やり大きく口を開けさせられていた。 「モア、モア、モア・・・」 私は猛獣の目の前に立たされ、延々と運命を加速する。 猛獣の口内の黒色、虫歯になる運命を加速させる。 猛獣は数分間虫歯の痛みで苦しみ続けた。そして死んだ。 結果を見届けた園長は満足げな顔で私に近づくと、猛獣が着けていたのと同じ 器具を私に装着し、ガムテープで私の両目を塞いだ後、口の中に腕を突っこんで来た。 既に全身を色んな器具で固定されていた私は痛みに身をよじる事も出来ない。 両目が見えないから園長を能力で止める事も出来ない。 口の中が胃液や鼻水まみれになるまでいじられ、そこで目が覚めた。 △△△ちゃんが両足を開いた状態で椅子に固定されていた。 「モア、モア、モア・・・」私は視界に映る△△△ちゃんの運命を加速する。 放尿する運命を加速された△△△ちゃんは物凄い勢いでオシッコを股間から吹き出し、 おせわ係を失敗した事を謝りながら私の顔面にオシッコを浴びせ続け気絶した。 結果を見届けた園長は満足げな顔で指を鳴らすとガムテープを構えた男の人が いっぱい現れた。「モア!モア!」目を塞がれる事やその後口の中に腕を突っこまれる事を 思い出した私は男の人達の睡眠欲や自責の念を濃くしていく。が、逃亡を封じられた 状態で複数を同時に相手ににしたら私の能力は酷く脆い。二人目を無力化した時点で ガムテープで両目を塞がれる、器具で口を無理やり開けられ園長の腕が突っこまれる。 口の中が胃液や鼻水まみれになるまでいじられ、そこで目が覚めた。 「どうした?顔色が悪いぞ、体調でも崩したか?」 『トオルくん47歳たんじょうびおめでとう』と書かれたケーキをシュバババとマッハで 食べながら飯田さんが私の顔を覗き込んでくる。妻夫木さんがこのビルで暮らす子供達に バースデーケーキを出していたら「俺も今月47歳になったからくれ」と言って来たので、 すんごーく、嫌そうな顔をしながら出したケーキだ。三十秒で食べないと勿論消える。 「最近怖い、夢を見ます」 「『怖い夢を見る』のか、『夢を見るのが怖い』のかどっちだ?」 「両方です」 私は最近になって夢というものを見る様になった事とその夢の中で毎回園長の 実験が行われている事、それと最後はいつも口の中に腕を突っこまれる所で 夢が終わる事を飯田さんに話した。 「任せろ、俺は末期がんだからこういう事に詳しいんだ。 んーむ、お前さんの話をまとめると・・・どう考えても喉の奥が怪しい! ツマランナー、内視鏡出してくれないか?」 ちょうど今月誕生日の子全員分のケーキを出し終えた妻夫木さんは、 やっぱり嫌な顔をしながらも内視鏡を出してくれた。 「まったく・・・何で俺がホームレスのおっさんの為に歌わなあかんねん」 「俺じゃなく四葉ちゃんの為だ、我慢してくれ」 「なおさら嫌やわ!こいつは俺の敵やねんぞ!」 「じゃあ早く勝負するんだな。出来るものならな」 「ぐぬー!やったるわい!珍念達が普通の学校行ける様になったらな!」 「ハイハイ頑張れ頑張れ、おっと、三十秒経つ前に口の中覗かないとな 四葉ちゃん、ちょっと我慢してろよ」 私の口の中に内視鏡が入っていく。夢の中の園長の腕のイメージが鮮明に蘇ってくる。 あ、コレ無理だ。酸っぱい液が逆流してくる。 「ウボオオオオオオエエエエエエェェェェ!!!!」 「我慢しろつったろ!」 ゲロまみれになった腕を慌てて引き抜き、飯田さんは汚れた腕を妻夫木さんの服や ヒゲで拭き取る。 「四葉ちゃん、吐くなよなー」 「はいゴメンナサイ」 「だが、ツマランナーの服を汚した甲斐はあったぞ。ノドチンコの裏にスイッチの様な ものがあった。あれは喉の奥から脳幹に向かって差し込んで、そいつの記憶を消したり 逆に記憶を焼き付けたりするのに使う器具だな」 「お前何でちょっと見ただけで断定できるねん」 「言ったろ?俺は末期がんだからそういうの詳しいって。実物を見た事あるから 間違い無い。四葉ちゃんが成長して脳幹に刺した針が抜けかけたのか、単に内部電池が 無くなったのかは知らないが、最近夢を見る様になったというのはそういう事だ」 そんな、それじゃああの夢は全部本当にあった事・・・! 夜中に園長に連れ出されて様々な実験を行った事や子供へのお仕置きに私を 使っていた事が本当に・・・!私は飯田さんの言葉に反論する事すらできず、 茫然と座り込んでいた。きっと顔は真っ青になっていただろう。 「心配すんな、四葉ちゃん。これは身体が正常な状態に近づいているという証拠だ。 これからどんどん夢を見る事ができる。それだけじゃない、起きている時だって 昔の事を完全に思い出せるかも・・・」 「だらっしゃー!」 どくちゃあ、と嫌な打撃音を後頭部から発して飯田さんは机に倒れ込んだ。 妻夫木さんがベースで飯田さんの頭をホムーランしたからだ。 「いいかげんにせい!末期がん患者でホームレスで年上だから色んな事我慢して来たけど、 流石に今のはあかんやろ!見ろ、四葉ちゃん泣いとるやないか!」 「あの、私も今年で18歳だから流石に泣いてはないです」 「泣いとったって事にしとけ、その方が飯田も反省するし。ええか、夢ビギナーの 四葉ちゃんは知らんかったみたいやけど、夢なんて99%がありえない出来事なんやで。 ワイの見た夢の中にはな、四葉ちゃんが見たのよりずっと怖い夢があるねんで。 聞きたいやろ?聞きたいやろ~?」 「えっと、別に」 「そうか聞きたいか!あれはなー、ワイの身体に迷宮時計が出てきたばかりの頃、 ワイが四葉ちゃん以上の美人さんやった頃に見た夢や」 勝手に夢の話を始める妻夫木さん。今やビジュアル系の面影がほとんど無い妻夫木さん。 そんなに自分が可愛かった頃の話をしたいのか、あの頃も私の方が可愛かったぞ、 そう思ったが、もう大人な私は黙って話を聞いてやるのだ。 この汚らしいゲロまみれのレッサー禅僧は私を慰めようとしているのだから。 「そんでなー、優勝してワイの時計が全部取れたのはええけど穴だらけになってな、 そこから身体の中身がどんどん抜けてって、ほんまもんの女の子みたいに なってしもたんや。中身と一緒に記憶とか思考力も無くなってたみたいで、 助けを呼ぼうとしてもアーウーとかしか声が出せず、ワイが誰なのかも 分からんよーになった頃ようやく助けが来たねん。でもそのオッサンが わっるい変態の金持ちの芸術家でなー、ワイの身体の穴のフチを撫でながら こう言うねん。迷宮時計争奪戦行ってこいって。夢の中まで迷宮時計かい! というか優勝したのに状況悪化しとるやないかーい!」 「アハハ、それって勝ち抜いたら穴の中が時計盤で埋まっていくんじゃないですか?」 「せやな、そんでまた時計外そうとして永久ループやな。そんでな、 夢の中で戦った場所はなんか洞窟っぽい所で、トロッコに乗った糸目の神父が ケヒャヒャーと笑いながらダイナマイト点火して突っ込んできてなあ」 「そんな展開色んな意味でありえませんよ!」 「やろ?夢なんてこんなもんや」 私の喉の奥にある装置や、小さい頃朝起きると口の中がしょっぱい事が度々あった事を 考えると、飯田さんの言う通り夢の中の事は本当にあった事なのかもしれない。 でも妻夫木さんの夢を聞いているとそんな事はどうでも良くなってきた。 あの孤児院での思い出は今でも大切だけど、私の人生は今ここにある。 出来るならば、ずっとこの人とここで・・・。 【2002年・謎の襲撃者】 「でかいな」 「うん、ごっつでかい」 ワイと珍念は横目で四葉の全身を上から下まで舐める様に見ながら そのでかさを堪能する。 髪は銀髪から金髪に変化し、胸はEカップ、身長179㎝、服は背中に穴が空けてあり、 そこから1メートル程ある二つの羽が生えてきている、頭の輪っかはギンギラギンに さりげなくその存在を主張し四葉自身の意思で光量を調整できる優れもの。 「妻夫木さん、それに珍念君も何を見てるんですか」 「いやな、レベル20で見事にクラスチェンジしたなーというか」 「せやな。須藤四葉・完聖体というか」 「もう、そういうのはやめて下さい!まだお昼ですよ!」 「にしし、夜ならええんやな。おとん、おかん、今夜はハッスルやな!」 そんなふうにリラックスしていると飯田の声が聞こえてきた。 (おーい、そっちで撃退を頼めるか?すまん、一人取り逃した) 空気読まん飯田のアホの声が脳内に流れてきたのを聞き、ワイたちは マジモードに思考を切り替える。 最近は減ってきたが物資を狙ってこのビルを襲う暴徒は未だ存在する。 大抵はビルの外で飯田がなんとかしてくれるんやが、たまにこうして ビルの中まで入ってくる奴がおる。 「飯田が突破されたか・・・ククク、奴はワイらの中で一番の使い手と呼ばれている・・・」 「いや、それヤバイやん。それやったらおとんもおかんも侵入者に勝てへんやん」 「大丈夫よ、飯田さんが梅田ビル最強と呼ばれているのは私達がこのビルから 出られないから飯田さんの功績が目立ってるだけ」 「それに飯田のアホは突破されたって言った。負けたわけやない」 夢を見る様になって以来グングン成長しパーペキな天使に進化した四葉は 魔人能力の方もおっそろしい事になっとった。 視界に入りさえすれば一秒、「モア」って一回言うだけで生命体なら戦闘力続行を不可能に、 物質相手なら限界まで脆くする事が出来る様になっとる。 以前は子供相手なら数回、戦闘型魔人なら10回以上は必要やったから単純に考えて 戦闘力10倍界王拳や。・・・さて、ワイはこれにどうやって勝てばええんやろ。 まあ今は侵入者に集中や。 「やるで珍念、今日もフォーメーションAでイクで。四葉の視界を妨げない様に一歩下がれ。 侵入者が見えたら四葉が無力化する。最後はお前が16ビートでいたこましたれ」 「おとんも働きーや」 「ワイはその・・・四葉の後方を守る仕事があるからな」 「妻夫木さん、珍念くん、来ました!」 侵入者の足音が近づいてくる。四葉は視界を切り替えて、相手が入ってくるのを待つ。 侵入者と四葉が出会いさえすれば一秒で終わる。そのはずやった。 「あ、貴方は・・・」 侵入者がワイらの前に現れた。その姿を見て四葉の声が固まる。 両目に眼帯をつけて、目の部分に穴があけてあり両目を閉じとるという 前を見たいのか見たくないのかハッキリせんケッタイな格好した侵入者やった。 「存在するものは毅然としてあり……」 穴あき眼帯マンは意味不明な言葉を呟き、両目を閉じたまま散歩する様に ゆっくりとこちらに歩いてくる。 なんやわからんけど、ヤバイ。穴あき眼帯マンを放置するとトンデモない事が 起こる。ワイの音感がビンビンに危険信号を発しとる。 「四葉!敵の攻撃が来るで!何しとんねん、早く無力化せんと!」 「どうして、どうして貴方がこんな事を、デユーンさん」 「四葉ぁ!」 四葉はこの侵入者を知っとるのか?やけど、今はそんな事よりもこいつをどないかせんと。 四葉が戦えんならワイがやらんと! (ビートを刻め、正しくビートを刻む限りミュージシャンは無敵や) サブイネンの教えを思い出しながらワイは前進する。 穴あき眼帯マンの手が無防備な四葉に伸びる。その時、まさに間一髪! 「四葉!しっかりせい!」 ワイが四葉の手を取り引っ張る。 穴あき眼帯マンの手刀は空振り、四葉の前髪を数本斬り裂いただけやった。 「珍念!四葉と一緒に下がれ!ワイがこいつをぶっ飛ばす!」 「わかったで!」 ジャーン! 「聞いて下さい、『トラップカード発動!緊急脱出装置』」 穴あき眼帯マンが片目を開ける。防弾ガラスを破り墨の様に黒い激流がワイに迫る。 四葉の状態があんなやからワイが下がる事は出来へん。 攻撃を凌ぎながら歌い切る! 「ワン、ツー、ワンツーさんし」 ジャカジャカジャカジャカ 演奏しながらのサイドステップで激流を回避する。激流はワイの足元に直撃した後 急上昇し天井にぶちまけられた。 「ギガガガギゴ完成だー、ギガガガギゴ暴走だー、助けて博士! このままじゃあギガガガギゴに研究所を破壊されてしまいまーす!」 ジャカジャカジャカジャカ 天井に染みついた黒い物質は雫となりワイに向かって降ってくる。 幸いにもこの物質の追尾性は高くない様だ。 ワイはステージに投げ込まれるゴミや生卵を避ける要領でそれを回避する。 「まかせたまえ、助手よこんな事もあろうかと作っておいた緊急脱出装置だ! ギガガガギゴ飛んでったー、研究所は守られたー」 黒い物質は再び一か所に集まりワイを正面から飲み込もうとする。 だがそれはフェイクや、穴あき眼帯マンが濁流の反対側から襲ってくるのを ブリッジでかわす。ボケがぁ、ワイがギャラリーから目を離すわけないやろが! 四葉の時同様に敵の長い指が空を切る。伸ばしとったヒゲがいくらか毟られたが 演奏には支障をきたす事はあらへん。 「ギガガガギゴ放たれたー、おや、ギガガガギゴの様子が・・・ ゴギガガガギゴに進化したー!」 ジャーン! バズーカ砲がワイの手元に現れる、ワイは迷う事なく穴あき眼帯マンを狙い スイッチを入れる。 「緊急脱出装置起動!ぶっ飛べやー!」 BAKOOOOOOOOOON!!! バズーカの発射口からバネ仕掛けのボクシンググローブが飛び出し穴あき眼帯マンの 顔面にヒットすると、穴あき眼帯マンは割れた窓から飛び出して行きそのまま星になった。 「おとん、やったんか?」 「やってない、アレは殺傷力の無い場外勝ち専用の技やからな。まあ後は 飯田が何とかしてくれるやろ。それよりも四葉や、大丈夫か?」 あの男がいなくなったからやろか、四葉は大分落ち着きを取り戻しとった。 「四葉、穴あき眼帯マンと知り合いやったんか?」 「あの人は・・・」 「あっ、スマン。言いたないなら無理せんでもええから」 「いえ、大丈夫です。あの人は、私がいた孤児院『聖マルガレタ孤児院』に 多額の寄付をしてくれていたんです。まさかこんな手段でお金を得ていたなんて・・・」 成程ザ・ワールド、それがホンマならショックなのもわかるわ。 やけどその心配はいらへんねんで。ワイは四葉の肩に手を置き落ち着かせる。 「大丈夫や四葉、ここ平行世界やからアイツはお前とは無関係や!」 そう、ここに来て十年近くになるし、ワイの居た世界とあまりにクリソツなので 忘れてしまう事も仕方ないのだが、ここはワイと四葉から見たら平行世界なのだ。 よってあの穴あき眼帯マンは四葉の知ってる優しい人とは無関係なのである。 「まあ取りあえずはしばらくは警戒態勢でおろか。あの眼帯マンが また来るかもしれへんし」 やけど、ワイの心配は無意味に終わった。これまでの暴徒とは明らかに様子が違った 穴あき眼帯マンは脱出装置でぶっとばされた後、ゴギガ眼帯マンに進化して 帰ってくるなんて事もなく、一か月後にはワイらは日常へと戻り、襲撃の事も 記憶の隅に追いやられていった。 【2003年・誕生】 えきたい、なか、わたしいる。 にくのかたまり、がらす、うつってる。 きんのかみ、め、くち、はね、わっか、わたしだ。 「天使の様子はどうですか園長?」 「順調に育ってるよ。君が『梅田の守護天使』の細胞を持って来てから一年、 こうもうまく行くとは思わなかった、後は制御装置だ」 、 がらすのそと、おはなししてる。 おとは、きこえる。いみは、わからない。 「君が天使の細胞を入手するついでに持ち帰った『禅僧っぽいよくわからんもの』の 遺伝子情報を混ぜれば、今ある制御装置でなんとかなりそうだ」 「それでは天使の力が弱まってしまうのでは?」 「制御できないよりはいい。まずは我々に忠実な存在として育て上げ、 頃合いを見て禅僧の因子を消していき、徐々に天使の力を解放していこう」 まざる、わたしに、しらないだれかが。 かみがぎんいろに、わっかのひかりよわまる。 わたしは、だれ? わたしは・・・ 「名前はどうしますか?」 「ヨツバだ。天使の羽が二枚で、禅僧も六枚の羽を自在に出していたと聞く。 二枚羽と六枚羽の間に生まれた子でヨツバだ。これに君の名を加えて、 ストル・ヨツバというのはどうかな?」 「もう少し日本人風にした方が」 そうか、わたしは、よつば。 【2009年・足りなかった二人の決戦の時】 戦いを宿命づけられこの場に現れた二人、その内の一人がもう一人の戦意を奪い 戦いは回避された。だが、迷宮時計の力は天使の力すら及ばないのだろうか。 今、再び戦いを選択する時が迫っていた。 2009年初頭、梅田に新たな避難ビルが建設された。 収容人数はこのビルの三倍、関西滅亡のパターンに応じてバリアを張ったり地下に 潜ったりして各種滅亡をやり過ごす事が可能なネオ梅田避難ビルだ。 この新たなビルの完成、それは老朽化の進んだこの梅田避難ビルの 取り壊しを意味する。流石にそうなってはビルの守護者として崇められてきた彼らで あってもこの場に留まる事は出来ない。ネオ梅田避難ビルに住民が移っていくのを見た 二人はもうこの地で出来る事は無いと、休戦する理由も無くなってしまったと悟った。 「このビルにもすっかり人がいなくなったなあ」 「そうですね、最初私達が来た時はあんなにギュウギュウだったのに」 ビルの屋上で星を見上げ寄り添う二人。 とてもこれから死闘をする様には見えない。 「珍念は東京でうまい事やれるやろか」 「血は繋がって無くても貴方の子供です、心配いりませんよ」 「空、綺麗やなあ」 「最近の関西滅亡に爆発オチや流星群が無かったからだと思いますよ」 「ええ日や、こんなええ日にお前と戦える運命に感謝するで」 ツマランナーは四葉から一歩ずつ離れていき、四葉も反対側へと歩む。 お互いがビルの端に到着した所で振り返り、四葉が言った。 「どうしても、戦うのですか?」 「せやな、ワイの迷宮時計が戦え戦えってうっさいねん。ビルの取り壊しなんてのは 切っ掛けにすぎんのや。ワイはお前に勝って前に進まんとアカン」 この二人はビルの破片をペンダントにするというアイデアは浮かばなかった。 まあ、それを思いついたとしてもいずれは戦ったのかもしれないが。 「今迄ホンマ世話になったな。ワイが迷宮時計に急かされて戦いを望むたんびに お前はワイを止めてくれた。せやけど、コレはワイのもんや。ワイの決意も衝動も 願いもみーんなワイのもんや。お前にはもう背負わせん」 ツマランナー。本名は妻夫木乱。性別男。希望崎大学4年生。現時点での年齢38歳。 高校まで陸上をしていたが魔人化後にミュージシャンに転向し現在は禅僧を名乗る。 武器はベース。 運動能力:B+→A+ 近接戦闘力:D→B+ 中距離戦闘力:C→A  長距離戦闘力:C→B 戦闘精神力:B→A 戦闘経験:E→B  能力『歌えば多分なんとかなる』。一曲歌い、その歌のタイトルに合った効果を 強化・回復・アイテム召喚などの形で自身にもたらす。 「私は本当の家族を探す為に迷宮時計の誘いに乗りました。 でも、もうその願いは叶っています。もし私に父がいたとしたら それは妻夫木さん、貴方の様な人なんだと思います。だから、家族である貴方が この先傷つく道を進もうとするのなら絶対に止めなければなりません」 純粋天使・須藤四葉。性別両性。現時点での年齢27歳。 孤児院で暮らしており世間を知らなかったが、避難民との触れ合いと記憶を取り戻した 事で自分の為すべき道を見つけ梅田避難ビルの守護天使と崇められる。武器は天使の力。 運動能力:E→A 近接戦闘力:E→C 中距離戦闘力:B→A++ 長距離戦闘力:C→A++ 戦闘精神力:D→C 戦闘経験:E→B 能力『赤×モア』。視界を切り替えて運命の色を見る。見える色の一つを選び「モア」と 呟くとその色を濃くして運命を加速させる。 待たせたなお前ら、迷宮時計争奪戦の始まりだ。 この飯田トオル47歳、末期がんのホームレスが梅田避難ビル屋上中央にこしらえた 特別実況席(材料はミカン箱)からお前らに戦況をリアルタイムで伝えるぜ! 一切邪魔の無い戦いを楽しんでくれよ! さあ戦闘開始と同時に四葉の雰囲気が変わったぞ、使う技はもちのろんコレだ! 「モアッ!」 はい、この試合一発目のモアいただきました!今の四葉はモア一つで命あるものは死に 形あるものは壊れる程の運命加速力を持っているぞ。早くも決まったか―!? いや、決まって無いぞ!ツマランナーは物陰に隠れて四葉の視界から外れていた! このただっぴろい屋上の物陰とはなんだ、給水塔か?出入口か?いや俺だ! 二人の間で戦闘を見守っていたこの俺を肉壁にして視界から外れたのだ! ジャーン! 「聞いて下さい、『ツッペルランナー』」 ツマランナーは俺の後ろに隠れながら俺をギャラリーとして認識し 能力発動条件をクリア!だが、四葉は羽ばたいて空から再度狙いをつける。 そう、上空からならツマランナーの姿は丸見えだ!ベースを弾き始めるがこのままだと 四葉のモアが先に決まるぞぉー! 「モ」 「ワンツーワンツーさんし」 ジャ! 「世界のどこかにいるという自分と同じ見た目の人がドッペルゲンガーと言うらしい、 それじゃあ私のそっくりさんがいたらツッペルランナーだねツルペタ言うな ツッペルランナーカモン!」 ジャン! 「ア」 速い!ツマランナー何という速さだ!四葉がモアと言い切るまでの間に一曲歌い終わり、 分身を自分の真上に召喚し攻撃を防いだぞ!そういえば聞いた事があるぜ。 昔、DMCという漫画があった、その漫画の主人公ヨハネ・クラウザー二世は無敵の ミュージシャンだった。彼は一秒間に10回レイプと言いファンはそれを10回レイプと 言ったとちゃんとカウントしていた。 これはファンの耳が凄いという事じゃねえ。人の限界を超えた速度で歌いながら ちゃんと歌ったと認識させる『高速歌唱』という技術だ。魔術師の使う『高速詠唱』の バード技能版と思ってくれればいい。 フッ・・・俺の知らない間に高速歌唱まで習得していたとはな。 この勝負わからなくなってきたぞ。 「さあいくで四葉!」「覚悟せえや!」「囲んでぼこったる!」「本物のワイがわかるかな?」 おおっと!高速歌唱の説明をしている間にツマランナーが何人にも増えているぞ! そうか、ツマランナーの能力は新たな曲を歌うと前の曲で生まれた存在は消えるが、 分身と一緒に分身召喚を歌い続ければ理論的には延々と分身を増やせる! その手間はとんでもないが、高速歌唱が使える今のツマランナーなら容易いという事だ! 本物と偽物の違いは30秒経ったら消える事と服の下の迷宮時計の有無だけだ! 四葉は迫りくるツマランナー軍団から本物を見分けられるのかー!? 「本物はそこ、まだ飯田さんの背中にはりついてますね」 一発で見破ったー!そうだよな、運命の色で区別できるもんな。簡単に分かるよな。 そしてツマランナー!お前まだ俺の後ろにいたのか! さあ、四葉が自分に近い分身を消すとツマランナーが新たな分身を防御と攻撃に 振り分ける。千日戦争状態に突入してしまったぁー!互いに決め手が無い! 四葉は俺の後ろにいるツマランナー本体を狙えないし、ツマランナーも 分身をいくら戦力として投入しても四葉に届く前に消滅の運命を加速されて消える。 「妻夫木さんすみません、ちょっと本気出します」 おおっと、四葉はまだ本気では無かったというのか!? 謝罪の言葉と共に四葉は両手を構えその手の間にエネルギーが溜まっていくぞ。 そう、四葉の能力は運命加速だけではない!これは天使の奇跡の一つ爆発の奇跡だー! ジャーン! 「聞いて下さい『ドリルドリドリ― 「だっふんだ!」 「うおっまぶし」 ツマランナーが新たな曲を歌おうとした瞬間、聖なる言霊と共に光が俺と ツマランナーのいる場所に着弾し光に包まれた!高速歌唱しようにも 視界を光で潰されたらギャラリーが見えず能力発動出来ない! そしてこの爆発の威力と範囲は俺を盾にしてどうにかできるもんじゃないぞ! その一方で四葉は赤面している!発射の合図はもう少しカッコイイ言霊にしとけば 良かったという照れで赤面しているぞー! 光が晴れるとコンクリートの床に大穴が開きツマランナーはボロボロだ! 武器兼能力発動アイテムのベースもバラバラになってしまっている! 「・・・あああっ、ワイのベースが~」 「これで終わりです、降参して下さい」 そうだな、攻撃と防御の起点を失ったツマランナーに勝ち目は無い。 よってこれにて決着!閉店ガラガラー! (※GK注)自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】 「まだや、まだベースは残っとる。ワイがワイこそがベースになればええだけの話や」 長年愛用したベースを失ったからか?ツマランナーがヤケクソともとれる発言を しているぞ!勝ち目が無いのは誰の目にも明らかだ、だがまだ決着はしてないという事は 確かな様だ。すんませーん、まだ続くみたいでーす! それじゃあコレは、 (コレね) ↓ 『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】』 あっちに置いといてと、 →『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクター:ツマランナー】』→→→→ うんせうんせ、 →→→→→→→→→→→→→→→『自キャラ敗北SS:【裏・一回戦第5試合】【キャラクタ よっこいしょほいしょっと、 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→『自キャラ敗北SS: もうちょい右か、よいこらせっと、 →→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→→ で後はこうやって戦闘続行オケー! (※GK注)先程は失礼しました。引き続き戦闘SSをお楽しみください。 「まだや、ワイ自身がベースになれば戦闘は可能や。ホンマ甘いで四葉、 今トドメささんかった事後悔させたる」 「無理を言わないで下さい!私よりずっと弱いくせに!」 俺にも無理を言ってる様にしか見えない。仮に一曲歌ってベースを作ろうにも 演奏の為のベースが無いのだ。詰んでいる。 しかし、そんなの関係ねえとばかりに、ツマランナーは再び俺の背中に隠れながら 歌い始めた。 ジャーン! 「聞いて下さい、『トラップカード発動!緊急脱出装置』」 「ベースの音!?そんなさっき確かに破壊したはず!」 俺の身体が邪魔で四葉にはツマランナーがどうやってベースの音を出しているのかは 分からない。だが俺にはハッキリと見えている。後ろに目をやると、ツマランナーは 喉を弾いてベース音を出していた。喉ベース!その手があったか! 「ワン、ツー、ワンツーさんしギガガガギゴ完成だギガガガギゴ暴走だ助けて博士! このままじゃあギガガガギゴに研究所を破壊されてしまいまーす!まかせたまえ、助手よこんな事もあろうかと作っておいた緊急脱出装置だ!ギガガガギゴ飛んでった研究所は守られたギガガガギゴ放たれたおやギガガガギゴの様子がゴギガガガギゴに進化した!」 ジャン! 高速歌唱と喉ベースの併用で声を枯らしそうになっても、それでも口から 血反吐吐きながら何とかツマランナーは歌い終わった。 出てきたのは芸術家を吹っ飛ばしたあのバネ式バズーカだー! 「飛んでぇけぇぇぇ!君の胸にスィーツ!」 真っ直ぐ俺の顔面に向かってグローブが飛んでくるぞー!・・・え、俺? BAKOOOOOON!!!! 勝負中散々俺の事利用しておいてこの仕打ちかよー! ああー、二人の身体が豆粒の様に小さくなっていくー! くっそ、マイクフルパワーだ、音声拾えるかー!? 「盾にしていた飯田さんを、どうして!」 「なんとなくムカついたからや。それに、おかげでお前の隙をついて接近戦に持ち込めたで」 よし、音声まだ拾えた。どうやら俺を吹っ飛ばしたのは無意味、 そして無意味な一手を使えば四葉の隙をつけると読んだのか!そうだよな、 四葉ちゃんマジ天使だから俺がぶっ飛べば一瞬でもそっちを心配するよな。 本当に四葉は良い子だよ。ツマランナーと違ってな! 「こんだけ近ければ爆発の奇跡も無理やろ」 この状態で四葉に用意された選択は二つある。塩化の奇跡と運命加速。 四葉の瞳が運命加速のモードに変わっていく。ああ、やっぱりそっちを選んでしまうのか! 相手を塩の柱にしてしまえば確実に勝てるが、それだとツマランナーが ほぼ確実に死んでしまうからな。 彼女は選べなかった、それが勝利への確実な道だと知っていても。 四葉のこの戦いでの目的はツマランナーの救済、使い慣れず出力の調整が 難しい塩化の奇跡は選べなかったのだろう。ああ、なんという悲劇か! 実力を出し切れば勝っているのはお前なのに! 「そう来るのは分かっていたで、何年も一緒におったから」 ツマランナーは四肢を亀の様に丸めて内臓と脳をガードだ! こいつの四肢には迷宮時計がびっしりと貼りついている! 迷宮時計の運命は未定、つまり四葉は運命加速でこれを壊す事は出来ないぞ! 「モア!」 ビキィ! 「はうぁ!」 しかーし四葉いったー!迷宮時計の隙間に存在する生身の肘の運命を加速し、 軟骨を限界まで擦り減らせて、ダイジョーブ博士の手術に失敗したパワプロくんと 同じぐらい肘を使いものにならなくしやがったー!ツマランナー思わず悶絶だー! だがっ、だがしかしっ、 ガシコーン! 「捕まえた」 ツマランナーはまだ致命傷ではなーい!腕が動かせないからカニばさみで 四葉を捕獲したぞ! 「8ビートでいくでえー!」 ツマランナー大きく頭を振り下ろしたぁー! 「モア!」 四葉はツマランナーの脳の運命を加速させ脳閉塞による失神KOを狙う! しかーしツマランナーは首をひねって狙いをつけさせない! どぐちゃあ! これぞバンドマンだと言わんばかりのヘッドバンキングが決まった~! 「モア!」 「無駄や、お前のソレは見て喋って当てる。せやからお前の視線を恐れず 正面からじっとみとれば次にどこにくるか予想できる。 一秒を一秒としてしか認識してないお前やから、この距離ではもう絶対に ワイには当たらん」 探偵に推理光線がある様に、手芸部の糸が攻防において様々な形で使用される様に、 ミュージシャンにはこのビート刻みがある!音楽を一定以上極めたミュージシャンは 一秒を分割して認識し、その分割しただけの行動を割り振る事を可能とする! 集中力と音感とリズム感の果てに得た先読み能力と柔軟な動きは、至近距離での 戦闘において他の魔人を圧倒する! 「モア」 「当たらん!」 円を描くように頭を振り、視界から一度外れての頭突きだぁー! どぐちゃあ! 「も」 「させん!」 どぐちゃあ! 「塩に」 「もう手遅れや!」 どくちゃあ! 止まらない!止まらないっ!止まらないー!ツマランナーはもうトマランナー! ツマランナーのヘッドバンキングが連続して四葉の顔面に叩き込まれていく~! っと、ここでツマランナーがヘッドバンキングをしながら仏のポーズ! 勝利を確信してのフィニッシュへのムーブだぁ~! 「ナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナムナム」 どぐちゃどぐちゃどぐちゃどぐちゃ!どぐちゃ!どぐちゃ!どぐちゃあ! 「も、もうやめて・・・」 「ナムアミ・ダブツ(さよならや)、喝!」 ゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン 須藤四葉、鐘の音と共に崩れ落ちた~! 15年以上をかけて行われたオフィスビル戦はツマランナーが制した! それでは皆さん、名残惜しいがこれでさよならだ! 【2010年・出会い】 故郷の父さん母さんお元気でっか?ワイは変な奴に絡まれて色々ピンチです。 「セイヤー!そこの姉ちゃん俺と結婚してよ~」 「セイヤー!おっと、俺にも結婚してくれよ~」 「あ、あの困ります。ワイ男ですし・・・」 「同性婚でも重婚でも構わねえぜ~!永住権が欲しいだけだからさあ!」 「逃げても無駄だぜ~、俺たちゃG国で公務員試験勉強した事があるんだ。 マッハ1から逃げれるもんなら逃げてみな~」 まさか東京に来て女装外出を楽しみだした途端にガイジンに絡まれるなんて! 東京は滅亡がないから安全って聞いとったけど全然そんな事無かったわ。 ああ、こんな時漫画ならヒーローが助けてくれるんやけど・・・。 「ヒーロー見参・・・ヒーロー見参・・・ヒーロー見参!」 ヒーローはおった。ピンポンみたいな頭した男がピンポンっぽい演出で現れた。 「そこまでにしておくんやな雑兵ども、とっととオウチに帰りなさいや」 「セイヤー!何だてめぇは?何で三回もヒーロー見参って言ったんだあ~」 「セイヤー!一回言えば十分だろが~」 「同じ事を繰り返すのは関西人やからや。国に帰る気がないならワイの秒間 32発のパンチが火を吹くでえ」 クリリン(仮)が得意げに拳を構える。だが、32連発のパンチと聞いて雑兵二名は バカにする様に笑った。 「セイヤー!ば~~かじゃねえの?俺達は秒間100発のパンチが撃てるんだぜ~」 「セイヤー!200対32という事だぜ~、キセキの世代フルメンバーとただの高校生が バスケするぐらいの絶望的な差だぜ~」 「それがどうした?ワイの32発はお前らの200発と質がちゃうわい」 「な、なめやがって~、行くぞ雑兵B!100連パンチが味方にあたらない様に 左右から適切な距離をとって挟み撃ちで仕留めるぞ」 「了解だぜ雑兵A!」 雑兵二人が左右からサンプラザ中野(仮)に襲い掛かる! ワイはこの隙に逃げようとも思ったけど怖くて足が動かへん。 くっそ、せめてベースがあれば・・・でもワイの能力弱いし・・・。 「「セイッセイヤー!」」 ハゲ丸(仮)の左右に数え切れぬ程の拳!そして打撃音! ポクポクチーン!ポクチーン!ゴーン!ポクチーン!ポクポクチーン! 信じられへん光景がワイの前に広がってた。 雑兵二人の方が明らかに手数もスピードも上なのに、井出らっきょ(仮)の身体に 一撃もヒットしていない。そして、天津飯(仮)の攻撃は全弾クリーンヒットしている! ポクポクチーンポクポクチーン!ゴーン! リズミカルに雑兵の足を踏み、目を突き、耳を引っ掻き、体勢が崩れた所に 頭突きを入れている。なんやねんこの動き! 「ナムナムナムナムナムナムナムナムナム」 あ、展開が一方的になったら何かジョジョっぽく叫びながら攻撃しだした。 「ナムアミ・ダブツ(さよならや)」 ゴ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ン 最後に大きく振りかぶってからの頭突きで雑兵二名をまとめてぶっ飛ばして決着。 相手が起き上がらないのを確認した月光(仮)はワイの方に笑顔で振り向く。 「どや?ごっつかっこよかったやろ」 「は、はあ。あ、あの、今のキモカッコイイ動きなんなんです?」 「32ビートや。一秒を32に分割し、そこに行動を割り当てる。大抵の奴は 一秒を一秒としてしか認識できへんから目に見えへん大きなアドバンテージを 得られるってわけや。よし、それじゃあ助けてやったからお前ワイの仲間になれ」 「は、ハイ?」 「バンド組もうぜって言うとるねん。初めまして、俺は佐分山珍念、 レッサー禅僧やったおとんがしょっちゅうサブイネンと呼んでたからお前もサブイネンと 呼んでくれるとうれしいなって」 サブイネン(確定)がワイの手を握って引きずっていく。 レッサー禅僧?32ビート?サブイネン?バンド組もうぜ? えーっと、落ち着けお前。言うてる事めちゃくちゃやぞ。 「ちょ、ちょっと!知らない情報がいっぺんに入りすぎてワケワカメなんやけど」 「大丈夫!お前はワイの見込んだ男や!きっとワイにすぐ追いつく。 あ、そや。一応名前と楽器と高校の時何やっとったか教えてーな」 「妻夫木乱って言います。楽器はベース。これでも高校では結構有名な 陸上選手でしたんやで魔人になって引退したけど」 ワイの簡単な自己紹介を聞いたサブイネンはカタカタと震え出した。 「んなアホな、いくらなんでも奇跡すぎるやろ・・・」 「あのー、どうしましたー?」 「奇跡やー!!!!いっつみらくるやあああああ!」 後光が差す程の笑顔をこっちに向けてくるサブイネン。キモイ。 「決まりや、お前の芸名はツマランナーや」 「ハア?」 「バンド名も今決めたで。ワイとお前、それからもう一人おるから三人揃って オモロナイトファイブ!」 「はああ?」 「で、リーダーの座はくれてやるわ!よろしゅー頼んますリーダー!」 「はあああああああああああああああああああ!?」 なんやねんこのテンションは。 お前はタイムスリップしてきたワイの家族か何かか! 故郷の父さん母さんお元気でっか?ワイは変な奴に絡まれて色々ピンチです。 【2012年・真相解明?】 梅田避難ビルから西に数百メートル、ここには現在小さな寺が立っている。 避難民に食べ物を与え、親の居ない子供達を世話し、暴徒から物資を守って来た 天使と禅僧を称え、かつて禅僧が住んでいたフロアを再現した寺がそこに建てられていた。 それが私の今の家だ。 「あ~~~~~~~~~~~~~今日も何もしなくても梅田の人達のお供えとかだけで 生きていける~~~~~不労所得ってすばらしい~~~~~~」 部屋の中でゴロンゴロンゴロン。 もう戦いも育児も一生分やったからこうやってゴロゴロしててもいいよね。 「おーい、入るぞ」 「はーい、どうぞ」 飯田さんがドーナツを持って来てくれた。 私をそれを奪い取り、二個まとめて口に捻じ込む。 「おいひぃ~~~~~~」 「アイツの召喚したドーナツの味を再現した『レッサー禅僧ドーナツ』、 だが別に三十秒で消えたりしないから落ち着いて食べていいんだぞ」 「だって美味しいんですもん。というか、言っちゃ悪いけどこっちの方が 味付けが濃くて美味しいです」 「あーあ、いい女だったのにすっかり堕天使が板についちまって」 し、仕方ないじゃないですか! だって外の世界には美味しいものがいっぱいあるんだから! 孤児院でも梅田ビル内でも食べれなかった分楽しんで何が悪いのー! 「お前さん今幸せか?」 「はい、まあまあ」 「ツマランナーに勝ち譲って後悔してないか?」 「あれは本気の勝負の結果ですよ。それに彼はもうすぐ帰ってきます」 「ほう、お前の方は気付いていたのか」 飯田さんはニヤリと笑う。 「気付いたのは何時からだ?」 「こっちに来てから一年以内、ツマランナーさんと完全な協力体制を築く事が 出来た時です。彼は教えてくれました。自分のいる世界とこの平行世界はあまりにも 似た部分が多いと。彼は考えもしませんでしたが私はその時思ったんです。 基準世界と平行世界は全く繋がりの無い世界という原則ルールは私達に適用されるのか?」 「つまり?」 「私達が飛んだ世界は、私達が住む平行世界と同一世界の二十年前だったんじゃないですか?」 ドーナツの砂糖がついた指を舐めてからビシィと飯田さんに突きつける。 飯田さんはハッハッハと笑いそして答えた。 「惜しい」 「あらら、違ったんですか」 「お前さんらがイレギュラーでも住んでる世界と同じ世界に落とすほど 迷宮時計は馬鹿じゃねえ。ただ、互いに影響が無いぐらいに遠い平行世界に落とすって 部分については、このオフィスビル戦においてはかなりサボっていたと見える」 「つまり・・・どういう事だってばよ?」 「ここはお前達のいた平行世界のすぐ隣の世界だ。だから起きる出来事は ほとんど変わらんし、片方の世界の異変がもう片方に影響が起こる事もある。 だからツマランナーと非常に似た存在がこっちにもいる可能性が非常に高い。 もっとも、迷宮時計に関する事項だけは異なるが」 「つまり・・・どういう事だってばよ?」 「あー、もう箇条書きで説明していいか?ペン貸せ」 飯田さんはドーナツ屋のチラシの裏にサインペンでここで起こった事、 これから起こる事を次々と書いていった。 &nowiki(){・}この世界にもツマランナーは存在するが、彼は迷宮時計には選ばれない。 &nowiki(){・}この世界のサブイネンがツマランナーとバンドを組むかは不明だが、 彼らは迷宮時計に選ばれないので少なくとも迷宮時計争奪戦が理由で自殺したりはしない。 &nowiki(){・}四葉はツマランナーから2014年までに起こる出来事をいくつか聞いているが、 この世界でも同じ事件が起こる可能性は高い。(迷宮時計絡みを除く)。 &nowiki(){・}ツマランナーが帰っていった方の平行世界ではサブイネンの自殺及びそこから 始まる迷宮時計絡みの出来事は確定しており、迷宮時計を完成させる以外でこれを 変更する事は出来ない。 &nowiki(){・}ツマランナーがいる方の世界におけるサブイネンの育ての親はツマランナーや 四葉とは別人。ただし、彼らに似た存在であると思われる。 チラシの裏にざっと目を通した私は決意を胸に電話に手を伸ばす。 「レッツアベノミクスぅー!もしもし証券会社ですかー!」 「落ち着け」 飯田さんはネットで取引した方が手数料がお得だと教えてくれた。 文明の利器ってすげー! 「つーかお前の『赤×モア』で株価予測したり操作したりできねーのか?」 「私が株に無知だし形の無い存在だから難しいかと」 「そんなもんかね。じゃ俺はこれで」 「あ、待って下さい」 帰ろうとする飯田さんを呼び留める。 彼にはもう一つだけ聞いておきたい事があるんだった。 「飯田さんって何者なんです?何で全身の運命の色が他の人と違うんですか?」 「俺は帰る家を無くした末期がんのホームレスさ。ホームレスに未来がなくても 別におかしくはないだろう?じゃあな脱落者、もう会う事は無いだろう」 それが私達の恩人、迷宮時計と同じ色をした人との最後の会話だった。 【2014・勝者の帰還】 顔を触る。 「スベスベやぁ~」 ベースを見る。 「ピカピカやぁ~」 ボディラインを鏡に映す。 「ナーイスボディやぁ~、迷宮時計があるのは気に入らんけど」 若いってええなあ。決めた、今日からスキンケアもっと真面目にやる。 「と、ゆーわけで、戦闘時間最長記録大幅更新間違い無しな 長期戦やったけれど無事に帰還!若返って気分は強くてニューゲームや!」 息を大きく吸ってーの!高速歌唱―! 「レイプレイプレイプレイプレイ、あれ?」 一秒間に4.5レイプ。遅くなっとる。そんなー!理屈は理解してコツも つかんだ気がしとるのにできへん様になっとる。 「ならば8ビート禅僧パチキじゃコラー!」 柱に向かって頭突き、鈍い音がして額が割れた。 「ンギャース!」 ゴロゴロと転がり悶絶。 そして間の悪い事にこのタイミングで長らく忘れてたあのイベント襲来。 「さらにンギャース!」 勝利して帰って来た事で解放条件を満たしたのか、ワイの肉体がさらに迷宮時計に 浸食されていく。痛みが止まった所で鏡で時計の増えた数と位置を確認する。 「えーと両手の爪全部が時計盤になって、それと両目かあ。 とうとう顔にまで広がりはじめたか」 鏡で確認すると黒目の中に小さな長針と短針が現れチクタク動いている。 幸い視力には問題ないし、間近で見ないと分からないぐらいに目立たないが 勝ち進むとどうなるかますます不安になってきたわ。 「助けて四葉!顔面に10回以上頭突きしたの謝るから! そうや、閃いた!大阪行ってみよう」 平行世界に留まる事15年ちょっと、避難ビル内で聞くニュースはどれもこれも ワイの世界と一緒やった。もしかしたら、ワイが飛んだのは同じ世界の過去やないんか。 今更ながらその可能性もあると気づいたワイは、マスコミに気付かれん様に 地味なワンピースに着替え化粧もナチュラルにして大阪へと猛ダッシュで向かった。 急ぐから走る! 「新幹線大人一枚」 急ぐからこそ走る! 「タクシー!梅田旧避難ビルまで」 急ぐからこそ走って着いた!梅田旧避難ビル横のお寺に突入する。 居た!あの羽と輪っかは見間違えるわけあらへん! 「四葉―!」 「ヨツバってだれやー!」 クルリと振り返るその顔は、見知らぬオバハンやった。 「誰や!」 「アンタこそ誰や!」 とんだ無駄足やった。 これもなんもかんも基準世界のせいや!絶対許さんぞ基準世界人! 新幹線とタクシー代払え! 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