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*第一回戦SS・大都市その1 #divid(ss_area){{{   いくつもの建造物が空を穿ち、地面の下に人の道が張り巡らされた近代都市に在っても、ストルデューンは、迷うことを知らぬ。 閉じられたその目に映った、赤く、赤い世界。それが彼を導く。大凡、人の知りえぬそれは、彼を裏切ることは無い。 街の中を、歩き、渡り、昇り、何時しか彼は、街の中でも、群を抜いて高いビルの上に立っていた。 ストルデューンは右目を開いた。赤い世界は消え、不完全な、光によって形作られた、白と黒の世界が彼を包んだ。 「存在するものは毅然としてあり、空間の中に一点の肖像を作り出す……」 次いで、眼下の街に異変が起こる。ビルとビルの隙間、あるいはその上から、まるで透明な水に絵の具を垂らしたかのように、ゆっくりと黒が広がりはじめたのだ。 ゆっくり、といっても、それは、ストルデューンの視点での話である。 もしも、この都市が何時も通り、人に溢れ返っていたのなら。人々には、黒い煙が意思を持ち、街を覆いつくそうとしているように見えただろう。 それは、ストルデューンの対戦相手である、時ヶ峰健一から見ても、同じことであった。 異変に気づいた時々峰は、街を満たそうとする黒に捕らわれぬよう、ビルの隙間を、まるで忍者のように、上へ上へと登っていく。 一呼吸、二呼吸のうちに、時々峰は、ビルの屋上へと降り立った。そこで彼は、より高みか ら、自らを、そしてこの街全てを見下ろす、黒い魔眼を見た。 時々峰はそれが、この黒を生み出した魔人であること、此度の倒すべき敵であることを悟った。 僅かな間に、街は黒で覆い尽くされていた。人の英知を集めて作られた近代都市が、墨の海に沈んでいる。 ストルデューンと時々峰が、それぞれ立っている物を含め、黒に侵されていない足場は、もはや数えるほどしか残っていない。 「&ruby(いなずまのけん){カラドボルグ}、」 時々峰がその名を呟くと同時、その手の中に、一振りの剣が現れた。 直後、時々峰の腕が閃いた。放たれた斬撃は彼我にある数十mの距離を無視し、ストルデューンの立つビルの一角を斬り飛ばした。 「俺は不意打ちを好かん。名誉なき勝利に、意味な ど無いと考えている。故に、説明しよう。」 &ruby(いなずまのけん){カラドボルグ}、ケルトの神話に記されるその魔剣の効果は、無限の間合い。 「見ての通り、この剣に距離は意味を成さない。お前のいるそこも、間合いの内。次は確実に貴様自身を斬る。」 手に持った剣を構えなおしながら、時々峰が続ける。 「貴様の能力の規模は凄まじい。これほど大規模なものは初めてだ。だが、直ぐにわかった。これでは俺のけんは防げん。降参するなら、今だ。」 ストルデューンは答えず……代わりに閉じられていた左目を開いた。 時々峰健一は、大きな勘違いをしていた。一つは、ストルデューンの能力がこの、黒を生み出すだけだということ。 「存在するものは毅然としてあり、空間の中に一 点の肖像を作り出す……」 そしてもう一つ。溢れ返る黒を避け、ストルデューンの前にたどり着けたのは、自らの強さ故、と思っていた事。 蕩う黒の海を押しのけ、間から穢れなき白が顔を出す。それはストルデューンの立つビルよりも高い、巨大な人型を作った。 海坊主。黒い海に沈んだ街に、白い怪異が描き出されていた。 今、この瞬間、戦場は一つの芸術となった。時々峰は、一瞬、それに見ほれた。それは致命的な一瞬であった。 描き出された白い&ruby(かいな){腕}が、時々峰と、彼の立っていたビルを飲み込んだ。 「存在するものは毅然としてあり、空間の中に一点の肖像を作り出す……」 何の事は無い。ストルデューンはこれを、戦いと思っていなかった。これまでの自称は全て、作品を生み出す為の 過程に過ぎない。 作品に、魔人を組み込むことも可能だ。命をも内包した作品は、より優れた作品となる。 しかし、時々峰はそうではなかった。このキャンパスに、彼は不要だったのだ。 ストルデューンの能力は、たとえ視界から離れようと、消えることは無い。 たとえ、彼がこの世界を去った後も、黒と白で形作られたキャンパスは、街に残り続けるだろう。 だが、そうはならなかった。戦闘終了を告げる合図は鳴らず、辺りを、轟音が包み込んだ。 爆風が吹き荒れる中、ストルデューンは両目をカッと見開いた。 先ほどまで存在した、黒と白の芸術は吹き飛ばされ、代わりに、巨大なクレーターが出来上がっていた。 その中心点には、一人の男。2m50cmを優に越す巨体、服 の上から見てもわかるほど鍛えられ上げた、鋼鉄のような肉体。 地面についた拳からは煙が立ち上がり、この破壊を起こしたのが彼自身であることを示していた。 「もう一度言おう。貴様の能力では、俺の拳は防げん。」 男の名は時々峰健一。2014年現在、希望崎学園最強と目される男である。 「&ruby(いなずまのけん){カラドボルグ}。ケルト神話に現れる剣。」 時々峰が、手に持った剣を掲げ、迷うことなく上に放り上げた。 「その刀身は持ち主の意を反映し、無限に伸びると言われ、伝承では、その場から遠く離れた丘を、容易く斬ったと言われている。」 代わりに空いた手に、新しい剣が召還……されなかった。 「そして」 その手は何を掴む事も無く、握り締められ、剣では なく、拳が生み出された。 「それを上回る」 重力に従い、剣が落ち、時々峰の目線と重なった。 「こいつが俺の筋力だ」 拳が振るわれ、再びの轟音と共に、ストルデューンの体は、地上数十mの空へと投げ出された。 つい先ほどまで彼が立っていたビルは、失敗したただるま落しのように、空中にばら撒かれていた。 時ヶ峰健一は背を向け歩き出した。彼の拳を受けた剣は、粉々になり宙に舞って行った。 ストルデューンは、その体が地面につく、僅かな間に能力を使った。 白と黒が混じりあい、時々峰の進む先に、美しい道を作った。 それがストルデューンの最後の作品となった。 「存在するものは……」 彼が言い切る前に、かちり、と音が成り、二つの迷宮時計が 一つとなった。 時ヶ峰健一はそのまま歩き続け、その姿を消した。 術者が死に、ストルデューンの能力は解除されたかもしれない。 しかし、そうであろうと無かろうと、時々峰健一は、彼の最後の作品を、一生忘れることは無いだろう。 [[このページのトップに戻る>#atwiki-jp-bg2]]|&spanclass(backlink){[[トップページに戻る>http://www49.atwiki.jp/dangerousss4/]]}}}} #javascript(){{ <!-- $(document).ready(function(){ $("#contents").css("width","900px"); $("#menubar").css("display","none"); $(".backlink a").text("前のページに戻る"); $(".backlink").click(function(e){ e.preventDefault(); history.back(); }); }); // --> }}
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