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*第一回戦SS・市街その1 #divid(ss_area){{{  「大短編ダンゲロス 門司くんと迷宮の時計 エピソード1」 ~壱~ 一瞬の目眩の後、景色が変わった。 音が、戻ってくる。 周囲から聴こえる、人の声。 少し離れた場所に立つ、少女。 明らかに周囲と違った、服装。 あーあ、やっぱマジだったか。 睨んでるよ。 やる気あるなあ。 まったく楽しくなりそうだぜ、ハッハー。 だから俺は目の前の女の子を指差して精一杯の大声で叫んだ。 「助けてくれぇっ!!殺される!!そこの変な女の子に!!」 もちろん英語でだ。 周囲の人間が振り向いた。 女の子はビックリしたような気の抜けた顔で手にガラスのナイフを握りしめている。 周囲の会話からして、ここはちょっと昔のイギリスだろう。 英語が通じるわけだ、当然ながら。 警官が少女の肩を掴んだ。 少女は作務衣にウエストポーチ、背中に紐で縛り付けた一升瓶。 イギリスでなくたって不審者だろう。 「君なにやってんの?それは何なのかな?」 と警官、当然英語だ。 「あ、あのコレはその、違うんです」 とワナワナと震えながら女の子が答える、当然日本語だ。 会話が成り立っているように見えてお互い言葉は通じていない。 「英語は話せんのか?まあいい、ちょっと署まで来てもらおう」 「へ?あ、あの!!ちょ!!た、たすけてー!!」 何かを訴えるかのような涙目でこちらを睨みながら女の子はズルズルと警官に引きずられて連行されていった。 さて、どうするかなあ。 ~弐~ 俺の名前は門司秀次、まあ魔人だ。 俺が魔人になったのは中学二年の時だから、魔人になった経緯としては普通って感じだろうね。 学校の帰り道に『飛び出し注意、車にぶつかる』っていうイラスト入りの看板があってさ。 ヘタウマって奴だろうけど、それが何か面白くって笑っちゃったんだよ。 そしたら、次の日には魔人になってた。 魔人能力の名前は『ベカラズ』。 自分の書いた注意書きを現実にする能力。 魔人能力に目覚めた時、他のヤツはどうすんのかは知らねえけどさ。 俺はとにかく色々試したね。 だってそうだろ? どんな魔人能力かは直感でわかるからいいけど、使いこなせないとか。 物凄くかっこ悪いしさあ。 特に、この手の能力はバトル漫画とかだと油断して相手に利用されて自滅するタイプだって感じだし。 どのくらいのサイズの字ならいいのか、日本語だけなのかとか、マジで色々試したし能力応用とかも必死こいて考えた。 日本語以外で書いても良いって判ったときは、もう必死で外国語を片っ端から勉強したよ。 おかげで英語の成績だけは今でも学園上位だね。 英語以外もそれなりにイケル感じだぜ、だって外国の魔人と戦う時に喋れて損することはないからね。 英会話、大事だよね。 実際、すげー役に立ってるよ。 今現在進行中でね。 ~参~ いい天気だなあ。 イギリスは飯が不味いとかいうけど、ティータイムにお菓子と紅茶を飲む分には十分だよなあ。 フィッシュアンドチップスも良かった。 なんてーの? こういうのもイイよな。 書道のパフォーマンスで漢字を書いたらそれなりに金になったし。 オリエンタルブーム万歳だわ。 1887年の新聞を片手にティータイム。 真の午後ティーとはこれなんだろうな。 「ちょっとおおおおおおおおおお!!なにくつろいでんのよおおおおおッ!!」 日本語で叫びながらさっきの女の子が走ってくる。 思ったより早く出てきたなあ。 普通に釈放されるには早すぎるし、魔人能力でも使って逃げ出してきたのかな? じゃあ、仕方ない。 「おまわりさん、あの子です」 「また、お前か。人に迷惑をかけるんじゃない」 「いいいいいいやああああああああッ!!へるぷっ!!へるぷみー!!」 女の子は警察官に両腕を掴まれてズルズルと引き摺られていった。 ここで無理矢理攻撃してこないところを見ると。 ふーん、一般人には手を出さないタイプなのかなあ。 わりと可愛いかも。 「あ、マスター。スコーンおかわりもらえます?」 俺は流暢な英語で追加の注文をした。 ~肆~ 翌日の午後。 とても落ち着いた昼食を終えたとこに彼女はやってきた。 「ちょっと待った!!待ってくれ話をしよう!!な!?落ち着いて」 「……」 開口一番、俺は片手を前に突き出して言った。 攻撃しないアピールだ。 まあ、右手はいつでも抜刀できるように軽く腰に当ててるんだけど。 すっごい睨んでる。 あー、睨んでるなあ、ハハ。 だけどさすがに懲りたのかな、話し合いには応じてくれそうだ。 まあ邪魔が入るのは本望ではなさそうだし。 問答無用で周囲の巻き添えを辞さないタイプってわけじゃなさそうだ。 ただ、状況によっては巻き添えにしても構わないって感じの目はしてるなあ。 さて、それなりに厄介そうだけど。 紅茶とか飲むかな? 「ちょっと目が怖いって、ほら。紅茶でも飲んで落ち着いて」 「……いただくわ」 「毒とか……、入ってないから」 「ぶぱーッ!!ゲホゴホーッ!!」 吐いた。 面白いな、この子。 「入ってないって言ってるのにィ」 「……門司秀次」 「おっとぉ、俺の名前は知ってるみたいだね。ということはこの時計の機能は共通なのかな。飴びいどろさん」 「なぜ戦わない」 「そりゃあ、君だって今戦ってないだろ?同じだよ、そんな無関係の人を巻き込んじゃうかもしれないのに街中で戦えないじゃん。でしょ?」 「私は、戦える」 「あー……でも積極的にってわけじゃないでしょ?見ず知らずの人より自分の事情が大事だけれど、それはそれとして巻き添えにしたら気分悪いしね」 コクリと頷く。 「俺も、まあ同じさ。でも無理に君が攻撃してくるならしょうがないから応戦はするよ。でも、被害が少ないに越したことはないよね」 「話が長い」 「悪い悪い、どうも女の子と会話してると楽しくなってきちゃってさあ。だからさ、時間を変えよう。そうだなあ人通りが少ない方がいい。夜がいいな、夜に戦おう。それも深夜が良いかな。人通りが少なければ巻き添えも少なくて済む。どう?」 「わかった」 「じゃあ深夜0時、場所はここで」 「了解だ」 そう言って彼女は人ごみへと消えて行った。 口約束とは言え追いかけて攻撃とかは流石に無粋かな。 「マスター、このへんで料理の美味しい店とかある?あ、これ?かっこ良いでしょう。天下無双って書いてあるの。意味?凄く強いとかそう言う感じだよ。うん、割と力作なんだ。良かったら何か一筆書こうか?これがいいの?じゃあ、あげるよ。いやあ、喜んでくれて嬉しいよ。あ、地図書いてくれんの?サンキュー」 さて、と。 歩きながら考えてみよう。 考えるってのは、大事だ。 彼女の事はここに飛ばされてくるまでに調べた。 『飴びいどろ』という少女は“2014年”の時点で行方不明になってる。 それが俺に負けたからなのか、それとも俺に勝った後の誰かに負けたからなのかはわからない。 もしかしたら勝って願いを叶えたのかもしれない。 少なくとも俺の“2018年”の世界に彼女は居ないらしい、というのが割と信用できる先輩からの情報だった。 俺のいる世界の四年前に政治家やら世界的なレスラーやらが迷宮時計について世界的に公表したあと行方不明になるっていう事件があった。 確かに当時話題になったのを覚えてる。 あれに遅ればせながら俺も巻き込まれたってのは、こりゃあもう認めるしかねえよなあ。 ってことは、負けりゃあ行方不明者の門司くんの完成ってかあ? 負けるわけにはいかねえ、いやマジで。 先輩から得た情報でも飴びいどろの魔人能力の詳細はわからなかった。 わかったのは兄弟がいること、ガラス細工職人の家系であること。 警官のおっちゃんに一杯おごって彼女の持ち物を聞いた話も併せて考えるに、ガラスをどうにかするのが彼女の魔人能力だ。 ガラスか。 俺は周囲を見回した。 窓もガラス、街灯もガラス、だよな。 勘弁してくれよ、街中ってガラスだらけじゃねえか。 俺はちょっと泣きそうになった。 ~伍~ さあて、朝食も食ったしそろそろかな? 柔軟体操はバッチリだ。 軽くジャンプ、うんいいねえ。 体がよく動く。 巨大な仕込み筆を腰に。 居合一閃。 オープンテラスのテーブルを両断。 悪くねえ。 そして俺は少女に声をかける。 「よお!!グッモーニン!!」 「お前!!何をしていた!!」 「いやあ、夜は眠いから、寝てた」 「殺す!!」 怒りに満ちてはいるが澱みない動きナイフを抜き放つ!! そこにゆらぎはない!! いいね、綺麗な動きだ、怒らせた程度で動揺はしてないな、悪くねえ!! 距離は100mくらいか?! 「ただ、無駄にすっぽかしたわけじゃあないぜ!!ちゃんとこの辺の住民には避難してもらった!!」 「黙れ!!」 「アンタじゃできないだろ、そういう説得とかさ!!友達少なそうだし!!」 「う、うるせー!!」 「街中の張り紙を見ただろ?それとも英語で読めなかった?」 「だからなんだっ!!」 「戦闘中に会話の多い敵ってのはさ、会話することに意味があるって言いたいんだよォ俺は!!」 「足元に注意しな!!路面凍結注意だ!!いくぜッ!!」 「何ッ!?」 ~陸~ 俺が認識した。 俺の認識のオンオフ。 相手も認識した、たとえ読めなくても!! 一気に周囲の石畳が凍結する。 その上を滑る。 ベカラズは注意さえすれば、それを利用できるものもある。 氷の上を滑る!! 俺の身体能力は、そして脚力は魔人の中でもかなり高いほうだ。 何度も試し、実践でも威力を発揮したスケーティング居合!! 初見で見切れる奴はそういない。 100m程度なら一瞬で…。 って何だ?! 空中にガラスのおはじきが無数に浮かんでる。 やばい!! 俺の直感が、告げる。 こりゃあ、やべえ!! 「死ぬまで踊れ!!」 彼女の叫びとともにおはじきが爆発的に加速した。 ~7~ 解説しよう!! ムムっ?!私が誰かだって? そんな事はどうでも良いだろう?良くない? そうだな、どうしても呼び名が欲しいなら、ミスター解説とでも呼んでくれたまえ。 何、手間は取らせない。 門司くんの主観だけでは対戦相手の能力の詳細が解り辛いと思ってね。 ちょっとした老婆心だと思ってくれれば幸いだ。 必要ないという方は読み飛ばしてくれてもいい。 段落の区切りの数字が違うだろう? 漢数字の大字表記は門司くん。 アラビア数字はそれ以外だ。 ふふ、感がいいね。 それ以外ということは私以外も登場するかもしれないのだ。 楽しみにしてくれたまえよ。 では改めて。 解説しよう!! 飴びいどろの魔人能力『サラミ=トラミ』は一度触れたガラスを任意に分解する能力である。 一度触れたガラスであれば射程距離に限界なく分解できるという能力だ。 分解のレベルは最高で原子レベルまで可能という恐るべき能力である。 そして彼女は空中に放り投げたおはじきの一部分だけを分解したのである。 分解、すなわち小さくするわけであるが、小さく砕いて気体状にするという事は即ち、容量が増えるのだ。 爆発的に容量が増える。 それは推進力を与えるという事に他ならない。 空中に投げられたおはじき一つ一つがロケット弾の如き勢いで直進する。 それが彼女が『死ぬまで踊れ』と名付けた広範囲殲滅技の秘密である。 ここで聡い君達はそんなガラスの分解でロケット推進が起こるわけはないと思うかもしれない。 そう、それはもっともな意見だ。 だが考えてみてくれたまえ。 そもそも普通に考えてガラスが分解するわけが無いのである。 ガラスが分解するという認識が現実となったのが飴びいどろの魔人能力『サラミ=トラミ』であるならば。 彼女がガラスの一部を分解すればロケット噴射で推進すると認識した時点でそれは可能なのだ。 そして、大雑把に一度に複数のガラスにロケット推進を付与するのが『死ぬまで踊れ』であるならば。 対象を一つに絞り分解箇所を調節して軌道を調節する追尾ロケットも存在する。 『ガラスの靴』と名付けられた。 必殺の追跡ロケット投げナイフはけして相手を逃さない!! ~捌~ 滑りだしたら止まらない。 でも止まるんだ!! じゃなきゃあ死ぬぜ!! 感覚が鋭くなる、時間が鈍化する!! アドレナリンが走る!! ここが正念場だぜ、ハッハーッ!! 地面に向かって居合を放ち急ブレーキ、かつバックステップ!! 自分の能力がアダになるなんて超だせえ!! 石畳を思い切り蹴り砕きそのまま一気に蹴り出す、瓦礫の散弾だ!! そもそも身体能力が高い魔人にとってまず恐るべきはそのパワーだ。 石ころ一つを蹴っ飛ばすだけで人を殺せるがからこそ戦闘型の魔人だってーの。 瓦礫はおはじきを撃ち落とすには十分だが……。 ちっくしょう!!全部は撃ち落とせねえかよッ!! 体にいくつかのガラス弾がめり込む。 「なめんな!!その程度で俺を倒せるかよぅ!!」 追撃で妙に正確な動きで飛んできた見えにくいナイフを刀で斬り飛ばす。 クレバーな戦い方じゃねえか!! でも、それっくらいなんとかなるんだよ!! 砕けた欠片が目に向かって飛んでくる!! ほわっ?!怖えよ!! 腕で受けるしかねえ!! 痛っってえええええ!! チクショウ!!超痛い!! 「ハハッ!!やるじゃん!!ちょっと痛かったぜ!!」 「それが貴方の能力?つまんないのね!!」 ガラス瓶を地面にぶち投げて割りこぼれた液体に火をつけながら彼女は叫ぶ。 アルコールか何かか? 凍った地面を溶かされたな。 あの程度でも注意されてしまえば注意書きは効果が薄くなる。 「~注意」の文言は相手に注意を促すだけで効果を発揮できる点で便利だけど、その分注意されれば効果を大幅に減じるのが欠点だ。 直感でそれをやるってのかよ。 とにかくガラスが食い込んですっげー痛い。 くっそう。 「そりゃ、どーも!!怒った顔も可愛いね!!」 「死ね!!」 一升瓶の口をこちらに向けて彼女は叫んだ。 ちょっとまってくんないかなーッ? 「張り紙読んだかよぅ!!ちょっと頭上に注意したほうがいいぜッ!!」 ~9~ やあ、ミスター解説だ。 再び解説しよう。 一升瓶の中でガラス玉を分解するとどうなるか。 粒子状のガラスは凄まじい勢いで一升瓶の口から放出される。 一升瓶が割れることはない。 なぜなら割れないように調節して分解していると飴びいどろができると自信を持って認識しているからだ。 なぜそこまで強固に自信を持てるのか。 それは彼女は当代最高のガラス細工“ボヘミアン=切子”職人だからだ。 彼女以上にガラスに詳しい人間は存在しない。 だから、彼女はガラスをどのようにでも分解できる。 そう信じている。 ガラス粒子の塊をビーム状に撃ちだす事も。 できるのだ!! ガラスビーム砲その名を『毒りんご』という。 ~捨~ 「ちょっと頭上に注意したほうがいいぜッ!!落下物注意だ!!」 その一言でどこかから木片が飛んでくるが軽く避けられる。 だが、相手の体勢は少し崩せたかッ? それにしたってビームかよッ!! でも光速じゃないなら避けられる!! 避けてみせるぜ!! 俺ならやれる!!やってやらーッ!! 「ぬ、おおおおおおッ!!」 横っ飛びだァ。 「うごぼあッ!!」 かすっただけで片腕が吹き飛んだ!! 街中に既にいろいろな注意書きを貼ってある、あれがなけりゃヤバかった。 直撃は避けた、直撃はっ!! 魔法の注意書きとか言って住人をビビらせて追い出したんだけど、地味な努力は役に立つね。 でもコレ!!なんつー威力だよ、痛いとかそういうレベルじゃねー!! 気を失いそうだ!! 泣いちゃいたい!! 「ハハッ!!なんつー事してくれんのさ!!左腕が消し飛んだぜ?」 「次は頭を消し飛ばすわ!!」 ダッシュで逃げる。 なりふり構ってられねえ。 つーか痛い!! このままじゃ圧倒的に不利じゃんよ。 戦い慣れはしてねーけど、その分容赦がない。 能力が半端ない。 あの子がここまでやれるとはチクショウ!! あと出し惜しみしてねえ、そういうトコ惚れちゃいそうだぜ、マジでチクショウ!! ~捨壱~ 「逃がさないッ!!」 無数のガラス串が加速してくる。 「魔人剣術!!大文字斬りィ!!」 大の字を描くような剣筋。 飛来する物体を面で切り払うには最適な一撃って今決めた!! 決めたのなら自信を持て!!できるって信じろ!! その場限りの必殺剣の威力を信じろ!! 厨二剣術魔人剣は思いつきを力に変える剣術だ!! 俺の厨二の滾りの一閃がガラスの串を全て叩き折る!! 打ち砕いたガラスの欠片が加速して襲いかかってくる。 だが、だいたいわかる。 更にバックステップジャンプで逃げれば!! よしっ!!思ったとおりガラスの欠片は消滅した。 「ガラスを分解するのがアンタの能力だな」 「だから何?」 ナイフが飛ぶ。 切り払う。 砕けたガラス片が再加速して向かってくる。 バックステップで回避だ。 攻撃のパターンを読めればっ!! 「ガラスを分解してロケット噴射みたいにして飛ばしてる、だから一定距離飛ばせば弾丸自体が分解されてなくなるんだ」 「だったら何?」 ガラスの欠片が足をかすめる。 ちょっと声が出そうになっちゃうけど我慢だ。 この程度痛くなんかないやい。 さっきまで顔を狙っていたガラスの欠片の追加加速を足狙いに変えたのか。 この状況対応力も泣きたくなるぜ。 まだ大丈夫だがこれを続けられるとヤバイ。 距離を取るしかない。 更に走る、とにかく逃げる。 手持ちの武器を消耗させるんだ。 ~捨弐~ 「逃がさないって言った」 「おっと、ここに近づくと猛犬注意だぜ、気ィつけなよッ!!」 彼女に、そして俺にもどこからか現れた何匹かの野良犬が襲い掛かる。 条件をゆるくすると俺にも効果が及ぶのが欠点だが。 自分で対処できるものを確実に選んでるからだいじょーぶ。 街中に設置した注意書きの中には日本語のものやイラスト入りのものもある。 時間稼ぎくらいには、なるか!! 「ギャウウッ!!」 俺は犬を切り捨て、死骸を盾にナイフを受ける。 ごめんよー犬、南無阿弥陀仏!! 彼女も犬をナイフ捌きだけで屠る。 くっそう時間稼ぎにもならねえかー。 犬じゃあ無理か。 マジごめん、能力で出てきたイマジナリー犬とは言えごめんなー。 路地を走る俺の前に視界が開ける。 ようやく市街中央の広場に、到着した。 体中がクッソ痛いし片腕もない。 傷口はビームで焼き切られたから出血は少ないけどそれにしたって散々な有様だ。 ここで決める。 決められなきゃあ終わりだ。 ~捨参~ 広場の中央で俺は振り返る。 広場の入口には飴びいどろが立つ。 「そろそろ、武器もなくなってきたんじゃねーのかな?降参するなら今だと俺は思うなー、ハハ」 「もう、お前の言うことは一切聞く耳を持たない、殺す」 「何考えてるのかわかんねえけどさ、それ止めといた方が良いと思うなッ!!」 小筆に仕込んでいた小太刀を投げると同時に俺は相手に向かって走り出す。 タイミングをずらしての二本投擲。 このタイミングで避けられるかよぅっ!! 刀身に黒く澱んだ墨のような闘気が満ちる!! 二本の小太刀は相手の追尾ガラスナイフで迎撃される、パネエ!! 「アンタだけが準備してたわけじゃない!!」 飴びいどろが叫んだ。 両手を掲げる。 広場に面した建物の窓ガラスが一斉に割れた。 「切り刻まれて肉片になれっ!!死ぬまで踊り続けろっ!!」 逃げる場所すらないガラスの刃が全方位からロケット加速する!! ~捨肆~ 俺の魔人能力『ベカラズ』は注意書きを現実のものにする。 あくまでも注意書きの体裁を保った上で無理がないと俺の常識が認識できる範囲で実現可能となる。 よく使うのは「~注意」。 中学の頃から色々試したがこれは条件がゆるい。 注意しろっていう注意書きはどうあがいても発動するので便利だが俺も巻き込まれるのが欠点だ。 だから俺は自分で対処できる範囲の注意書きしか書かねえ。 そしてもう一つが「~禁止」ってヤツだ。 詳細な禁止事項を設定できるのでそれを破らなければ自身に害は及ばない。 そしてより具体的に何が起こるか指定しやすいのも特徴だ。 ピンポイントで相手の行動を読むのが大事だな。 あと注意書きは別に紙に書く必要はないし、別に文字だけで書く必要もない。 だって世の中の注意書きにはイラストだけってのも多いだろ。 もちろん俺はある程度、イラストも描ける努力はしてるんだぜ? 例えば「窓ガラスを割らないでください、怪我をします」ってのを、イラスト入りで街中に貼っておくとかを、さ。 ~捨伍~ おそらくだけど、彼女の能力は触れたガラスを分解する能力だったんだろう。 射程距離、効果時間、一度に分解できる数が凄まじい。 準備していた、と言った。 街中の窓ガラスに既に触れていたんだろう。 俺だってガラスを分解できる能力があるならそうする。 基本的にその行為にリスクはないからだ、相手が俺じゃあなけりゃな!! ガラスの欠片は一斉に飴びいどろに向かって殺到した。 「なっ!!ああああああああああああっ!!」 彼女は何が起こったかは理解していないだろう、いや理解する気はないのだろう。 その代わり彼女は凄まじい状況判断と対応力を磨いた。 それは強さだ。 戦い慣れていない彼女が急成長する強さだ。 現に自分に向かってくるガラスを一気に分解し塵以下に変えている。 だがダメだね。 “窓ガラスを割った”のなら“怪我をする”それは避けられない。 この数の窓ガラスを割ってしまったんだ。 「ひ、ぎ!!ああああああああああああああああああああっ!!」 悲鳴か。 ガラスの粒子が飴びいどろを切り刻む。 やっぱり純粋な戦闘魔人じゃない彼女にはこの痛みは耐えられない。 何枚の窓ガラスを割ったんだろう? 一枚割ってもそれなりの怪我を負うはずだ。 それで只で済むわけがない。 魔人の戦いってのは…。 「あが…ッ。ご、め…お姉ちゃ…もう…ごめ…ね」 俺の耳に最後に届いたのは悲鳴ではなかった。 「大したモンだぜ、アンタ。相当ヤバイ性格してるけどなっ。」 俺は居合の構えから笑って刀を抜き放つ。 「水墨龍(スイボクドラゴン)!!」 墨のように黒い龍の闘気を纏った俺の必殺の居合切りが飴びいどろを薙ぎ払った。 ~16~ 「でェ?モージーはその女の子を激しく陵辱したんだねえェ。相手がもう動かなくなっても構わずにィ」 「ああ、門司くんは変態ですからね、不潔だわ。この変態。門司くんの変態ペド野郎。殺人鬼。」 希望崎学園書道部部室。 書道部部長の道之は気だるそうにケラケラと笑い、部員の墨川さんはゴミでも眺めるような目で棒読み口調で罵倒した。 「ちょ、俺の話聞いてる?そこは峰打ちで気絶させてさ…」 「あ、流石のモージーも死体姦淫の趣味はなかったかァ。ゴメンちょっと大物に見すぎてたよォ」 「門司くんは犯罪者としてもとても小者ですね」 「いや、だからね。そこからその時代でもガラス細工職人として金を稼げば財産を残して現代で家族を救えるという素敵なアドバイスをするという美談がですね」 「時計は奪ったんでしょ?」 「いや奪いましたけど。確かに奪いましたけど」 「かァーわァーいィーそォーおォー」 「仕方ないじゃん、だって帰れないんだもん。同情はするけど向こうも殺しに来てんだから」 「グハハハハハ、だがまあコレを見ろ。そりゃ、笑いもするさ」 元部長のビッグザショドーことビッグさんがパソコン画面を指差して笑った。 でかい図体に似合わない細やかな情報収集能力で頼れる先輩だ。 書道部にはかなりの数のパソコンがありビッグ部長と筆モヒカン部員たちが日々何かを調べている。 画面をプリントアウトした資料を日焼けした筆モヒカン部員が笑顔で差し出す。 「えーとォ、ぷはっ!!ぎゃははははははァ!!」 道之部長がそれを読んで爆笑した。 それは、どうやら古い新聞のようで。 墨川さんが淡々と読み上げた。 「1887年11月、ロンドンにて瀕死の女性が発見された。外国人と思われる少女は全身に切り傷を負い、また骨折もあった。奇跡的に命はとりとめたものの殺人未遂として警察当局は当時目撃証言があった外国人と思わしき男の行方を追っている。」 「え、ちょっと」 「1887年12月女性殺害事件、11月の事件との関連は?1888年2月女性が何度も刺されるという事件が起きるその場では一命を取り留めるが3月に死亡。11月の事件との関連は…1888年8月31日ロンドンにて女性の惨殺死体が発見される。鋭利な刃物を用いた状況から警察は昨年11月の殺人未遂との関係をも視野に入れて捜査をすすめると…9月8日女性の惨殺死体が発見される被害者は臓器の一部を摘出されており警察は関連性を…。犯人はいまだ捕まっていない」 「ちょっと待ってくれーッ。何それなんなの?」 「いわゆる、切り裂きジャック事件ってヤツだな、超有名な未解決事件だ」 「門司くんホントにすぐに帰還したんですか?まさか…」 「しねーよ!!なんでそんな事する理由があると思うわけ?」 「だってモージーは女の子殴るの好きなリョナ野郎でしょ?」 「違うっ!!俺は強い女の子とバトルするのは好きだが殺したりとかそういうのは」 「それも大概だと思うわけよォ、私は。部長として後輩の未来がマジ心配」 「グハハ、まあワシも門司がやったとは思っておらんよ」 「び、ビッグさ~ん。やっぱビッグさんは、お、俺」 「だがまあ、門司の戦いを見て影響された魔人がいたかもしれんという説をワシは推したいのう」 「ビッグさ~ん、じゃあ俺、俺、切り裂きジャックのなんなのさ!!」 筆モヒカン部員が門司くんの肩をポンと叩きニッと笑ってサムズアップする。 書道部は今日も賑やかである。 部の机の上に一つの宅配物が置いてあった。 中には美しいガラス細工“ボヘミアン=切子”でできた書道用の美しい文鎮が入っている。 そして。 「助けてくれたこと、お金のことは感謝する。ありがとう。でも次会ったら殺す。飴びいどろ」 と書かれたとても古い手紙が添えられていた。 『ダンゲロスSS4 大短編ダンゲロス 門司くんと迷宮の時計 エピソード1 俺、切り裂きジャックのなんなのさ』 了 [[このページのトップに戻る>#atwiki-jp-bg2]]|&spanclass(backlink){[[トップページに戻る>http://www49.atwiki.jp/dangerousss4/]]}}}} #javascript(){{ <!-- $(document).ready(function(){ $("#contents").css("width","900px"); $("#menubar").css("display","none"); $(".backlink a").text("前のページに戻る"); $(".backlink").click(function(e){ e.preventDefault(); history.back(); }); }); // --> }}

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