ダンゲロスSSR
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ダンゲロスSSR
ja
2014-08-13T20:29:11+09:00
1407929351
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第四部隊その3
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/70.html
*第四部隊その3
【AM02:05・新校舎家庭科室】
「いいか、お前ら」
ファタ・モルガーナは隠し切れない苛立ちを声に滲ませながら、緊急対策室――新校舎三階の家庭科室を利用したもの――
の机の上にジョン・雪成から手渡された作戦資料を叩き付けた。
机を挟んで向かい側、椅子の上で胡坐をかいている凶相の少女がファタを睨み付けた。
ぼさぼさの長髪に『投』の文字が刺繍された道士服(と言うのだろうか)、そして異様なシルエットのサイバネアーム。
先程から金属製の爪を歯が欠ける勢いで齧っている。その目付きは剥き身の太刀のように鋭い。
名を津神薫花という。投擲技術に長けた魔人である。
一方、椅子一つ分離れて少女の右隣に腕組みをして座る男が一人。
ハンチング帽を目深に被り、猟銃を携えた小柄な男だ。
この学園の生徒である以上高校生の筈だが、その矮躯から醸し出される殺伐とした重苦しい雰囲気は
とても少年のものとは思えない。それは決して泥や血に汚れた衣服の所為等ではなく、
彼の生きてきた経歴に依るものであろう。
野鳥研究会マスター位階の狙撃手、会沢格である。
「お前らが友達と相棒をぶっ殺されてド頭に来てンのは分かった。
俺だって日本が滅びたら困る。海外逃亡しようにも俺は日本語以外喋れないし、吉野家の牛丼も食えなくなる。
何よりお前らをここに集めた苦労が水の泡になるんだ」
実際ファタは三人が集合するまでに大変な苦労を強いられた。
完全にブチ切れていた津神はファタが下手な事を言った瞬間、機械椀で容赦無く心臓を抉り出しそうな程殺意に満ちていたし、
会沢に至ってはその姿を見つけ出すまでに一時間もの時を費やさなければならなかった。
二人の難物を宥め空かして説き伏せて、ようやくこの教室に集まった頃には午前2時を過ぎていた。
「だが相手は『あの』新潟県の五大災厄だ。よ~~~~く考えろよ、単独で勝てる相手か。
夜明けまでもう四時間しか無い。感情に任せて勝率下げてる場合じゃねえのは分かるだろ」
「……チッ」
耳障りな音を立てて、少女の歯が一部欠けた。
「分かったよ、協力しろッてんだろ。やってやるよ、道明寺とか言うクソ野郎をブッ殺せるならなんだっていい。
悪魔に魂だって売ってやる。この世に生まれてきた事を後
2014-08-13T20:29:11+09:00
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第四部隊その2
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/69.html
**第四部隊その2
眠りにも似た、遠い闇だった。
どれほどの時間をその中で過ごしたのか、今は分からない。
自らが朽ちる明確な死の予感だけが、空間を満たしていたように思う。細い光とともに門が開け放たれた時でさえ、そうだった。
世界の全てに触れる事を禁じられて、その時の俺は植物だった。だからその男が発した言葉の意味も、もしかすると本当には理解できていなかったのかもしれない。
「お前は、私だ」
今となってはかすかで、意味のない記憶だ。
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*【AM 1:00 希望崎学園 生徒会室】
決死隊を除く、すべての生徒がシェルター内へと退避した頃だろう。最後に一人の生徒が残るとすれば、それは生徒会長のジョン・雪成でなければならなかった。
道明寺羅門が中庭の『開かずの闇花壇』から放った、《新潟》五大災厄のひとつ――魚沼産コシヒカリ。圧倒的な生命力をもって生物の意識を支配し、この世すべての生態系を上書きする。世界終末のひとつの形が今、広大な学園の敷地のどこかに息づいている。
「……津神。今、連絡があった。すぐに残り一人が来る」
生徒会室内を乱す惨状の中、ジョン・雪成は冷然として言った。
少女は今、ひとつの陳列ケースを薙ぎ壊した後だった。息を荒げ、充血した眼球を向ける。床に散ったトロフィーが、足元で砕けた。
その両腕は、凶悪な形状の金属である。本人の獰猛さを象ったかのような、投擲機械腕。
「会長……俺は、俺は駄目だ。園芸者の野郎が鬼無瀬ちゃんを殺したんだ。董花が殺さなきゃ……もう、おさまらない」
「そう。鬼無瀬くんが死んだ。その意味を考えろ」
津神董花には、この事態を収拾するに足る力があるのかもしれない。だが、劇薬だった。この制御不能の罪人を、ジョン・雪成は緑化防止委員へと組み込まなければならない。
事実この場でなければ、雪成の額にも一筋の汗が流れていただろう。それを繕う努力を称えてほしいと考えたこともない。
「かつて君を無傷で逮捕した鬼無瀬くんがだ。彼女だけではない。七人の風紀委員が、すべて。野鳥研究会までもが、道明寺羅門とコシヒカリの前にすべて倒れた」
雪成は一瞬、壁際のソファに視線を向けた。緑化防止委員の二人目。長い狙撃銃を肩に抱えてうずくまる、小柄な男の姿
2014-08-13T20:26:53+09:00
1407929213
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第四部隊その1
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/68.html
*第四部隊その1
午前零時三十二分。希望崎学園生徒会室。
『会長、園芸部関連施設、どれも爆破された後のようです……』
「爆破……
会長・須能=ジョン=雪成は斥候に出した役員からの報告に独り、眉間の皺を深くした。
今や魚沼産コシヒカリの使徒と化した魔人・道明寺羅門が属していた園芸部。その部室ならば何か彼の弱点になり得るもの――例えば強力な除草剤など――が眠っているやも知れぬ、との期待を込めて探しに行かせたのだが、今の報告はその期待が打ち砕かれたことを意味していた。
『隣の部室まで吹き飛んでいて、部員らしき死体も転がってます。道明寺の仕業なんでしょうが、滅茶苦茶ですね……』
「目ぼしいものは見当たらないということか?」
『……探してますが、爆発の中、無事な物も殆ど無くて、知識の無い僕では限界が……』
「そうか……わかった。しかし探索は全力で続けてくれ」
そう言って、雪成は役員との通信を切る。
「足止め」に出した戦闘力の高い魔人役員に少し前、ここを発った「緑化防止委員」の面々。道明寺を阻む戦士達に支援できる&ruby(もの){物資}が現状では無いと理解すると、雪成は苦々しく足下を見た。
この遥か下。堅牢なシェルター内に引き篭もっている教師ら。彼らが自分達の立場のためにEFB兵器のトリガーを引くのは討伐の報告が無いまま夜明けを迎えるか、或いはそれ以前に、決死隊が全滅した時。
「……
カーテンを開ければ、窓からは紅い月の下がる夜空を覗けた。
この月天の下、戦う者達。世界では無く、希望崎学園の運命はまさに彼らに委ねられている。
「会沢、ファタ、津神」
月を仰ぎ、三人の名を呼ぶ。ちょうど鴉と思しき複数の鳥影が、断末魔にも似た嘶きを発しながらその月を横切って行くところだった。
・・・
芸術校舎脇。
夜風が吹くと、一面に実った稲穂の海がゆらりと波打つように揺れる。
美しい光景と言えるかも知れない。それらの稲が地面に転がる死体から生えたものと知らなければ。
稲畑の中に人影が四つ立っていた。
「なんてこった……
四人の一人、ファタ=モルガーナはそう漏らした。
悪魔の穀物・魚沼産コシヒカリ。今足下を覆うのがそれだ。
転がっている死体はどれもそのコシヒカリの子苗を植え付けられ、尖兵とされた
2014-08-13T20:25:50+09:00
1407929150
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第三部隊その3
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/67.html
*第三部隊その3
**【PM11:54 希望崎学園 生徒会室】
「歩峰理事」
須能・ジョン・雪成は突然の来訪者に思わず声を上げた。
「首尾はどうだね、須能君。魚沼産コシヒカリへの対応はうまくいきそうかな?」
「‥‥、道明寺羅門に付き添わせた風紀委員7人は全滅。次いで向かわせた先行部隊3人も今しがた」
「ふむ、先行部隊ということは本隊を集めているということかな?ここには見当たらないようだが」
「今、めぼしい生徒に声をかけているのですが、すぐに駆け寄れる生徒が見当たらないのです‥‥。今、ノイマ舞先生には声をかけてこちらに向かっていただいています」
コツ、コツと歩峰トーシュは生徒会室で悠然と、しかし威圧感をもって歩く。
「困ったね。実はワシの方でも戦力となる生徒を探していたのだがうまく捕まらなくてね」
ふぅー、と老人は息を吐く。
「仕方ない、七曲君を呼ぼうか」
それは、職員用シェルター内部の『EFB兵器』に次いだ最終手段であった。
「二つ目の開かずの間を開けるというのですか」
「これでも手段は選んだつもりだが、ほかに手段があるかね」
須能・ジョン・雪成は一瞬動きを止め、そのあと緩やかに首を振った。他に彼が提示できる手段はない。
教職員側の七曲真哉の『管理人』は何を隠そう歩峰トーシュその人である。
トゥー、トゥー
『はい、こちら七曲真哉、ですよ』
「七曲君、遅い時間にすまないね。少し相談があるんだが‥‥」
**【PM11:58 希望崎学園 生徒会室】
「ノイマ舞、到着しましたー!」
美人オカマ参戦。
そして生徒会室にはこの絶望的な状況に沿わない美味しそうな香りが漂っている。
「お待ちしておりました、お客様。ですよ」
「???あ、もしかしてサプライズかしら?
うわー、すっごい嬉しいわ!
でもね、すごく言いにくいんだけど先生の誕生日は今日じゃ」
「残念ながら今日はそんな愉快な話ではないんだよノイマ君」
「り、理事‥‥!?」
「とりあえず食事を頂きなさい。食べながら詳しい話を聞いてもらおう」
「は、はい。頂きます。あら!おいしい」
医食同源。七曲の作る料理は並みの医療系魔人の能力すらしのぐ効能を持っている。
†
須能・ジョン・雪成が現状を簡潔に説明する。
料理の腕を止
2014-08-16T00:10:34+09:00
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第三部隊その2」
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/66.html
*第三部隊その2
-ちゅういじこう-
このSSの序盤を読む際は部屋の電気を消して読むのがオススメです。
できるなら、暗くじめっとしたホラーBGMを聴きながら読むと良いでしょう。
SSを読みながらとつぜん窓の外を見たり、天井を見上げたり、部屋の隅の暗闇を気にしてみるのも悪くありません。
イメージも大事です、首筋に誰かの視線を感じるイメージなど妄想を膨らませてみましょう、イメージです。
あとナレーション部分を稲○淳二氏の声に置き換えてみるとサイコーです。
では、お楽しみください。
-零-
湿度の高い空気が生暖かい風を運ぶような夜の話です。
学級委員の女の子で、そうですねェ。
仮に名前をA子さんとしておきましょうか。
数時間前、いや数十分前の話なんですが、A子さんが見回りをしていた時の事です。
なんでこんな夜中に見回りをしていたか。
いつもならこんな夜遅くまで居残りはしていないA子さんですが、学園祭も近かったのでクラスメートと一緒に準備をしていたんですね。
しかし夜が遅くなってくると、ひとり、またひとりと下校していく。
教室の灯りもひとつ、またひとつと消えていく。
流石に人も少なくなってきて少し心細くなってきた。
A子さんも「やだなぁ、帰りたいなぁ」と思ったんですけれど、学級委員だからってんで仕方なく最後まで残ることにしたんです。
そうすると、時計が十二時を回った頃でしょうかねェ。
もうほとんど人がいなくなったときに突然
ウー、ウー、ウー!!ってサイレンみたいな音がしたんです。
A子さんは「うわ、なんだろう、何か起きたのかな」と思うと
非常灯の赤いランプがくるんくるん、クルンクルン回転しているんですよ。
こりゃあ尋常じゃないってんで慌てて帰ろうとすると
担任のB先生がやってきて「大変だー、大変だー」って言うんです
A子さんは「何が大変なんですか?」って聞くんですけれど
B先生は「大変だー、大変だー」って繰り返す。
A子さんは不気味に思ってそのまま帰ろうとしたんですが
B先生はポケットから鍵束をとりだしてA子さんに押し付けてくる。
「大変だー、大変だー。先生は行かないといけない」
「どこへ行くんですか?」
「大変だー、大変だー。先生は行かないといけない」
2014-08-13T20:23:50+09:00
1407929030
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第三部隊その1
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/65.html
*第三部隊その1
「ノイマ君この場は一時退避じゃ!」
「了解!」
ノイマ舞はボンヤリと座り込んでいる少女の手を引きチャリの後部に座らせ、
自身はサドルに腰を下ろし全力でペダルを回す。
魔人能力対策に廊下を広く作ってある希望崎学園ならば校舎内をチャリで移動も可能。
階段も車椅子生徒の為に作られたスロープを利用すればチャリから降りずに移動できる。
無論校則違反だが緊急事態故にやむなし。
「見よ、ワシらを排除すべきと判断した様じゃ」
自らの足でチャリに並走するトーシュが、コシヒカリの下僕と化した生徒を
チラ見しながらノイマに声を掛ける。
歩峰トーシュはこの学園の理事の一人であり、自らリーダーとして緑化対策に
文字通り走り回っている。
『アンチ・コシヒカリ・ウイルス』。園芸部で密かに培養されていたそれを回収し、
コシヒカリの親株と一体になった道明寺に打ち込む事でこの混乱を終わらせる。
それがこの三人の当初の目標だった。
だが一足遅かった。道明寺はアンチウイルスの存在を知っていたのだろう。
コシヒカリと一つになった彼は『開かずの闇花壇』を脱出した後、逃げ遅れた生徒や
立ち向かう教師を打ち倒し配下としながら真っ直ぐアンチウイルスの元に向かっていた。
トーシュが学内の秘密のルートでショートカットできると言っても、彼が動き出したのは
事件の発覚の後からである。ノイマ達を連れて園芸部に向かった時にはアンチウイルス
開発に関わった園芸部員は全滅し、全てのウイルス培養液は排水溝から水道水と共に
流されていた。
そして今、自らの天敵を処理し終えた瞬間のラスボスと鉢合わせた三人は全力で逃走中。
後ろからは道明寺とコシヒカリゾンビ達が迫って来る。
「理事の力で何とかならないんですかアレ!」
「道明寺君単体なら、あるいはコシヒカリ単体なら負けはせんよ。ワシの武術は
ああいった奴らとは相性がいいんじゃ。じゃが、今の彼は未知数な上に強敵に合わせて
自己進化する。万一ワシが全力で挑んだ上で負けたら他の部隊のエースでも
どうにもならんぞ。アンチウイルスがあれば別だったんじゃが」
コシヒカリの親株と同化した存在は強敵に出会う度に自己進化する。
中途半端な実力者をぶつけるのは逆に危険。その
2014-08-15T21:13:33+09:00
1408104813
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第二部隊その2
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/64.html
*第二部隊その2
これは希望の物語である。
●PM11:50 生徒会室
僅か一分。招集に対し迅速すぎるともいえる鬼無瀬大観の登場。だが、それには伏線があった。
彼は事が起こるこの日、今回の首謀者、道明寺羅門と昼放課に廊下ですれ違っていた。
正確には同門の風紀委員、晴観と羅門が、今夜の待ち合わせの話を廊下でしているところに
通りがかったというのが正しい。
羅門は大観の視線に気が付くと話していた晴観にぼそりと何か囁き、話を切り上げた。
そして彼女から離れ、自分に対して意味ありげな笑いを浮かべながら横を通り過ぎて行った。
嫌な感じがした。
晴観は大観の姿を見ると酷く慌てたようで、今のは風紀委員の仕事の打ちあわせでねゲフゲフとか
聞いてもいない言い訳をかまして来た。とっさに彼はあえて興味のない風を装った。
羅門一人に対し風紀委員が7名も同伴すると聞いて拍子抜けしたのも確か、だが妙な胸騒ぎが収まらなかった
のも事実。ただそれを相手に言うもおこがましい。結果、彼は夜半までなんともなく校舎に居残っていた。
―我ながら心配症と言うか意気地なさが情けないというか―
そう大観は韜晦するが、もし二人の立場が逆であったなら、校舎に残って同じようにヤキモキしている
のは彼に代わり晴観側であっただろうから全く話にならなかった。
LOVE米。要は二人はそういう関係だったのだ。それが全ての発端だった。
あの二人を見ているといい加減、脳みその裏がムズ痒くなってくる。
これは結婚の報告に来た妹弟子に語った彼ら師範の言葉である。妹弟子は笑って茶を濁した。
††
紫煙がゆっくりとのぼり立つ。
彼が執務室に入室してから3分が立った。横合いの扉が開き、二人の人物が、新たに登場した。
開いたのは彼が入ってきた入口ではなく、応接室のほうからだった。
「だから”論より証拠””必殺技でハートキュン”ってわけよ。」
「”命の花咲かせて思いっきりモーストバリュバリュ論”ですか、なかなか興味深い推論ですね」
二人は横並びになって何かを言い合いながら歩を進めていたが、煙管の先、つまり大観を見ると
なにやら納得したようにお互い頷きあった。
「私の勝ちかしら」「ふむ、では指揮はお任せすることにしましょうか」
2014-08-13T20:08:02+09:00
1407928082
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第二部隊その1
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/63.html
*第二部隊その1
「鬼無瀬時限流初目録。火宙射(かちゅうしゃ)」
口火を切ったのは鬼無瀬時限流門下、大観であった。実に壮観である。彼が手にしたるは『物干し竿』なる銘の巨大な刀、されどその長さと太さたるや尋常の物ではなかった。
その長さたるやなんと五丈(15ⅿ)近く、切っ先に至っては七寸(21㎝)を優に越えていた。
刀の形こそしているが、まさしく軍艦の主砲と呼ぶが相応しき異形である。
これを刀と定義する刀匠も刀匠だが、振るう大観も大観である。しかして、かの大人(たいじん)の能力を号して曰く『自在剣』、物臭な彼によって『刀を振るうことが出来るよ。』とのみ汚い字で書かれ紹介されたそれは如何なる刀でも、そう定義されうる限りは振るうことが出来ることを意味していた。
故に、そこに並はずれた膂力も技量も必要なく――、指で摘まむだけで済んだ。
――号砲とするには豆鉄砲であったが、ここは戦場。
数の暴威こそ、距離の暴虐を数えることこそが肝要である。古くは戦国時代においても本来の戦場に置いて刀とは象徴的な役割以外、果たさない、かった。
されど、誰の物干し竿かは知らないが、抜かずが華であったかの危剣も今本懐を果たす。
散華――。
カチューシャ・ロケットの名に相応しく、遥か上方より降り注ぐ砲撃に似た十六発の斬撃はその狙いがどうこうではない衝撃をもって憐れな、【魚沼産コシヒカリ】の傀儡を打ち砕いていく。
初手に、この業を選んだのは偶然ではない。逸早く散った同輩の得意としたそれに、良き女に対する手向けを見るには感傷が過ぎるだろうか。
だが、狭霧と言うには朦々とした土煙は、闘士の顔を顰(しか)めさせるには十分であった。
「おお、気が利くではないか」
空に大輪の花が咲いた。探偵・遠藤の能力によるものである。
空と言うには余りに低空、地を摺り、削ぎ落とさんとするばかりに爆風と一色に統一された火の粉の奔走は、生き残った子苗を焼き払っていく。
十号サイズ、余分な体脂肪と先程まで必死に詰め込んだ胃の内容物と引き換えにしては中々大きな一発であった。その効果範囲は100ⅿを優に越える……!
探偵の能力『臙脂紫(えんじむらさき)』の銘は与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の章題から取ったものである。
いかなる炎色反応によって
2014-08-13T20:05:51+09:00
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第一部隊その3
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/62.html
*第一部隊その3
希望崎学園を襲った未曾有の事態――
“魚沼産コシヒカリ”の拡散の危機。
立ち向かうは、緑化防止委員。
一人は、さっさと死ぬために。
一人は、死から逃げるために。
一人は、復讐に生きるために。
それぞれ三者三様の生き様を抱えて、挑む。
捕食者さえ食い尽くす穀物と、
園芸の修羅を止める為に。
【AM 0:45 希望崎学園部室棟 園芸部・部室】
「……」
もぬけの殻、という表現が似合う部屋の中。
十数名の『子苗』を引き連れた道明寺が、辺りを見回し――溜息をついた。
「ほう、先手を打たれたか」
かつての同級生や後輩らの腕前は、部長である道明寺も十分に知っている。
彼らの腕前が自分に及ばないことも把握している。
僅かながら、園芸で繋がった者としての情がないとは言わないが――魚沼産コシヒカリとの絆に比べれば、小さいものだ。
だが、それでも確実に潰す為に、道明寺は『子苗』を増やした上での人海戦術を選んだ。
魚沼産コシヒカリの繁殖欲の影響かもしれないが―― ともあれ。
『子苗』の充実と引き替えに、道明寺は己への脅威を間引く機会を逸したのだった。
「ウイルスは当然持ち出されているとして……幾つか他の植物も消えているな。
……くく。だが、まあいい」
しかし。それでも、道明寺に焦りの色はない。
ウイルスの早期撲滅と、部員への『子苗』の植え付けが出来なかったのは痛手だが――致命傷ではない。
「流石に『アレ』は持ち出せなかったようだし、な」
道明寺は不敵に笑むと、『子苗』らに命じ『目的の物』を運ばせる。
ちょっとした保険程度だが――進化の為には、十分役に立つだろう。
「我らは、病害虫如きに負けるわけにはいかんのだ――その為には」
姑息であろうとも、小手先であろうとも出来ることは全てやる――
その呟きを聞いていたのは、忠実な『子苗』達だけだった。
【AM 1:00 希望崎学園 生徒会室】
「すみません……!ウイルスの培養が間に合わなかったのは私達の責任です」
部室から間一髪で脱出した園芸部員達が、緑化防止委員の三人に頭を下げる。
三人は出撃準備を整え、持ち物を整理しているところである。
「いいさ。あんた
2014-08-13T21:23:33+09:00
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Let it be a fine day tomorrow.
https://w.atwiki.jp/dangebirthday/pages/61.html
*『 Let it be a fine day tomorrow. 』
暗闇の中、もぞりと這い出す影があった。
影は、手近な机から何かを掴み取る。
そして音を立てないよう細心の注意を払いながら、
静かに元の場所へと――戻った。
◆
「うっ、うわああああああああああああああああああああああああああ!!」
それはほとんど悲鳴に近い声だった。
道明寺羅門の進撃開始からおよそ1時間。学園中で幾度となくこのような声が上がったことだろう。
だが今回のこれは、少し事情が違う。
涙目で叫ぶその少年は空中で足を突き出した姿勢をとっていた。
目にも留まらぬ彼の跳び蹴りは、そのまま目の前の異形の群れを砕き、貫く。
群がるように並んでいた哀れな5体のコシヒカリ感染者は、肉塊となって崩れ落ちた。
遅れて、少年が着地を試みる。だが失敗した。肩から落ちた少年は床を滑り、埃を巻き上げる。
「やった……やったのか!?」
少年は即座に起き上がり、自らの砕いた敵を振り返った。
「ちょっとやめてよ、それだとコイツらすぐにでも起き上がってきそうじゃん」
「いや、大丈夫。やったよ」
肉塊は動かなかった。かわりに埃の向こうから現れたのは、2人の女子生徒であった。
「あたし達でやったんだ」
◆
植物である魚沼産コシヒカリは人体に寄生することで、緩慢とはいえ機動力を得た。
さらに視覚をも得たことで、より精密に目的へ向けて移動する事が可能となっていた。
植物の目的。それは土、光、そして水である。彼らはそれを目で探し、目指す。
即ちそれは、視覚による錯覚が通用するという事を意味する。
そのコシヒカリ寄生体の一群は、新校舎脇に魅力的な大池を視認した。
月光を反射して水面がきらめいている。水質も良さそうだ。
だがそのオアシスは、コンクリートの地面に『印刷』されたものにすぎなかった。
人体を乗っ取ると視覚に頼る割合が大きくなる、という仮説は正しかった。
愚鈍なる子苗たちはまんまと釣られたのだ。彼らは池の淵まで接近し、ようやく植物の本能から
それが水場でない事に気がついたのか足を止めた。だが既に、遅い。
「いっ、行っていいんだな!?」
「ああ。あたしの2秒を預ける。頼んだよ。……行けっ」
2014-08-13T20:02:35+09:00
1407927755