第三部隊その3


【PM11:54 希望崎学園 生徒会室】

「歩峰理事」
須能・ジョン・雪成は突然の来訪者に思わず声を上げた。
「首尾はどうだね、須能君。魚沼産コシヒカリへの対応はうまくいきそうかな?」
「‥‥、道明寺羅門に付き添わせた風紀委員7人は全滅。次いで向かわせた先行部隊3人も今しがた」
「ふむ、先行部隊ということは本隊を集めているということかな?ここには見当たらないようだが」
「今、めぼしい生徒に声をかけているのですが、すぐに駆け寄れる生徒が見当たらないのです‥‥。今、ノイマ舞先生には声をかけてこちらに向かっていただいています」

コツ、コツと歩峰トーシュは生徒会室で悠然と、しかし威圧感をもって歩く。
「困ったね。実はワシの方でも戦力となる生徒を探していたのだがうまく捕まらなくてね」
ふぅー、と老人は息を吐く。
「仕方ない、七曲君を呼ぼうか」
それは、職員用シェルター内部の『EFB兵器』に次いだ最終手段であった。
「二つ目の開かずの間を開けるというのですか」
「これでも手段は選んだつもりだが、ほかに手段があるかね」
須能・ジョン・雪成は一瞬動きを止め、そのあと緩やかに首を振った。他に彼が提示できる手段はない。

教職員側の七曲真哉の『管理人』は何を隠そう歩峰トーシュその人である。

トゥー、トゥー
『はい、こちら七曲真哉、ですよ』
「七曲君、遅い時間にすまないね。少し相談があるんだが‥‥」


【PM11:58 希望崎学園 生徒会室】

「ノイマ舞、到着しましたー!」
美人オカマ参戦。
そして生徒会室にはこの絶望的な状況に沿わない美味しそうな香りが漂っている。
「お待ちしておりました、お客様。ですよ」

「???あ、もしかしてサプライズかしら?
 うわー、すっごい嬉しいわ!
 でもね、すごく言いにくいんだけど先生の誕生日は今日じゃ」
「残念ながら今日はそんな愉快な話ではないんだよノイマ君」
「り、理事‥‥!?」
「とりあえず食事を頂きなさい。食べながら詳しい話を聞いてもらおう」
「は、はい。頂きます。あら!おいしい」

医食同源。七曲の作る料理は並みの医療系魔人の能力すらしのぐ効能を持っている。


須能・ジョン・雪成が現状を簡潔に説明する。
料理の腕を止めずに聞く七曲と料理をバクバク食べながら話のヤバさに青ざめるノイマ(でも食事は止めない)。
歩峰は悠然と、しかし高速で料理を胃に収めていた。

「‥‥説明は以上です。私の不手際に巻き込んでしまい誠に申し訳ないのですが、貴方がた3名には決死隊として道明寺羅門、並びにコシヒカリの侵攻を止めていただきたい」
土下座する勢いで頭を下げる須能。
「何かご質問は?」
その問いかけがあった時、ノイマは相変わらず青ざめながら飯をかっこみ、歩峰はゆっくりと箸をおき料理を終えたところだった。
一瞬の静寂の後、質問を投げかけたのは七曲であった。
「道明寺羅門様と、子苗を植えられた方々はもうお客様(ひと)として戻られることはない、という認識でよろしいですか?ですよ」
「‥‥はい、現実的ではないでしょう」
「ふーん、つまり、もうお客様ではなく食材ってことですね、ですよ」
その言葉を聞いて、ノイマは一層青ざめ、歩峰は静かに手を組んだ。

「いわゆるカモネギってやつですかね?ですよ」


【数年前 希望崎学園】

「ねぇ、真哉ちゃん」
多くの人に、至高の料理人だとはやし立てられていた。
そのことは彼女自身まんざらではなかったし、だからこそもっと上を目指そうと思っていた。
「あなたのこと、味見させてくれない?」
自身を料理人としてではなく見る目に、彼女は初めての歓喜を覚えていた。

料理を究めんとしていた七曲真哉を狂わせたのは、あるいは次のステージへと押し上げたのは、一人のお料理魔人であった。
その名を織原夕美子という。
清楚で優しく気配り上手、そんな彼女の得意とするジャンルは人肉であった。


彼女と出会うことで、七曲の価値観は大きな音を立てて崩れた。
自分は料理人だ、というその矜持さえ失うほどに。


【PM12:00 希望崎学園 生徒会室】

「この状況において、我々がまずすべきことは一つだ」
歩峰が後ろ手に組みながら生徒会室を悠然と歩く。
「ここまでのコシヒカリ軍の動きが改めて証明するとおり、奴らは海は渡れないらしい。そして空を飛ぶこともないだろう。今のところはね」
「大橋の爆破‥‥!」
須能は正解を口にし、同時に頭を抱えた。
「松永君を先行部隊に向かわせたことを後悔しているのかな。
 確かに、このような事態に備えて生徒会に爆破系能力者が存在するようにしていたのは事実だがね。
 別に大人が子供に頼り切りというわけではないんだよ」
そういうと歩峰はノイマに耳打ちをする。
「ノイマ君。『DL65GK\』だ」
「え、はい!」
「君も教職員の一人なのだから知っているだろう。
 職員用シェルターの『起動装置』のパスワードじゃよ。
 これを入力すれば大橋は一瞬で爆破で崩れ落ちる。
 ちなみに『Z1RA1D@』を入力すれば周囲100kmが凍りつくEFB兵器の起動じゃ。
 ま、ワシ含めてみんな死ぬが、最終手段じゃな」
「りょ、了解です!」
「ワシと七曲君は偵察もかねて足止めに向かうかね」
「わかりました、ですよ」
ノイマは自分だけが安全地帯へと向かうことに、安堵とスリルを味わえないがっかり感の両方を覚えていたが、とりあえずさっきからチンチンが勃起して収まらないので一人になれることに感謝することにした。抜こう。
「私も精一杯みなさんをサポートさせていただきます」
須能はもう頭を抱えない。
確かに自分のしてしまったミスはいくつもあるが、反省するのはことが終わってからだ。
「こちらが通信機です。できるだけ情報を共有します。
 そしてこちらが『アンチ・コシヒカリ・ウィルス』です。
 どなたがお持ちになりますか?」
リスクを冒す以上最大限の安全を図る、それが須能を生徒会長までと押し上げた思考回路である。
当然、対抗策は彼が用意できる範囲ですべて用意している。
「ふむ。ワシは拳以外の武器は持たん主義でね。七曲君にも合わないだろう。
 ノイマ君、君が一番使いこなせそうだ。持っていなさい」
「は、はい!」
イケメンお爺ちゃんからある程度は期待されていることにノイマはチンチンをさらに固くさせる。
「それでは早速二手に分かれようかの。いくぞ、七曲君」
「了解、ですよ」
「先生もちゃーんと役目を果たしますよぉ!はぁ、はぁ」
こうして『本隊』が動き出す。

夜明けまで6時間を切っていた。


【PM12:08 希望崎学園 希望の泉】

道明寺率いるコシヒカリ軍団は希望の泉をほぼ渡り切ろうとしていた。
コシヒカリに寄生された生徒たちは、何も語らずゆっくりと歩を進める。
そんな亡者たちを八騎獣拳の構えの一つ、海月(くらげ)の構えでいなしていく。
ふわりと海中を漂うかのようなゆっくりとした構えから神経系を的確に狙い麻痺させ無力化させていく。
いくら元に戻らないと分かっていても、理事(おじいちゃん)生徒(こども)には弱いのだろうか。

「全く、ワシのかわいい生徒たちにひどいことをしてくれるもんだ」
その言葉はコシヒカリに向けられたものなのか、それとも――

「ほい!ですよ」
七曲が包丁を振るい、コシヒカリ寄生者に刃を触れさせた瞬間、
綺麗に()()された肉が現れる。
――解体は一工程。
踊るように七曲真哉は進んで行く。

「‥‥なるほど、さっきの奴らと比べると速い奴らのようだ。貴様らが本隊か」
笑いをこらえているような、成功するとわかっている企みがバレる直前のような顔をした道明寺が立っている。
「我々は貴様ら、過酷な環境を歓迎する」
「ふむ、君が道明寺君かね。しかし黒幕にしては随分くせ毛がぼーぼーじゃのう」
「カモネギィ!! ですよ」


【PM12:08 希望崎学園 職員用シェルター】

「はぁ、はぁ、はぁ、さっきから勃起がおさまらないわぁ~~!」
オカマ、シェルターに到着。勃起はしていてもきちんと仕事はこなすオカマだ。
「とっとと大橋を爆破して二人に合流しないとぉ。ってあら?」

この時間において、職員用シェルターに人がいる可能性は極めて低かった。
そもそもこんな時間までこの希望崎学園に残るような狂人はいないし、いたとしたら既に歩峰理事が大橋の爆破の指示を出しているはずだ。
だから、その場所に人の気配があるのは異常事態を示していた。

「あ゛あ゛あ゛あ゛あああああ゛あぁぁああ゛ぁ」
「城ヶ崎先生‥‥?」
ノイマ舞は射精もしていないのに賢者モードへと潜り込む感覚を得ていた。
歩峰トーシュに魂を喰われた城ヶ崎は、
その体にコシヒカリを生やして職員用シェルターに存在してた。
(なんで、どうして?ありえないわ。なぜこんなところまでコシヒカリが!?)

その理由はノイマ舞には推測しえない。
城ヶ崎はその魂を失う直前に聞いた『緊急避難所をつなぐ秘密の直通エレベーター』をたまたま発見し、たまたまここまで逃げ延びていたのだ。

(いえ、今は理由を考えている場合じゃないわ。コシヒカリの子苗がここまでたどり着いているのは事実。一刻もはやく大橋を破壊しないと)
――だが。
あろうことに『起動装置』によりかかるように城ヶ崎は存在していた。
「城ヶ崎先生、そこをどいてください」
「あ゛あ゛あぁあ゛あ゛あぁああ゛ぁ」
「‥‥」

腐っても、同僚である。
だから、ノイマ舞の行動は誰にも責められるべきではないのだろう。
彼女は『アンチ・コシヒカリ・ウィルス』のサンプル一つを城ヶ崎に打ち込んだ。
果たして彼から生えていたコシヒカリは死滅していく。
「やった、子苗に寄生されていてもこのウィルスさえあれば救うことができるんだわ‥‥!
 城ヶ崎先生、わかる!?私よ。ノイマ舞よ」

しかし、それは誤りであった。
死人は蘇らないし、失われた魂は戻ってこない。
だから、城ヶ崎が最後に自身の能力を発動したのは、おそらく反射とか痙攣だとかそういう類のものなのだろう。
城ヶ崎は電撃を操る魔人である。
ビリビリとあふれ出る電撃は彼を救おうとしたノイマ舞を拒み、そして『起動装置』に悪戯をした。
ドカンと、まるでコメディのように『起動装置』は爆発を起こし、希望崎学園は最終手段を失った。


【PM12:15 希望崎学園 希望の泉】

『歩峰理事、七曲さん。報告です』
須能がターゲットと対峙した二人にわざわざ連絡をするということ自体が、深刻な事態が引き起こったことを示していた。
「どうしたんだね須能君。ワシはいま道明寺君と踊っているところでね。いいところなので邪魔をしないでほしいのだが」
『ノイマさんが大橋の爆破に失敗しました。さらにEFB装置の起動も不可能になったという報告を受けています』
「‥‥、ふむ。それは困ったのう」
「目の前に敵がいるというのに電話とは随分と失礼ではないか、老いた者よ」
道明寺が嗤う。いや、道明寺だったものというべきであろうか。
「そんなに困りますかね?このカモネギを料理すれば問題ないでしょ?ですよ」
「ふむ、七曲君の言うとおりだ。通信を切るぞ、須能君」

しかし、歩峰と七曲は攻め手を失っていた。
『子苗』たちはあらかた倒して実質的に2対1にもかかわらず、道明寺だったものは相変わらず余裕の笑みを浮かべている。
「貴様らがこれ以上の環境を示せないというなら、そろそろ次の環境に身を置きたいところだ」
「ふむ、道明寺君、老人はもっと敬うべきだよ。君みたいな青二才よりよっぽど多くの環境を経験しているのだからね。
 さて、次だ。
 麒麟の構え」
「ドーピングコンソメスープって知ってます?ですよ」

歩峰トーシュの左腕が飛ぶ。
七曲真哉の腹にコシヒカリの穂が突き刺さる。
絶望的な状況で、それでも二人は善戦していた。
比較的、での話だが。

【PM12:22 希望崎学園 希望の泉】

「はぁ、はぁ、はぁ、二人ともごめんなさい、私失敗したわ」
「ふむ、よくぞ合流してくれたねノイマ君」

職員用シェルターの爆破から何とかのがれたノイマ舞は、すぐに次にすべき行動に移っていた。
つまり歩峰と七曲との合流である。
あくまで大橋の破壊は保険だ。
コシヒカリ本体を倒してしまえば問題はない、何も。
はぐれた子苗に寄生された者どもを『ガン・カタすたいりっしゅ!』と防刃ネットで無効化しながら彼女はここまでたどり着いた。

「ノイマ様。お待ちしておりました。さぁ、戦いを終わらせましょう。ですよ」
七曲は二つの包みを取り出す。
それはおにぎりであった。
「いまこのおにぎりに私のもてるすべてを込めています。どうぞ召し上がれ、ですよ」
「頂こう」
「頂くわ」

「我々の前でコメを喰うとは、挑発のつもりか?」
「そういうわけじゃない、ですよ。」
「よくも城ヶ崎先生を!食らいなさい、『ガン・カタすたいりっしゅ!』」
「鳳凰の構え」

相手の動きを遅くする『ガン・カタすたいりっしゅ!』
そして周囲の空間をゆがませる『真暗森の歌』と歩峰本体の最高練度の八騎獣拳。
そこに一太刀当てれば即死効果を持つ『QP3』が組み合わさるならば、
それはコシヒカリをも凌駕する必殺の一撃となる。

ハズであった。

横っ飛びをしていたノイマはそのままバランスを崩し倒れこみ
歩峰は口から血を流しその場で地面に伏した。

「これは‥‥?」
この状況を生み出したのはコシヒカリではない。少なくとも直接的には。
「全く、やっと2人が揃いましたね、ですよ
 少しお話しませんか、魚沼産コシヒカリさん、ですよ」

医食同源
変毒為薬

プラスの効果を与えられる至高の料理人にとって、
料理で人を殺すなど朝飯前である。


【PM12:19 希望崎学園 希望の泉】

「実を言うとですね、ずっとあなたに会いたかったのですよ」
七曲はコシヒカリを中心に弧を描くように歩みを進める。
隙だらけゆえに、コシヒカリは攻撃する理由を失っている。

「私、貴方のことをずっと調べていたんです。
 なんたって私のフルコースの一因ですからね、貴方は。ですよ」
まるで、探偵が謎を解くかのように語り始める。
だがこの場での犯人は明らかに七曲その人でした。

「あなたにまつわるエピソードを数々聞いて、私には違和感がありました。
 コシヒカリさん、貴方は運が良すぎるんです」
コシヒカリは少女の言葉を聴いている。

「今回に限っても、そもそもこの希望崎学園において純粋な生徒の助っ人が1人も集まらないなんておかしいんです、ですよ
 この血の気の塊のような学園で、決死隊に志願する生徒がいないなんてありえない話です、ですよ」
彼女の言葉はコシヒカリにはいまいちピンと来ていなかった。
我々は寄生し進化する、その能力こそが特質ではなかったのか。

「まるで貴方を守るかのような初代園芸部の能力に、道明寺先輩みたいな貴方に理解のありすぎる人の出現。
 そして極め付けは『起動装置』の理不尽な爆発。
 新潟での数多くのラッキーエピソードも踏まえて断言しましょう、ですよ。
 コシヒカリさん、貴方がEFB指定を受けているのは寄生だとか成長だとか、そんな植物の延長線上の特質のせいではないんです。
 本来の進化が『環境に合わせて生き残りやすい形質を獲得すること』ならば
 あなたの進化は逆。『自分が生き残りやすいように環境を変質させる』
 その運命力こそがあなたの真の『強さ』ですよ」
「なるほど、それは気づかなかったな。
 ではそんな我々に対して貴様が会ってしたかったこととはなんなのだ、女よ」
「もし、あなたの寄生力と成長力を制御せずに使ったら、その先は世界の破滅の後に貴方自身の破滅、ですよ
 単一すぎる環境は決して生存に有利には働かないでしょう。
 それは誰も得しないでしょう。
 だから私がマネージャーになってあげます、ですよ
 私があなたの最適な環境になりましょう、ですよ
 その代り、時々子苗を少し料理させてもらえると嬉しいのですが、ですよ」
「ふん、狂った女だ。
 まさか我々を料理する許可を取るためだけに仲間二人を殺しこちらについたというのか?」
「運命力なんて訳の分からないものに刃向う気はしないのですよ」
「ふん、それが貴様の生存戦略か。いいだろう気に入っ‥‥」

道明寺だったものは、自分の胸にはえた腕を呆けて見た。
「そんな訳のわからないものに刃向えるとしたら、運命すら捩じる能力を持ったお爺ちゃんが奇襲をかけるぐらいしかない、ですよ」「な、なぜ‥‥」
「なぜ?理由かね、それともどうやって蘇ったという手段かな?」

老人は静かに腕を抜く。
「簡単な話だ。至高の料理人であれば一時的に人を仮死状態にする料理なんぞお手の物、というわけじゃ
 ま、ホントに死んで食われるのかとちょっと焦ったがの」

「ち、違う‥‥なぜ‥‥」
なぜ、料理人がコシヒカリを裏切ったのかという意味ならば。
「料理に一番必要なものはなんだかわかりますか?お客様(ひとびと)ですよ。あなたを殺す理由はそれで充分です」

歩峰はコシヒカリから抜き取った魂が飴玉のようになるのを見届けてから、
地面に落とし足で叩き割った。


【翌日AM11:49 希望崎学園 生徒会室】

「私全然いい所なかったじゃない!しかも私だけあのおにぎりがフェイクだって知らされてないし!
 詐欺だわ!オカマっ!」
「いえ、ノイマ先生はとても重要な役回りだったんですよ、ですよ」

生徒会室にはいい匂いが漂っている。
「さぁ、魚沼産コシヒカリが炊けました。
 私特製の佃煮もありますからぜひ召し上がれ、ですよ」

「ふむ、念願のコシヒカリじゃ」
「うう、いい匂いね、頂くわ」
「私も食べてよいのだろうか‥‥」

各々おずおずと、あるいは悠々と箸を伸ばす。
魂を失ったコシヒカリは御しやすくなり、今後安全な栽培法が確立されるだろう。
「あらぁ、ふっくらして美味しいわぁ。しかもこの佃煮、とってもいいお味。
 いったい何の佃煮なのかしら?マグロ?」
「ですから、私、ですよ。私の佃煮です。臀部を使ってます、ですよ」
「ブフーー!!!」
オカマ吹き出す。

コシヒカリのみを黙々と食べていた生徒会長が口を開く。
「七曲さん、相変わらずあなたのフルコースは変わっていないのか?」
彼女のフルコースのメインディッシュは『私シチュー』である。
「ええ、勿論です。私はあの人に一番おいしい私を食べてもらいたい‥‥」

「魚沼産コシヒカリと君の佃煮はおいしいのぉ。若返るようじゃ」
ひとり満面の笑みで喰らう老人

「ま、君の料理が食べれなくなるのは残念じゃが、それが君の夢なら止めることはできんの。
 できれば『その時』にはワシも呼んで欲しいもんじゃ。
 きっと魂とは違う味が楽しめるじゃろうよ」
「ええ、是非に。もっともフルコースの材料のほとんどが揃っていないので、まだ先の話、でしょうけど、ですよ」

料理人の少女はとても純粋な笑顔を浮かべた。
最終更新:2014年08月16日 00:10