第三部隊その2


  • ちゅういじこう-

このSSの序盤を読む際は部屋の電気を消して読むのがオススメです。
できるなら、暗くじめっとしたホラーBGMを聴きながら読むと良いでしょう。
SSを読みながらとつぜん窓の外を見たり、天井を見上げたり、部屋の隅の暗闇を気にしてみるのも悪くありません。
イメージも大事です、首筋に誰かの視線を感じるイメージなど妄想を膨らませてみましょう、イメージです。
あとナレーション部分を稲○淳二氏の声に置き換えてみるとサイコーです。
では、お楽しみください。

  • 零-

湿度の高い空気が生暖かい風を運ぶような夜の話です。
学級委員の女の子で、そうですねェ。
仮に名前をA子さんとしておきましょうか。
数時間前、いや数十分前の話なんですが、A子さんが見回りをしていた時の事です。
なんでこんな夜中に見回りをしていたか。

いつもならこんな夜遅くまで居残りはしていないA子さんですが、学園祭も近かったのでクラスメートと一緒に準備をしていたんですね。
しかし夜が遅くなってくると、ひとり、またひとりと下校していく。
教室の灯りもひとつ、またひとつと消えていく。
流石に人も少なくなってきて少し心細くなってきた。

A子さんも「やだなぁ、帰りたいなぁ」と思ったんですけれど、学級委員だからってんで仕方なく最後まで残ることにしたんです。

そうすると、時計が十二時を回った頃でしょうかねェ。
もうほとんど人がいなくなったときに突然
ウー、ウー、ウー!!ってサイレンみたいな音がしたんです。

A子さんは「うわ、なんだろう、何か起きたのかな」と思うと
非常灯の赤いランプがくるんくるん、クルンクルン回転しているんですよ。

こりゃあ尋常じゃないってんで慌てて帰ろうとすると
担任のB先生がやってきて「大変だー、大変だー」って言うんです
A子さんは「何が大変なんですか?」って聞くんですけれど
B先生は「大変だー、大変だー」って繰り返す。
A子さんは不気味に思ってそのまま帰ろうとしたんですが
B先生はポケットから鍵束をとりだしてA子さんに押し付けてくる。

「大変だー、大変だー。先生は行かないといけない」
「どこへ行くんですか?」
「大変だー、大変だー。先生は行かないといけない」
「何があったんですか?」
「大変だー、大変だー。だから戸締りをして残っている生徒がいたら帰るように言ってくれ」

不安に思ったけれどA子さんは真面目な生徒だったので仕方なくそれを引きうけた。
「早く終わらせよう、早く帰ろう」と心の中で考えたA子さんが教室から出ようとすると
B先生が横をするっと通り抜けて、ぼそり、とつぶやいた。
「……オコメニキヲツケテネ……」

ハッと振り返ったA子さん。
でもB先生は暗い廊下のむこうへ、ぺたり、ぺたりとサンダルの音を響かせて消えて行ったんです。

A子さんはゾッとした。
「もう帰りたい、もう帰りたい、でも鍵をしめなくちゃ」

ひとつ、ひとつ教室の鍵を閉めてまわるA子さん。
最期の教室の鍵をかけて扉をしめようとするけれど中々鍵がかからない。
「鍵をかけなくちゃ、早く鍵をかけて扉をしめてかえらなくちゃ」
と思うんですが中々鍵がかからない。

そうしていると不良のモヒ助、チャラ三、ピザ男がケラケラ笑いながら
「A子ちゃーん、今からイイことしない?」
「ちょりーっす、ウェーイ」
「こりゃうめー、こりゃうめー」
って声をかけてきた。

「あんたたち。早く帰りなさいよ」とA子さんが言う。
「ボクこわーい、A子ちゃん一緒にいてー」
「ウェーイマジで」
「こりゃうめー、こりゃうめー」

「もう嫌だ、もう嫌だ」A子さんはその場を早足で去っていきます。
残された三人が
「オイオイ、これからだぜ」
「ウェーイ」
「こりゃうめー」
と話しながらA子さんが鍵を締めなかった教室の扉を開けると
そこには…。

A子さんは早足で玄関の方へ歩いていく。
そうすると、何か音が聞こえてくる。
そう、ぺたり、ぺたり。
後ろから聞こえてくるんですね。
どうも足音のように聞こえる。
ぺたり、ぺたり。

さっきの不良たちが追いかけてきたのかもしれない。
そう思ったA子さんはさらに早足で歩く。
ぺたり、ぺたり、ぺたり。
後ろをついてくる足音も早くなる。

「誰?」

怖くなったA子さんが振り向いたけれど、そこには誰もいない。

怖くなったA子さんは走り出す。
ぺた、ぺた、ぺた、ぺた。
足音も走る。

怖くなったA子さんが振り向く。
誰もいない
ぺた、ぺた、ぺた。
足音が止まる。
足音、が。
あしおと。

A子さんは思わず視線を下に向けました。

ジャージに。
サンダルを履いた。
足。
二本の足。

付け根で、切断された足、だった。
切断面には、これは、白い粒状の、担任の、何か、B先生の、が蠢いている、足。

「いやああああああああッ!!もう嫌ッ!!」

A子さんが走り出す。
廊下を走り抜け角を曲がる、すると。
不良のピザ男が座り込んで何かを食べています。
もぐもぐ、むしゃむしゃ、もぐもぐ、むしゃむしゃ。

「こりゃうめー、もうくえねー、こりゃうめー」

不良のピザ男が座りこんで何かを必死に食べている。
もぐもぐ、むしゃむしゃ、もぐもぐ、むしゃむしゃ。

「あ、助けてッ!!」

A子さんが叫ぶ。
しかしピザ男は何かを食べ続けている。
よく、見ると、それ、は。
白い粒。
蠢く、大量の白い粒。
その粒はピザ男の腹の裂け目から溢れ出していたんです。
腹は裂けているのに血は一滴もでていない。
ただ白い粒が溢れ出しているんですねェ。
それをピザ男は必死に口に詰め込む。
もぐもぐ、むしゃむしゃ、もぐもぐ、むしゃむしゃ。
腹から溢れ出るモノを口に詰め込む、腹から溢れでるモノを口に詰め込む。
もぐもぐ、むしゃむしゃ、もぐもぐ、むしゃむしゃ。
ぐるん、とピザ男はA子さんの方を振り向きました。

「ひぃいいいやぁああああッ!!」

A子さんは恐怖のあまり叫んで走り出す。
しかし、走り出したとたんに何かに躓いて転ぶ。

「きゃっ?」

何もない廊下で、一体、何に。
まるい、何かが、ごろりと、こちらを向いた。

「ウェーイ」

ニタリとチャラ三の頭が笑った。
頭、頭部、首から上だけの、ニヤけた顔。

「ウェーイ」

首の切断面には白い粒が蠢き小さな足のようになっている。
コロコロと何度か回転したチャラ三は小さな足で立つとトコトコと歩き出し。
一度だけA子を振り向き。

「ウェーイ」

と普段と変わらない笑みを浮かべて闇の中へ去っていった。

「あ、あああああ。」

腰がぬけたのか座り込んだA子さん。
もう、恐怖で何も考えられない。
何気なく上を見上げると。
天井からモヒ助がぶら下がっている。
手や足が白い何かに変貌しべちゃりべちゃりと湿った粘着音を響かせながら天井を這いずっているのだ。
ぐりん、と顔がA子さんの方を向いた。
その、目からは、白い、粒が。

「ひっぎゃあああああああああああッ!!」

A子さんは叫んで走り出す。

「もう嫌だ!!もう嫌だっ!!助けてっ!!助けてぇっ!!」

A子さんは走る。
「もうすぐ、もうすぐ校舎から出られる」A子さんはそう思いました。
その時、目の前に人影がでてきたんです。

「ひっ」

ですが、その人影にA子さんは見覚えがありました。
確か風紀委員の女生徒で、学級委員の会合で何度か話した事もある先輩。
戦闘力のある魔人、ちょっと憧れの先輩。
この人ならきっと私を怪物達から助けてくれる。

「あ、あのっ」
「………テ…」

A子さんが声をかけると、その女生徒は優しげな笑みを浮かべて何かを呟きました。
先輩の白い吐息がこぼれました。
「やった、助かった。この人なら」と安堵の息が漏れます。

「鬼無瀬先輩っ、大変なんです」
「……テ、…を……ベ……」

女生徒は何かをつぶやきました。
A子さんには何を言っているのか聞こえません。
女生徒は笑顔でA子さんを迎え入れるように両腕を広げます。
憧れの先輩が優しい笑みでA子さんを迎え入れてくれます。

「先輩っ、私、私怖かった」
「…ベテ…、…を……テ…」

A子さんはその腕の中に飛び込みました。
もう安心です。
女生徒はA子さんを抱きしめました。

「先輩っ、先輩っ」
「食ベテ…」

ぎゅっと女生徒はA子さんを強く抱きしめます。

「先輩?」

A子さんは不思議に思いました。
先輩は、何を、言って、いるの?
先輩の口から白い吐息が漏れます。
白い?
こんなに蒸し暑い夜なのに?

「私、を、食べて」

白いのは外の空気が冷たいから?
この香りは、炊きたての、ごはん。
その時A子さんは思い出しました。
白い粒は何だったのか。
B先生はこう言ったのです。
「お米に気をつけてね」と。
炊きたてご飯の白い湯気。

「食べて、私を、食べて、食べて食べて食べて食べてわぁたぁしぃを、たぁべぇてぇ」

女生徒の口から大量のご飯が溢れ出しました

「いいいいいいいやああああああああああああああッ…もごっ!?」

大量の白いご飯はA子さんの口の中に流れ込み。
むしゃむしゃもぐもぐむしゃむしゃもぐもぐむしゃむしゃもぐもぐ。
A子さんの意識は途切れたのでした。

こりゃうめえ。

  • 壱-

ゴシャッ!!

そんな過去を持っていたのであろう。
亡者となってしまえばその様な過去にどんな意味があるというのだ。
かつてA子と呼ばれたそれは、頭部を握りつぶされ、その体はビクビクと反応した。
肉体の澱粉質化の影響があれば、これでも生命活動を止めるには至らない。
魚沼産コシヒカリの子苗に侵食された者は生きながら変異する。
個体ではなく群体生命、細胞の一粒一粒が米となり一部を破壊しても止まらぬ不死性。
しかしながら人間の神経系統を利用したに過ぎない体は澱粉化しても中枢は変わらない。
すなわち脳を破壊したならばあとは蠢く澱粉の塊にすぎないのだ。


破壊者は少女だった。
異様なシルエットの少女である。
巨大な腕だ。
鋼鉄の機械腕からはスチームパンクじみた蒸気が排出される。
少女の体にまったく見合わない巨大機械機構。
少女の背中から両腕にかけて一体化したこのシステムこそが超小型移動式厨房。
この機械腕の握力は力士“股ノ海”の38倍に相当し、主にうどん生地をこねる為に用いられる。
抜群のコシをもつうどんを生み出す機構も扱い方を変える事で脅威の破壊兵器と化すのだ。
前方から歩み寄ってきた太った亡者をナックルハンマーで叩き潰すと亡者は床のシミになった。

「ふぅーむ、中々筋が良い」
「……何で、そこに立ってんの…ですよ」

機械腕の拳の上に腕組みをした老人が立っている。
口元と顎に上品なヒゲを蓄え、赤とグレーを基調としたスーツを着こなした老人。
少女が老人を振り払うように機械腕を動かすが、老人はバランスを保ったままそこに立って笑った。

「ここは見晴らしが良いからの」
「…そう?」
「ほれ、また来よったぞ、この数。もうそろそろ大元が近いと見える」
「……じゃあ、落ちないように気をつけてね……ですよ」

ガシャン!!
機械腕の指先に射出穴が開く。
前方には無数の人影、元々は学園の生徒や教職員であったモノが迫り来たのだ。
先頭にいるのはモヒカン亡者だ、目から涙のように米粒が溢れ出ているのが見える。

「ふぁっは!!気を付けよう!!行くぞ、七曲君!!」
「……了解、殲滅する……ですよ」

老人が跳躍する。
その瞬間、機械腕の指先から鋭く尖った金属の串が無数に射出され亡者たちを貫いた。
串焼き肉用の鉄串。
空中では老人両腕を大きく広げ構えをとっている。
これぞ、八騎獣拳の構えの一つ“怪鷲”。
ぐるりと回転しながら亡者の群れの中に着地すると鉄串を逃れた亡者が倒れる。

「…何、ソレ?」
「八騎獣拳の型の一つだ、君も訓練すれば使えるようになる」
「…ふーん…ですよ」
「ともあれ、ここは制圧だな、ノイマ君のほうはどうなったか」

老人があたりを見回していると少女は周囲に散らばる米粒を拾い観察した。

「どうだね、それは。食えるか?」
「……ダメ…食材としては死んでいる…中途半端な形で人間と融合したから」
「ふむ、繁殖はどうだね」
「…園芸…は専門ではないから、詳しくはわからない…。料理人として見るなら…これはただ動いて繁殖場所を探すだけの下位品種」
「なるほど」
「地ならしをするためだけの存在…単独である程度は他の生命体と融合して侵食はできるようだけれど。そこから先はない。繁殖はできない…と思う、ですよ」
「上出来じゃ」

老人は少女の頭を撫でる。

「…む…むむ…ですよ」
「せ、せんせぇー!?」

大広間の扉が開き悲鳴に近い声が響いた。
少し服がボロボロなのが玉に瑕だが男子生徒なら一度は夢見るお色気たっぷりの知的エロ女教師。
巨乳、眼鏡、スーツ、全てがそこにある。
そういった風情の女があんぐりと口をあけ涙を流している、折角の美貌も台無しである。

「おお、ノイマ君。戻ったか」
「なっ、なんでぇー!?」
「……うるさい…」
「わ、私もっ、女子高生をっ、な、撫でたいっ!!あと撫でられたいっ!!おっおかっ」
「ふむ、それは良いが首尾はどうだったかな?」
「あっ、ああ~ン。え?ああ、そうでした。うーん、アンチコシヒカリウィルスは存在しました、ここに入れて」

落ち着きを取り戻した女教師は胸の谷間に腕を突っ込んでごそごそとまさぐったあと

「ああン、イイ。勃って。あ、こっちだった」

とポケットから小さなガラスの小瓶を取り出して老人に渡した。

「結構苦労したんですよぉ。とは言え出来のほどは不明ですねぇ、それから…」
「七曲君、分析はできるかね?」
「ああン、話の途中なのにぃ、冷たいんだからセンセ」
「…成分分析はできる…、どの程度かは期待しないで…ですよ」
「ああン、可愛いンだからぁ~っ」
「…むぐ、ぐ」

女教師は少女に抱きついて頬ずりした。

少女の名は七曲真哉 。
老人の名は歩峰トーシュ。
女教師の名はノイマ舞。

魚沼産コシヒカリ討伐部隊と呼ぶには余りにも少ない人数だがいずれも一騎当千の魔人である。
まずは如何にして彼らが集まったか話そう。

あと、ノイマ舞はオカマである。

  • 弐-

「ンーふふ、イイわぁ」

生徒会室での説明を受けノイマ舞は興奮していた
生徒会の戦闘部隊を率いてアンチコシヒカリウィルスを奪取し敵を倒す。
そこに勝機はあるのかはわからない。
だが、ノイマ舞は戦いの予感と生徒達からの視線を想像して股間がはちきれそうになった。
彼女はオカマだったのだ。

「久しぶりだね、ノイマ君」
「あら、センセ。お久しぶり」

生徒会室から一歩踏み出したところでノイマ舞に声をかけた老人がいた。
歩峰トーシュ、かつて彼女に戦闘技術を教えた魔人教師である。
今は学園の理事だったはずだ。

「人手が必要でね、手を貸してくれないか?」
「ああン。もしかしてコシヒカリの事ですか?」
「君はワシの教え子の中でも物わかりが良くて助かるな」
「返事はお聞きにならないのねン」
「君の返事はわかっておるからな」

そう言うと老人は女教師を小脇に抱え風のように走り去った。

「ンもー。強引なんだから」

  • 参-

開かずの監獄厨房。
しかし、監獄といってもここはエネルギーに満ちていた。
刃がきらめき炎が舞う。
校舎の奥深い閉鎖空間で一人の少女が料理を作り続けている。
ウィーンガシャン。
数年開くことが無かったその監獄の扉が開いた。

「へぶッ!?」

ごろごろごろ、ごん。

「うにゃっ!!オカマッ!!」

開いた扉から妙齢の女性が転がり込んできて壁に頭をぶつけて止まった。
ノイマ舞だ。

「ああン、センセ。乱暴なんだからぁ」
「すまんなノイマ君、急いでいたのでね。」

と老人。
歩峰トーシュが室内に入ってくる。

「おお、七曲君か、大きくなったな」
「……誰、ですよ」
「覚えておらんか。ワシは君達を小さい頃から知っておるのだが」

「…知らない…あと、ここは立ち入り禁止のはず…どうして?」
「どうして?理由かねそれとも手段の方かな?」
「センセ、それ好きね」

「手段の方は簡単だな、この監獄は生徒会役員の許可と主任以上の教員一人と学園理事一人の認証があれば開くことができる。ワシは理事の歩峰トーシュ、そして」
「ノイマ舞よン」

「…興味…ない…ですよ」
「理由の方はとても簡単だ、君の力が必要だ、力を貸して欲しい」
「だから…意味がわからない…」

「なるほどな、嫌というわけでなく理由を欲するのは当然、ならば説明しよう、その前に」
「…前?」
「腹が減ったな、腹が減っては戦は出来ぬと言う」

ぴくりと少女の眉が動く。

「ノイマ君はどうかね?」
「そういえば、何も食べてませンねぇ」
「そうじゃろ、では何か作ってくれると嬉しいのだがね。七曲君」

その声に終始無表情だった少女の口が少し曲がる。
笑ったのだ。

「…らっしゃーせー…」

単調だが、はっきりした発音のチャントが監獄内に響いた。

  • 肆-

「ああン!!アツいっ!!体が熱くなっちゃうっ!!なにこれっ!!脱ぐの?脱げばいいのっ!?」
「生姜と唐辛子を絶妙に使ったの。しかし刺激的な中にも食べる者を労わる工夫がされておる。これは、クコの実だな。栄養価も抜群。美味いぞ」

身悶えるノイマと解説をするトーシュ。
その箸はとどまらずモリモリと料理を食べた。

「ああン、素敵だわ、シェフを呼んでちょうだい。抱きしめたいわぁ」
「ご馳走様でした」
「…お粗末さま…ですよ、あとヤメテ…」

七曲に抱きついて撫で回すノイマを尻目にトーシュは両手を合わせ一礼した。

「さて、七曲君。料理中に説明したとおりだが」
「…魚沼産コシヒカリ…を…兄が」
「そうだ、ワシは君達の事を知っていると言った。それは君の両親がワシの教え子だからなのだよ」
「…兄の事は少し…覚えている」
「そうだな、両親が死んだとき君たちはそれぞれ父方と母方の実家に引き取られた。駆け落ち同然であったからの。お互いの家はあまり仲が良くない。妹は料亭七曲家へ。兄は園芸の道明寺家へ。」
「ああン、とっても悲しいお話ねぇ」
「お互いに厳しい家柄じゃ、特に道明寺家は子供を生贄程度にしか考えておらんかったようじゃな。まあ園芸の一族とあればそれも致し方なしではあるがの」

食後のコーヒーと飲みながらトーシュは語る。

「その様な環境を生き抜いた道明寺君が今、世界を危機に陥れようとしている。止めるには七曲君。君の力が必要なのだ」
「…わかった…やる。私の料理を食べて直接褒めてくれたお礼…」
「いやン、かーわーいーいー」
「…抱きつくの…ヤメロ…ですよ」
「決まったの。では行こう七曲君。ノイマ君は例の件を頼むぞ」
「お任せあれ、センセ」

  • 伍-

時間を戻そう。
三人が集まりそして戦う。
これはそういう物語だ。

「休憩してからってわけにはいかないようねぇ」

ノイマ舞が視線を投げかけた先に人影が現れる。
ノイマは走る!!
ワンゲル部で磨かれた索敵の技は魔人の中でも随一である。
ノイマの声を聞いた二人の魔人も走り出す。

「いや~ン!!」

腰をくねらせホルダーからノイマは銃を抜く。
モデルガンであるがノイマが扱うことで殺傷力は十分。
ウィンクをして構え撃つ!!
数発のBB弾が亡者に向かって発射される。
ノイマは走る。
投げキッスをして構え撃つ!!
ノイマは前転。
銃をエロスを込めて舐め構え撃つ!!
ノイマはジャンプ。
股間をまさぐり構え撃つ!!

一見すると非常に無駄の多い射撃。
だが、これこそがノイマ舞の魔人能力『ガン・カタすたいりっしゅ!』。
儀式じみた一連の動作によって敵の動きを緩慢にすることで無駄な動き以上の効果を発揮するのだ。

自分の胸を揉みしだき構え撃つ!!
胸の谷間を強調し構え撃つ!!
言うまでもないがノイマ舞はオカマである!!
さりげなくパンチラして構えリロード!!
女豹のポーズ構え撃つ!!
M字開脚構え撃つ!!

エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構えリロード!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!エロス構えリロード!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!!!エロス構え撃つ!!エロス構え撃つ!!ノイマ舞はオカマだ!!

数千発の弾丸が亡者の群れに降り注ぎ敵をなぎ払った。

「見事だ、ノイマ君!!」
「…やる…ですよ」

後方を走るトーシュと七曲が一気に加速する。
トーシュの魔人能力『サカサマの歌』は周囲の時間を操る力を持つ。
動きを加速した3人の魔人は走る。

「流石に、私の能力は効かないみたいねン」

ノイマは大きく跳躍した。
目標は道明寺羅門。

  • 陸-

「面白い、植物は踏まれるほどに強く育つという」

道明寺はノイマの回し蹴りを右腕で受け、それをフェイントにした銃撃を無造作に回避する。
瞬間、巨大な拳がノイマに迫る。

「どっせい!!」

ノイマは体を捻り避ける。

「喝っ!!」

道明寺の体が吹き飛んだ。
凄まじい速度で走り込んだトーシュの当身。
八騎獣拳“巨象”の構えからの一撃。

「…終わり…ですよ」

空中には七曲、そして巨大な機械腕。
脅威の握力は小さなビル程度なら握りつぶしてしまうだろう。
そのパンチは鋼鉄の塊すら打ち砕くだろう。
トーシュの能力によって加速した一撃を耐えうる魔人など居るはずがない!!

両腕を握りこんだナックルハンマーが道明寺へと振り下ろされる。

  • 漆-

ゴシャッ!!

「…あッ」

小さな悲鳴とともに七曲の体が弾き飛ばされる。
道明寺の蹴りが移動式厨房を粉砕破壊したのだ。
スプリングじみたジャンプで体勢を立て直したノイマが空中で回転し遠心力を高めた蹴りを放つ。

「お前たちは素晴らしい、」

道明寺はその蹴りを避けようともしない。
常人の首をへし折る程度の威力。
その程度は筋力だけで受け止めたのだ!!

落下してくる七曲をトーシュが走り込んで受け止める。

「アッハッ!!その余裕が命取りなのよぅ!!」

ノイマの弾丸がゼロ距離で発射される。
道明寺は避けない。
その程度を避ける必要すらなし。

「ぬ?おおおッ!?」

だが、それは通常の弾丸ではない。
園芸部の生徒たちが道明寺を警戒して作ったとされるアンチコシヒカリウィルスを搭載した弾丸。

「ごおおおおっ」

道明寺が悶え苦しむ。

「これだけで倒せると思ってはいかぬ、一気に攻める」
「アッハ!!」
「…大丈夫…行く」

トーシュは時間を加速。
七曲は包丁を抜き放つ。
ノイマは腕をクロスさせ谷間を強調した。
ノイマ舞はオカマだ。

「オオオオォォォォォォッ!!」

道明寺が吠える!!

  • 捌-

ずん!!

道明寺が床を踏み抜く。
亀裂が走りその隙間から稲穂の槍が吹き出した。

トーシュが兎の型で攻撃を逸らし。
七曲が包丁で稲穂を切り裂き。
ノイマがバク転で回避。

「ハッ!!ハハハハハハ!!俺が!!」

道明寺が笑う。

「俺が道明寺だ!!」

一気に踏み込み両腕を前に突き出す。
黄金の風、稲穂を揺らす黄金の波。
強大な波動が吹き荒れる!!

「俺が道明寺羅門であり!!コシヒカリだ!!」

波動に飲まれノイマが吹き飛ぶ。

「乗り越えたぞ!!アンチウィルス!!あるとは思っていた!!これを!!」

道明寺が前に踏み出す。

「耐性を得る事が必要だった!!」
「喝ッ!!」

トーシュの“大鰐の型”からの双撃が迫る。

「感謝しよう」

並の魔人を両断する攻撃を平然と両手で掴み道明寺は静かに言った。

「自然界に潜む未知の脅威すらもこれで乗り越えられるだろう」
「…そうは…いかないッ…」

トーシュの影から七曲が至近距離に滑り込む。
道明寺の両腕はトーシュが止める。

七曲 真哉の魔人能力『QP3』は調理という過程を飛ばし、食材をまるで用意されていたかのように料理にする能力である。

「…『QP3』!!」

しかし、何も起きない。
道明寺のカポエイラのような蹴りが七曲を襲う。

「させぬ!!」

トーシュが二人の間に割り込み攻撃を受け吹き飛ぶ。

「お前は料理人だな」

道明寺は言葉を発する。
その声にもはや人間味は感じられない。

「…お爺…ちゃん?」

七曲の声が震える。
トーシュの腕がありえない方向に曲がっている。

「恐るべき料理能力だった、しかも食材部分だけを調理しようとは!!先程までの俺であればやられていただろう、だが!!」
「お前たちのおかげで俺は食材を超えたのだ!!」
「だから!!俺はお前達に感謝しよう!!」

道明寺が黄金の波動の構えを取る。

「センセイに何してくれとんじゃゴルァ!!」

ノイマが飛び上がり挑発セクシーのポーズから銃を構え撃つ!!

「食材に敬意を!!お前達は俺にとっての食材に等しい!!」

黄金の稲穂の波が再びノイマを飲み込む。

「…ヤメテ…」

道明寺は七曲に向かって歩く。

「…やめてよ」
「感謝を」
「やめてよ…お兄ちゃん」

道明寺の顔が固まる。

  • 玖-

(監獄厨房に幽閉だと?)
(料理人か)
(余程の禁忌を犯したか)
(七曲、真哉?)
(真哉)
(何故だ)
(魚沼産コシヒカリ)
「道明寺羅門の動機は明らかじゃ、君のためだ七曲君」
(どうしてお兄ちゃん)
(私は、いつか)
「君の料理も明確だ、兄の為だな、いつか出会える兄の」
(真哉、俺は何もしてやれぬ)
(道明寺家は呪われた一族)
(お前を巻き込むことになる)
(だからせめて、お前の望みを)
「道明寺羅門は君のために魚沼産コシヒカリに手を出したのだ」
(お兄ちゃん)
(やめて、お兄ちゃん!!)

  • 拾-

「俺に妹など居ない」

道明寺だったモノが声を発する。

「俺は道明寺だ俺は道明寺だ俺は道明寺だ俺は道明寺羅門だ俺は道明寺羅門であり魚沼産コシヒカリだ!!」
「いやだよ…お兄ちゃん」

道明寺が腕を振り上げた

「感!!謝!!を!!」

「な、ん、だ?」

道明寺の動きが、止まった。

「お前、か」

道明寺の視界の隅に一心不乱に自慰に耽るノイマ舞がいた。

  • 拾壱-

ノイマ舞の魔人能力は自分の痴態を他者に見せつけたいという欲求から生じた。
すなわち相手の動きを止め自慰や露出行為を見せつける拘束系の力。
自分を見て欲しい、自分の恥ずかしい姿を見て欲しい。
そういう能力だ。

強力な魔人能力ではあるが単体での攻撃性能はない。
他人と組んでこそ強い。
ただ見せつけるだけ、能力の性質もあいまって、ノイマは他の魔人からやや下に見られる魔人だった。

だが、ある教師と出会い、ノイマは能力の応用を得た。
小刻みに発動する能力の合間に攻撃を行う事で敵を止めるのではなく動きを遅らせる。
単体でも高い戦闘能力を得たことで魔人ノイマ舞は羽ばたいたのだ。
いろんな意味で。

ノイマ舞はオカマだった。

  • 拾弐-

カツラはズレかけている。
胸のパットも一つはなくなっている。
だが生徒に手をださせない。
ノイマ舞はオカマである。

「アタシの方を見ろゴルァ!!」

ドスの聞いた声でノイマは吠える!!
それでも、胸を揉み、股間をまさぐる姿を視界に捉えたなら道明寺は動けないのだ。

「貴様っ!!こんな事をしても!!先に死ぬのはお前だ!!」

「そうじゃな」

よろよろとまさに老人のようにトーシュが立ち上がる。

「今更お前の力で何ができる」
「できるさ、できるのだよ」
「オオオオォォォォォォ!!」
「ワシの能力を教えよう道明寺君、いやコシヒカリ君かな」

トーシュは動く片手を道明寺に触れた。
微かにメロディーが流れる。

「ワシの能力は『サカサマの歌』、時間を操る事ができる!!」
「馬鹿な!!やめろ、これこそが!!俺が!!」
「君を戻すぞ、道明寺君」

道明寺の姿が歪んだ。

「あとな、妹を泣かすもんじゃない」

  • 拾参-

「お兄ちゃん!!お兄ちゃん!!」
「う、あ。」

道明寺羅門が目を覚ます。
その体にすがるように七曲真哉が泣いていた。

「すまなかった、真哉。もう大丈夫だ」

道明寺羅門は呟き再び目を閉じる。

「ノイマ君」
「なんですか、センセ」
「ワシ、結構死にそうなんだが」
「大丈夫ですよ、センセ」
「亡者の魂だけでは足りんでな、割とヤバイ」
「もうすぐ救援が来ますし、ほら。七曲さんがコシヒカリを料理してくれます」
「そうかね、あともう一ついいかなノイマ君」
「はい」
「膝枕はいいんだがね、股間の膨らみが頭に当たるの結構微妙な気分じゃわ。あと骨がバッキバキでね」

ノイマ舞は笑う
歩峰トーシュも笑った。
ノイマ舞はオカマだった。

道明寺羅門とコシヒカリは分離され。
いずれ七曲真哉によって調理されるだろう。

コシヒカリパンデミックは回避されたのだと皆が知った。

最終更新:2014年08月13日 20:23