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第一部隊SS【一発生きてみろ。】


―――『魚沼産コシヒカリとコシヒカリ・パンデミックについて、解明している情報を説明しておこう。』―――
須能・ジョン・雪成の口から吐き出される情報は、緑化防止委員の勝率があまりにも低い事を証明するようなものだった。
―――『魚沼産コシヒカリの親苗は、人間に寄生して宿主の身体能力を著しく上げる。しかも、自分より強い相手との闘いで急成長するというデータもある。現在の風紀委員武闘派の代名詞として使われる鬼無瀬晴観も、コシヒカリの宿主である道明寺羅門に歯が立たず倒されたという話だ。簡単に言い換えてみれば、君達の勝利する可能性は限りなく小さいということになる。』―――
無論、逝谷しおりの能力を上手いタイミングで使い、夜魔口靴精の能力で強化した蹴りを放つ事で、道明寺を倒すことが出来るかもしれない。
しかし、それも希望的観測に過ぎない。
―――『また、道明寺に倒され…いや殺された者の身体にはコシヒカリの小苗が寄生する。そうすると、コシヒカリの奴隷として身体を乗っ取られるのだ。
幸い小苗に攻撃されても、寄生はされないし、小苗に寄生された者達の一人一人の戦闘力は君達より低い。しかし、彼らは親苗のためだけに行動を続ける。それはまるで女王アリと巣のために命懸けで戦う働きアリの如くだ。弱くても君達を全力で邪魔して来る事に間違いは無い。だから彼らが元々希望崎学園の生徒だったとしても、気にせず倒してもらって良い。全ての責任は生徒会長の私にあるのだからな。』―――
最後に須能・ジョン・雪成は、緑化防止委員の取ることが出来る最善策を授けた。乃ち、アンチコシヒカリウイルスかEFB指定兵器の利用方法である。
―――『生徒会室を出たら、すぐにでも職員室に向かえ。バリケードは破ってもらって構わん。そこにあるEFB指定兵器を使うことで、リスクを最小限に抑えて道明寺を倒すことが出来るだろう。
もしも、バリケードが破れない、働きアリ達に足止めされてタイムリミットまでにEFBを使えそうに無い場合、アンチコシヒカリウイルスの使用を優先すると良い。これは使用する際に体内に直接打ち込む必要があるため、道明寺に接近する必要がある。これは戦闘力に特化した魔人では無い君達の場合、非常に高いリスクを伴う。だからこれを使うことは極力避けて、出来るだけEFBの方を使ってくれ。』―――
雪成の指示はそれだけだった。細かい作戦は逝谷しおり頼りらしい。生徒会長に出来る事はEFB指定兵器の使用許可と、作戦後に緑化防止委員各人の願いを叶える事、道明寺の被害を被った者への謝罪くらいだということだ。

雲間から月が覗き、夜の校庭を照らす。普段見ることの出来ない真っ暗な校庭は、怪談に出てくる墓場のようだった。しかしそこに墓石は無く、幽霊も居ない。居るのはコシヒカリに寄生された生徒と教師の群れであった。
透明な窓ガラスから見渡す景色に、夜魔口靴精は溜息をついた。大量のコシヒカリの被害者達。ぱっと見でも50~100人はいるだろうか。その数は道明寺羅門の力をそのまま表していた。
緑化防止委員に集められた者達の魔人能力の中で、攻撃として利用することが出来る能力は自分と逝谷しおりの2人の能力だけだった。逝谷しおりの能力は制約が重すぎる。本人は使う機会があればいつでも使いそうだが、出来れば1度も使わないで欲しい。しかし本当に逝谷が能力を使わないという事になると、自分の仕事が、責任が、一気に増えるということだ。靴精はプレッシャーに慣れて居なかった。
足の震える彼を見て内心を察して甘葛モリオンは彼の肩に手を掛けてゆっくりと揉んだ。
「緊張しない緊張しない。とりあえず今はこの3人は一心同体!心配しなくても大丈夫だよ。」
逝谷しおりもまた、靴精の緊張をほぐすために声を掛けた。
「作戦を考えるのはあたしだから、その辺に不備があったらそれは勿論あたしの責任。あなたの精神状態だって考慮するから心配しないで。完璧な作戦を立てるからね。」
女子二人がここまで靴精に気を使う理由には彼の能力が便利な事もあったが、裏世界の住人でありながらそれを感じさせない彼の繊細さも、どこか二人の母性本能をくすぐっていたのかもしれない。

靴精の震えが収まると、しおりの立てた作戦の説明が行われた。内容はいたってシンプル。
まずブレーカーを落として学校中の蛍光灯を消す。その後モリオンの能力『テレアート』で学校の校舎と自分達の身体を真っ黒に染め、敵から姿を隠す。そして靴精の能力『キック・THE・シューズ』で全員の靴に[静(シーン)]を貼り付けて、敵に気付かれないように職員室まで直行する。この時、しおりと靴精は殆ど目が見えないのでモリオンの眼を頼って階段や廊下を進む。職員室に着いたら、誰かの靴を[静(シーン)]から[穿(ドキューン)]に変えてバリケードに穴を開けて侵入、EFBを入手する。これを達成したら後は道明寺を背後から闇討ちするだけである。
EFBの入手が無理なら、アンチコシヒカリウイルスを手に入れて、[撃(ズドン)]で釘を槌で打つように道明寺の体内にウイルスを打ち込むだけだ。
シンプルで効率の良い作戦に、モリオンと靴精は考える様子も無く乗った。2人にはそれ以上の作戦を考えることが難しかったからだった。

生徒会長が学園全体の電気を担うブレーカーを落とした。こうして希望崎学園を照らす存在は月だけとなったが、やがて『テレアート』によって学園中(モリオンの入った事のある場所のみ)の床、壁、天井、窓ガラスが漆黒に染まった。そして緑化防止委員の3人の内、逝谷しおりと夜魔口靴精の全身が某探偵漫画の犯人の如く漆黒に包まれる。術者である甘葛モリオン本人は、自分の顔を染められないので、とりあえず目立つ銀髪を隠す為に黒い帽子を被った。
続いて夜魔口靴精の『キック・THE・シューズ』で緑化防止委員全員の靴に[静(シーン)]が付与された。[静(シーン)]が付与されている間は、付与された人の身体から発される音が、それ以外の人に聞こえなくなる。つまり、3人が歩いても会話しても、その足音や声は他の人には聞こえないというわけだ。

モリオンの肩を掴んで暗闇の中を進む。校舎の中もコシヒカリに寄生された人が溢れていた。
目の前に※人間が居ると聞いてしおりが杖を構える。彼女の戦闘能力は真っ正面から戦えば無いに等しいが、相手に気付かれていない今のような場合、一般人一人を殴り倒すくらいの力はあった。※人間の頭に杖を振り下ろす。その手をモリオンが掴んだ。
「…何をしているの?」
「今まで一緒に過ごしてきたクラスメイトとか先生を殺すなんて嫌だよ。」
「何を言ってるの。こいつらはもう死んでるんだから殺すわけじゃあ無い。あたしは動きを止めようとしただけ。」
「生きてたらどうするの?」
「さっき会長だって『殺された』って言ってたんだから死んでるでしょ。」
「『寄生』とも言ってたよね。『寄生』っていうのは、寄生生物も宿主も両方生きている状態だよ。辞典とかで調べてごらん。まあ、詰まる所私はあの人達は操られてるだけだと思うんだけどね。」
「へえ、面白いじゃない。じゃあこいつらを放っておくつもり?いくら生きていてもこいつらはあたし達の邪魔をしてくるのよ。それでも?」
「うん。だって私達の姿は見えないし、声も足音も聞こえないんだから、邪魔って言ったって大したことなんか出来ないでしょ。」
「分かった。今はあなたの案に乗ってあげる。見つからないように進みましょう。」
緑化防止委員は、※人間にぶつかって見つからないようにゆっくりと職員室に向かった。
職員室に着いた時には※人間達がバリケードを分解し、中を出入りしていた。※人間達に気付かれないように室内を少しずつ黒く染めて職員室に入ると、EFB指定兵器が収められていたであろう金庫は開けられ、中は空になっていた。靴精が疑問を口にする。
「※人間達がやったのかな?」
「手際が良すぎる。きっと道明寺がバリケードを破るようにこいつらに指示を与えたんでしょ。」
ここまで言うと、しおりは暗闇の中でモリオンを振り返り、どこか挑戦するように言った。
「まだ、手を出さないつもり?」
暗闇の中なので相手に表情を見られることは無いはずだが、モリオンは少しうつむいて「まだアンチコシヒカリウイルスがあるから。」とだけ、返して職員室を出るように促した。
職員室を出て部活棟に向かう。しかしまたしても※人間の邪魔が入ったようだった。※人間達は巨大なホースのような物を部活棟に向けて構えていた。
「部活棟が…凍ってる…」
モリオンが初めて行った場所のため、そこはまだ黒く塗られていなかったが、白く染まってはいた。
つまり、EFBによって、部活棟の大気は真っ白い固体に変えられていたのだ。
「道明寺は僕たちの作戦を読んでいたのかな?」
「違うと思う。もしそうならば、直接あたし達を倒しに来た方が早い筈だ。少なくともあたし達の能力を知っているのであれば、の話だけど。」
「つまりどういうこと?」
「道明寺はあたし達のことは知らないけど、自分を倒す事の出来る可能性、つまりEFBやアンチコシヒカリウイルスの存在は知っていたということ。それを※人間達に指示を出して潰させたんだろうね。」
しおりがもう一度モリオンを振り返る。今度は暗闇の中では無かった。
「※人間達はあたし達をこんなに邪魔してくれたよ。おかげであたしの作戦は失敗だし。どうしてくれるの?あの時※人間達を倒しながら進んでれば、もっと早く職員室にも部活棟にも着けたんだけどねぇ?」
モリオンは何も言えなかった。下を向いて黙っていると、しおりが彼女の顎を掴み、無理矢理目を合わせた。
「あなたが生きてるか死んでるか分からない奴らを心配したばかりに、世界中の生きてる奴らがピンチなんだけど?どうしてくれるのかな?あたしも寿命がどんどん縮んでるんだけど。」
険悪な雰囲気が出来上がっている横で、靴精が震えて独り言を言っていた。
「ああ、僕はこんな時に怖くて何も出来ないんだ。親父(組長)ならこんな時どうにかしてくれるのに。いや、頼っちゃ駄目だ。」
『親父』という言葉を聞いた時、モリオンの目付きが変わった。じっとしおりの目を見返して、しおりが自分の顎を掴んでいる手を振り払った。
「『メメントモリ』って言葉知ってる?」
「え?」
「人はいつ死ぬか分からないし、今日を楽しもう、みたいな意味なんだけどね。あなたずっと自分の寿命とかひけらかしてるじゃない?でも今の私達って皆夜明けには死ぬかもしれないし、状況は同じじゃない?」
「そうよ、あなたのせいで更にピンチだしね。」
「うるさい!!」
初めて見せるモリオンの強い姿勢に、しおりは身体を強張らした。
「とにかくね、あれなの。ムカついてるの。ユキさん、あなたの生徒会長に頼んだ願い事は名誉みたいだね。なんで病気を治す方法を見つけて欲しいって言わなかったの?」
「だって、この病気は原因も分かってないし、治療法なんて…」
「それもあるかもね。でもこの魔人だらけの世界で病気を治す能力が無いっていう方が難しいんじゃないかな?たしかに今まで見てきた能力は攻撃的な物とか性的な物とかが多かったけど、そうじゃない能力の人もたくさんいたよ。頭の良いあなただってそれくらい分かるはずだよ。じゃあなんで病気を治そうとしなかったか。
あなたは死を望んでいる、私にはそう見える。」
「違う!」
「違くない。あなたは悲劇のヒロインぶりたいだけ。死が目の前にあることをチラつかせてね。まあ、今は皆目の前に死があるわけだけど、アハハ。
死んだこと無いと分からないかもしれないけど、辛いよ?死ぬのは。
死の本質も知らずに皆に見せびらかして、それだけじゃなく家族まで悲しませやがって!
家族がいるなら大切にしてみろよ、バーカ!」
撃ちつづけられる言葉の弾丸にしおりが涙目になった頃、モリオンはしおりと靴精に背中を向けて走り出した。
「作戦を失敗させたのはゴメンね。じゃあ私は道明寺と戦ってくるわー。アハハ、アハアハ、アハハハハハ。」
暗闇の中へ消えて行った彼女をしおりと靴精は立ち竦んで見送った。
「レープーラーコーオーンー君?」
靴精が肩をビクリと震わせる。
「ははは、はい!?」
「殺そう?」
「ななな、何をですか?ままま、まさかモリさんを?」
「まさか。道明寺羅門をに決まってるでしょ。あんな奴にまかしてらんない。あたし達でぶっ殺してやろう。」
「分かりました、殺りましょう。僕はどうしたら良いんですか?」
「もう目だけは良い人がいないから暗くなくていいや。とりあえず光を出せない?」
「それじゃこの[輝(ピカー)]を…」
しおりの靴の文字を貼り替えると、廊下が端まで見渡せる程明るくなった。
廊下が明るくなると光に反応した※人間達が2人に近寄って来た。2人は※人間達の攻撃に構えた。
「さっきまでこいつを倒すのを躊躇ってた原因もいないわけだし。
……それじゃあヤりますか。」―――

―――
一方その頃のモリオン
「私のバカー。死のうとしちゃだめだよって言おうとしてたのに。あー言っちゃった。あそこまで言ったらもう1人でやるしかないよね。まあ、しょうがないか。」
モリオンは芸術校舎へ向かっていた。道明寺と闘うための武器探しだ。入ったのは美術室と化学室。
「……すいません、拝借します。」目に入った物を鞄に詰め込んで行く。最後に掃除ロッカーの中から取り出したモップを掴むと、校庭に向かった。

道明寺羅門は校庭にいた。※人間達からの報告を待っていたのだ。コシヒカリに寄生された者は、近付けば言葉を発すること無く会話することが出来る。
先程生徒会の生徒に小苗を植え付けた所、そいつは『緑化防止委員』という物の存在を話してくれた。緑化防止委員は生徒会長が作り出した自分の目的を阻止するために結成した3人の魔人からなる委員会だそうだ。会長の話が曖昧なため能力は判明していないが、EFBやアンチコシヒカリウイルスを使おうとしているようなので、それらの排除を※人間達には命令しておいた。自分を排除しようとする者がここにいる。その存在を探すように※人間達に命じて学園内を徘徊させたが、校舎が真っ黒に染まってしまい、見つけることが出来ない。それどころか先程から誰も帰ってこない。敵に殺されたのだろうか。
そのような事を考えていると、校舎のドアが開く音がした。月明かりに照らされて1人の生徒が外に出て来るのが見えた。自分に向かって真っ直ぐ進んで来る。報告か?違う。あいつには※人間独特の緩慢な動きが無い。
(あいつは、敵だ。)
道明寺は自らの身体に生えている稲穂を槍状に固めて、向かって来る敵に弾丸のように打ち込んだ。しかし、その身体に稲穂が刺さっているのを見る前に、目の前が真っ暗になった。
(月明かりが消えたのか?)

甘葛モリオンは校庭に出ると、道明寺羅門の姿を確認した。道明寺はすぐにこちらに気付いたが、自分が敵か味方か計りかねているようだった。相手が判断に迷っている間にその瞳を覗き込む。そして能力を発動する。
『テレアート』。道明寺の眼そのものを真っ黒に染めた。こちらが能力を発動する直前に敵味方の判断を終了したらしい道明寺から、何か飛び道具が放たれた。しかし遠くからの攻撃だったので、得意の目の良さでこれを回避する。道明寺は今、目を塞がれている。そして自分は靴精の[静(シーン)]を付与した靴を履いている。視覚と聴覚では、自分にアドバンテージがあるのだ。そしてもう一つのアドバンテージを作るために、鞄から取り出したソレを、道明寺目掛けて投げつけた。

(月明かりが消えたのでは無い。先程から校舎が黒く染められているのと同じ状態。つまり、今俺の目が染められた。)道明寺の判断は早かった。そして、自分に近付き、皮膚に触れた物に気付いた時、それが敵の攻撃だと思い、音速で切り裂いた。目には見えないが、金属の缶を切り裂いたようだった。そして切り口からは何らかの液体が飛び散り、身体に染み込んで来た。
(頭がグワングワンと揺れるようだ。この匂いは、トルエン!?)

美術室から持ってきたトルエンの缶を、道明寺が自ら破壊して液体を浴びてくれた。作戦の第一段階は成功だ。あの強い匂いのおかげで、道明寺の嗅覚は今、使い物にならない。
トルエンは、かの有名なアンパン遊びのアンパンの材料であり、経口もしくは経皮摂取により、中枢神経に障害を残す。
モリオンはもう一つ持ってきたトルエンの缶の中身をバケツに開けて、そこにモップを突っ込んだ。そして、道明寺の周りにモップを筆のように使って飛沫を飛ばす。最後にバケツの中身を道明寺目掛けてぶちまけると、そこから離れた。

視覚と嗅覚、そして中枢神経へのダメージ。また、聴覚からは敵の位置を補足出来ない。
(今使えるとしたら、触覚だけだ。)
道明寺は身体中から稲の根を生やし、辺りを探った。周囲2m、いない。3m、いない。5m、いない。8m、熱い。

トルエンの缶には、注意書きがしてある。”火気厳禁”と。
モリオンは化学室から持ってきたマッチに火をつけて、道明寺から伸びてきた根にそれを投げた。

ボッ

道明寺の身体が火に包まれる。身体中に掛けられた燃料のせいで、根の端が燃えただけでも火が全身に回ったのだった。
(熱いな。しかしこれだけで俺は倒せん。この程度ではな。)
道明寺の上半身が大きく膨れ上がった。
(今宵は満月、目の前が暗いのは奴の能力のため。月があるなら『光の使徒』は、使えるな。)
道明寺の下半身からは根が伸び続ける。半径10m程を根で埋め尽くすと、両手を広げて月光を全身で浴びる。
既に火は弱まり、パチパチと情けなく鳴くだけだった。

モリオンが今回狙っていたのは、道明寺を衰弱させる事だった。朝までに彼のエネルギーを使い尽くさせれば、自分でもなんとか倒せるかと思っていた。火を付けた後は、逃げ回ろうと思っていたが、まさかあれ以上成長するとは予想外だった。
目の前にいるのは、最初の10倍くらいの大きさに膨れ上がった道明寺羅門。両手は20m程の長さの先が何十と分かれた蔓となり、両足から太い根を張り、地面から栄養を吸い取っている。
月を『テレアート』で黒く染めて置けば良かった。今さらそのような事を言っても遅いのは、一目瞭然である。

道明寺が取った作戦は、足元の敵を片付け、出来るだけエネルギーを消費せずに夜明けを迎えるというものだった。月の光は太陽光の約50万分の1。『光の使徒』を使っても成長には限界があった。『光の使徒』を限界まで使ったことで、エネルギーは底を尽きかけている。残っているのは戦闘力の高い魔人を10体倒すことの出来る位のエネルギーだった。
(もっとも、敵は残り3人のはずだ。それが分かっているからこの策を使ったんだ。早くゆっくりと光合成がしたい。)
道明寺は小さな敵を見つけるため、丹念に根を這わせた。
(こいつは一度瀕死まで追い込み、死ぬ直前に小苗を植え付けて仲間の情報を吐かせてやる。)

うねうねと道明寺から伸びてくる根を避け、飛び越し、くぐる。
自慢では無いがモリオンの持つ戦闘能力は、魔人のなかでも本当に中ぐらいであり、眠くて空腹の今はもはや中の下と言っても良かった。目の良さを駆使して根を避け続けるものの、身体が追いつかなくなってくる。
チッ
根が身体をかすった。目が見えない道明寺の顔が、こちらを向いた。
ズバッッ
打ち出された刃のような稲の葉は、正確にモリオンの心臓を狙っていた。
紙一重で身体を反らすも、完全に避けきることは出来なかった。左腕が地面に落ちる。続いて打ち込まれた葉は腹に突き刺さり、出血で頭がボゥっとする。
「ここまでか、復讐果たせなかったよ。お父さんゴメン。あと、最後に迷惑かけた人達には謝りたかったな。」
足を止め、目を閉じて敵の攻撃に備える。もう殺すなり寄生するなり勝手にしろ。
身体が大きく揺らされた。風を切る感覚がする。どうやら持ち上げられているようだ、このまま地面に叩き落とすつもりか。
「大丈夫?なわけないわね、こりゃ。」
女の人の声が聞こえた。聞いたことがある声、謝りたいと思っていた人の声。目を開けるとそこには自分を抱える逝谷しおりがいた。

ドゴォーン
「当たった。当たりましたよー。」
頭上から声がした。夜魔口靴精が黒板消しクリーナーを道明寺に蹴り飛ばして頭にヒットさせたようだ。道明寺は急に現れた敵に動揺していた。視覚は相変わらず使えなかったからだ。道明寺は新たな敵を攻撃しようと黒板消しクリーナーが飛んできた方向を殴りつけたが、窓ガラスが割れるばかりで敵は見つけられない。それも当然、あろうことか先程靴精がいた教室の壁は穴を開けてあり、隣の教室にいつでも逃げ込めるようになっていた。壁の穴は全ての教室に開けてあり、廊下に出ること無く他の教室に出入りが出来るようになっていた。これを発案したのは逝谷しおりである。[撃(ズドン)]で教室の物を次々と撃ち込み、場所がバレたか、撃つ物が無くなったら別の教室に簡単に行けるようにしたのだ。

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。」しおりに抱えられて四階の教室まで運ばれたモリオンは謝り続けた。
「全く、あたしの作戦をおじゃんにしてくれちゃって。」
「ひいいいぃ。」
「怒る気も失せたよ。手の掛かる妹ってこんな感じなのかね。なんだかお姉さんになった気分だわ。」
フフッと笑ってしおりは校庭の方を向いた。その首筋にあった痣のような模様が、少し短くなっていた。
「能力、使ったの?」
「何言ってるの。モリ、貴方を助けた時、凄く早く動いたの分かったでしょ。」
あの時、しおりは道明寺の腕(蔓)が振り下ろされる速度と自分自身の速度を入れ替えて、弾丸のような速度でモリオンを運び出したのだった。
「私の為に…」
「さっきあなた、死ぬのは辛いとか人を悲しませるなとか言ってたじゃない。あれは嘘だったの?」
「いや、違う…」
「あたしの人助け精神だって、目的がなんであれ本当だよ。校庭で闘ってる所を見ていて、なんだか貴方を放っておけなかったの。お姉ちゃんがあたしの寿命が縮むのを見た時も同じ感覚だったのかもね。」
靴精が次々と机だの椅子だの黒板消しだのを飛ばしているのを見ながら、それだけ言ってしおりは窓から外を見つめた。

(大したダメージではないもののこんなに頭にボコスカ物をぶつけられては戦闘も集中出来ん。見つけたはずの敵も居なくなるし、ここは※人間達を使おう。)
道明寺は校舎中の※達に呼びかけた。血の匂いがするはずだ、そこへ集まり、まだ寄生されていない奴を連れて来い、と。
しかし、※人間達が動く様子が無い。攻撃が来ない方向の校舎に頭を近付け、※人間達の意識を探る。廊下にたくさんいるのを見つけるが、誰も動こうとしない。

夜魔口靴精の仕事は、道明寺に物をぶつけるだけでは無かった。モリオンと別れた靴精、しおりは、※人間達の靴に[浮(プカプカ)]を付与して、天井に貼り付けていたのだった。
「靴を履いてるゾンビで良かった。」
全ての※人間を動けなくした直後の靴精のセリフである。

結局※人間達は命令を遂行出来ず、動くことも出来なかった。
(役立たず共が…こうなったら皆吹っ飛ばす。エネルギーはギリギリ残っていれば良い。)
道明寺が蔓を滅茶苦茶に振り回そうとした時、目の前に人が飛び上がる姿が見えた。

緑化防止委員の最後の作戦が始まった。まず、甘葛モリオンがわざと道明寺の目にかけていた能力を解除する。そして、道明寺の正面に飛び上がる靴精のアニメーションを映し出す。
道明寺は目の前に急に現れた敵の姿を思い切り殴りつけた。しかし敵は加速し、道明寺の拳(蔓)を避けた。
『命知らずの悪戯部屋』
逝谷しおりの能力が発動された。道明寺の攻撃の速度は、夜魔口靴精が背後を飛び上がる速度と交換された。
『キック・THE・シューズ』
[跳(ピョン]を付与して道明寺の後頭部近くまで飛び上がっていた靴精の靴には[穿(ドキューン)]に付与し直された。
[穿(ドキューン)]、これは無限の攻撃力、貫通力を靴に付与するものであった。しかし、弱点が有った。普段地面に足を着けている時に使えば重力に逆らえず地面を貫通し、その靴を履いている人はマグマやマントルに飲み込まれる恐れさえある。靴自体の攻撃力だけを上げるので、他は弱いままという弱点もあった。使い勝手が悪く、普段は使う機会が無いが、今、使う機会が目の前にあった。
満月に影が出来た。靴精の影が月と重なり、道明寺の顔にその影が映り込んだ。道明寺は靴精に気が付いた。
ここで道明寺が靴精を攻撃すれば、道明寺にも勝ち目があっただろう。靴が道明寺の攻撃を貫通しても、靴精の身体に攻撃が当たり、倒されることも十分考えられる。
しかし、道明寺は先程死にかけの敵一人が居なくなったこと、自分の攻撃が当たらなかったことを思い出し、少し弱気になっていた。
道明寺は防御を選んだ。かつての腕で後頭部を覆ったのだった。しかし矛盾の言い伝えに出てくる無敵の矛の前に普通の盾を構えてどうなるものだろう。無限の攻撃力の前に有限の防御力を携えてどうなるだろう。
道明寺の負けが、決定した。
道明寺は脳を打ち破られ、親苗を粉砕されて、20m近くまで膨れ上がった身体を校庭に横たえた。
学園中の※人間達も守る対象が、従う対象がいなくなり、意識を失ったようだ。

靴精は能力を解除すると地面に華麗に着地し、生徒会長の名を呼んだ。
「雪成さん、早く救急車を!重症者がたくさんいます!」

四階の教室には能力の使用による身体への負担で倒れたしおりと失血で気を失ったモリオンがいた。

廊下には、気絶しながらプカプカ浮いている※人間達が数百人いた。

夜明けまであと4時間以上を残し、魚沼産コシヒカリの親苗を破壊する任務は終了したのだった。
―――
3日後
逝谷しおりは病院のベッドに横になり、親族の人々に囲まれていた。
あの任務が終わった後、背中の模様は、3mmまで縮んでいたのだった。
「しおり、あなたは私達の誇りだよ。」
「世界を救う英雄だなんて、全く自分の身も気にせず…でも、本当に良い子に育ってくれて。」
皆の色々な言葉を聞きながらしおりは目を閉じる。この世界ともお別れだ。自分は、役に立てただろうか。
そのような事を考えているうちに時報が鳴る。
『ポーン、午後11時59分40秒をお知らせします。』
あと20秒で、私は死ぬ。
シクシクと泣いていた皆の泣き声がだんだんと大きなものに変わっていく。
『ポーン、午後11時59分50秒をお知らせします。』
さようなら、皆。ありがとう。
『ポーン、午前0時丁度をお知らせします。』
あれ、意識がある。これは、死んで幽霊になったのだろうか。しかし、目を開けて皆を見回すと、皆が驚いたような顔でこちらを覗き込んでいる。

「うわーん死なないでお姉ちゃーん!!」
銀髪で隻腕の少女が病室に飛び込んで来てしおりの胸に顔を埋めた。
「は?モリ?」
「なんちて、ごめんねユキさん。首筋の模様に細工させてもらったよ。」
「え?」
「本当より短く書き直したっていうか…」
「どういうこと?」
「まだあなたの寿命は一週間残ってるの。こうでもしなきゃ家族との時間も過ごしてくれないと思って。また事件でもあったらどうせすぐそっちに行くんだから。」
「一週間も?」
「あと、私の生徒会長に頼む願い事は『逝谷しおりの病気を治すこと』に変更したから。」
「復讐はどうしたの?そのために緑化防止委員に成ったんでしょ。」
「あの時ユキさんに助けてもらってなければ私は死んでた。死んでたら復讐なんて出来やしないでしょ。これは私からの命の恩人への誠意だから。
しかも私だけじゃなくてレッ君も生徒会長に頼んでくれたんだよ。ね。」
病室の外から何かに怯えるような様子の靴精と、同じく怯えているようなイカツイ男達が入って来た。
「死なないで、しおりさん。僕も君が心配だったんだ。」
「レプラコーン君…」
「レッ君は自分の組の兄貴達にも掛け合って力を貸してもらったんだよ。凄い気合でしょー。」
「うん。僕も大切な人を失うのはもう嫌だから。」
「弟分の友達がピンチなんでしょう。あっし達もいくらでも協力しやす。姐さん!」
「もー。姐さんはやめてよー。」
「(兄貴達まで気迫で脅迫したモリさん怖え。)」
更に車椅子の少女が1人病室に入って来た。
「初めまして、鬼無瀬晴観という者です。」
頭をぺこりと下げてしおりに近づく。
「あなた方は命の恩人です。私は脳内に魚沼産コシヒカリが寄生した際に脳の一部に傷が付いて、歩く事が困難に成ってしまいました。私の他にも寄生された際に身体に障害を残してしまった人はたくさんいます。そしてその中にはいっそのこと殺して欲しかったなどという輩もおります。しかし私は感謝しているのです、あなた方が私を生かしてくれた事を。是非恩返しをと思い、そこの2人と話した所、このような結果に落ち着きました。」
鬼無瀬晴観が手を叩くと、廊下から1人の男性が入って来た。この病院の病衣を着ており、髪の毛は随分後退していたが、そこには見覚えのある面影があった。
彼は1日の大半をしおりを治療出来る魔人の調査に費やし、ストレスで入院していた須能・ジョン・雪成だった。
「…君たちに良い知らせがある。」

―――終わり。