甘葛モリオンプロローグ


放課後、甘葛モリオンは図書室で調べ物をしていた。希望崎学園の図書室は広い。普通の学校の図書室とは段違いの量の資料がある。
今見ているのは鉱物に関する資料である。調べているのは自分の家に強盗が入った時に奪われた鉱物について。父の持っていた資料や書いた論文は、強盗の犯人が持ち去ってしまった。
とにかく鉱物の情報の詳細が分かれば強盗が鉱物を売り捌いたルートを見つけ出し、その正体も暴けるかもしれない。
売り捌いたかどうかは分からないが、警察もきっとそれ位の事は調べているだろう。それでも、調べずにはいられなかった。
少しでも、少しでも多くの犯人の手掛かりになる情報が欲しい。そう願ってまた次の資料に手を伸ばした。今日既に十五冊目の資料である。
図書室に入った時には明るかった外が、とっくに暗くなっている。腹も減ってきた。時計を見ると11時30分を回っている。
「ここって何時まで開いているんだろう。」
疑問に思いながらも目を資料に戻す。こんなに遅くまで残ったのは初めてだが、図書委員や警備員が注意に来てはいない。校則は忘れたが、まだ学校に残っていても良いのだろうか。
そのように考えながらページをめくっていると、図書室の入口から足音がした。ようやく注意しに誰かが来たのか。振り返って入口を見ると、何やら顔を赤くして汗をだらだらと流している男子生徒が立っていた。
よほど怒っているのかと驚愕するが、だったらもっと早く注意しに来れば良いのに、とも思う。男子生徒が口を開く。
「生徒会長からの伝達で、緊急の用事ということだ。一緒に来てもらおう。」
よく見ると生徒会の腕章をしていることが確認出来た。
そして生徒会長に呼ばれた、ということは生徒会長から直々にお叱りを受けるということか。今日は素直に帰るから明日にして欲しいと思い、鞄を背負って生徒会役員の脇をくぐり、校門へ向かう。
「説教は明日でもいいですか。今日は腹も減ったし眠いんで。」
校門を抜けようとした所でむずと腕を掴まれる。そんなに許されないことをしたのか?そう聞く前に生徒会役員が頭を下げた。
「頼む、力を貸してくれ。学校が、世界が滅亡の危機なんだ。」
いきなりの世界滅亡宣言に頭が追いつかない。図書室で飯抜きでずっと本を読んでいたから尚更だ。
「理解不能理解不能理解不能理解不能」本音を呟く。
「とりあえず生徒会室に来てくれ。生徒会長からの依頼だ。」
半ば無理矢理生徒会室に連れて行かれる。


須能・ジョン・雪成「園芸部部長のせいで世界がヤバイ。力貸せ。報酬やる。」
要約するとそういう事になる。前金として生徒会長から受け取った夕飯がわりの黒飴を舐めながら報酬の事を考える。生徒会で叶える事の出来る願いならなんでも叶えてくれるらしい。
『強盗犯への復讐の場を用意する。』
このような願いが頭に浮かんだ。口の中の飴を噛み砕いて飲み込む。こうして甘葛モリオンは、生徒会長に交渉を持ち掛けたのだった。
最終更新:2014年08月02日 21:37