[本編]ジャブローで撃ち落とされた女ジオン兵が…1


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2 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/27(土) 23:07:19.42 ID:4bbA3AcR0
喉はカラカラだし、お腹も空いたし、全身はまだひどく痛む。昼はじっとりと張り付くような湿り気を帯びた暑さに襲われ、闇夜には響き渡る得体のしれない獣の声におびえながら、私はもう2日、このどこだかもわからない、熱帯雨林の中をさ迷い歩いている。出征前に気候やなんかについては、もちろん一通り教育は受けてきたけど、聞くのと体験するのとでは、こんなにも違うなんて。
―――それにしても
 私はそう思い直して空を見上げた。これでも、パイロット。幸い、脱出する機体から装備品一式は取り出すことができた。その中のコンパスと航法の学科でならった星の読み方を頼りに、とにかく北へ進んでいく。まぁ、コンパスなんて、コロニーや宇宙では、使ったことないから、初めてだけど。

ギャーッギャーッ!

び、びっくりした…今の、何?鳥かな?すごい近かった…は、離れた方が、良いかな…
急に動物の大きな鳴き声が近くで聞こえたものだから、心臓が止まった。それから、暗闇の森の中から得体のしれない恐怖感が私を襲って背中を伝っていく。
 拳銃を引き抜いて、携帯ライトとコンパスを頼りに、夜営ができそうな場所を探す。
 無謀だったんだ、こんな作戦。第一、空挺降下するのに、対空砲の位置や数をきちんと把握していないなんておかしいにもほどがある。それでは、撃墜してくれと言っているようなものじゃないか。連邦はこのジャングルの中に、どれほどの規模の兵器と兵員を持っているのか、事前に調査したんだろうか。仮に、50機のモビルスーツを投入して勝てる計算だったとしても、降下に使われたガウ攻撃空母はたったの18機。護衛の戦闘機はもっとたくさん張り付いていたけれど、対空砲火を浴びてはひとたまりもない。敵にしてみれば、50機のモビルスーツと戦う以前に、18機のガウを撃墜すればそれだけで勝ててしまうのだ。事実、私の搭乗したザクを搭載していたガウも降下が始まる前に敵の対空砲の直撃弾を受けて炎上。動力をやられてコースを外れ滑空をし始めていた空母から無我夢中で飛び降りたけれど、そんな状態で訓練のように落下速度をバーニアでうまく調整できるはずもなく、挙句には敵戦闘機に撃たれまくり対空砲火を浴びまくり、降下中に撃っていたマシンガンはとんでっちゃうし、半分衝突みたいに地面に降り立った時には、機体はもう使い物にならなくなっていた。訓練では、鹵獲されないようにと自爆させる手順も教わったけど、自爆に必要なモビルスーツの動力部すら機能していなかった。幸い落ちたのが沼地で、機体自体は、沈んでしまったから良かったけど。この作戦を立案したなんとかって将校、兵隊を駒くらいにしか思ってない士官学校出のボンボンなんだろう。
 木々の間を抜けると、開けた場所に出た。川だ。このあたりなら、夜営できそうな場所もあるかもしれない。そう思って、拳銃を仕舞い、あたりをライトで照らそうとしていたら、何かが匂った。なんだろう、これ…煙…何かが燃えているにおい…
 次の瞬間、何か固いものが背中にゴリッと押し付けられた。

3 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/27(土) 23:13:37.41 ID:4bbA3AcR0
「ひぃっ!」
 思わず声が出てしまう。
「静かにしろ」
 しまった、敵!?そう悟ったときには、背後から相手の腕が伸びてきて、私の口元を覆った。
「騒ぐな、動くな!死にたいのか!」
 敵は、小さな声で、私の耳元でささやくように言うとその手を離し、私の持っていたライトで5メートルくらい先を照らした。
 そこには、何かがいた。なんだ、これ?ごつごつしてて、黒っぽくて…大きい…息、してる。生き物だ。こんな大きな…そうこれは確か、動物園で見たことがある、ワニだ!
「このままゆっくり下がるぞ…」
 声の主はそう言って私の腕をつかむと、一歩、また一歩とワニから遠ざかる。しばらくそのまま後ろ向きで歩くと今度は
「足元、気をつけろ」
と言い添えて、いつのまにか背後にあった、2メートルもない崖の上へ私を引っ張り上げた。
「ふぅービビったぁ」
 声の主、それは女性だった。彼女は、そう大きな安堵の声を上げてその場に座り込む。
 手には拳銃、タンクトップ姿だが、腰から下の恰好は、汚れているけれど、何度か見た、地球連邦軍の軍服…っ!
 私はとっさに腰に差していた拳銃を引き抜こうとした…が、ない!まさか、落として!?
「あぁ、これは預かってるよ」
すぐに彼女の声がした。見ると彼女の腰のベルトに、私の拳銃が差さっていた。あのとき、奪われてしまったんだ…
 まずい、非常にまずい。どうする、逃げる?戦う?相手は同じ女性。取っ組み合いなら勝てるかもしれない。勝てはしなくても、彼女の拳銃を奪うことができれば…
 決心して、飛びかかろうとした瞬間、彼女はベルトから私の拳銃を引き抜いた。とっさに、足が止まる。彼女は、私の方を見るでもなく、拳銃をしげしげと眺めて
「へぇ、写真でしか見たことないけど、ジオンってこんなん使ってるんだね」
と物珍しそうに言い、それから
「握った感じは、ジオン製の方が好きだなぁ」
と笑いながら弾倉を引き抜いて、そこから一発だけ取り出すと、機関部に装てんして弾を全部抜き取った弾倉を戻して私に投げてよこした。
「この森、あんまり安全じゃなんだ。持っときな。あ、自殺とか、アタシを撃とうとかは、なしにしてくれよ。生身の死体見るのイヤだし、アタシはまだ死にたくはないんでね」
 彼女はそう告げるとたき火とそばまで歩いていき、木の枝のようなものを一本手に取って、その場に座り込んだ。
「あー、ちっと焦げちゃった。あんたのせいだぞ?」
 不満なのかどうなのか、そう言った彼女は笑っていた。
 彼女が手にしたのは、魚だった。この川で取ったのだろうか?いや、ダメだ、そんなことを考えている場合じゃない。こいつは敵だ!
 私は、彼女が寄越した拳銃の銃口を、彼女に向けた。
 沈黙が、あたりを包む。
「一発で、頭当たる?」
彼女は、まるでとぼけた様子で私に尋ねる。
「この距離なら、外さない」
ひるんでは、ダメだ。
私が答えると彼女は困ったような表情を見せて
「そっかぁ。んー、こんなナマズが最後の晩餐になっちまうのか…悪くはないけど、もうちょっとうまいのが良かったなぁ」
とつぶやいた。なぜ?銃弾入りの拳銃を渡せば、こうなることくらいわかるでしょ?なんで、そんなに困った顔をするの!?
「まぁ、でも、空からおっこって死んじまってたかもしれないんだからなぁ、食えるだけ、ありがたいと思っとくか」
 彼女はなおもそう言って、焼けた魚に食らいついた。香ばしいにおいが私の鼻とお腹をくすぐる。
「頼むよ。せめてこれ食い終わって、満腹になってからにしてくんないか?」
 口をもごもごと動かしながら、行儀悪く私に頼んでくる。
 おいしそう…すなおに、そう思ってしまった。だって二日も食べてない。食べれるものなら、なんだっておいしいだろうに、目の前にはあんなにおいしそうに焼けた魚がある…私も、食べたい。いや、そうじゃなくって。こいつも、お腹が空いたまま死ぬのは、ちょっとかわいそうだ。お腹が減るってのが、こんなにつらいとはおもわなかったから。今すぐこちらをどうしようと思っているわけでもないようだし、食べ終わるまで待ってやっても…
 グゥ〜
 そんなことを考えていたら、匂いにほだされた私のお腹が派手に鳴った。また一瞬沈黙が流れて、彼女が笑った。
「半分食べるか?ちょっと泥くさいけど、味はそんなに悪くない」
 彼女はそう言って、魚を指した枝を私に突き出してきた。
 良いの?いや、待って、何かのワナかもしれない…でも、でも、食べたい…
 私は考えて、拳銃を彼女に向けたまま、おずおずとそれを手にとって、半分をむしり取るように手を引っ込めた。すると彼女は満足そうな表情をして、また自分に残された分の魚を食べ始めた。
 彼女の様子を観察しながら、私も魚を口に運ぶ。パサパサとしていて、独特のにおいがする。けど、なんだろう、これ。鶏肉?うん、鶏肉に近いかもしれない…ささみとか、そういう部位だ。薄味だけど、おいしい、おいしいよ、これ。
 私は気が付いたら、無我夢中で魚にかぶりついていた。ぼろぼろと崩れやすくなっているから、両手でちゃんと持たないと…ん、おいしい。
 あれ、両手で?…あ!拳銃を!
 私はあわててあたりを手探った。手の甲に固いものがはじけた感覚があって、かつん、かつん、と音がする。そして最後にトポンと言う音も。
 私は思わず、彼女を見た。すると彼女も私の方を見ていた。
 知られた。拳銃を落としたことを…すると彼女はすぐさま自分の拳銃を引き抜くと、立ち上がった。
 殺される…っ

4 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/27(土) 23:14:44.52 ID:4bbA3AcR0
魚を取り落として、私は尻もちをついてしまった。に、に、逃げなきゃ…そうは思っても、とっさのことで足が動かない。そんな私に彼女は手を伸ばし、私の口を覆った。そして耳元でまた、囁くように
「静かに」
と言って、あたりを見回した。それから
「立って!」
とまた小声で言うと、私をたき火の方まで引きずっていく。彼女は息を殺して
「あいつら、水音には敏感なんだ。あたり、気を付けて…」
と緊張した様子で言う。
「あ、あいつら?」
私は思わず聞いた。
「クロコダイルだ。さっきみただろ!?」
「あ、ワ、ワニ!?」
「そうだよ!しゃべんな!警戒しろ!」
彼女は私を叱りつけるように言った。
どれくらいの時間がたったかわからない。その間、動物の鳴き声はしても、何かが近づいてくる気配はなかった。
「ふぅ、大丈夫そうだ」
彼女は改めてそう言うと、どっかりその場に腰を下ろした。私も、なんだかよくわからず、ペタンと座り込んでしまった。なんだかまだ、脚に力が入らない。
「あーあ、びっくりして魚ほうりだしちまったじゃんか、もったいない」
彼女はそう言って、自分が取り落とした魚を拾い上げ、まだ汚れていない部分を探して口に運んでいる。
「こ、殺さないの?」
「あ?」
わけがわからず、彼女に尋ねてしまう。
「あークロコダイル?」
「わ、たし、を」
「あぁ、そっちか」
彼女は少し考えるように宙を見つめてから
「あんたを殺して戦争が終わるんなら、喜んで[ピーーー]よ…あ、でもそしたら死体を引っ張ってかなきゃまずいか?証明できねえもんな。それは嫌だな。死体運ぶのなんかまっぴらだ。死体じゃなくたって、こんな森ん中、人ひとり運んで歩くなんて、ごめんだな。うん、じゃぁ、殺さない」
と割と真剣な表情で私に告げた。理解できない。私は敵なのよ?あなたを殺そうとした人間なんだよ?!
「どうして!?私は、敵!殺せばいいでしょ!」
私は、なぜだか、彼女に強い口調で言っていた。
「騒ぐなって、あいつら耳だけは良いんだよ!…、と、で、なんだ、あんた死にたいの?」
「そ、そうじゃなくて…」
「あー敵兵だから?ジオンが悪で、コロニー落っことしてきて、人がいっぱい死んだから、とか、そういう話?」
「そ、そうよ」
「別にあたしには関係ないしなぁ。どっちが良くてどっちが悪いかなんて考えて戦争やってないし」
「なによ、それ」
「うん?金がほしくって、さ」
「お金?」
「そう!あたしさ、小さいころに親死んじゃってね。で、いろんなとこをたらいまわしにされて生きてきて、で、学校卒業してからは行くトコないから、軍に入ったんだ。身元引き受けてくれるし、戦えば金くれるしさ!」
「傭兵、ってこと?」
「そうじゃないよ、ちゃんと正規軍人さ。なんつうか、さ。ほら、あんだろ、わかれよ」
「わかんないよ」
「あーもうっ!あー、あれだ、やりたいことがあるんだ」
彼女は、なんだかじれったそうな、恥ずかしそうな表情で言った。
「なにを?」
「ここより、ずっと北にいったところに、セブ島て島があってさ!海がすげーきれいなんだよ!あたし昔っから海が好きでね、そういうところで暮らしてみたいなーってずっと思ってたんだ!だから、働いて金をためて、家と船でも買ってさ。魚とって売ったり、ダイビングのンストラクターしたりして生活できたら楽しいだろうなって!」
最初はあんなに恥ずかしがっていたくせに、いざ話し始めたら、なんだか子供みたいにはしゃぎ始めた。なんだろう、この子は。これまで、何人もの連邦の軍人にあってきたけど、こんなに無邪気で、とっぽい人は始めてだ。
「あんたは?」
「へ?」
急に質問してくるものだから、私は変な声を上げてしまった。
「だから、あんたの話。スペースノイドなのか?」
私は、ジオン公国軍の地球方面軍のパイロット。サイド3で生まれ育った。軍人の家系で、父も母も兄も軍人だった。そう、「だった」。父はルウム戦役で巡洋艦と一緒に宇宙の塵に。母と兄は、最近、ラサから転戦した先のオデッサで戦死した。聞いたときはとても悲しかったけれど、軍人だし、覚悟はしていた。だから別に落ち込んでなんかいない。落ち込んで、こんな無茶な任務を受けたわけでもない。単純に、命令が下りてきたから、参加しただけ。
「そっか、あんたも天涯孤独の身か」
私の話を聞くと彼女はそう言ってすこしだけ、さみしそうな顔をした。それから
「家族のことは、残念だったね…あたしが悪いわけじゃないんだけど、一応、殺したのはこっちの身内だ。謝っとく」
と、遠くに視線を投げながら言った。
「うん、仕方ない、戦争だし…」
なんだか、言葉が継げなかった。たぶん、彼女の「残念だった」と言う言葉と、謝罪が、本心からのものだったからだろう。なんだか、気持ちがストンと落ち込んでしまった。
5 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/27(土) 23:17:40.17 ID:4bbA3AcR0
 そんな私を気遣ってなのか、彼女はいろいろと話しかけてくれた。
 私がモビルスーツのパイロットであることや、少尉であると階級を教えると、彼女もまた、戦闘機のパイロットで階級も同じ。被弾した機体をなんとか不時着させてみたものの、基地までの距離が遠く、簡単に帰れないことなどを教えてくれる。それから、彼女は魚取りが好きで、釣り以外にもいろんな方法を知っているんだと話すので、私が趣味は読書だと話すと、「暗いなぁ」なんて悪びれもせずに言った。年齢は22歳だそうだ。私の方が1歳下だ。なんだか、本当に普通の会話で、今が戦争中で、相手が敵軍の兵士だということすら、信じられないくらいだった。でもなんだかくすぐったいのと、なれ合っちゃいけないという変な意識で、名前は聞けなかった。
 ずいぶんと長い間話をしていた気持ちになっていた。不意に彼女があくびをして同時に大きく伸びをした。
「さて、寝るかなぁ。あんたはまた明日、味方探しに行くんだろ?あたしは、戦闘機に積んであったビーコンが直れば救助をひたすら待ってみるけど」
「うん」
そう言われると、なんだかさみしい気もした。でもまぁ、少なくとも、連邦にはこういう人もいるんだというのを知ることができただけでも良いことだろう。
「だったら、ちゃんと休んだ方がいい」
彼女はそう言って、ポンポンとお尻をはたきながら立ち上がった。
「そこに不時着させた機体があるんだ。コクピットの中なら、ゆっくり休めんだろ」
「いいの?」
だって、敵軍に自軍の兵器を見せるなんてことは、機密が漏れてしまう危険性を十分に孕んでいるじゃないか。そんなことまでしてくれるのか、この子は…。
「何日か歩いたんだろ?だったら、こんなジャングルでも、夜中にはひどく寒くなることは知ってるよな。それに、ワニもいるし、ヘビもサソリも出る。最近じゃ数も少なくなっちまったみたいだけど、ジャガーってでかいネコみたいのもいないこともないしな」
確かにその通り。昼間はあれだけ暑いのに、いざ日が沈むとどんどん寒くなっていく。昨日の晩は、墜落のショックと痛みと恐怖と寒さで、寝るになれなかった。
「じゃぁ、お言葉に甘えようかな」
たぶん、この子には機密とかそういうことも関係ないのだろう。私も、これから彼女が案内してくれる先に何があっても他言しないと、内心固く誓った。
 彼女が案内してくれた先には、木々を何本かなぎ倒して止ったと見える戦闘機らしき残骸が横たわっていた。戦闘でも、軍の資料でも良く見る、汎用的な機体だ。ボロボロになった尾翼に「Ω」のマークが描かれている。
「あれ、あのマークは?」
「あぁ、私の部隊名。オメガ隊っつって。まぁ、あたしは中隊の7番機だから、おまけみたいなもんだけどね」
彼女はそう言いながら、コクピットのキャノピーを外付けのハンドルをグルグルまわして開いた。
「そっちは、あの緑のトゲツキに乗ってたんだろう?あたしも最近モビルスーツの訓練受けてたんだけど、あたしの隊には配備が間に合わなかったんだよ。あ、今のは機密だったかな…ま、いいや、忘れてー」
連邦がモビルスーツの量産をしているという情報は手にしていたが、そうか、連邦軍の本拠地ジャブローへの配備が間に合っていないところを見ると、まだ数が多いというわけではないのだろう。でも…そのことは、聞かなかったことにする。
「うん、忘れとく」
「悪りーな」
「ううん」
「悪いついでに、もう一つ謝っとく。この戦闘機、単座なんだ。複座のタイプもあるんだけどさ。だからちょっと狭い」
「いいよ。ワニが来ないだけ、ゆっくりできそうだし」
彼女は、私がそう言ったのを聞いていたのかどうなのか、コックピットの中をごそごそといじりながら
「あーおっかしいな、このシート外れんだけど…くっそ、工具ないとダメか、やっぱ?イジェクトのこと考えりゃ、もっと簡単に外れてもよさそうなんだけど…いっそイジェクションレバー引いちまうか…いや、そんなことしたらあたし黒焦げだしキャノピーもとんでっちまうしなぁ…」
とぶつぶつ言っている。
私は、コックピットの縁に手をかけて中をのぞかせてもらう。
「そんなに狭いの?」
「あぁ、シート目いっぱい後ろに下げてもこの程度」
彼女が中を見せてくれる。足元は広々してはいるが、確かに二人が収まるにはちょっと狭い気がする。
「お、待ってくれ、このレバーか?うしょっと」
彼女がシートの脇に腕を差し込んで何かを操作すると、シートがゴトっと動いた。
「おー、やった!ちょっと手伝ってくれよ。これ、外に放り出す」
彼女の言葉に従って、コクピットに収まっていたシートを二人掛かりで機体の外へと運び出す。すると機内には、なんとか足を延ばすことくらいは出来そうな空間が現れた。
「それにしたって、まだ狭いけど…ま、さっきよりはマシか」
彼女はそう言って、私を、いや、正確に言うと、私の体を見やって、
「どっちかっていうと、あんたが上だな」
とつぶやいた。
「上?」
私が聞くのも構わず彼女は
「ほら、上がれ」
と手を差し伸べてきた。私はその手をつかんで、コクピットの中に上げてもらう。すると彼女が先に床に座って、ブーツを脱いでキャノピーの支柱に結び付けると外に垂れ下げて、体をコクピットの後ろの壁にもたせ掛ける。それから
「キャノピー、閉めるぞ」
と言ってきた。私は仕方なく、彼女の上に折り重なるようにして寝転ぶ。私はブーツを外には干さずに、足元に置いておくことにした。コクピットの内側にもあった手動のハンドルを回して、キャノピーを閉めた。私は、彼女の体にもたれる様な格好だ。
「あの、重くない?」
私が聞くと彼女は相変わらずなにかをごそごそとやりながら
「ああ。へーきへーき」
となんでもない風に答えて、どこからか大きな厚手の毛布を取り出した。
「寒いからちゃんとかけてくれよ。あたしまでかぜ引いちまう」
彼女は、私の後ろでカラカラと笑いながら言った。
 私は一度体を起こして、軍服の上を脱いで足元に畳んでから、彼女と一緒に毛布をかぶった。
「あーなんか、あれだな」
「ん?」
彼女が何か言いかけるので聞く。
「一人で寝るより、安心する」
そうだね…私もそう思うよ。たとえそれが敵であるあなたでも。
「うん」
そうとだけ返事をして、私は目を閉じる。
「アヤ・ミナト」
「え?」
「私の名前、アヤ・ミナト。あんたは?」
「えと、レナ・リケ・ヘスラー」
「そか、んじゃぁ、おやすみ、ヘスラー少尉」
「うん、おやすみ、ミナト少尉」

11 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 02:47:26.74 ID:mfe01pas0
コツコツ…

コツコツコツ…

何かが当たる音がする。それが何度も鳴るものだから、私は目を覚ました。キャノピーの向こうには青空が見える。朝だ…。

コツコツ。

 ふと音のする方を見ると、そこには人がいた。小銃を抱え、連邦の軍服に身を包んだ男が。

 私はすぐさま事態を理解した。それと同時に

「こりゃぁ、まずいな」

と彼女の声もする。

「すまん、まさかビーコンなしに見つけられるとは思ってなかった」

毛布の中から彼女の顔を見上げると、苦渋にゆがんでいた。

「このままじゃ、捕虜か、もしかしたら、この場で…」

「あぁ、いや、それはアタシが絶対させない…けど、捕まったら、遅かれ早かれ、その可能性は出てくるよなぁ…」

彼女は、毛布の中で私の体を抱きしめた。

「何があっても、私に話を合わせろ、良いな?」

彼女は、力強い口調でそう言い、それから

「足元に、私のパイロットスーツがある。それを着ろ。あんたは私の飛行隊の編隊員。脱出したところを合流して、救助を待っていた。名前はカレン・ハガード」

と言ってくる。

私は彼女の言うとおり、足元にあった飛行服に、毛布をかぶりながら足を通す。

「ちゃんと、裾でブーツ隠せよ。それ、中に置いといて正解だったな、外に干してたんじゃぁ、一発でバレてた」

彼女はかかっていた毛布を抑えながら言う。まったく、彼女の言うとおりだ。私は飛行服を着込んで念のために認識票も外してポケットに入れ、彼女に合図をした。

「よし、キャノピー開けるぞ」

彼女がハンドルを回してキャノピーを開ける。体を起こすと、外には数人の連邦軍兵士がいて、機体を取り囲んでいた。

「うっく、やっぱ体ちょっと痛いわ」

彼女が大きく伸びをして言う。

「ごめん、乗ってたから…」

「あぁ、いや、この床のせいだ」

彼女はホントにそう思っているのか、と言うような、気の使い方をしながら、私にそっと拳銃を渡してきた。

「持ってろ。無茶はすんなよ。でも、やばくなったら、アタシなんかほっといて逃げろ」

そう言って私の体を後ろから押して、立ち上がらせた。

私がジオン兵だということがバレて逃げだしたら、彼女がたちまち疑われてしまう。下手をすれば、スパイ容疑で銃殺なんてことにもなりかねない…そんなのは、ダメだ。

「救助に来てくれたのか?ありがたい、ビーコンが壊れちまって、途方にくれてたんだ!」

彼女が連邦の兵士たちに言う。

「あんた、オメガ隊か?」
「あぁ、オメガ隊のアヤ・ミナト少尉だ。こっちは、カレン・ハガード少尉。あんたたちは?」
「第7歩兵大隊だ。この周辺の戦況調査を任されてる」
「そうか、ご苦労なことだ」
「それにしても、あんたらオメガ隊の生存率は神懸っているな!」
「他の編隊員で、生き残った者は?」
「全機撃墜されたって話だが、パイロットたちは全員脱出して無事だったって話だ。あんたら二人で最後だよ」

兵士はそう言って笑った。

「ね、カレンって人、バレないの?」

私は小声で彼女に聞いた。

「面識があるやつでなければ大丈夫だ。カレン本人は撃墜されて死んでる…確認したから」

アヤも小声で答える。

12 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 02:50:06.63 ID:mfe01pas0
 私たちは揃ってコクピットから降り立った。兵士は全部で5人。どれも男。近くにはジープも止めてある。揃いも揃って、小銃を携行している。撃ちあったって、特殊部隊員でもないただのパイロットの私に勝算はない。

「まぁ、とにかく乗れよ。本部には連れてってやれねぇが、ちょっと行ったところに、シェルターへの入り口がある。市街地区だが…情報部隊

と輸送隊が出張ってきているはずだ。本部なり基地なり、そこからトラックの荷台にでも積んでってもらうと良い」

「あぁ、助かるよ!恩に着る!」

アヤはそう言うって大仰に礼を言った。

「シェルター?」

「ああ。ジャブローのほとんどの施設は、安全のために地下に造られてるんだ。軍人やその家族なんかが居住してる地区ってのもあって、どうやらここはその近くらしい。好都合だ。軍人も一般人もいる場所なら、まぎれやすい」
私たちは小声で話をしながら車に乗り込んだ。

 荒れ道に揺られて1時間ほど。時折、車を止めて、兵士たちがあたりを見回り、戻ってきては発車するのを繰り返しながら、シェルターの入り口、と言うところにたどり着いた。もっとこじんまりしたものを想像していたのだけれど、山をくりぬいたようなところに大きなコンクリート製の門のようなものがあって、そこから伸びる幹線道路のような坑道が奥へ奥へと続いていた。

 「おお、バーンズじゃないか!どうした、もうパトロールは終わりか?」

コンクリートの門の脇にあった軍の検問兵が車を呼び止めた。

「いやぁ、途中で撃墜されたパイロットさんを見つけてな!オメガ隊の連中だ!」
「あぁ、あの、不死身の飛行隊か。噂通り、強運の持ち主だったんだな」
「ははは、どいつもこいつも、臆病なだけさ!危なくなったら逃げる!ただそれだけだよ!」

アヤがそう言って笑う。

「だはは!違いない!」
「中まで案内した方がいいと思うんだが、構わないかな?」
「あぁ、ちょうど2時間もすれば、司令部からの補給隊が来るはずだ。それまで、どこかで休んでいると良い」
「ありがたい」

そう話があった、車は坑道の中へと進んでいった。外から入った瞬間は薄暗く感じたが、すぐに、天井の照明が煌々と灯り、あたりを明るく照らし出した。そこから30分も走ると、目の前には大きく開いた空間が現れ、その中には大きなビルがいくつも洞窟の天井に向かって伸びている。

 ビルの間を通る道には人々があふれ、お店やなんかもたくさんあるようだった。

 あまりの光景に私が呆けて見回していると、アヤがぺしっと私の膝をはたいた。

「あんま、きょろきょろすんな。怪しいぞ」

「あ、ご、ごめん」

アヤに言われて一度は視線を足元に戻すも、やはりどうしたって周囲の光景に目が行ってしまう。

13 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 02:52:00.66 ID:mfe01pas0
 やがて車がゆっくりと停車した。そこは、公民館のようなところで、中からは軍人たちがひっきりなしに出たり入ったりしている。

「ここがこの地区の軍の連絡所だ。中に、配給を手配してる担当の士官がいるからよ。そいつに言って、司令部まで連れてってもらってくれ」

「ありがとう、ほんとうに」

アヤはそう返事をして、私に車を降りるよう促した。

「良いってことよ!」
「あんたらはこれからまた巡回なんだろ?気をつけろよ!」
「あぁ、わかってるって!」
「危なくなったら」
「逃げるんだろ?ははは、オメガ隊のパイロットさまの言うことじゃぁ、聞かないわけにはいかねえからな!」
「そうだぞ。命は大事につかえ」
「そうするよ。じゃぁ、またどこかでな!」

彼らは口々にそう言うと、車をUターンさせて元来た道へと帰っていった。
私とアヤは、その姿が見えなくなるまで手を振っていたが、姿が消えたとたんにアヤが私の手を取って歩き出した。

「ここから離れよう。補給部隊は、顔の効く連中が多い。カレンの顔も多分知られてる。言い訳ができない」
「どうするの?」
「幸いここは、軍人の家族や、生活に必要な店や施設の従業員も住んでる都市だ。服屋もある。あんた、そこで服買って、着替えろ。そうすりゃ、今よりずっと怪しまれずに済む」

確かに、顔を知られているかもしれない人に成りすますよりは、市民Aになったほうが、安全なのは確かだろう。

「ほら、あそこなんかどうかな…ってか、アタシがたまに使う店なんだけど…趣味に合わないとか、そういうことは言わないでくれよ」

アヤが指差した先には、こじんまりとした構えの店があった。ジーンズやパーカー、Tシャツといった具合に、ごくごく素朴な品ぞろえだ。確かに、こんな感じの服装はアヤには似合いそうだ。

「私も似たような感じだから、大丈夫」

私はそう言って笑ってあげた。私も、義務教育を卒業してからはすぐにジオンの士官学校に入った。もっとも、エリート養成のための特別なコースじゃなくて、もっと下っ端の、技術職やパイロット、砲兵とか、その道の分野に特化した教育を施してるコースではあったけど。そこでは四六時中、制服で、休日に着る普段着なんて、ほとんど持っていなかった。わずかに自分で買ったのが、ここにあるようなごくごくありふれた感じのラフなものだったから、まぁ、抵抗があるというよりはむしろ、懐かしい感じの方が強い。

「ほら、これ金な」

そう言って彼女が私の手に紙幣を何枚か握らせた。

「持ち合わせこれしかないから悪いけど、とりあえず今着るものだけ買ってきて。あぁ、それと、カバンな。バックパックみたいんがいいだろ。いつまでも、ジオンの軍服を毛布にくるんで小脇に抱えとくのも怖いしな」

 悪いよ…と言おうと思ったが、私は連邦の紙幣なんて持ってないから、ここは甘えるより仕方ない。

「ありがとう」

礼を言うと、彼女はすこし照れたような、恥ずかしそうな顔をして私から目をそむけ、

「あ、アタシはここで見張ってるから、ちゃっちゃと済ませてきて!あぁ、それと、このビルの3階にクアハウスがあっから、買ったらそこで汗流そう」

クアハウス、と言うのは聞いたことがなかったけど、汗を流せるところ、と言うからには、まぁ、公衆浴場みたいなものなんだろう。とにかくここでは、私は彼女の指示に従うほかに、できることはない。まだ、この不思議な敵兵を全面的に信頼しているわけではないけれど…でも、アヤはそんなに、悪い人、と言うか、これが嘘で罠で…と言うような回りくどいことをするような性格ではないだろうということだけは、確信をもてていたから、安心はしていた。

 私はお店に入って、下着とゆったり目のジーンズにダークブルーのパーカーに、白い半そでの無地のTシャツを選んだ。それから、アヤに言われたとおり、少し大きめのバックパックを選んで買い込んだ。お店の人にお願いしてタグを取ってもらい、フィッティングルームで着替えを済ませて店の外に出た。

 アヤは退屈そうに、でもちゃんと店の前で待ってくれていた。

「お待たせ」

私が言うと、彼女は

「はやかったな」

とニコッと笑って言った。

「悪いんだけど、アタシ、今の金が手持ち最後でさ。ちょっと銀行行こう」

アヤは、道の向こう側にあった銀行を指差して言った。道を渡って、銀行に入ろうとして、私は足を止めた。

「どした?」

「いや、私はここで待ってるよ。防犯カメラくらいあるでしょう?さすがに顔が映っちゃうのはマズイと思うし」

さっきの洋服店には、防犯カメラらしきものはなかったが、銀行ともなれば話は変わってくるだろう。私だけが映る分には問題ないのかもしれないが、アヤと一緒にいるところを撮られたら、アヤにまで迷惑をかけてしまう。

「そっか…まぁ、じゃぁ、すぐ終わらせるから、そこで待ってて」

アヤはそう言い残して銀行へと入っていった。
14 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 02:53:28.92 ID:mfe01pas0
 さて、私はこれからどうするか。アヤと汗を流しに行って、今夜はこの街で休めるだろうか。それから、北米に戻るべきだろう。ジオンは、オデッサに続いてジャブローでも相当な兵力を失った。一人でも多くの兵員が必要なはずだ。連邦の反抗に備えるためにも、一刻も早く帰還する必要がある…

 「もし、そこのご婦人?」

そんなことを考えていた私に、誰かがそう声をかけてきた。振り返ると、そこには連邦の軍服を着た兵士たちが数人立っていた。その腕には「MP」と書かれた腕章がついている。

「はい、なんでしょう?」

内心の驚きを何とかかくして、平静に対応する。しかし、MPは穏やかな口調とは裏腹に、確信に満ちた鋭さで私の足元を見た。

「ご婦人がはいている、そのブーツは、市販のものではなさそうですね?」

しまった!服屋には靴が売っていなかったら、ジーンズで隠していた。ほどんど見えない状態だったから、多少ならごまかせると思ったのだが…うかつだ。

「こ、これは、その、譲り受けたものでして。どこから出た物かは…存じません」

「ほう、さようですか。それでは、その譲り手の方について教えていただけませんか?あ、いや、その前に、そのお荷物の検閲をさせていただけると幸いです」

「みせろ!」

私の返事を聞かず、他のMPが私のバックパックを引っ掴む。

「やめてください!」

見られるわけにはいかない!抵抗するが、私も軍人とは言え、同じ軍人の男数人に力でかなうはずがない。私の荷物はたちまち奪い取られ、中を見られてしまった。

「これは…ジオンの軍服!?」

「認識票があります…!」

兵士の一人が、認識票をバックから出して、上官と思しき私に話しかけてきたMPに手渡す。

「さて、レナ・リケ・ヘスラー少尉。何用でジオン兵がこのようなところにいるのか、説明していただこう。ご同行願えるかな?」
上官MPが手をかざすと、部下たちが私に小銃を突きつけた。

――ここまで、か。

私は観念して、両手をかざした。

 その場には、すぐに車がやってきて、私は手錠を掛けられてそれに押し込まれる。私を見つめる民衆の中に、アヤの姿があった。彼女は、もの悲しげな表情で、私を見つめていた。

 少尉とはいえ、士官だ。しかも、戦場で捕虜になったのではなく、連邦の機能中枢に入り込んだいわばスパイ容疑。恐らく、私は拷問されるのだろう。情報を引き出すために。一般兵の私が知る情報なんてたかが知れているが、それでも搾り取れるだけ搾り取ろうとするだろう。そして、情報を引き出すだけ引き出したら…その、あとは…銃殺か、いや、拷問中に死んでしまうか…。それならば、自ら命を絶つことも考えた方が。でもそれは怖いな…なら、このまま逃亡を図って、射殺された方がいいのかもしれない。
 ふと、亡くなった両親や兄のことが、頭に浮かんできていた。

22 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:11:52.17 ID:mfe01pas0
「痛たた…」

数時間後、私は地下にある独房にいた。

幸い、まだ生きていた。

暗くて冷たくて、それにジメジメした空間だったけど、あの取調室に比べたらマシだった。

体中が痛む。

十何発か、男たちに拳や金属棒をたたきつけられたけど、私は自分の所属と、今回の作戦のことしか話さなかった。

と言うより、話せることなんてなかった。

キャリフォルニア基地でモビルスーツを作っていることとか、宇宙への行き来を行っていることなんか、連邦だってすでに知っている事実。

でも、それで納得できないのが彼らだ。

他の諜報員はどこか、とか、名はとか。あと、次回の作戦を吐け、とか。そんなの知るわけない。

でも、きっと彼らにとって、私はなんにもしゃべらないひどく優秀なスパイだと思われているのだろう。

殴られている間は、感情と言う感情を殺して、ただ時間だけが過ぎ去るのを待った。

そうでもしないと、恐怖で壊れてしまいそうだったから。

今だってそうだ。今日は殴られるだけで済んだ。

でも、明日になればきっともっと厳しくなる。

針とか釘とか電気とか、得体のしれない金属器具とか、そんなものが登場してくるだろう。

そうなったら…ダメ、考えちゃいけない。

だけど、考えなくたって明日はやってくる。

そして、私がそれらから解放されるには、彼らの望む「情報」を喋るしかない。

でも、私はそれを知らない。

適当に嘘をついたって、すぐに調べられてバレてしまうだろう。

そしたら、もっと追究は厳しくなる。

もう、どうしようもない。


ぐう、とお腹が鳴った。

そう言えば、ジャブローに降り立ってから満足に食べ物を口にしていない。

携行していたブロックみたいなおいしくない携帯食料を一つと、アヤにもらった魚半分。

あの魚は、本当においしかったな。あれが最後の食事になっちゃうのかな…。

もう少し、食べたかった。

もう少し、アヤともいろんな話をしたかった…。

23 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:15:46.57 ID:mfe01pas0
「おい、ここに、レナ・リケ・ヘスラーって捕虜が捕まってるはずだ」

不意に、どこかでそう声がした。

「はっ!確かに、ここですが」

「会わせろ」

「は、いえ、しかし…」

「いいから、会わせろって言ってんだ」

「で、できません」

「あぁ?あんた、私の階級章が見えないわけじゃないよな、伍長?」

「ですが、少尉殿…ここは…」

「上官命令だ。すぐに会わせろ。責任は私がとる」

「う…」

「別に何するわけでもない。ちょっと知り合いかもしれなくてね。

 知り合いだったら、最後の晩餐くらい振る舞ってやったって、バチはあたらないだろう?

 ほら、お前にも、これ、小瓶で悪いが酒だ。

 さすがにあんたの上官に見つかるとやばいから、アタシが出てくるまでに飲んでおけよ。おら、さっさと鍵寄越して」

ガチャリ…ギイッ…カツカツカツカツ

足音が、私の独房の前で止まった。

ベッドに座っていた私が目を向けると、そこには、連邦の制服に身を包んだアヤの姿があった。

「大丈夫か?」

アヤは、心配そうに私を見た。

「うん」

私は返事をする。

「ほら、こっち来いよ。飯にしよう」

そう言ったアヤの手には、ファーストフードの紙袋があった。

「冷めちゃってるけど…ま、あの魚よりは旨い」

彼女はそう言って廊下に腰を下ろす。私も、鉄格子の前に座り込んだ。

廊下にある明かりが私の顔を照らし出したのだろう。私の顔を見るなり、アヤの表情が変わった。

最初は、悲しげに、そしてついで、怒気を秘めた険しいものに。

「ひどくやられたんだな」

「これくらいは、平気」

そうは言ってみるものの、顔も体も痛くって仕方ない。

 あれから自分で鏡は見られていないけど、たぶん、形がゆがむほどに腫れ上がっているのだろう。

アヤが紙袋からハンバーガーとフライドポテト、紙のコップに入ったジュースを取り出して、鉄格子の間から私にくれた。

それから、自分の分を取り出して、何も言わすにかぶりついた。私も、包み紙を開いて口をつける。

…おいしい。

 口の中も血だらけで、そもそも満足に口も開かない始末だから、ちょびちょび食べることしかできないけど、

小さくちぎったハンバーガーを舌の上で転がすだけで、凍りつかせた心が解けていくような感じがする。

なんだか、一気にいろんなものが湧き上がってきて、ぽろぽろと涙がこぼれだした。

 アヤは、そんな私を見て、一瞬動きを止めたが、すぐにまた、一心不乱に自分のハンバーガーに食らいつく。

24 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:20:04.21 ID:mfe01pas0
食べ終わってから、彼女がポツリと口を開いた。

「ごめん、アタシのせいだ」

アヤは顔を伏せて言った。

「アタシが、もうちょっと警戒してたら、こんなことには…」

「ううん」

私は首を振った。彼女のせいであるはずがない。

安心して油断していたのは私の方だ。スパイを警戒している者がいることくらい、想像しておくべきだったし、

何より、気を緩めて、いつまでもジオン軍のブーツなんてはいていたから。彼女になんの責任もない。

「だけど、こんなにされて!」

アヤはそうって、鉄格子の隙間から手を入れ、おずおずと私の顔に触れた。

でも、腫れ上がった私の顔の皮膚はその温度を感じることはできなかった。

「私が油断していたのがいけなかった。気にやまないで。あなたは私に、とてもとても良くしてくれた。それだけで十分」

私は、泣きながら彼女の手を握って、そっと鉄格子の向こう側に押し戻した。

これ以上、彼女に迷惑をかけるわけにはいかない。下手をすれば、彼女だって私の二の舞だ。

彼女がいなかったら、私は今ごろワニのお腹の中か、ジャングルの中で行き倒れか、

女性兵士らしく、連邦兵に玩弄されてから殺されていただろう。

なんとか私を助けようと嘘までついてくれた彼女を、これ以上巻き込むわけにはいかなかった。

「だから、もう行って。あなたまで危険になる」

私はそう言った。でも、それを聞いた彼女は、いっそう表情を険しくした。

それから、ふっと顔から力を抜くと、苦笑いを浮かべて

「実は、もう手遅れだったりするんだけど…ね」

とつぶやくように言った。


ドサッ


遠くでかすかに、何か重いものが地面に落ちる音がする。

「さって、行こうか。歩ける?」

彼女はさっと立ち上がると、持っていた鍵で、私の鉄格子を開けた。

まさか…私を脱走させる気!?そ、そんなことしたら…

「そんなことしたら、あなたが…」

「あーだからもう手遅れなんだって。警備兵に記憶飛ぶくらいの量の睡眠薬飲ませちゃったし。

監視カメラも、逃走ルート用のは回線いじって、ダミーの映像流すシステム組んできちゃったし、警報装置も細工済み。

巡回の兵士のルートも抑えてあるし、あとは、監視センサーなんかも、あらかた潰してきちゃったしな」

アヤはそう言うと私の手を取った。

「行くぞ」

私の返事を聞かずに、そう言って走り出した。

地面に崩れ落ちるようにして眠っている警備の兵士の脇を抜け、階段を上がり、狭い廊下を走り抜けて、さらに登りの階段。

そこから、また狭い廊下に出て、端にある小部屋に入り、食糧庫らしいその部屋の、物資搬入のための通用路へ出る。

そこには、一台の車がとまっていた。軍用車ではなく、自家用のSUVだ。

「後ろに乗って」

アヤはそう言うと素早く運転席に乗り込んだ。

私は後部座席に乗り込む。それを確認すると、アヤは車を急発進させた。

25 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:24:32.13 ID:mfe01pas0
「そこに青いバッグがあるだろう?着替えが入ってる。とりえず、着替えちゃって。

この先に検問があるんだ。そこばっかりは騒ぎを起こさずに通過するっきゃない」

「大丈夫なの?」

「あんたの顔はまだ割れてない。脱走がバレれば話は別だが、しばらくは大丈夫だろう」

私は言われたとおりにバッグの中に入っていたラフな服装に着替え、

それから彼女の指示で助手席に移動して、「ぐったりした様子」で座り込んだ。


目の前に検問が見えてくる。兵士が私たちの車を止める。

「こんばんは、少尉殿。こんな時間に、どちらへ?」

「すまない、連れが階段から落ちてけがをしたんだ。軍医殿が、今は負傷兵の手当てに回ってて戻らないそうなんで、街の総合病院へ行きたいんだ」

「なんですって?」

兵士が私の顔を懐中電灯で照らした。そして息をのみ

「こ、これは…す、すぐに通します。あ、いや、軍用車で先導しましょうか?」

とあわてた様子でアヤに言う。

「いや、それには及ばない。連なって走るより、一台の方がずっと早い」

「そうですか…おい!すぐに開けろ!」

兵士がそう言うと、道路をふさいでいた金網が開いた。アヤは敬礼をしながら車を走らせその門を通過する。

サイドミラーで検問が見えなくなると、アヤがふぅーと、大きなため息をついた。それから途端に

「あー緊張したぁ!」

とはしゃいだ子どものように体をムズムズと動かす。


「どうして、どうしてこんなことを?」

私は聞かずにはいられなかった。こんなことをすれば、軍規違反だ。

捕まれば裁判にかけられ禁固刑か、悪くすれば銃殺ものだ。

アヤは、どうしてここまで、私を助けてくれようとするのだろう…。

「あんたは、悪い奴じゃない」

アヤはまるで決まったことのように言った。

「なんで、そんなことがわかるの?」

「最初にあったとき、あんたは、飯を食わせてほしいって言った私を撃たなかった。

 あの魚を食べ終わるまでは、待つつもりだった。だから、だ」

「そ、そんなのって…」

「だってアタシもあの時、銃を持ってたんだよ?普通なら、あんたは撃ってる。

 間違いなく。だって、そうでもしなきゃ、自分が撃たれるって思う」

確かに、あのとき私は、アヤから拳銃を奪わなかった。

いや、あの状況で、下手に奪おうとすれば抵抗される可能性があったから、と言うのもあったのだけれど、

彼女に私へ危害を加えようという意思がなかったのは感じられていた。

「それは、あなたが、なにもしなさそうだったから」

「じゃぁ、それはさ、アタシのことを信用してくれたってことだろう?」

アヤはこちらをチラっと見やっていった。

確かに…アヤが、隙を見て私を撃つ、なんてことをしないというのは、私がただ感じただけで、何の根拠も理論的な裏付けもない。

信用、と言う言葉が当てはまるのかわからないけど、確かに、私は、彼女の言葉を信じたのだ。

26 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:26:25.32 ID:mfe01pas0
「…うん」

「戦場でさ、味方すら、自分を置いて逃げ出すかもわからないあの場所で、アタシの言葉を信じてくれた。

 それはすごく大切なものだと思うんだ。

 敵と味方に別れちゃってるけど、あんたが味方なら、きっとこんなに信頼で来て頼りになる人はいないだろうって思った。

 あのときは敵と味方だから、それは出来ないって思ってたけど、あんたがMPの連中に連れてかれるのを見てて、気が付いた。

 敵と味方に分かれてるんなら、まずはあんたの味方になればいいって」

「でも、それじゃぁ、あなたが連邦の敵になっちゃう」

「あー、だから、そこのところで相談なんだ。アタシは、別に連邦が好きで軍にいたわけじゃないし、

 いくらでも逃げ切る自信はあるから、構わないんだけど、問題は、あんたの方だ」

「私?」

「うん。アタシと一緒にいるってことは、アタシが連邦の敵になるのと同じで、

 あんたもジオンの敵になるかもしれないってことだと思うんだ。あんたは、それでも良いか?」

「…」

私は返事ができなかった。

ジオンを裏切るなんてことは、考えもしなかった。

家族はみんな、ジオンのために尽くして、命を落としていった。

それが、誇らしいことだと思えていたから。

だから、ジオンを捨てることは、私の家族や私自身の信念を捨てる様な気がした。

「ごめん、それは、すぐには答えられない」

「あーまぁ、そうだろうな。軍人の家系って言ってたし」

私の答えに、アヤはすこし残念そうな顔をして返事をした。でも、すぐに笑顔で

「でも、とりあえず、アタシは、あんたのためにアタシのできることをするよ。

 その途中か、それが終わってからか、アタシといることで、ジオンを裏切るような事態になりそうだったら言ってくれ」

なんてことを、こうも簡単に言うんだろう、彼女は。

27 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:27:20.11 ID:mfe01pas0
私は、最初の疑問に立ち戻ってしまった。彼女の胸の内に頭を走らせる。

彼女は、ずっと一人だったのだろうか?友達に恵まれなかった?だから、あんな場面の私の気まぐれを気に入ってくれたの?

それとももっと違うこと?違うこと…たとえば、ス、ストレートじゃない、とか?

「ね、ねぇ、聞いていい?」

「あん?」

私は彼女の言葉よりも、まず、自分の質問をぶつけてみたかった。

何しろ、彼女の行動に、いまだに納得がいっていない。

「あの、その、あなたって、同性愛者?」

それを聞くなり、彼女は吹き出して大声で笑いだした。

「ぶっあははははは!あー、ごめん、違うよ、違う、そういう意味で言ってるんじゃないんだ。

 まぁ、その点は、男とか女とか、割とどっちでも良いタイプではあるけどね。そうじゃなくてさ」

彼女は、何とか笑いを収めて、語りだした。

28 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:30:27.56 ID:mfe01pas0
「あの日の、戦闘でさ。アタシは、僚機の、あぁ、例の、カレンてやつなんだけど、こいつがまた性格悪くてさぁ…

 あ、まぁ、その話は別にして…うん、あの日、隊長たちはあの太っちょの空母を狙って上昇していった。

 アタシとカレンとそれから他の何機かは、そのちょっと下の空域で降下してきたモビルスーツを狙えって言われてた。

  でもね、その指示は、隊長にしちゃぁ珍しく、間違ってたんだ。

 や、悪かったのは、隊長よりもむしろ地上の対空砲部隊のやつらなんだけど。

 あいつら、味方機がいるっつうのに、むちゃくちゃに撃ちやがって。

  結局、アタシ達は、モビルスーツが降りてくるのと同時に穴だらけ。

 『ヤバくなったら逃げろ』が合言葉のオメガ隊だけど、逃げる暇もスペースもなかった。

  ガンガンガンってさ、弾が機体に穴を開けてく音が聞こえるんだ。

 アタシの機体は、最初の掃射くらって、左右のラダーがやられた。

 もう、戦闘機としては致命的で、機体の左右のコントロールがほとんどできなくなった。

 あげくにゃ、降りてきたトゲツキとニアミスして、なんとかかわそうと思ってロールしたら、

 今度は垂直尾翼を半分持ってかれた。

  エンジンが火を噴いたからエンジン止めて、燃料を投棄しながら、消火装置を動かして火を消して、

 エンジン再起動しようと思ったけど、言うこと聞かなくて、それからはもうほとんどコントロール不能。

  ぐんぐん地面が迫ってきて、怖かった。

 すごく、怖かった。あぁ、もうこれで死ぬのかな、って、何度も思った。

  死にたくないって、その一心で、操縦桿を引っ張って、動くかわからないフラップのレバーをガンガン動かして、

 機体を立て直そうとして、滑空させて、ドーンて、あそこに落ちたんだ。

  落ちてからは、動けなかった。

 放心状態っていうんだろうね、ああいうの。

 気が付いたら、夜になってて、星がきれいに出てた。

 コックピットの中から、星を眺めてたんだ、ずっと。

  で、思った。あーアタシ、生きてるんだな、って。

 死んだら、なんにも楽しいことなんかできなくなっちゃってたんだなって。

  そしたら、はは、笑ってくれていいよ?怖くなったんだ。戦争で死ぬのも、誰かを[ピーーー]のも。

 今まで、良く自分が、コクピットの中で、敵機に照準合わせてトリガーなんか引けてたなって。

 なんにも考えないで、誰かの人生を奪ってたんだ、って思ったら、すげーことしちゃったんだなって思った」

「それで、罪滅ぼしのために?」

「いや、そんなんじゃないけどさ。戦争だったんだ、仕方ない。でも、もう戦争はしたくないって思った。

 殺したり、殺されたり、そんなことしかできないわけじゃないだろう、人間って、きっと。

 もし、同じ命を懸けるんでも、誰かの人生を奪うより、誰かの人生を助けるために命を懸ける方がよっぽどいい。

 そんなことを、ビーコンをいじりながら考えてたんだ。その夜に、あんたのライトの明かりが見えた。

 昼間のうちに、一通り見て回ってて、あのあたりにワニが多いことはわかってたから行ってみたら、案の定、気づかないで近づいていったからさ、焦ったよ」

彼女はそう話してクスクスと笑った。

29 :キャタピラさん ◆EhtsT9zeko :2013/04/28(日) 12:31:46.91 ID:mfe01pas0
 そうか。

なんとなく、合点がいった。彼女は、敵と味方、と言う関係に嫌気がさしたんだ。

[ピーーー]か殺されるか、と言う関係を憎んだ。そしてそこへ現れたのが私で、その私は彼女のことをちょっとだけ信じた。

きっと、そんな私に、敵でも味方でも、[ピーーー]でも殺されるでもない関係を見つけた。

もっと言えば、敵と味方がそうでない関係に変わるための「何か」をみつけたんだ。

普通に困っている人を助ける、と言うのとは違う、もっと大事ななにかを、「敵であった」私との関係の中でやり遂げようとしているんだ。

「あなたの考えてることは、わかった」

「そっか」

「でも、ごめん。今すぐジオンを捨てるって決断をすることはできない。

 だけど、勝手かもしれないけど、私は、あなたの助けなしでは、どこへも行けない。

 だから、お願い。私をキャリフォルニアの基地まで連れて行って。

 そこで、ジオンがあなたにひどい扱いをしそうになったら、今度は私が必ずあなたを助ける。

 もし連邦が追ってくるなら、ジオンに迎え入れてもらえるようにお願いもでもなんでもする」

「あはは、もう軍に入る気はないよ。

 でも、ま、もしものとき、あんたが助けてくれるっていうんなら、アタシも安心だ。

 旅には目的地があったほうが頑張れるもんだしな。良いよ、行こう、キャリフォルニア!」

彼女は、そう言ってくれた。

車はいつの間にか、地下から外に出ていて、空には満点の星空が輝いていた。