◆不正受給は全体のわずか0.38%で受給資格があっても門前払い
 私共の取材で判明したのが、役所の中でも社会福祉課は人気のない職場で「左遷」という扱いで、やりたくてやっている人は非常に少ない。申請を手助けしてくれるのではないかという期待を抱いて出かけると、やる気のない職員の対応で放置される可能性が十分にある。もっと深刻なのはケースワーカーによるイジメだ。貧しい人に同情するどころか、今の生活保護バッシングを喜んでいる若手ケースワーカーが増えている。自分達が左遷されてきたことへの苛立ちを、弱者イジメをして楽しんでいる愚か者の公務員が辿り着く末路でもある。

 採用試験に合格した20~30代の若手は、大学を出て競争を勝ち抜いたエリートで、恵まれた家庭に育った何の苦労もしていない者が多くて、挫折して生活が崩れていくことを頭では理解できても実感ができていない。むしろ、貧困に陥ったのは自業自得と考えている者が多い。今はどこの自治体も財政が厳しいので、自分の仕事は生活保護をカットする事だという実にくだらない正義感のようなものに燃えている者も決して少なくは無い。

◆不正受給は言われているほど横行しているわけではない
 10年度の統計によると、不正受給額の合計は128億7425万円で、総額の0.38%。しかもこの中にはさほど悪質とは呼べない事例も含まれている。現場の感覚で言えば確信犯的な人はごく少数で、高校生など未成年のアルバイト収入は申告しないでいいと誤解していたケースが多い。4年前からは預金口座に加えて課税調査も行うようになりました。

◆ 「働けない人が対象」という誤解
 生活保護法に詳しくない人が役所に行くと、あれこれ言いくるめられて申請書をもらえず、ただの「相談」として処理されてしまう場合が多い。第1は、住まいがないので受けられませんというもの。これは路上生活者などに対して使われます。これは誤解で、住民票がなくても生活保護は申請できます。

 第2に、あなたは働けるから受けられませんというもの。生活保護は働けない人が対象という誤解を生む表現が使われていますが、仕事が見つからなくて働けない失業状態であれば生活保護を受けられます。ところが役所の窓口ではこのことを説明せずに働けるんだからハローワークに行ってもうちょっと頑張りなさいと追い返してしまう。

 第3に、家族に養ってもらいなさいというもの。2006年の日弁連の調査では、違法な「水際作戦」の可能性が高いと判断された118件のうち、この対応が最多の49件でしたが、扶養義務者による扶養は生活保護の要件ではないし、申請させない理由にはなりません。

◆【生活保護】本当に必要でも貰えず死に至ったケースの具体例
 ◆京都・母親殺害事件(2006年2月)
 認知症の母(86歳)の介護と貧困に追い詰められた無職の男性(54歳)が心中を図り、母親を殺害。男性は行政に相談していたが、生活保護について十分な説明を受けていなかった。
◆北九州・門司区餓死事件(2006年5月)
 市営住宅に住む障害者の男性(56歳)が、役所に生活保護の申請書を交付してもらえず餓死。前年にはライフラインが止められており、栄養失調で病院に搬送されていた。
◆秋田・練炭自殺事件(2006年7月)
 強い睡眠障害で働けず車上生活を送っていた男性(37歳)が2回生活保護を申請するも却下。「俺が犠牲になって福祉をよくしたい」と市役所の駐車場に停めた車中で練炭自殺。
◆北九州・「おにぎり食べたい」餓死事件(2007年7月)
 生活保護を打ち切られた元タクシー運転手(52歳)が直後に餓死。「(辞退届を)書かされ、印まで押させ、自立指導したんか」「おにぎり食べたい」などと日記に書き残していた。
◆北九州・男性孤立死事件(2009年6月)
 生活保護の相談に訪れた無職男性(39歳)に対して、福祉事務所が「健康状態は良好」と判断し仕事探しをするよう説得。申請できなかった男性はその後に孤立死した。
◆札幌・姉妹孤立死事件(2012年1月)
 失業中の姉(42歳)と知的障害のある妹(40歳)がガスも電気も止められたマンションの一室で病死・凍死。姉は3度も生活保護の相談に行っていたが、申請ができなかった。

■【北海道姉妹凍死】死の前に3回生活保護窓口訪れ、門前払いされていた

◆最後の頼みの生活保護を受けられず、死に至るケースも   
 2012年1月、札幌市白石区のマンションの一室で、遺体で発見された40代の姉妹は、生活保護申請が認められず窮乏を極めて亡くなった。姉の佐野湖末枝さん(42歳)は失業中で昨年末に病死(脳内血腫)しており、知的障害のある妹の恵さん(40歳)は姉の死後に凍死したとみられている。料金滞納で電気・ガスも止められ、冷蔵庫の中は空っぽだった。

 湖末枝さんは体調不良に苦しみながら就職活動や妹の世話をし、3度にわたって白石区役所に窮状を訴えていた。ところが、最後の頼みの綱の生活保護を受けることができなかったのだ

 姉妹の両親はすでに他界していて、頼る人はいませんでした。生活費は妹の障害年金(年額約80万円)だけで、家賃は滞納、国民健康保険も未加入です。区役所の保護課も「厳しい状態」「要保護状態」にあることを認識していました。2回目の相談のときには、非常用のパンの缶詰が支給されています。これは通常、お金を落としてしまった生活保護受給者などに対して行われる珍しい措置です。

◆ 「生活保護を受けられない」と思い込まされた


亡くなった姉妹の住居前で献花する支援者。妹の携帯電話には姉が倒れて警察や救急車に何度
も助けを求めた発信履歴が残されていた。

 なぜ姉妹は生活保護を受けられなかったのか。白石区役所は「(本人が)申請の意思を示さなかった」と釈明している。「困窮している人なら一定の条件で「無差別平等」に生活保護を受ける権利がありますし、誰でも無条件に申請できますが、区役所の担当者がそのことを本人に知らせたようには思えません。最後の相談(3回目)のときには、保護の要件として「懸命なる求職活動」が必要なことや、「家賃が高い」ことを伝えています。しかし、これらは申請の条件ではないのです。3回も相談に行っていることや困窮の程度から見ても、姉に申請の意思があったことは明らか。「自分は生活保護を受けられない」と思い込まされてしまい、申請を諦めたものと思われます。

 本来は権利であるはずの生活保護申請をさまざまな手口で阻止する役所の「水際作戦」によって、2000年代後半から全国で餓死・孤立死・自殺・心中事件などの悲惨な事件が相次いでいる。

◆100円の花を飾ったら「余裕あるな」と嫌味
 運よく受給にこぎつけたとしても、生保受給者の苦悩は続く。ケースワーカーとは、生活に困っている人の相談に乗り、自立支援を行う職員。生活保護受給者を家庭訪問し、生活状況を調査することも業務のうちだ。100円の花を飾ったら『花なんか買う余裕があるとは』とイヤミを言われ……。訪問は2~3か月に一度ですが、何を言われるかと気になって、壊れたものを買い直すのも躊躇してしまいます。ケースワーカーに常に監視されているような気がして、息がつまるとこぼす受給者の方もおられるほどです。

◆お昼休みの時間帯に行くと「昼休みにくるな」と罵声を浴びせられる
 窓口に相談にこられた生活保護者に対して、あなたは何故いつもお昼休みの時間帯にくるんですか!などとなじられるような激しい口調で罵声を浴びせれれるといった事例も起こっているのです。その相談者の方は病院に通院をされていて、この時間になってしまいますとケースワーカーに言ったところ、あなたは仕事も探そうとしてないですよね!とまた上から目線で罵声を浴びせられたのです。

 生活困窮者を守るべき立場のケースワーカーが逆切れをするなどということは、言語道断なことであって、ケースワーカー自体のモラルが欠けていると同時に、生活保護者をいじめることに歪んだ使命感を抱いているかが判ります。決算期の3月は、受給者にとって気が気ではない月で、行政は何とか生活保護を打ち切ろう、減額しようとしてきますと振り返る方もおられます。ある親御さんが、46歳の息子はずっと就職活動をしていたのですが、職に就けず生活保護を受けていました。ところが、2012年3月に4月中に働かないなら保護を打ち切ると通告されたのです。支援団体の「生活と健康を守る会」のメンバーの方と掛け合い、打ち切りは避けられましたが、もう少しで親子ともども路頭に迷うところでしたと言われていました。

 生活保護受給者が口をそろえて訴えるのが、受給自体を悪とするような昨今の報道だ。保護を受けるのではなく、家族が面倒を見ればいいという主張もありますが、親族も自分達の生活で精一杯で、とても面倒など見れる余裕などない。それに、前述でも述べましたように扶養親族者による扶養は生活保護の要件ではないし、申請させない理由にはなりません。従って、これを理由に生活保護の申請を認めなということは、違法行為でもあるのだということを、厚顔無恥なケースワーカーにわきまえてもらいたい。

 生活保護者自身が同じ境遇者の方の相談にのっているケースで、相談を受けていた生活保護者の方がアパートを飛び出して、首を吊ってしまったといったこともありました。ここ最近の生活保護バッシングで、路上生活をしている相談者の方も「今は申請をしたくない」と逃げ腰。本当に助けが必要な人が申請すらできない空気に、危機感を抱いています。

■女性申請者に「体を売ればいい」 生活保護受給窓口の冷たい対応

◆多くは窓口で追い返される生活保護申請の「狭き門」
 「簡単に受給でき、不正受給が横行」「働くより受給したほうが楽で得」と過熱する報道に、当の生活保護受給者たちは困惑を隠しきれない。「生活保護の受給申請に行っても、必ずといっていいほど窓口で「働きなさい」と突っぱねられます。受給申請に行く頃には、住所や携帯電話もなくなっている場合も多い。そんな状態で雇ってくれるところはどこもありません。仕方なく受給申請に行っても、役所の人は「何しに来た」と罵倒するなど高圧的な態度を取って、わざと申請者を怒らせて自ら帰らせることもあります。女性に対しては「体を売ればいい」と暴言を放つ例もあると聞きますが、これも相談者の方を怒らせて帰らせるといった卑劣な手口です。

 中には、稼働年齢(働くことができる年齢)なので受けられないと嘘の説明をされて、まずは仕事を見つけてきてください。でも、仕事がどうしても見つからずに家賃も払えず、困っているのです。助けてくれる親族もいません。アパートを追い出された後に再び相談に行くと、住所がない人には出せない。住み込みの仕事があるでしょうと言われて容赦なく追い帰される。
 皆さんは、この事例をご覧になって何を感じ取っていただけるでしょうか?日本の生活保護制度が如何に厳しく冷たいものであるかということなのです。そして、これが生活保護をカットしようとする歪んだ使命感に燃えて、左遷されてきた窓際族の公務員たちの本性だ。

■不正受給より深刻!? 生活保護制度の「無償医療」に群がる医療従事者


病気であるかないかには関係なく、病院の都合で治療を受けさせられるホームレス。治療費の「不正受給」が終われば
再び路上に放り出される(生活保護は打ち切り)。

 都内の病院に勤務する、ある医師はこう証言する。生活保護を受けている患者さん達は、医療費が全部タダになります。生活保護受給額は月14万円程度ですが、医療費はその比ではありません。例えばカテーテル手術をすると、200万円ぐらいの医療費がタダになる。そいう意味では患者さんにとって非常にすばらしいシステムと言えますが、これが治療費を稼ぎたい病院にとっては都合がいいのです。

 この制度を悪用したのが、奈良県の山本病院。ホームレスを救急車で連れて行って入院させ、不要な治療を行っていたのだ。市役所にホームレスが救急車で搬送されました。無保険なのですけれども、放っておいたら死んでしまうようなのですがと告げる。そうすると、福祉課の人が行って本人の意思にかかわらず生活保護を申請する。そして、病院はお金はかかりませんから大丈夫ですと言っていろいろな治療を受けさせる。どこも悪くない元気なホームレスに毎日ビタミン剤だけを飲ませて、入院費用を稼いでいたなんてケースもあります。

 これは山本病院だけのことではなく、全国で当然のように行われているのが現実です。例えば、生活保護の患者さんの治療に200万円かかったとすると、必ず満額もらえるのです。国民健康保険や社会保険の場合は審査があり、そういうわけにはいきません。高額な手術をやって透析もした、高い薬もたくさん使ってしまったということになると、『この治療はやりすぎです』とチェックが入って削られてしまう。ところが生活保護はフリーパスで、全く削られません。病院にとって、生活保護の患者さんは上客なのです。一般の患者さんなら人工骨に安いステンレスを使う場合でも、生活保護の患者さんには(タダですから)チタンを入れましょうと勧められます。

 また、同じ健康保険でも、医療費チェックの厳しさは地域で違います。例えば、東京都や神奈川県は若干厳しいが、千葉県は甘い。千葉県の患者は上客なのです。東京都の患者はある注射が1日2本しか使えないが、千葉県の患者には3本使える。となるとこの人は千葉県民だから3本使ってしまえという話になる。
本当にこれでいいのかと思います。でも、僕らだって医療保険に食わせてもらっている。だから医者の側から声を大にして「間違っている」とは言いにくい。医療現場から変えるのは不可能だと思います。一番の上客に対して厳しくすることはまずありえない。自分たちの首を締めることになりますから。日本医師会は生活保護者への過剰医療問題を見直すのに反対するでしょう

 これも、貧困者救済の制度につけこんだ一種の「貧困ビジネス」。このことを理由に「生活保護者の無償医療を見直すべき」との議論が出てきている。だが、見直すべきなのは無償医療ではなく医療従事者のモラルではないのだろうか。


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最終更新:2015年07月19日 01:54