2013年 総評

明日もこの部室(へや)で会いましょう』(7/26)《ミルクプリン》


2012年、クソゲーオブザイヤーinエロゲー板(通称「KOTYe」)の最終局面は、ゲー無とネタゲーの異種クソゲー対決となった。
実力が伯仲して戦いは長期化し、「ネタスレである」というKOTYeの本質にまで議論が及んだ末にようやく決着。
終始話題を席巻したsofthouse-sealによる連覇の野望は、達成目前で新鋭スワンアイの『SEX戦争 ~愛あるエッチは禁止ですっ!~』に阻止されたのである。
そして2013年。修羅の国における新陳代謝の激しさを噛み締めつつ、住人達は新たなクソゲー開拓の第一歩を踏み出してゆく。

その一歩目で、いきなりスレは爆心地となった。
前年の大賞争いも終わらぬ1月のうちに、スワンアイは『リア充爆発しろ! ~変身能力手に入れたんだけど質問ある?~』(通称『ずっぷ』)の投入を終えていたのである。
本作は『SEX戦争』と同じくバカ抜きゲーだが、だからといって許されないカオスぶりまで色濃く受け継いでしまった。
あらすじは「変身能力を得た主人公が、ヒロインの彼氏に化けて寝取っていく」というもの。
説明不足にも程があった前作の反省からか能力の取得経緯は一応描かれているが、最初から前回のあらすじ以下に圧縮済みで、
約10秒の話と「そして…僕は変身能力を手に入れたのだった。」で済まされる。
また、寝取りものなのでヒロインの大半が彼氏持ちで、中にはセフレ持ちや彼氏とのHシーンがある者までいるが、例によって全員処女である。
シナリオも酷く、電波出力が高すぎるエピソードが目白押し。
主人公を毛嫌いしていたヒロインを彼氏に変身して手篭めにすると、バレた途端に怒るどころかデレる。
偽のハメ撮り写真に変身して脅迫すれば、女生徒同士のハメ撮り自慢に発展。
失禁したヒロインを見ると、男子生徒達が集団公開オ○ニーを始める。
それを見咎めた教師が下す罰が「全員廊下に立ってオ○ニー」で、教師は女生徒共々オカズに志願。
もはや何でもありだが、本作はこれらに大義名分を与え得る突飛な舞台設定さえ用意されていないのである。
挙句の果てに、抜きゲーの命たるHシーンは、全編コピペの粗製乱造かつ尺が短い最凶のワンパターン。
「ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!ずっぷ!」とピストンを重ねて「ああ…もう出そう」で射精するのをベースに、喘ぎ声を混ぜ込み、
少量の会話と地の文で形を整えたらHシーン3分間メイキングの完了である。
毎回「ああ…もう出そう」と射精タイミングを知らせたり、音声を使いまわして声優の負担を軽減したりする細やかな心配りが忌々しい。
個別ルートはこうしたHシーンをわんこそばの如く繰り返すだけで、物語としてはスッカラカン。
副題の「質問ある?」に、無いと思うのかと問い返したくなる出来栄えである。
だが「ずっぷ!」のヘビーローテーションによって洗脳される住人は後を絶たず、ずっぷの旗のもとに集う門徒を増やした本作は、確固たる支持基盤を獲得するに至った。

かくて歴史は繰り返す。
前年の『くのいち』同様、初っ端から強力な門番が人外魔境に立ち塞がり、1年を通じて引き合いに出され続けることになったのである。

2月には、プラリネの『モテすぎて修羅場なオレ』がエントリー。
モテすぎというよりは成り行きの4股状態で始まり、1人を選ぶとほかのヒロイン全員が折れて修羅場にならないため完全なタイトル詐欺である。
真っ当な期待を全て裏切る内容は、選評者をして「ある意味プレイヤーが翻弄された5人目なのかもしれない」と言わしめた。

続いて春の訪れとともに始まったのは、余計なものを加えて台無しになった作品群による波状攻撃であった。

先陣を切った『星彩のレゾナンス』は特定ルートに限れば名作百合ゲーと評されたが、別ルートでは悪文の見本市が開催されてしまう。
アクションパートもバランスが悪く、ハメ技を使えば楽勝だが使わなければ無理ゲーである。

次に発車した『淫獄痴漢列車』は、メーカー同士のコラボ作品でありながら根幹の設定が他社の丸パクリ。
煩わしいミニゲームや、ターゲットの中に女装した男が紛れているなどの独自要素も誰得であった。

この流れに乗じ、春の陽気にくつろぐスレ住人達を狩ろうとする亞人が現れた。
まともなCGにゲーム性ならぬ芸無性を付加するクソゲーマイスターとして名を馳せたSofthouse-sealの、『エルフと淫辱の森』(通称『エルフ』)である。
本作は前年の大賞候補『くのいち』の後継作だが、アクションパートはさらに簡素化されている。
防御が無くなるなど自機のアクションは半減、やたら長い被弾後の無敵時間に攻撃を連打すればボスにも圧勝と、相変わらずゲーム性は皆無に近い。
また画面手前に配置された木や草がせっかくのミニアニメを隠したり、陵辱イベントが敗北時ではなくステージ開始前に強制発生したりと、どこか的外れな印象も否めない。
とはいえ、ミニアニメを含む回想モードやHCGなど最低限あるべきものは備わったため、最終的には「いつものseal」の一言で片付けられた。

ならば真のアクションを見せてやると出撃したのが、FULLTIMEのTPS『UNDEROID -アンダロイド-』だ。
本作はゲームとして破綻をきたしてはいないものの、細かいツッコミどころが満載された「遊べてしまうクソゲー」であった。
ジャンプはできても飛び越える物体が無く、雑魚が猪武者ばかりで対処法が慎重に各個撃破のみ、のようにせっかく豊富なアクションの多くに使い所が無い。
被弾による脱衣もあるが、休憩を挟まないと全裸どころか上着が脱げるより先に命が尽きる。
CG方面では、ヒロインの口元が今にも光線を吐きそうに怪しく光り、髪・怪物の長い舌・チ○コモザイク・その他諸々は胴体を貫通し、
足を挫くと股関節はバルーンアート並に捻れる。
ほかにも説明不足に伏線放置、会話はテンポもセンスも悪いが読み飛ばし不可、テキストとCGの不整合、強烈な違和感を覚えるリピート映像など、気になり始めると止まらない。
個々のクソ要素はスライム級でも、合体すればキングを目指せることを本作は示してくれた。

5月生まれの作品からは、ネタ性に満ちた2タイトルが舞台へと上がってきた。

1本目の『逃避行GAME』(通称『逃避行』)は、堅実な作品作りで好評を得ていたEx-iTから不意のエントリーとなった。
前作に続いてマスターアップ宣言の後に延期するチョンボをやらかし、発売前から掴みはバッチリ。
起動と同時にプレイヤーを出向かえるのは、このご時世に「START」「LOAD」「END」の3種というファミコン並みの項目数を誇るタイトル画面である。
シナリオも、主人公がヒロインとの馴れ初めを思い出さないなど要所がすっぽり抜けており、話を削ったのではないかと邪推された。
しかし、本作のポテンシャルの源はなんといってもバグである。
背景の暗転や一部ボイスの非再生といった軽微なものから、特定ルートに入れない致命的なものまで網羅。
特に、モブキャラの台詞が全て「イラッシャイマセー」と謎の女性の声で再生される「イラッシャイマセーバグ」は話題を席巻した。
モブが「イラッシャイマセー」の応酬だけで会話。
テキストは「ありがとうございました」なのに音声は「イラッシャイマセー」
身の丈2m超の殺し屋があらゆる意志を「イラッシャイマセー」だけで表現しているとき、地の文で「互いに互いの言葉を押し付けているだけ。これは会話ではなかった。」と真理が示される。
デバッグ能力皆無の烙印と引き換えに笑いの死に花を咲かせる悲壮な自爆技に、住人達は喝采を惜しまなかった。
こうして「イラッシャイマセー」は「ずっぷ」と並ぶ流行語として定着。
そのまま本作の代名詞になっただけでなく、ようかんマンを改変したAAまで誕生して親しまれた。
また予約特典はシーン回想へのヒロイン視点追加ディスクだが、本編に回想モードが無いため決して機能せず、実質的にはフリスビーでしかない。
特典の不具合を理由に発売を延期したのは一体何だったのか。
その後もパッチ配布の告知と延期を何度も繰り返した末、ようやく改善されたのは発売から2ヶ月後のことであった。
一連の騒動はメーカーのリアル逃避行が疑われるまでに発展。
ファンは開発中の次作による挽回に望みを託したが、それが叶わぬ夢であることをまだ誰も知る由もなかった。

2本目はShelfが放った『Qualiaffordance-クオリアフォーダンス-』(通称『クオリア』)である。
本作はフルアニメーションの学園ADVが謳い文句だが、そこから膨らむ期待と実際の内容は大きくかけ離れていた。
最大のウリであったはずの全編アニメーションは、大部分が立ち絵や一枚絵にループやスライドといった単調な動きが加わっているだけであり、普通のADVと大差ない。
それどころか、笑顔でひとりマカンコウサッポウを繰り返すなど、場合によっては臨場感よりも違和感の方がはるかに強い。
エロ方面では単調なループが有効に作用するかと思えば、Hシーンはほかと違って1シーンがまるごと1本の動画として埋め込まれており、
等速で前戯から通して見るか全部スキップして終了するかの2択。
早送りやブックマーク再生などできるわけもなく、作画崩壊や低画質との相乗効果であまりにも使いにくい。
システム周りもWin98時代を思い起こさせるほど古臭く、不便さに拍車をかける。
そしてシナリオは超展開とご都合主義のオンパレードだ。
一見ありふれた学園萌えゲーだが、個別ルートではヒロインの化けの皮が剥がれて裏の顔が判明。
主人公はそれをあっさり受け入れ、悪の組織相手に中二妄想級のトンデモ大活劇が始まってしまう。
世話焼き幼なじみは、友人の仇を探すため売春斡旋をしているスーパーハッカー。
小動物系ロリは金で暗殺を請け負う凄腕のスナイパー。
高飛車巨乳は悪徳宗教団体の傀儡教祖。
そして主人公は持ち前の超能力をピンチに合わせて都合良く進化させ、敵アジトへの単独潜入やら内部からの組織改革やら暗殺者への転身やらを成し遂げていくのである。
学園恋愛ものの要素はもはやどこにもない。
唯一化けの皮をかぶっていない義妹ルートに救いを求めても、待っているのは正気を失った姉が義妹をいじめ殺しにかかる鬱展開。
最後は姉がトラックに轢かれ、物理的に排除されてグッドエンドとなる。
ほかにも大小様々な超展開がこれでもかと連続するため、ツッコミ練習用教材としては非常に有用といえるだろう。
本作は全体的に短所だらけではあるが、笑うしかないところまで突き詰めて違う意味の長所に転ずる大技をやってのけたのであった。

次に放たれたのはブランドの個性を過剰に発揮した問題作、ニトロプラスの『君と彼女と彼女の恋。』である。
ストレス要因を多く抱えており、ゲームの強制終了、セーブデータの消去、一部でセーブ・ロード不可、ランダムQ&Aを全問正解するまで無限ループ、
特定ルートに入れなくなる、回想モードの部分消去、純愛を謳いながらNTR、と種類も豊富だ。
しかしこれらは意図的な演出であり、そうまでして強いメッセージ性が込められた内容を絶賛する声もあった。
あまりにクセが強く賛否両論が激しく噴出したことから、クソゲーならぬ「くさやゲー」とでも呼ぶべきか。

夏の盛りには、高らかに鳴り響く行進曲の調べに合わせて声なき雌獅子が盛り始めた。
MBS Truth -Cherish Pink-の『クラス全員マヂでゆり?!~私達のレズおっぱいは貴女のモノ・女子全員潮吹き計画~』(通称『マヂゆり』)は、
タイトルから察せられる通り、おバカなノリの百合抜きゲーである。
希少な百合ハーレムものとして秀でたところもあるが、ゲーム終了でしか止められない問答無用の強制スキップ機能や、
白濁液発射システムといった不可解な漢仕様が足を引っ張る。
そして本作最大の問題は、ボイスの異様なケチり具合であった。
百合ゲーでありながらボイスのない主人公がTPOをわきまえず独白妄想を続け、ヒロイン達のボイス量までも圧迫しているのである。
日常シーンでは、主人公が隠密変態単独行で覗き・盗撮・服泥棒を楽しむだけで会話が全く無い場面が目につく。
あろうことか、抜きゲーの肝心要たるHシーンにおいても傾向は変わらない。
主人公が「ボクの中の雌ライオン」と呼ぶリビドーを荒ぶらせて、エロ妄想とマシンガントークを炸裂させるのである。
時には数十クリックもの間ヒロインにしゃべる暇を与えない独演会まで始まってしまう。
雰囲気にそぐわない壮大で軽快なBGMも組み合わさって、もはや抜くどころの話ではない。
度々挿入される無音声幕間劇など、ボイスの少なさを工夫で補う努力の跡は見られるものの、それが余計に喋らない印象を強める皮肉な結果となってしまった。

夏の終わりから冬にかけては、数々の有名ブランドが意表をついて大攻勢に転じた。
信頼と実績を金に変える現代の錬金術士達がばら撒いた大型地雷群は、哀れな爆死者の数を急激に増やしていくことになる。

Lassの『少女神域∽少女天獄』は鬱グロ異能系の作風を匂わせていたのに反して、延々続く観光案内と料理談義がシナリオの大半を占めていた。
終盤で待望の鬱グロ展開に入ったら入ったで、登場人物の無駄な多さや難読漢字の濫用に困惑させられ、理解が追いつく前に急転直下の幕引きを迎えてしまう。
ほかのルートでの補完を期待しても、ヒロインがすげ変わるだけで展開は変わらない一本道シナリオが露呈するだけ、という二段オチまで仕込まれている。
しかもエンディングは安直な鬱エンドのみ。
事ここに至って、冗長な日常描写やそこに頻出する強調記号と選択肢には実は何の意味もなく、
謎に対してヒントすらろくに与えないままの投げ出しフィナーレであることをプレイヤーは知るのである。
もはや完全にライターのオ○ニーであり、買取価格が一時100円にまで下落した事実が本作の価値をよく表していると言えよう。

実りの秋には9月27日発売の3作品が相次いでエントリーし、阿鼻叫喚の収穫祭が盛大に催された。

先鋒は、老舗SAGA PLANETSの『カルマルカ*サークル』(通称『カルマルカ』)である。
本作は「魔可」と呼ばれる七つの大罪になぞらえた能力を持つ主人公とヒロインが、過去や未来を改変できる超常存在「カルマルカ」との接触を目指す物語……のはずだった。
だが実態は、設定をないがしろにした矛盾まみれの電波シナリオだったのである。
怒り時のみ身体能力が上がる憤怒の魔可を持つ主人公は、平常時でも小石をやすやすと圧砕するだけでなく、「暴力では何も解決しない」と主張したそばから殴り合いに応じる。
カルマルカに執着しているはずのヒロインも、別のルートでは「ぶっちゃけ、もうカルマルカとかどうでもよくね?」と根幹の設定を一蹴。
魔可の設定もルートによっては自然消滅し、代わりに新設定が追加されて超展開が繰り広げられる。
特に、追手から自分を逃がすために瀕死の重傷を負った主人公に対し、ヒロインが永遠の愛を誓いつつ置き去りにして去る場面は、プレイヤーにシュールな苦笑いを提供した。
これらがほんの一例にすぎないほど、本作のシナリオは支離滅裂な設定・説明不足・ご都合主義の合わせ技で不整合の嵐となっているのである。
紛れもなくシナリオ担当者を7人も揃えた人海戦術の弊害であり、ライター間の意思疎通能力にバグがあると断ぜられたのも仕方がない話だろう。
選評者からは「笑い所のないチャージマン研!」と斬って捨てられ、購入者からは「個別ルートはTRUEルートと違いすぎるのでスキップで無視した方が良い」とまで言われる始末。
このように主人公ではなくプレイヤーが憤怒の魔可に目覚めそうなのとは裏腹に、本作の公式ジャンルは「ハッピー&スマイルADV」である。
このギャップが受けてハッピー&スマイルマンなるAAが誕生し、いきり立つ住人たちに癒やしを与える役割を担ってゆくのであった。

中継ぎを務めた『ノブレスオブルージュ』は、女装+双子入れ替わりがテーマにもかかわらず、エロシーンで主人公をのっぺらぼうにして女装ものの強みを自ら捨てている。
さらに、ヒロインに惚れた途端に主人公が後先考えず正体をばらして公認カップルになるなど、入れ替わりものの仁義もわきまえていない。
シチュエーションの不文律を理解せずに既存品の上っ面をなぞっているだけでは、クソゲーとの誹りを免れまい。

秋祭りのトリを飾ったのは、戯画の『バルドスカイゼロ』(通称『バルスカゼロ』)である。
良く練られたシナリオと爽快感あるアクションが人気を博しているバルドは戯画の看板シリーズで、
中でも高い評価を得た『バルドスカイ』の前日譚である本作は大いに期待を集めていた。
しかし、半年にも及ぶ延期や製作陣の一新という警告信号もまた発されており、結果から言えばそれを信じるべきであった。
まずアクションパートだが、武装は総数も装備上限も減少、売りであったコンボの概念が消滅し、ラスボスさえ近接連打のゴリ押しで秒殺など前作から軒並み劣化している。
しかも事前にアピールしていた新要素の一部は実装を見送られ、残りは微妙。
追加要素で最も印象に残るのは理不尽な初見殺しギミックという体たらくであった。
そして、1ルートクリアまでに20回以上頻発したという脅威のフリーズ地獄を耐えぬくプレイヤーに、苦痛に彩られたシナリオが追い打ちをかける。
会話はあまりにも回りくどいため理解しづらく、伏線は投げっぱなし。
大抵の出来事はドラ○もん的な便利キャラが出てきて何とかするご都合展開か、「実は~でした」と後からこじつけて終了するかのどちらかであり、緊張感も感慨もゼロ。
人を罵倒することに全力を掛ける主人公や、仲間が死んだ5分後には漫才を始める豪胆なヒロインたちは、そこに深い理由付けがないため単なる不快な人物になってしまっている。
さらに前作主人公に関しては、「強いが馬鹿」扱いで大量殺人犯という設定まで追加された上、
恋人の悲惨な死に様を皮肉たっぷりに掘り返されるといった胸糞悪い描写の大盤振る舞いである。
そして前日譚なのにどう考えてもバルドスカイに話が繋がらない。
この段階で既にバルドシリーズが積み上げてきた信頼はゼロにまで堕ちていたが、ダメ押しとして続編の制作を発表。
単体で完結しているかのように匂わせておいて事実上の分割商法という仕打ちには、住人も怒りを通り越して呆れ返るばかりであった。
単品としても大概だが、前作への思い入れが強いほど実写版ドラゴンボールのようなコレジャナイ感が増す本作は、
ファン殲滅用の指向性戯画マインとして猛威を振るったのである。

時は流れてクリスマス、心優しいサタンクロースから2つのプレゼントが届き、ある程度の落ち着きを見せていたスレは一転してジングルヘルと化した。

イブの夜にエントリーしたのは、11月末に発売されていたALcotハニカムの『赤さんと吸血鬼。』(通称『赤さん』)である。
本作は、好きになる過程の薄っぺらさとダイジェスト並みのぶつ切り展開を兼ね備え、全てが唐突なキングクリムゾンシミュレーターであった。
次々と脈絡なく股を開いていくヒロイン達と日常シーンの合間に突然おっぱじめる構成は、「Hシーンによる奇襲」と評されている。
屋外で肝試しの相手を選んだ瞬間に始まる屋内でのHシーンや、「夜の寮で委員長と停電ハプニング中に、突如昼の学園屋上にワープしたと思ったら、
仲良くなった覚えのないメイドが尻を突き出してくぱぁ」という大転換を3クリックの間にやってのける「停電くぱぁ」はその代表例であり、
プレイヤーの頭上に特大のクエスチョンマークを点灯させた。
グラフィック・設定・システム周りは時代相応以上の出来であっただけに、シナリオのせいでまとめて台無しになってしまったことが悔やまれる一作であった。

25日の未明には、夏の怪談もかくやと思わせるオドロオドロしい7月作品が這い出してきた。
スワン系列の黒鳥から発売された『雨音スイッチ~やまない雨と病んだ彼女そして俺~』(通称『雨音』)である。
副題からヤンデレものと勘違いしそうになるが、本作にデレはない。
ヒロインは徹頭徹尾病みオンリーの狂人で、その狂いようはなかなかハイレベル。
「主人公の母の葬式にウェディングドレス姿で乱入し、遺影にブーケトスして結婚式の開始を宣言」はその最たる例と言えよう。
狂っているのはヒロインだけにとどまらず、グラフィックや演出にまで及ぶ。
気合が入った絵は極一部で、全体として見ると明らかにデッサンの狂った立ち絵や異様に画力が低いCGが並ぶ典型的なパッケージ詐欺。
アニメ演出も、Hシーンを差し置いて首絞めやリストカットなど誰が見たいのかわからない部分に採用され、
何を思ったのか回想まで可能とあってプレイヤーの心に疑問の雨がやまない。
メンヘラものとしてオンリーワンの存在感を持っているものの、フルプライスとは思えないチープさまで備えていてはクソゲー扱いも致し方ない。
さらに全面狂気仕様は限度を超えてギャグの域に達しており、本作は文句なくKOTYeへの参戦資格を得たのであった。

こうして本格的な冬に差し掛かる頃には数々のクソゲーが揃い踏みしたが、スレには漠然とした不作感が蔓延していた。
金城鉄壁の門番『ずっぷ』に比肩しうるクソゲーの不在がその一因であろう。
しかし、安々と奈落へのポールトゥウィンを許すほど修羅の国は甘くない。
1年を通して新鮮な怪物や魔物が湧いて出る暗黒大陸においても、格別に瘴気の濃い逢魔が刻はまだ過ぎ去っていないのだから。

そして、やはり年末の魔物は現れた。

その魔物とは、ド年末の瘴気を浴びて深化を遂げたEx-iTから孵化した『雛といっしょ』(通称『雛遺書』)である。
2012年初頭の発表からおよそ2年をかけ、前々作から数えて3作連続マスターアップ後に延期という前人未到の離れ業を経て世に出た本作。
前作『逃避行』の影響もあり発売前から嫌な予感は渦巻いていたが、はたしてそれは現実となった。
商品を手にして真っ先に目に入るのは、シワだらけでくたくたの梱包。
これは詫び状を入れるために一度開封して手作業で再梱包したのが原因であった。
そしてその詫び状には、不具合によりパッチを当てるまでゲームが進行できない旨が記載されていたのである。
実際の内容は、10分足らずでプロローグが終わるとルート分岐の選択肢が表示され、どれを選んでも直後にエラーで強制終了する。以上。
前作は機能しない特典ディスクがフリスビーと揶揄されたが、同等のことを今度は本編でやってのけたのである。
完全な欠陥品と知りながらの発売強行に「新たな伝説の誕生か!?」とスレは騒然。
体験版未満の完成度で中身がほぼ不明なことから「シュレディンガーのエロゲー」「パンドラの箱」などと呼ばれ、
しまいには「ゲー無」の体裁すら整っていない「 ー 」の称号を得るに至った。
メーカー対応も「電気外祭りを優先」「原因がわからない」「ミラーサイトの担当者が不在」などと宿題を忘れた小学生並みの釈明とパッチの公開延期を繰り返すお粗末さで、
かえって火に油を注ぐ結果となる。
発売から約1週間後、ようやく開放された中身はミドルプライスのファンディスクにしても非常に薄かったが、破綻やネタ性も無かったため騒ぎは収まった。
だが、パッチを解析するとシナリオやイベントCGのみならずスタッフロールの画像まで出てきたことは無視できない。
プロローグだけを完成品の価格で販売しておいて、修正・お詫びパッチと称してパーツを継ぎ足していく新手の未完成商法と疑われるのも仕方あるまい。
延期に延期を重ねて年内ギリギリに強行発売し、低完成度を通り越して進行不能、と嫌気が差すほど年末の風情を感じられる本作は、まさしく血統書付きの魔物であった。
プレイできないという単純明快なクソ要素と事前事後の経緯により、修羅の国の非情な現実と業の深さを再認識させた負の功績は計り知れない。
かくして、逃避行から遺書に繋げてEXITする不吉コンボはスレを大きく賑わせたのであった。

以上が、2013年“内”の主なエントリー作品である。
年が明け、クソゲーも出尽くしたと住民達は一息ついたが、その矢先に未曾有の波乱が待ち受けていた。
年末の魔物を踏み台にして成り上がらんとばかりに、息を潜めて機を窺っていたクソゲー共が一斉蜂起したのである。
その中には、かつての王や遅れてきた怪物の姿もあった。
年末ですら、始まりにすぎなかったのだ。
例年なら予備期間でしかない1月はまさかの主戦場となり、時間の壁を超えた最終戦争が勃発するのであった。

1月6日に現れた一番手は、夏にOne-upから発売されていた『聖ブリュンヒルデ学園少女騎士団と純白のパンティ ~甲冑お嬢様の絶頂おもらし~』(通称『ブリュパン』)であった。
『マヂゆり』の姉妹作にあたる本作は、ヒロインの反応に単発の「!?」や「……」を多用する新機軸のボイス抑制技を引っさげて登場。
ほかにも、フルプライスのくせに主題歌なし、立ち絵は基本1種類、タイトルに含まれる要素の扱いが適当などの手抜きが目立ち、
全社的なコスト削減意識の高さを存分に知らしめた。

5日後には、GLaceが年末ギリギリに送り出していた『Timepiece Ensemble』が少々遅れてやって来た。
シナリオは、ほとんど一つの教室内で単調な話が延々続く罰ゲーム、のち時々超展開。
タイトル画面が無い演出や過去作からの謎キャラ続投も、不便さやモヤッと感が先に立っては制作者の自己満足だ。
またテキスト・立ち絵・一枚絵の間に不整合が多く、時には同じ場面で衣装が瞬時に切り替わるゲリラ手品まで見られる。
納期に追われ突貫作業ででっち上げた、年末産特有の異臭が香り立つ完成度であった。

選評ラッシュはまだまだ続く。

その中でひときわ異彩を放ったのが、あのアーベルの姉妹ブランドRed Labelの『JK辱処女~純粋な心の持ち主ほど処女を好むという法則~』(通称『枝豆』)である。
2011年の大賞獲得以来姿を消していた古豪の帰還であった。
起動するとロゴ表示よりも早くヒロインの嬌声が響き、本編では主人公と出会う場面よりも前に2人のエロシーンが存在するなど、冒頭から時系列がおかしい。
また主人公は「娘の幸せを願うなら娘の処女を俺が奪うのが道理(要約)」などと言い始め、サブタイトルを全否定。でなければ、純粋な変態という意味だろうか。
CG差分の少なさは相変わらずで、文章と画像の乖離が激しい。
テキストでは徐々に脱がせていく場面でも、画面には半裸で横たわり微動だにしないヒロインが表示され続けるのみ。場合によっては場面転換すら把握できない。
そんな環境下でも豊富な差分が用意され好待遇なのが、なぜか「枝豆」なのである。
クリ○リスの隠喩として、Hシーンの真っ最中にいきなりHCGを覆い隠す勢いで初登場。
その後も、色を変えたり、腕の代わりに注射されたり、主人公のイチモツ代わりに汁気を帯びたりと、人類史上初の枝豆差分は異次元のセンスをたぎらせ活躍の場を広げていく。
ひと目で脳裏に焼き付くシュールな絵面のインパクトは絶大で、枝豆は瞬く間に本作そのものの象徴として認識された。
矛盾系AAを元に作られた枝豆AAは少しも矛盾しておらず、本作における枝豆の万能性が窺える。
かつて糞システムとアペンド商法で苦痛を振りまいた魔王は、あさっての方向に全力で突き抜けて笑いをもたらす新たな一面を見せてくれたのだった。

翌日に参戦した『妹*シスター -My sister-』は、公式サイトの日本語が不自由すぎて発売前から注目を集めていた。
解読が困難な「いい肉な妹日」を筆頭に、主人公の「部屋」を「部室」と間違えるなど、あらすじやキャラ紹介までエキ○イト翻訳以下の怪しい言い回しで記されているのである。
そして本編は義妹を実妹と偽っている上にほかのヒロインは義妹ですらなく、妹ものとしては失格であった。

そして終盤には3Dゲー三連星が相次いで登場し、華麗に3者凡退を決めた。

『プレミアムプレイ ~ダークネス~』はキャラのカスタマイズ性こそ評価されたが、それ以外は総崩れである。
ストーリーは睡眠導入剤代わりに使えそうなほど退屈で、全9パターンの内容が酷似しているため冗長さも9倍。
そしてHフリーモードは「アアッアッアッアッあっははおもしれーなー」「おほぉおおおぉイイノッモノスゴクタノシーワー」など、
繋ぎ・抑揚・内容のトリプル違和感ボイスが10秒足らずでループするマインドブラスト仕様であった。

『3D少女カスタムエボリューション』は2008年に発売された『3Dカスタム少女』の後継作だが、前作の命綱であった有志による豊富な独自開発データが一切流用できない。
そのくせ、追加されたのは劣悪な操作性でゴーストタウンを彷徨う箱庭要素のみ。
ピストン毎にボイスがリピート再生されて「気持ちいい」が「キモッキモッキモッキモッ」になる笑いどころも修正された今となっては、前作の純劣化版と言っても過言ではない。

『いたずら学園』は、リアルタイム痴漢シミュレーターを謳っていながら痴漢要素ゼロ。
モブがいてもお互いに無視を決め込み、電車・バスや教室など場所がどこだろうと隠す気のない堂々たる性行為を痴漢とは呼ぶまい。
ほかにも、ランダムすぎて支離滅裂な会話、寝ているヒロインによる睡姦ならぬ夢遊病ご奉仕、車窓の風景が書割、
絶頂時にヒロインの頭が消えるバグで畳み掛けてプレイヤーを困惑させた。

こうした激しい闘争の真っ最中に、7月の発売以来眠り続けていた不発弾が発掘されていた。
ミルクプリンの『明日もこの部室(へや)で会いましょう』(通称『部室』)である。
公式サイトのブランド名ミスや少なすぎるサンプル、そして「発売予定」のままの告知から漂うやる気の無さゆえに、ただの駄作と見なされてスルーされっぱなしだったのだ。
しかし気まぐれに爆破処理が行われた結果、実はゾンビウイルスを内包した未知の細菌兵器だと発覚。
第一報の着弾後まもなくパンデミックが発生し、感想が全く見つからないという情報不足も重なってスレが狂騒の坩堝と化していく中、
緊急出動した対策班によって解明された全容は想像を絶していた。
キャプションにいきなりの誤植、クイックセーブ&ロードやバックログの一括表示さえ出来ない化石UI、作中で自らを「主人公」と名乗る主人公、
不安すら覚えるほど逆三な立ち絵、Hシーンまで侵食する寒いパロネタとメタ発言、Hシーン後もこだまするBGV、全商品エロゲーにしか見えないカメラ屋の背景など、
粗は探すまでもなくそこかしこに目立つ。
また、公式サイトは主人公名からして間違っているほど本編との食い違いが激しいと判明し、
有志が該当箇所を塗りつぶすと検閲された墨塗り教科書のごとく真っ黒になってしまった。
だが、シナリオの方はここまでが余興に思えるほど問題の山であった。
本作のあらすじは「廃部寸前の写真部を存続させるため、主人公がヒロインをモデルにした写真で実績作りをする」とごく普通で、
進め方も毎日誰と行動するかを選び続けるだけのオーソドックスなものである。
しかし全編の9割以上が共通ルートで、その大半が起伏のない日常とカメラの雑学で占められているため非常に退屈。
ドラマ性があるとすれば、女性が苦手なはずの主人公が女子部員たちとあっさり打ち解け、学園内でエロ妄想を声に出して垂れ流せるまでに成長するところくらいか。
攻略も一筋縄ではいかず、セオリー通りに目当てのヒロインを選び続けると、土壇場でモデルの依頼を一笑に付されてバッドエンドへ直行する。
なぜなら、見ただけで個別ルートフラグが折れる罠イベントが隠されているからである。
内容はヒロインがモブ男と一緒にいるのを遠くから目撃するだけ。
発生した後も展開に変化はなく、表向きは引き続きヒロインとの親睦を深めていけるのでは、回避必須のイベントだとわかるはずもない。
そして迎えるバッドエンドで主人公は碌な写真も撮れないまま卒業するが、それでも写真部は存続するのである。
失意の主人公が衝動的に身投げするのも無理からぬことであろう。
悪質な罠を打開するまでは何度でも繰り返されることも含め、プレイヤーの心に「理不尽」の3文字を刻みつける所業であった。
そろそろクソさで体調を崩しそうになる頃だが、残り1割の個別ルートはさらなる魔窟である。
構成は単なるHシーンの詰め合わせであり、それが済めばいきなり数年後に飛んでエンディングとなる。
主人公の写真やその成果には最後まで一切触れられず、部の存続が一部の後日談でかろうじて確認できるのみ。穴だらけの風呂敷は、畳まれないまま放置されてしまうのである。
代わりに主人公の成長物語の続きが描かれており、ついには裸族のDNAを覚醒させて解脱に至る。
幼馴染ルートでは自宅で服を着ない掟を公布して「ある意味DV」と呆れられ、メインヒロインルートでは2人して山奥の洋館に隠遁し、SEX三昧の常時全裸生活を送るのである。
この時点ですでにプレイヤーを置き去りにする瞬発力を発揮しているが、後者のルートはさらに予測不能な領域に飛躍してしまう。
引きこもっている間に細菌テロが発生し、街がラクーンシティ状態に陥っていることがさらっと明かされるのである。もちろん前振りは何も無い。
そして、それでもなぜか招待状が届いた学園祭に参加するべく街へ出ようとする場面で、
「――果たして、無事に明日、部室で会えるかどうかは、誰にも分からない」
と、無理やりタイトルに繋げる圧倒的な力技によって本作は幕を下ろすのである。
この「裸族ニートからのバイオハザードエンド」は常人の理解力ヒューズを一発で飛ばし、初見の誰もが茫然自失となった。
果ては、主人公の名前変更時に制限を超えて255バイト分まで入力できるバグが発見される。
主人公名を長くすれば本来の台詞を次頁に追いやれる特徴は住人達の格好の玩具となり、
独自の台詞や「ずっぷ」と「イラッシャイマセー」のAAをメッセージウィンドウに再現することすら可能にした。
作成されたネタ画像は劣悪なシナリオに頭を抱えていた住人達を熱狂とともに癒やし、「遅れてきたバイオハザード」の脅威を払拭せしめたのであった。

以上、今度こそ主要なエントリー作品の紹介を全て終えたところで、2013年の結果発表に移ろう。
次点は、
『リア充爆発しろ! ~変身能力手に入れたんだけど質問ある?~』
『Qualiaffordance-クオリアフォーダンス-』
『逃避行GAME』
『雛といっしょ』
そして大賞は、
『明日もこの部室(へや)で会いましょう』
とする。

2013年のKOTYeは12の月からクソゲーが名乗りを上げ、全月制覇が達成されたほどの大豊作となった。個性に富んだ骨太なクソゲーが跋扈し、群雄割拠の様相を呈したのである。

クソ要素の特徴としては「手抜き」と「破綻したシナリオ」が主流であった。
まず「手抜き」だが、大手で無い限り潤沢な資金があることは珍しいエロゲー業界では、コストの問題で制作に支障をきたすことは日常茶飯事であろう。
だからといって品質が著しく低くては元も子もなく、手抜きと呼ばれるのも致し方ない。
続いて「破綻したシナリオ」だが、エロゲーは基本的に読み物であり、当然ながらシナリオの重要性は大きなウェイトを占めている。
好みの問題もあるとはいえ、それ以前に設定矛盾や超展開のように物書きの基本的なタブーすら破り放題では、読み物として失格である。
こうした粗製濫造の結果、面白みのないクソゲーが数多く排出されてしまった。
ゆえに、その暗い雰囲気を一撃で吹き飛ばす「笑い」を生み出すクソゲーがひときわ珍重され、歓喜をもって迎えられたのも今年の特徴である。

大賞・次点は、KOTYeの基本理念を前提に、こうした傾向も考慮して選出した。
『クオリア』は、低品質さを維持しながらの超展開シナリオが痛面白さに昇華された、バランス型で堅実なクソゲー優等生として。
『逃避行』は、詰めの甘さが神様の気まぐれで奇跡的に笑いへと転じた幸運の象徴として。
『雛遺書』は、内容以前に遊べる状態まで完成させない手抜きの極致と、業界のシビアな現実を端的に示す好例として。
それぞれ次点に名を連ねるに値する個性と資格を備えている。
ただし今年の次点争いは熾烈であり、評価基準の匙加減がわずかに変わっただけでも勝敗が入れ替わる大混戦であったことを改めて強調しておきたい。

だが、この戦いはいわば審査員特別賞争いにすぎず、次点のうち1つと大賞は満場一致で早々に確定していた。
『部室』と『ずっぷ』がほかを完全に凌駕していることは、確かな実感として住人達の胸に刻まれていたのである。
両作がものの見事にスレの本旨に沿っていることが最大の理由であった。
まず「その年でいちばんクソだったエロゲーを決める祭典」であるからには、絶対的な品質の低さが最重要視される。
その点、両作はエロゲーの中核であるシナリオとエロに単調・薄い・電波の大三元を抱えており、バグやメーカー対応の悪さといったドラに頼らずとも、
クソゲーとしての基本点は確固として高く揺るぎない。
さらにそれらが1周して笑いに繋がっているだけでなく、常套句の汎用性や名前バグの応用力の高さは、住人によって活用されてさらなる笑いへと進化した。
もうひとつの趣旨である「クソゲーを掴んでしまった怒りや哀しみを笑いへと昇華する」にも合致しているのである。
今年の特徴として挙げた、手抜き・破綻したシナリオ・笑いの3要素も全て高水準で満たしている。
ただし、類似点の多い両作は一部で方向性を異にしていた。
『ずっぷ』は薄さと単調さを中核に据えており、比較的小さく収束してしまった印象は拭い切れない。
対して『部室』は理不尽・物語の放棄・化石UI・誤植・設定詐欺まで追加で備えている上に、ネタツールとしての自由度も高く、クソさと笑いの大パノラマを内包している。
この「クソゲーとしての雄大さ」が、両雄の勝敗を決定づけた。
おまけに名も無き修羅の立場で歴代の王者達を圧倒したことで、修羅の国の底知れなさをも示してみせたのである。
以上を鑑み、2013年KOTYeの大賞は『明日もこの部室(へや)で会いましょう』とする。

前年王者の君臨、新勢力の台頭、古豪復権の兆し、そして大賞をさらっていったダークホース。
今年もまた、入れ替わりが激しく先の見えない大荒れの1年となった。
歴戦のシットメーカー達はすでに次弾の発射に向けて動き始めており、激動の時代が続くことを予感させている。

ただでさえ、クソゲーを批評するからには否定的な論調になるのは必然であり、やむをえない。
また、エロゲーは徹底的な検証が難しく、クソさ競争への特化にリスクがともなう。
だからこそ「笑いに昇華する」という理念を今一度大事にするべきであろう。
クソゲーカーストで最上位ではなくともある程度柔軟に受け入れ、エンターテイメントに変えて負の感情を払拭せんとするのがKOTYeの独自性である。
「ネタスレだから」を免罪符に気に入らないものを罵倒するだけでは、否定自体が目的となって公開処刑ごっこに堕しかねない。
無と負がはびこる不毛のクソゲーにさえ、見た者に興味をも覚えさせる笑いを花開かせて「ネタスレだから」と胸を張る。
KOTYeはそんな紳士の集う社交場であり続けたい。

最後に、クソゲーを掴んだ怒りや哀しみにとらわれたとき思い出してほしい言葉を、KOTYe2013の結びとして贈る。

「――果たして、無事に明日、クソゲーに克てるかどうかは、誰にも分からない。
 それなら、この場所(スレ)で会いましょう。」
最終更新:2014年08月04日 01:32