激突!2つの破壊者 ◆Vj6e1anjAc



「――おおぉぉぉぉっ!」
 深夜の公園に叫びが轟く。
 月光と街灯が照らす薄明の中、鋭い雄叫びが木霊する。
 樹脂と樹脂とがぶつかり合う、鈍い音を響かせながら、2つの雄が激突する。
「キシャアアアア――ッ!」
 甲高い高音を上げるのは、まさしく悪魔の如き威容だ。
 全高250ミリという、規格外の巨躯を震わす、血染めのボディの大怪獣だ。
 完全生命体・デストロイア。
 全ての生命に死をもたらす、オキシジェン・デストロイヤーの化身である。
「ブロウクンマグナァァァムッ!」
 そのおぞましき姿に対峙する、黒光りする威容が、1つ。
 百獣の王のごとき雄叫びを上げて、赤熱する拳を発射する影が1つ。
 その名は勇者王・ガオガイガー。
 機械生命体の脅威から、人類を守るため建造された、無敵のスーパーロボットである。
「シャァアアッ!」
 うねる尻尾が大気を揺らした。
 爆音を上げるロケットパンチを、龍鱗の尾が絡め取った。
 ロケットパンチ・ブロウクンマグナム――勇者の奥義が沈黙する。
 暴れ回る鋼拳が、赤色のエネルギーを失って、緩やかに勢いを失っていく。
「エネルギーを吸収しているのかっ!?」
 振り落とされた右腕が、虚しく音を立てて地に落ちる。
 それを見届けたガオガイガーが、驚愕も露わに叫びを上げた。
 ロボットフィギュアの鉄色のマスクが、表情を変えることはない。
 それでも、搭乗者・獅子王凱のそれを模した声は、明らかに驚嘆に揺れていた。
「シャアァ!」
 勝ち誇るように怪獣が唸る。
 丸太のように太い足が、勇者の右手を蹴り飛ばした。
 怪獣デストロイアの尾には、接触した相手のエネルギーを、吸収する能力があるのだ。
 バッテリー切れが死に直結する、この殺し合いの場においては、凶悪な能力であると言えるだろう。
「が、凱さんっ!」
「来ちゃ駄目だ、沙英! 戦闘モデルじゃない君には、あの敵は危険すぎる!」
 遊具の影から顔を出す少女を、ガオガイガーの左腕が制止した。
 元々は、この眼鏡の女子高生――沙英が、あのデストロイアに襲われたのが、この状況の発端だった。
 慌てふためいている沙英を、救助すべく現れたのが、黒鉄の巨神・ガオガイガーだったのだ。
 しかしそのガオガイガーが、その敵を前に攻めあぐねている。
 深紅の鱗に身を包み、両翼を広げる魔獣に対して、ガオガイガーが攻めあぐねている。
「キシャアァァァーッ!」
 瞬間、発光。
 デストロイアの口元から、鋭い光が放たれる。
 闇夜を切り裂く光線が――オキシジェン・デストロイヤー・レイが、勇者目掛けて発射されたのだ。
「くっ!」
 プロテクトシェードは乱発できない。エネルギーを吸収する相手に、無駄にバリアを張ることはできない。
 ほとんど条件反射的に、ガオガイガーは回避を選んだ。
 黒い翼のバーニアを噴かせ、左側へと飛びすさっていた。
 刹那、響いたのは爆発音だ。
 沙英が身を隠していたのとは、異なる遊具に命中し、赤々と爆炎を上げたのだ。
 そして勇者の眼差しは、炎と煙の向こうに見える、破壊の痕跡を見逃さなかった。
「なんて奴だ……!」
 破壊された遊具の表面が、えぐり取られるようにして消滅していたのだ。
 デストロイアの力の源泉――ミクロオキシゲンには、原子結合を破壊し、対象を「消滅」させる力がある。
 その圧倒的な威力の前には、あらゆる装甲が意味を持たず、容赦なく消滅させられてしまうのだ。
 これが本当に玩具なのかと、ガオガイガーはめまいを覚えた。
 中のパイロットがいないにもかかわらず、そうした感触を覚えるというのも、奇妙な話ではあったが。
「あんなものを食らってはいられない! プラズマホールドッ!」
 バーニアを噴かしながら、左手を突き出す。
 ガオガイガーの腕から迸ったのは、眩い稲妻のごとき光だ。
 バリアのエネルギーを攻撃に転じ、敵を拘束する技である。
 すぐさま電撃がデストロイアを包み、その巨体が持ち上げられる。
 そのまま投げ縄の要領で、250ミリの巨体が、唸りを上げて投げ飛ばされた。
 砂煙の立ち込める中、ガオガイガーが前進する。デストロイアの足元にあった、己の右腕を回収する。
 ブロウクンマグナムではエネルギーを吸収されるリスクはあるが、それでも不用意に近づける相手ではない。
 動力の切れた右腕に、エネルギーを巡らせながら、追撃打を放とうとしたのだが、
「キシャアアアッ!」
「ぐわっ!」
 恐るべきはデストロイアだ。
 完全生命体の行動は、勇者の予測よりも早かった。
 砂煙を切り裂きながら、深紅の巨体が迫り来る。
 赤熱する角を振り下ろし、ガオガイガー目掛けて斬りかかる。
 ヴァリアブルスライサーの一撃は、あやまたず胸部に叩き込まれた。
 初期モデルの劣悪なメッキ塗装が、至近距離からの攻撃を受けてひび割れた。
「くっ……!」
 ぐらついた超合金の体を、無理やりに踏み込み押し留める。
 なおも突進してくる怪獣を、態勢を立て直して迎え撃つ。
「このぉおおおっ!」
 とにかく危険なのは頭部からの攻撃だ。光線も角の攻撃も、まともに受け続けるわけにはいかない。
 右腕で下顎を掴むと同時に、勢いよく上方へと持ち上げる。
 がら空きになった胴体へ向かうのは、左膝から伸びるドリルニーだ。
 黄金のドリルが轟転し、怪獣の腹部へと叩き込まれる。
 鋭い音を立てる衝角が、赤い体躯を吹き飛ばす。
「キシャアァァァーッ!」
 その反撃はデストロイアの、獰猛な闘争本能に、火をつける結果に繋がったようだ。
 踏みとどまった深紅の巨獣は、見るからに怒気を孕んだ気配と共に、鋭い咆哮を轟かせた。
「さすがに、手強い……!」
 怒りの波動を身に受けながら、ガオガイガーは再認識する。
 先ほどの角の一撃も、光線と同じものが含まれていたようだ。
 メカライオン・ギャレオンの胸部には、痛ましい傷跡が刻まれている。
 加えて沙英の存在だ。彼女を庇うか逃すかしながら、この強敵に立ち向かわねばならないのだ。
「だがっ! こっちも負けてはいられないんだ!」
 それでも。
 だとしても、引き下がるわけにはいかない。
 この人格のモデルになった「本物の凱」は、いかなる強敵にも屈することなく、勇敢に立ち向かった男だ。
 必ず守ってみせると胸に誓い、黒鉄の勇者王は構えを取った。


(どうしよう……!)
 沙英は狼狽えていた。
 目の前で繰り広げられている、ロボットと怪獣の戦闘に対してだ。
 凱と名乗ったロボットは、明らかに怪獣相手に苦戦している。
 相手は自分に襲いかかってきたというのに、それと代わりに戦って、身体に傷を負っているのだ。
(どうしてあたしには、戦う力がないの……!?)
 もし自分が彼のように、戦うことができたなら。
 この身が美少女アニメのキャラクターではなく、バトルアニメを元にした、戦闘可能なキャラクターであったなら。
 この時ばかりは、自分のアイデンティティを呪っていた。
 同じ玩具だというのになんて違いだ。ゆるふわ4コマ漫画のキャラクターである「沙英」には、戦闘能力などまるでない。
 あの大柄な怪獣を前にしても、ほとんど何をすることもできず、逃げ回ることしかできなかった。
 だから凱の助太刀もせず、こうして物陰から顔を出して、がたがた震えることしかできない。
(そんなのは嫌……!)
 そんな自分が情けなかった。
 他人ばかりを戦わせ、何もできずにいる自分を、許すことなどできなかった。
 何か武器はないものか。殺し合いなんてものを求めるからには、そのためのパーツが必要なはずだ。
 その時、その意志に呼応するかのように、手の中に何かが現れた。
 黒光りするサブマシンガンだ。沙英の手には少し大きい。
 恐らくはあのロボットのように、自分より一回り大きなフィギュアのために、作られたパーツなのだろう。
 それでも、贅沢は言っていられない。出てきたからには使うしかないのだ。
「うおぉぉぉぉーっ!」
 やけっぱちな叫びを上げて、沙英は遊具の影から飛び出した。
 マシンガンを腰だめに構え、怪獣へとその銃口を向ける。
 相手はあれだけ大きいのだ。であれば外す道理はない。
「沙英っ!?」
 凱の声が上がると同時に、指がトリガーを引いていた。
 だだだだだっ――と銃声が鳴る。光り輝く弾丸は、実弾ではなくビームというやつか。
 反動で暴れ回る銃身を、必死に押さえ込みながら、ターゲットを怪獣へと向けた。
「……?」
 それでも駄目だ。揺れる銃身では着弾点が安定せず、どうしても命中箇所がバラけてしまう。
 加えてこのサブマシンガンは、元々は牽制用の武装だ。
 その有り様では、怪獣の強靭な肉体は、どうしても貫くことができない。
「シャァアアッ……!」
「! いかんっ!」
 故に沙英の弾は決定打とならず、意識を向ける結果にしかならなかった。
 そして彼女の狙いはそれではない。どころか、そうなった時にどうするかなど、何一つ考えてもいなかった。
 無防備な少女に視線が向く。怪獣デストロイアの口に、デストロイヤー・レイの光が灯る。
 それすらも気付くことはなく、沙英は一心不乱にトリガーを引く。
 必殺の熱線の光が強まり、発射されたその瞬間、
「ぐぁああああーっ!」
 上がっていたのは沙英ではなく、勇者ガオガイガーの悲鳴だった。
「あっ……!?」
 それを聞いた瞬間になって、沙英はようやく状況を把握した。
 漆黒のロボットが、自分の前に飛び出して、怪獣の攻撃から庇ってくれていたのだ。
「ぐぅっ……!」
 ブースターを噴かせて飛び出した体躯は、そのままもんどりうって倒れる。
 立ち上がろうとするものの、足に力が入らず上手くいかない。
 堅牢なスーパーロボット超合金だが、その代わりに犠牲になったものがある。
 重い金属パーツを支えるために、下半身のボールジョイントには、大きな負担がかかっているのだ。
 そして初期のガオガイガーは、中でもそのボールジョイント部が、緩く弱かったと言われている。
 小柄なfigmaの沙英を狙った熱線は、彼の股関節に命中し、関節を壊してしまったのだ。
「キシャアァァッ!」
 そして深紅の巨大怪獣は、その堂々たる威容に似合わず、狡猾な性質の持ち主だった。
 関節が脆いと気付くや否や、デストロイアはそこを狙い、次々と熱線を発射した。
 命中し爆炎が上がる度に、ガオガイガーのうめき声が上がる。
 そうしてビームを撃ちながら、デストロイアは距離を詰めていき、やがてその上にのしかかる。
 遂にはうねる尻尾の先端を、首を挟むように突き立て、エネルギーを吸収し始めた。
「がぁああああっ!」
「そんな……あたしを、庇って……っ!」
「く……逃げろ、沙英っ……!」
 自分のせいだ。
 自分が余計なことをしたから、こんな結果を招いてしまった。
 もはや狼狽する沙英の耳には、避難を促す凱の声も、全く耳に入っていなかった。
 ビームサブマシンガンは消え、自身もまるで人間のように、へなへなとその場に座り込む。
 調子づいたデストロイアが、彼女のことを気にも留めず、ガオガイガーを襲っていたことが幸いだった。
(どうして……!)
 どうしてこうなった。
 彼を助けたかっただけなのに、どうしてこんなことになってしまう。
 それほどに自分は役立たずなのか。与えられた武器すらも、満足に使いこなせないのか。
 このままでは凱が死んでしまう。自分が足を引っ張ったばかりに、あの怪獣に壊されてしまう。
(そんなの嫌だ……!)
 それだけはどうしても認められない。
 嫌だというなら考えろ。こんな非力な自分にも、できることはないかと考えろ。
 未だ混乱しているものの、それでも沙英の意識は、少しずつ冷静さを取り戻していく。
 サバイバルものの漫画のように、周辺物を使って何かしようにも、ここから茂みや植え込みまでは遠い。
 鉄製の遊具などはとても無理だ。光線を食らったものですらも、破壊できるとは思えない。
 であれば武器だ。さっきのサブマシンガンのように、何か武器はないものか。
 とにかく、何かを出さなければ。
 こんな自分でもあの敵を、それこそ凱から引き剥がすことくらいはできるような、何か強力な武器はないものか。
「! これって……!?」
 その時、自分のすぐ傍らに、姿を現したものがあった。
 とてつもなく重そうな代物だ。沙英の――figmaの関節では、とても持ち上げれそうにない。
 それでも、自分でなかったらどうだ。
 この合金の輝きは、むしろ自分などではなく、彼の助けとなるものではないだろうか。
「――凱さんっ!」
 それを意識した瞬間、沙英は「それ」を持ちながら、ガオガイガーに向かって叫んでいた。


「凱さん、これをっ!」
 少女の声を聞いた時、ガオガイガーは確かに「それ」を見た。
 その橙色の武具を見た時、まさしく運命を感じた。
 この場では最高の援軍だ。勝機があるとするなら今しかない。
 この身に残されたエネルギーでは、必然威力も落ちるだろうが、それでも他に方法はないのだ。
 あとは自分の知る機能が、「それ」に存在するかどうか。
 原作に記された設定が、どこまで再現されているかどうかだ。
 沙英にあれを持ち上げる力はない。であれば、これはギャンブルだ。
 賭けに勝てば自分が勝つ。負ければ逆転はならず敗北する。
 問題ない。「本物の凱」にとっては、常に乗り越えてきた綱渡りだ。
 絶対に守るという想い。
 それを貫くための勇気。
 最も大事な2つの心――それさえ忘れずにいられれば、乗り越えられないものなどない――!

「――来いっ! ゴルディーマーグッ!!」

 返事が返ってくることはなかった。
 それでも、沙英の傍らにあったもの――橙色の鋼拳は、唸りと共に飛んできた。
 勝利の鍵セット1の1つ、マーグハンド。
 GGGのマルチロボ・ゴルディーマーグの変形形態。
 ガオガイガーのある武装を使うため、巨大な右腕部に変形した、心強い仲間の姿である。
「シャアァァッ!?」
 横合いから飛び込んできた鉄拳は、デストロイアの脇腹に当たり、容赦なく吹っ飛ばしてみせた。
 正式な使い方ではないが、マーグハンドには、ゴルディオンマグナムという技がある。
 ブロウクンマグナムの要領で、敵にぶつけるロケットパンチだ。
 呼応する超AIがなければ、再現できないかもしれないと考えていたが、この機能だけは使えたようだ。
「ハンマァァァ・コネクトォッ!」
 雄叫びと共にバーニアを噴かす。
 用をなさない足の代わりに、推力でその場から移動する。
 落ちたマーグハンドを右腕に嵌め、続いて沙英のもとへと向かった。
 マーグハンドはそれそのものを、武器として使うためのものではない。
 勝利の鍵セット1に付属する、「本来の武装」を使うための、本体保護パーツに過ぎないのだ。
 猛然と火を上げる勇者王は、遂にその武装を掴む。
 そのまま上空へと飛行し、「それ」を高らかと掲げた。
 巨大な右手に掴んだ「それ」は。
 輝く満月をバックにし、天に掲げた「それ」の名は。

「ゴルディオン――ハンマァァァァーッ!!」

 ゴルディオンハンマー。
 正式名称グラヴィティ・ショックウェーブ・ジェネレイティング・ツール。
 重力場の中に拡散ウェーブを作り出す、史上最強の大発明である。

「うぉおおおおおおおおおっ!」
 咆哮と共に光が走った。
 黒いガオガイガーのボディが、眩い光に包まれた。
 金の閃光に呼応するように、その身が黄金に染まっていく。
 金色の破壊神Ver.――限定発売された金の姿に、その身が変化しているのだ。
 ゴルディオンハンマーを使用する際、満ち溢れる莫大なエネルギーは、勇者の姿を黄金に変える。
「キシャァアアアーッ!」
 ただならぬ気配を感じたのだろう。
 身を起こしたデストロイアは、ガオガイガー目掛けて熱線を放った。
 必殺のオキシジェン・デストロイヤー・レイが、天空の勇者王へと襲いかかった。
「てやぁっ!」
 それでも、勇者は怯みはしない。
 デストロイヤー・レイが必殺の光なら、この手に握ったのも必滅の鉄槌だ。
 グラビティショックウェーブの一撃は、あらゆる物質を崩壊させ、光の粒子へと変える。
「光になれぇぇぇぇぇーッ!!」
 さながら天翔ける流星か。
 巨大な鉄槌を携えて、光線を押し返すその姿は、夜を裂く黄金の流れ星か。
 公園を眩く照らしながら、ガオガイガーは真っ向から、デストロイア目掛けて突撃した。
 更に出力を増すオキシジェン・デストロイヤー・レイにも、おくびも怯む様子を見せず、一気呵成に猛進した。
「凱さんっ!」
 両足が千切れ飛んだのを感じた。
 沙英が心配そうな声を上げるのが、爆音の向こうからも聞こえてきた。
 大丈夫だ。この程度で止まるものか。
 右腕と中枢システムさえ残っていれば、奴をこのハンマーで、消し去ることができるのだから。
(絶対に負けない)
 この身の全てのエネルギーを、この一撃に注ぎ込んだとしても、必ず奴を倒してみせる。
 それは沙英だけを守るためではない。
 これから先この怪獣が襲うであろう、この場の全てのフィギュア達を、その猛威から救うためだ。
 そのためならこの身体など、喜んで差し出してやろうと思った。
 たとえ作り物の人格だろうと、本心からの願いだと言えた。
「でぇぇやぁああああああああ――――――ッ!!!」
 衝撃でマスクが砕け散る。
 ガオガイガーの中枢部分・ガイガーの顔が露出する。
 人間のそれを模した口が、盛大に開かれて怒号を上げた。
 閃光を切り裂く鉄槌が、死の化身に届いた瞬間、黄金の光が闇夜に満ちた。


 最後に使ってきた金色の武器は、想像以上に効いたと思う。
 先ほど奴の身体から、エネルギーを吸い取っていなかったなら、危なかったのはこちらかもしれない。
 それでも、勝ったのは自分だ。
 奪い取った分のエネルギーを、思い切って全て熱線に回したのが、功を奏したようだった。
 武器が直撃したすぐ後に、力を使い果たしたロボットは、そのまま無様に倒れ伏した。
 こちらも傷を負いはしたが、命に別状はなかった。
 だからこそ、動けなくなったそいつを、二度と息を吹き返さぬよう、徹底的にぶち壊してやった。
 小さな頭を踏み潰し、ねじ切ってやった瞬間に、そいつは死んだのだと理解できた。
「………」
 それにしても、腹が減った。
 正確には疲れたと言うべきか。結局こいつを撃退するために、相当なエネルギーを使ってしまった。
 どの道自分にとっての食事とは、エネルギー摂取に他ならないのだ。もう「腹が減った」と表現して構わないだろう。
 であれば、獲物を探すべきだ。あのロボット相手にそうしたように、エネルギーを摂取するべきだ。
 既に目星はついている。
 すっかり姿を消してしまったが、さっきの細い人形だ。
 そう遠くまで行けるほど、時間の間隔は開いていない。恐らくはまだ、その辺に隠れているのだろう。
「………」
 方針を決めた怪獣は、悠然とその場から歩み去った。
 地面の砂をひっくり返し、煙に変えて大地にかけた。
 砂に埋もれた墓標を汚し、そこに一瞥もすることなく。
 無惨に砕かれた勇者の亡骸を、ひと目も振り返ることもせず、デストロイアは姿を消した。


【ガオガイガー@スーパーロボット超合金 機能停止】

※ガオガイガー@スーパーロボット超合金は、勝利の鍵セット1@スーパーロボット超合金を装備した状態です。
※ガオガイガーの基本パーツ(ゾンダーコア、ディバイディングドライバー)、
 魔法のバット(美樹さやか制服Ver.)@figma、
 ホロニックブレード(ゼーガペイン・アルティール)@ROBOT魂が、エリアCの公園に散乱しています


【深夜/エリアC(公園)】


【デストロイア(完全体)@S.H.シリーズ】
【電力残量:40%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、拡張パーツ1~2(未確認)】
【状態:腹部にダメージ(中)、体前面にダメージ(中)】
【思考・行動】
 基本方針:動物的本能に従う
 1:他のフィギュアを襲い、捕食する(=エネルギーを吸収する)
 2:女のフィギュア(=沙英)を探す
 ※ミクロオキシゲンの特性は、ほぼ完璧に再現されています。
  尻尾部分のエネルギー吸収能力も完全再現されています。
 ※クレイドルおよび支給パーツの存在を認識していません。
  動物並みの知能なので、理解できるかどうかも怪しいです。


 沙英は必死に逃げていた。
 光を失った勇者が、最初の一撃を食らうと同時に、その場から走り去っていた。
 エネルギーの切れたガオガイガーは、悲鳴を上げることはなかったが、体を壊される嫌な音だけは、ひたすら聞こえ続けていた。
 それから耳を塞ぎながら、沙英はただ逃げることだけを考え、植え込みの中へと飛び込んでいた。
(ごめんなさい……!)
 そうしてとりあえずの安全を確保して、初めて罪悪感が湧き上がる。
 自分を守ろうとしたばかりに、余計な傷をその身に負って、壊された者への罪悪が。
 その恩人を置き去りにし、命惜しさに逃げ出した、弱虫な自分への憤りが。
 涙の流れないフィギュアの顔を、ひたすらに悲痛に歪ませていた。
(……これから、どうしよう)
 先は長い。
 Archetype:sheとかいう奴は、6時間後に会おうと言っていた。
 それを再認識すると、今度は置き去りにしたものではなく、この先のことが気にかかる。
 果たしてこの6時間を、どのようにして生き残るべきか。
 いいやそもそも、自分ごときが、6時間も生き残れるのか。
 あるいは6時間を生き残ったとして、それでこの殺し合いが終わりだと、果たして断言できるのか。


【深夜/エリアC(公園・植え込みの中)】


【沙英@figma】
【電力残量:90%】
【装備:無し】
【所持品:クレイドル、ビームサブマシンガン(ガンダムサンドロック改)@ROBOT魂】
【状態:損傷なし】
【思考・行動】
 基本方針:とにかく生き残る
 1:赤い怪獣(=デストロイア)から逃げる
 2:凱さん(=ガオガイガー)に対して罪悪感
 ※逆光眼鏡は差し替えパーツではなく、通常の表情変化として扱われます。
  また、乃莉の顔差し替えパーツは付属していません。


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ガオガイガー 機能停止
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沙英 次:ひだまりのない世界で

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最終更新:2014年07月12日 16:27